前株と後株の違いとは?会社名の付け方とその影響を考察【中株もできる?】

「株式会社〇〇」と「〇〇株式会社」、あなたの会社はどちらの表記を選びますか?
前株(まえかぶ)・後株(あとかぶ)の違いは、単なる表記の順番だけではなく、実は企業イメージやブランド認知にも影響を与える重要な要素です。社名変更自体は可能ですが、各種手続きは手間になりますので後から「もっと慎重に考えるべきだった」と思うこともあるでしょう。
今回のコラム記事では、前株と後株の違いを基本的な定義から具体的な事例までわかりやすく解説します。専門的な視点も交えながら、会社設立を検討している方や社名の変更を考えている方が、自社にとって最適な表記を選べるよう参考になれば幸いです。
弊所は士業事務所のため「株式会社」ではありませんが、社会保険労務士事務所(および社会保険労務士法人)も「社会保険労務士事務所◯◯」もあれば弊所のように「◯◯社会保険労務士事務所」もあります。実際、どちらを選ぶのか迷った経験もありますので、ぜひご参考いただければ幸いです。
前株と後株の基本的な違い
会社を設立する際、多くの人が最初に直面する悩みのひとつが「株式会社」を社名の前につけるか、後ろにつけるかという点ではないでしょうか。
一見すると些細な違いに見えますが、実はビジネスの印象や取引先の認識にも少なからず影響を与えます。ここではまず、前株と後株それぞれの特徴や定義を明確にし、その違いをわかりやすく整理します。
前株とは?その定義と特徴
前株(まえかぶ)とは、「株式会社」という言葉を社名の前に置く形式を指します。例えば、
- 「株式会社サンプル」
- 「株式会社〇〇商事」
のように、冒頭に株式会社が付く社名がこれにあたります。
前株の主な特徴は以下の通りです。
- 社名が短い場合に特に収まりが良く、簡潔で印象に残りやすい。
- 比較的新しい会社やIT系、スタートアップ企業に多く見られ、現代的で洗練された印象を与える。
- 口頭での紹介や看板・名刺に記載する際に明快でわかりやすい。
前株を選ぶことで「若々しさ」や「勢い」を演出しやすく、これから成長していく企業イメージを打ち出しやすいというメリットがあると言われています。
後株とは?その定義と特徴
後株(あとかぶ)とは、「株式会社」という言葉を社名の後ろに付ける形式を言います。例えば、
- 「サンプル株式会社」
- 「〇〇商事株式会社」
などが該当します。
後株の主な特徴は次の通りです。
- 比較的社歴が長い企業や老舗企業に多く見られ、安定感や堅実な印象を与える。
- 企業名がやや長い場合でも読みやすく、視覚的なバランスが整いやすい。
- 名称自体を強調したい場合に、株式会社を後に置くことで社名を明確に示せる。
特に業歴がある程度ある業界や、信頼性や落ち着きを重視する分野(金融・製造業・専門サービス業など)においては後株が好まれる傾向があるように感じます。
前株・後株の法的な違いはあるのか?
前株と後株は会社の「表記方法の違い」であり、法律的な違いや規制は一切ありません。どちらを選んだとしても、登記手続きや税務上、また経営上の制約などが変わることはありません。
しかし専門家の視点から注意を促すとすれば、「一度決めて登記した後に表記方法を変えることは可能だが、登記の修正手続きやコストが生じるため、できる限に設立時から慎重に決定するのが望ましい」と思います。
また、表記の統一が取れていないと取引先や金融機関からの信用低下にも繋がる可能性があるため、企業内外で統一した名称表記を徹底することが重要ではないでしょうか。
会社法において、企業名(商号)の中に「株式会社」を入れるルールが定められています。ただし、前株なのか後株なのかは任意とされています。
第六条 会社は、その名称を商号とする。
e-GOV「会社法(平成十七年法律第八十六号)」より引用
2 会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない。
前株と後株の選び方:企業イメージへの影響はある?
会社名に「株式会社」を前後どちらに置くかによって、取引先や顧客から持たれる印象にも少なからず影響があると考えます。企業イメージはマーケティングやブランディングの重要な要素となるため、自社の特徴や目指すイメージに適した選択をすることが不可欠です。
この章では、前株・後株それぞれが持つイメージや具体的なメリット、さらにブランディングへの影響について、マーケティングの視点を交え詳しく解説します。
前株が与える印象とメリット
「株式会社〇〇」という前株形式は、現代的でスピード感のある印象を与える傾向があります。特に新興企業やスタートアップ、IT系など、成長性や柔軟性を重視する業界で採用されているとも言えます。
主な印象・メリットは次の通りです。
- 株式会社であることが伝わりやすい
営業挨拶・電話対応において社名を伝える場合、「株式会社◯◯です」と先に株式会社であることがわかりますので、一定の信頼度に繋がります。 - 若々しく革新的な印象を与えやすい
特に新しいアイデアやテクノロジーを売りにする企業には有利です。 - シンプルで覚えやすい
名刺やWebサイトなど限られたスペースでも視認性が高く、社名が印象に残りやすいです。
後株が与える印象とメリット
「〇〇株式会社」とする後株形式は、伝統的で信頼感や落ち着きを感じさせる企業イメージを形成しやすいです。特に長い社歴を持つ企業や製造業、金融・不動産業界において多く採用されているように感じます。
主な印象・メリットは次の通りです。
- 安定感を感じさせる
老舗企業や業歴が長い企業で好まれ、取引先に安心感を与える傾向があります。 - 社名を強調しやすい
「株式会社」が最後にくるため、社名自体を明確に打ち出しやすいです。 - 格式や重厚感が伝わりやすい
専門的なサービスを提供する企業では特に有効です。
前株・後株の選択が企業ブランディングに及ぼす影響
前株と後株の違いは表面的なものではなく、企業が目指す方向性や顧客層、ブランディング戦略に影響があると考えられます。
例えば、ターゲット顧客が若い世代やWeb上での展開を中心に据える場合、前株によるフレッシュでスピーディなイメージが効果的でしょう。一方、金融業界やBtoBを主軸に事業を展開する企業にとっては、後株の落ち着きと堅実さが、顧客からの信頼を得る上で有効かもしれません。
また、注意すべきは社名の統一性です。Webサイトや名刺、社内書類など、すべての場面で一貫した表記を徹底しないと、企業イメージが曖昧になり、信用を損なうリスクがあります。実際に、表記を統一したことでブランド力や信用が向上した例も多いため、社名を決定したら社内外に統一を徹底させることが非常に重要です。
「将来のビジョンに合わせた表記」を選択することが重要です。目先の流行だけに流されず、自社がこれから目指す方向性や業界特性を踏まえ、しっかりとブランディング戦略に基づいた決定をしましょう。
前株・後株の実例:有名企業の社名から学ぶ
会社名の付け方を考える際、実際に成功している企業の事例を参考にすることは非常に有効です。ここでは、前株と後株を採用している有名企業の具体例を通じ、それぞれがどのような効果を狙っているのか、また「中株」という珍しいケースについても紹介し、会社名を選ぶ際のヒントとなる視点を提供します。
前株を採用している企業の事例
前株を採用している企業は、新進気鋭であることを強調したいケースや、シンプルで覚えやすいネーミングを重視する傾向があります。具体的には次のような企業があります。
- 株式会社メルカリ
フリマアプリで急成長を遂げたIT企業。「株式会社」を前につけることで企業名自体が強調され、新しいビジネススタイルを打ち出す印象を与えています。 - 株式会社リクルート
新規性・若々しいイメージがあり、採用・転職市場において活発で勢いがある印象を効果的に伝えています。 - 株式会社ニトリ
家具業界に革新をもたらした企業として、前株にすることでシンプルさを追求し、消費者に親近感と分かりやすさを与えています。
後株を採用している企業の事例
後株を採用する企業は、伝統的な業界や安定感を伝えたい場合に多く用いられます。以下に代表的な企業事例を挙げます。
- トヨタ自動車株式会社
世界的に知られる企業であり、安定性や老舗企業としての安心感を与えるのに適した後株を使用しています。 - 任天堂株式会社
長年の歴史と信頼性を背景に、顧客や投資家に対して安定感や重厚感を感じさせる戦略を取っています。 - 楽天株式会社
後株を選ぶことで、グローバル展開や企業の規模感を強調しており、信頼と親近感を同時に与えています。
後株を選ぶことによって、金融機関や他の企業との取引において安定したイメージを与え、長期的な関係構築に役立ちます。また、企業名を先に明示できるため、企業としてのアイデンティティを明確に伝える効果もあります。
中株とは?稀な社名の付け方とその事例
前株・後株が一般的であるのに対し、「中株(なかかぶ)」という、社名の中央部分に「株式会社」を入れる珍しい形式も存在します。この形式は極めて稀であり、独自性を強調したり、地域名等を表記している場合があるようです。
中株の具体例としては以下の企業があります。
- サンエース株式会社札幌
- ビーエス株式会社山水
- 愛株式会社SOLA
新規設立時に「中株」が選ばれることは稀かと思いますが、他社との差別化を強く打ち出したい場合には検討しても良いかもしれません。ただし、非常に特殊な例であり、日常的にはあまり馴染みがないため、企業イメージとしては「特殊」「希少」と認識されることが多いでしょう。
前株・後株の選択時の注意点
会社名に「株式会社」をどの位置につけるかを決める際、安易に決めてしまうことは避けるべきです。表面的には小さな違いに思えますが、実際にはブランド戦略や企業イメージ、さらには将来的な展開にも深く関わります。
ここでは、前株・後株を選ぶ際の注意点について、整理してみましたのでご参考ください。
前株・後株を選ぶ際の注意点とは?
会社名を決定する際は、前株か後株かによって微妙なイメージの違いや実務面での影響が発生します。選択にあたり特に注意すべきポイントとしては次のようなものが考えられます。
- 企業イメージとの整合性を考える
前株は若々しさや先進性、後株は信頼性や安定感をイメージさせます。自社が顧客や取引先に与えたいイメージを考慮し、それに合致する表記を選びましょう。 - 名刺や看板、ロゴのデザイン面を考慮する
前株・後株でレイアウトや視認性が異なります。ロゴデザインや名刺の見栄えまで想定して、最適な表記を検討しましょう。 - 社名変更にかかるコストと手間を認識する
後から変更すると登記変更手続きや印刷物、契約書の修正などが必要となり、多額のコストや労力が発生します。設立時から慎重に選ぶことが重要です。
社名変更時は諸手続きが多く大変(前株・後株を変更)
社名変更自体は手続きを踏むことで可能ですが、
法律関係 | 営業関係 |
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法務局へ「変更登記申請」 税務署へ「異動届出書」 労働基準監督署へ「労働保険名称、所在地等変更届」 公共職業安定所へ「雇用保険事業主事業所各種変更届」 年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」 | ホームページ 名刺(全従業員分) 営業資料(提案書、パンフレットやチラシ) 各種印鑑(必要に応じて) 金融機関や公共料金等 取引先・契約先企業への通知 |
上記のように、煩雑な手続きをしなければなりません。
そのため、会社設立時において社名は慎重に決めることをおすすめいたします。
前株・後株を間違えた場合のリスクと対処法
社名の前株・後株を混同したり誤表記されるケースがあります。特に、取引先の会社名を誤ってしまうと
- 信用低下のリスク:公式文書や契約書で表記ミスがあると、企業としての信頼性が低下する可能性がある
- 余計なコストや手間の発生:表記ミスにより名刺や看板、ホームページの再作成が必要になり、コストが発生する
といったネガティブな状況につながります。社名の表記は正しくするように気をつけましょう。
企業名の最適な決め方はある?
最後に、企業名を前株・後株の視点からだけでなく、総合的な観点になりますが企業名の決定には、以下のような手順もご参考ください。
- 自社の理念やビジョンを明確にする
企業名は、会社の価値観や方向性を表す重要なシンボルです。ビジョンにマッチした言葉選びが必要です。 - ターゲットとなる顧客を明確にする
顧客の年代や属性によって響くネーミングは異なります。若い世代を狙うなら前株、信頼性を重視するBtoBなら後株、とターゲットの特性を考えましょう。 - 商標やドメイン取得可能性を確認する
希望する企業名がすでに他社に使われていないか、インターネット上の競合性なども確認しましょう。
弊所の名称も「描く将来像・ビジョンやミッション」から逆算してつけております。
まとめ:前株・後株の理解と適切な選択の重要性
会社名において前株・後株を選ぶことは、企業イメージを形づくる最初の一歩であり、非常に重要な意思決定です。法的には特に違いがなくとも、実務的・心理的な面で顧客や取引先に与える影響は決して小さくありません。特に設立後に変更する場合は、手続き上の手間やコストも発生します。
そのため、企業の特性や顧客層、自社が目指す将来的なイメージを踏まえ、前株・後株のどちらがより自社のブランドにフィットするのかを慎重に検討する必要があります。
「社名選定に正解はないが、成功している企業は必ず自社の強みとターゲット顧客に合わせた明確な意図をもって表記を選んでいる」と感じますので、本記事が社名の決定時の参考になれば幸いです。