遅早時間とは?担当者が知っておくべき定義・計算方法・管理ポイントを解説
日々勤怠管理をしていると、従業員の方が始業時刻・終業時刻とは異なるタイミングで出退勤をするケースがあります。このような遅早時間は、従業員の勤怠管理をする上で重要な概念になりますが、取り扱いについて注意も必要です。
今回のコラム記事では、人事労務担当者の方に押さえていただきたいポイントとして
- 遅早時間の定義
- 給与計算に反映する際の注意点や適切な計算方法
- 効果的な管理
についてお伝えいたします。
遅早時間の取り扱いを誤りますと、職場環境にも悪影響があります。遅刻・早退が企業にもたらす影響を確認しながら、組織力を向上させるための勤怠管理のヒントにいただければ幸いです。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
遅早時間の基本的な考え方とは?
遅早時間は多くの企業で日常的に発生する勤怠管理上の課題です。
まずは遅早時間の定義、遅刻と早退の違い、そして実際に遅早時間が発生する具体的な状況について詳しく解説します。これらの基本を押さえることで、より効果的な勤怠管理の基礎を築きましょう。
遅早時間の定義
遅早時間とは、従業員が定められた勤務時間通りに働かなかった時間のことを指します。
具体的には、
- 始業時刻より遅れて出勤した時間(遅刻)
- 終業時刻より早く退勤した時間(早退)
上記の合計を意味します。この時間は、労働時間ではありませんので、給与計算に影響を与えることになります。
遅早時間の取り扱いは、正確な労働時間の把握と公平な給与支払いを目的としています。例えば、9時始業の会社で9時15分に出勤した場合、15分が遅刻時間となり、遅早時間に計上されます。同様に、17時終業の会社で16時45分に退勤した場合、15分が早退時間となり、これも遅早時間に含まれます。
遅刻時間と早退時間の違い
遅刻時間と早退時間は、どちらも遅早時間に含まれますが、その性質や影響には違いがあります。
発生するタイミングや管理上の対応としては下記のような比較ができます。
遅早時間の比較 | 遅刻時間 | 早退時間 |
---|---|---|
発生のタイミング | 勤務開始前 | 勤務終了後 |
業務への影響 | 朝のミーティングや重要な連絡事項の共有に支障をきたす可能性がある | 終業間際の業務引き継ぎや締めくくりの作業に影響を与える可能性がある |
従業員の心理的影響 | 他の従業員に対して申し訳なさや焦りを感じやすい | 個人的な用事や体調不良など、計画的に行われることが多い |
管理上の対応 | 突発的な交通事情などにも配慮が必要 | 事前申請制を導入するなど、計画的な対応が可能 |
遅早時間が発生する状況
遅早時間は様々な状況で発生します。以下に代表的な例を挙げますので、対応策を検討する際にご参考ください。
- 交通機関の遅延
- 電車やバスの遅延により、始業時刻に間に合わない場合
- 体調不良
- 急な体調不良で遅刻したり、早退せざるを得ない状況
- 私用による遅刻・早退
- 個人的な用事(銀行や病院での手続きなど)による遅刻や早退
- 天候不良
- 台風や大雪などの悪天候により、通常の通勤時間では間に合わない場合
- 家庭の事情
- 子どもの急な発熱や家族の介護など、予期せぬ家庭の事情による遅刻や早退
- 勤務時間の誤認識
- シフト制の職場などで、自身の勤務時間を勘違いしてしまう場合
これらの状況を理解し、適切に対応することで、遅早時間の発生を最小限に抑えつつ、従業員の事情にも配慮した柔軟な勤務管理が可能となります。
遅早時間の計算方法
遅刻早退は、発生自体をコントロールすることは難しいため、会社の規模によっては定期的に発生する場合があります。
遅早時間が発生すると給与計算に正確に反映することが必要であり、公平な労務管理と適切な給与支払いの基礎となります。
遅早時間の基本的な計算式から、雇用形態による違い、そして端数処理の方法まで解説いたしますので、自社の取り扱いに問題がないかご確認してみましょう。
遅早時間の基本的な計算式
遅早時間の基本的な計算式は以下の通りです。
遅早時間 = 遅刻時間 + 早退時間
具体的には、所定の始業時刻から実際の出勤時刻までの時間を遅刻時間とし、実際の退勤時刻から所定の終業時刻までの時間を早退時間として計算します。
例えば、始業時刻が9:00で9:15に出勤した場合、遅刻時間は15分となります。同様に、終業時刻が18:00で17:45に退勤した場合、早退時間は15分となります。
時給制と月給制での計算の違い
給与計算は「ノーワーク・ノーペイの原則」に従って処理を行いますので、遅刻・早退のように「労働しなかった時間」に対しては賃金を支払わない計算を行います。
遅早時間の計算方法は、従業員の給与形態によって異なりますので、時給制・月給制における対応方法を確認しましょう。
なお、ノーワーク・ノーペイの原則は民法が根拠とされています。
民法第624条
e-GOV「民法」
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
時給制の場合
時給制では、実際に働いた時間分の給与が支払われるため、遅早時間分の給与は発生しません。時給制の方は「時給単価×労働時間」となり、遅早時間は計算に利用されないことが一般的です。
仮に所定労働時間で管理されている場合は、支払給与 = 時給 ×(所定労働時間 – 遅早時間)といった計算式になります。ただし、時給制でこのような給与計算を行うと煩雑になりますので、推奨いたしません。
月給制の場合
月給制では、遅早時間に応じて給与を控除する必要があります。一般的な計算式は以下の通りです。
控除額 = (月給 ÷ 月間所定労働時間) × 遅早時間
例えば、月給30万円、月間所定労働時間160時間、遅早時間が2時間の場合、
控除額 = (300,000円 ÷ 160時間) × 2時間 = 3,750円
このように、時給制・月給制における取り扱いが異なる点は注意しておきましょう。
遅早時間の端数処理
遅早時間の端数処理は、労働基準法を遵守しつつ、実務的な運用を考慮して行う必要があります。
- 時間の端数処理
- 遅早時間は原則として1分単位で計算します。ただし、就業規則で定めることで、15分や30分単位での端数処理も可能です。例えば、15分単位の場合、17分の遅刻も15分として計算します。
- ただし、14分の遅刻を15分として処理することは違法です。実際に遅刻(早退)をしていない時間を給与から控除することはできません。
- 金額の端数処理
- 控除金額の計算結果に端数が生じた場合は、原則として切り捨てし、従業員に不利益にならないことが望ましいです。
- 例えば、計算した控除額が3,762.9円のように1円以下の端数が出た場合、3,762円として処理します。
- 注意点
- 端数処理を行う際は就業規則に明記し、従業員に周知する必要があります。また、端数処理によって実際の遅早時間以上の控除とならないようご注意ください。
適切な端数処理を行うことで、計算の煩雑さを軽減しつつ、公平性を保った労務管理が可能となります。
遅早時間が影響せずに給与から控除ができないケース
一方で、次の給与体系においては遅刻や早退の概念から外れることがありますので、給与から控除を行うことができません。もし遅刻や早退を理由に賃金控除を行っている場合には、トラブルにつながる可能性が高いため適法な取り扱いなのか改めてご確認ください。
管理監督者
管理監督者は「経営者と一体的な立場」として業務を遂行します。そのため労働基準法における労働時間や休憩・休日に関する規定の適用除外とされています。
従いまして、労働時間の規制がありませんので、出勤や退勤時間も自身の裁量に委ねられることになりますので、遅刻や早退という考え方から外れる必要があります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制を採用している場合の給与計算は、1日の労働時間ではなく「清算期間」として定める一定の期間内での合計労働時間で行います。
そのため、極端な例を挙げますと1日の労働時間が1時間しかない日があったとしても、清算期間における所定の労働時間を満たしている場合には、賃金の控除をすることはできません。
たとえコアタイムを設けていたとしても、そのコアタイムに対する遅刻・早退を理由に控除することはできませんのでご注意ください。
裁量労働制
専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制が適用される従業員については、1日の労働時間はあらかじめ設定している時間数分働いたとみなされるため、遅早控除を行うことができません。
遅早時間の管理方法
遅早時間を適切に管理しなければ、従業員にとって不公平な労務管理となりますので、組織に悪影響を及ぼします。
この章では、遅早時間を効果的に管理するための
- 就業規則への記載のポイント
- 勤怠管理システムの活用
- 従業員への周知と理解促進
上記3つのポイントをご紹介いたしますので、管理方法の見直しとしてご活用ください。
就業規則への記載のポイント
遅早時間の管理を適切に行うためには、就業規則に明確な記載をすることが不可欠です。次のポイントが押さえられているのか確認しましょう。
- 控除の計算方法
- 遅早時間に対する給与控除の計算方法を明記します。計算方法には時間の単位や端数処理の方法が必要になります。
- 届出手続き
- 遅刻や早退をする際の届出方法や、事前申請が必要な場合の手順を詳細に記載します。
- 懲戒規定
- 頻繁な遅刻や早退に対する懲戒処分の基準を明確にします。ただし、過度に厳しい規定は避け、合理的な範囲内で設定することが重要です。
- 例外規定
- 交通機関の遅延や災害時など、やむを得ない事情による遅刻・早退の取り扱いについても記載しておきます。
勤怠管理システムの活用
効率的で正確な遅早時間の管理には、勤怠管理システムの活用が有効です。自社で行っている勤怠管理について、次のポイントへの対応ができているのか確認してみましょう。
- リアルタイム記録
- 従業員の出退勤時刻をリアルタイムで記録し、遅早時間を自動計算する機能を持つシステムを選びます。
- アラート機能
- 遅刻や早退が発生した際に、管理者にアラートを送信する機能があると、迅速な対応が可能になります。
- レポート作成
- 遅早時間の傾向分析や個人別・部署別の集計レポートを自動生成する機能は、管理業務の効率化に役立ちます。
- 給与システムとの連携
- 給与計算システムと連携することで、遅早時間に基づく給与控除を自動化し、ミスを減らすことができます。
従業員への周知と理解促進
遅早時間の管理を円滑に行うためには、従業員の理解と協力が不可欠です。以下の方法で周知と理解促進を図りましょう。
- 説明会の実施
- 遅早時間の管理方法や就業規則の変更点について、全従業員を対象とした説明会を開催します。質疑応答の時間を設けることで、疑問点を解消できます。
- 定期的な研修
- 新入社員研修や年次研修の中に、遅早時間管理に関する内容を組み込みます。定期的な再確認により、ルールの徹底が図れます。
- フィードバックの実施
- 遅早時間の状況について、定期的に個別フィードバックを行います。改善が必要な従業員には、具体的なアドバイスを提供します。
これらの方法を組み合わせて実施することで、遅早時間の管理に対する従業員の理解と協力を得やすくなり、職場全体の時間管理意識の向上につながります。
遅早時間の削減と生産性向上
遅早時間の削減は、単に勤怠管理の問題だけでなく、企業の生産性向上に直結する重要な課題です。
遅早時間が企業に与える影響について整理し、その削減のための具体的な施策について検討しましょう。また、近年多くの企業で進められている「柔軟な働き方」の実現に向けたフレックスタイム制度の導入についても解説しますので、ご参考ください。
遅早時間が企業に与える影響
遅早時間の増加は、企業に様々な悪影響があることは自明の理ですが、大きくは次の5つの点ではないでしょうか。
生産性の低下
遅刻や早退が常態化すると、業務の連続性が損なわれ、全体的な生産性が低下します。特に、チームワークを要する業務では、一人の遅刻が他のメンバーの作業効率にも影響を与えます。
モチベーションの低下
頻繁な遅刻や早退は、時間を守って働いている従業員のモチベーションを下げる原因となります。公平性の観点からも、職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。
企業イメージの低下
顧客対応や取引先との会議などで遅刻が発生すると、企業の信頼性やプロフェッショナリズムに疑問を投げかけることになります。
コストの増加
遅早時間の管理や給与計算の複雑化により、人事部門の業務負荷が増加します。また、業務の遅延によって発生する残業代なども、間接的なコスト増加につながります。
コンプライアンスリスク
遅早時間の不適切な管理は、労働基準法違反のリスクを高めます。特に、サービス残業や不当な賃金控除などの問題に発展する可能性があります。
遅早時間削減のための施策
遅早時間を削減し、生産性を向上させるためには、以下のような施策が効果的と考えられます。
- 業務プロセスの見直し
- 無駄な業務を削減し、効率的な業務フローを構築することで、時間の有効活用を促進します。
- ICTツールの導入
- 勤怠管理システムやプロジェクト管理ツールを活用し、業務の可視化と効率化を図ります。
- 柔軟な勤務時間の設定
- 従業員のライフスタイルに合わせた勤務時間の選択肢(例えば時差出勤制度)を導入することで、遅刻や早退のリスクを軽減します。
- 評価制度の見直し
- 遅早時間の削減や生産性の向上を人事評価に反映させ、従業員のモチベーション向上につなげます。
- 上司の適切な管理
- 管理職による適切な業務配分と進捗管理を徹底し、部下の遅早時間削減をサポートします。
フレックスタイム制度の導入
フレックスタイム制度は、遅早時間の削減と生産性向上に効果的な施策の一つとなります。制度に関する概要から導入までのポイントは下記となりますので、ご参考ください。
コアタイム(必ず勤務する時間帯)とフレキシブルタイム(自由に出退勤できる時間帯)を設定し、従業員が自身のライフスタイルに合わせて勤務時間を調整できる制度です。
- 遅刻・早退の概念がなくなり、遅早時間が自然に削減されます。
- 従業員の自己管理能力とモチベーションが向上します。
- ワークライフバランスの改善により、従業員の満足度が高まります。
- コアタイムの設定:チーム内のコミュニケーションを確保するため、適切なコアタイムを設定をおすすめいたします。
- 就業規則や労使協定の整備:フレックスタイム制度の導入には、就業規則および労使協定の整備が必要です。
- システムの整備:勤怠管理システムを導入し、労働時間の正確な把握と管理を行いましょう。
- 業務の性質によっては導入が難しい場合があります。
- 従業員への十分な説明と理解促進が不可欠です。
- 定期的な制度の運用状況を見直し、自社に適しているのか確認しましょう。
フレックスタイム制度の導入により、遅早時間の削減だけでなく、従業員の自律性と生産性の向上、さらには企業の競争力強化につながることが期待できます。
まとめ:効果的な遅早時間管理のために
遅早時間の管理は、企業の規模や業種、従業員の構成などによって最適な方法が異なります。遅刻早退の発生自体を防止するためには
- 時差出勤制度
- 柔軟なシフトの変更
- フレックスタイム制度の導入
といった対応策も考えられます。とはいえ、各種制度は運用が煩雑なる場合もありますし、組織風土自体に問題がある場合は解決策としては不十分なケースもあります。
遅刻や早退に関してお悩みごとがありましたら、まずはお気軽に弊社までご相談ください。貴社のご状況に適したアプローチ方法をご案内させていただきます。