Q. パート社員の電車遅延による遅刻時間に給与を支払うべきでしょうか?

- 電車やバスといった公共交通機関の遅延に対する取り扱い
- 一般的な給与体系ごとに違いがある理由

電車やバスといった公共交通機関が遅延した場合、パートやアルバイトなど時給で給与を支払っている方にもその遅延時間数分給与を支払うべきでしょうか?
正社員が遅延遅刻をした場合、給与から遅刻控除はしていません。それに対してパートやアルバイトについては遅延遅刻の時間数は支給しておらず、従業員から「不公平ではないか?」という声が上がっております。対応策を教えてください。

A. 給与の支払い形態・就業規則の内容によって判断が異なります。
寝坊など、従業員に非がある遅刻の場合には給与を支払わない判断になりますが、公共交通機関の遅延など仕方がない理由があると遅刻扱いにしないケースが一般的ではないでしょうか。
このとき「正社員は遅刻扱いにしないが、パートやアルバイトなど時給で給与を支払うときはどうすべきか?」というお悩みはよくご相談いただきます。

今回は、遅刻に対する原則的な考え方やトラブルを防止するために確認しておくべきポイントを解説いたします。
遅刻に対する原則的な考え方
まずは法的な観点から遅刻に対する取り扱いを確認してみましょう。結論、公共交通機関の遅延に対する遅刻であっても「会社側はその時間分給与を支払う義務はない」と言えます。これはノーワーク・ノーペイの原則と呼ばれるもので、
会社は従業員との雇用契約により「労働の対価」として給与を支払う義務が発生します。裏を返せば「労働の対価」がないのであれば給与を支払う義務がありません。
電車やバスの遅延により、本来10時に出勤する必要があるところを11時に出勤をした場合には、1時間分の給与は控除が可能です。
とはいえ、公共交通機関の遅延の原因は人身事故や天候不良の影響など、やむを得ないケースが多いため、遅延証明書を提出することで遅刻扱いを免除する企業が多いと思われます。

私が新卒入社していた金融機関では、遅延証明書を提出することで遅刻にはならず給与も満額支給いただいておりました。
正社員の電車遅延による一般的な給与
正社員に対しては「月給日給制」で給与を支払っている企業が多いと思われます。
月給日給制とは、
- 月300,000円のように、1ヶ月に支払う給与の金額を決めている
- 遅刻や早退、欠勤があるとその時間分(および日数分)は月に支払う金額から控除する
- 暦日数によっては所定労働日数は異なるが月の給与額は同じである
このような賃金の支払い形態を指し、従業員の寝坊などが理由で遅刻した際に「遅刻控除」をしている場合は、月給日給制に該当します。
従って、本来は公共交通機関の遅延による遅刻であってもその時間分控除されますが、会社の恩恵的な取り扱いとして通常の時間分働いたとみなされているケースが多いと考えられます。
パート・アルバイトの電車遅延による一般的な給与
パートタイマーやアルバイトの方に対しては「時給制」で給与計算をすることが一般的です。
時給制の特徴として
- 1時間あたりの単価を決め、労働時間数×時給単価で給与を計算する
- 遅刻や早退があった場合はそもそも労働時間として計上されないため、控除という概念がない
という点があります。そのため、公共交通機関の遅延などが理由だったとしても、遅刻した時間は労働時間にならないためその時間分は給与が支払われない取り扱いになるのです。



元から給与の金額が決まっていて、そこから遅刻などの不就労時間分を控除していく「月給日給制」と、働いた時間分だけ計算して支給する「時給制」のように、給与の支払い方が異なっているため遅延に対する取り扱いが異なっています。
就業規則の確認は必須
給与の支払い方によって、遅刻に対する考え方・取り扱い方が異なる点を解説いたしましたが、就業規則の内容は確認しておきましょう。例えば就業規則の条文が次のように記載されているのであれば、控除せずに賃金を支払う必要があります。
(遅刻・早退・欠勤等)
従業員は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に申し出ることができなかった場合は、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。
前項の場合は、原則として不就労分に対応する賃金は控除する。ただし、公共交通機関の遅延など合理的な理由があるとして会社が認めた場合には賃金から控除しない。
正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトの方であっても「公共交通機関の遅延等で遅刻した時間分も労働時間にみなす」判断がされる可能性が考えられますので、就業規則の内容に準じた対応をしなければなりません。
まとめ
今回は「パート社員の電車遅延の時間に対して給与は支払うべきか?」という点について、懸念となりがちな正社員と比較した取り扱い方法を解説いたしました。注意点としては「時給だから遅延時間数は支払う必要はない」と断定してしまうと、
- 正社員は給与がでる(控除されない)のに、不公平ではないか
- 公共交通機関の遅延は避けようがないのに、どうすればよいのか
従業員の方から不満の声が上がるでしょう。組織力低下につながる恐れもありますので、正社員やパート問わずに一定のルールを設けることをおすすめいたします。
社会保険労務士によるワンポイント解説
やむを得ない理由があり、遅刻や早退をする従業員は当然いらっしゃいます。会社として重要なのは「トラブルを防止するためのルール作り」です。就業規則でしっかりと統一的なルール作りをしておきましょう。
まずは
- 就業規則に該当する文言が記載されているか?
- 慣行的な取り扱いとして、どのように対応をしてきているのか?
上記2つの確認し、ルールを変更するのか方針を固めましょう。
元々遅刻や欠勤の取り扱いについて、公共交通機関の運行状況などに応じて特例を設けていない場合、就業規則にその旨を必要に応じて記載します。
また、ノーワーク・ノーペイの原則に基づいての給与から控除する場合には、同様に就業規則に定めておかなければなりません。
就業規則の変更ができましたら、従業員にルールを周知を行います。また、社内で定めたルールは日々の労務管理の基盤になりますので、徹底して運用を心掛けてください。
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TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

