守秘義務の誓約書とは?作成・運用・法的リスクとテンプレートの紹介

守秘義務の誓約書は、企業の重要な情報資産を保護するための不可欠な書類ですが、従業員を雇用するときや退職時に準備できていますか?
守秘義務誓約書のテンプレートは用意できていても、実際に活用できていないというお話もよくお聞きいたします。
今回の記事では、
- 守秘義務を誓約書として作成する方法
- 実践的な運用手順
- 潜在的な法的リストと対策
これらについて解説いたしますので、守秘義務誓約書の活用が進んでいない経営者・人事労務ご担当者の方はぜひ参考にいただければと思います。

守秘義務契約は、企業の競争力を維持するためにも必要になりますし、トラブル防止に欠かせない書類です。社会保険労務士としての経験を下に、守秘義務契約書に関するノウハウをお伝えできればと思いますので、ぜひご一読ください!
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。


そもそも「守秘義務の誓約書」とは?
まず前段として「守秘義務の誓約書」はどのような書類かご存知でしょうか?
従業員を雇用する際に「雇用契約書」や「労働条件通知書」を用意して雇用契約を締結することは一般的ですが、併せて「守秘義務の誓約書」も準備できている企業は実は多くないかもしれません。
守秘義務の誓約書は、企業が従業員から取得しておくべき重要な書類です。
適切に作成・運用することで、情報漏洩のリスクを軽減し、企業の競争力を維持することに繋がりますので、まずは守秘義務の考え方、守秘義務の誓約書の定義、目的、法的効力、そして秘密保持契約書との違いについて確認してみましょう。
前提:守秘義務とは?
守秘義務・秘密保持義務は「従業員が企業に務める中で知り得た秘密を第三者に漏えいしてはならない義務」を指します。
過去の判例において
労働者は労働契約にもとづく付随的義務として、信義則上、使用者の利益をことさらに害するような行為を避けるべき責務を負うが、その一つとして使用者の業務上の秘密を洩らさないという義務を負うものと解される。信義則の支配、従ってこの義務は労働者すべてに共通である。
古河鉱業足尾製作所事件 東京高裁昭和55.2.18判決
とされており、従業員は当然に守秘義務・秘密保持義務を負っていると考えられます。
守秘義務誓約書の定義と目的
守秘義務の誓約書とは、従業員が業務上知り得た秘密情報を外部に漏らさないことを約束するために作成する文書になります。特に
- 企業の機密情報保護
- 顧客情報や個人情報の保護
- 営業秘密や技術情報の流出防止
これらの目的で使用されることが一般的でしょう。
企業は従業員に対して、この誓約書の提出を求めることで、重要な情報の漏洩リスクを軽減します。



仕事をする中で、取引先や顧客情報に接することは多々あると思います。これらの機密情報の取扱いを制限するために、守秘義務誓約書は重要です。
守秘義務誓約書に法的効力はあるのか?
守秘義務の誓約書は、以下の条件を満たすことで実際にトラブルになった場合に法的効力を持たせることが可能と考えられます。
- 秘密情報の定義が明確であること
- 秘密情報の取り扱い方法が具体的に示されていること
- 退職後の秘密保持義務が規定されていること
- 違反時の罰則が明記されていること
法的効力が認められれば、誓約書に違反した従業員に対して損害賠償請求などの法的措置を取ることが可能になります。
ただし、上記の項目が具体的に記載できていない場合、守秘義務誓約書として法的な効果が認められない可能性がありますので、注意が必要です。
秘密保持契約書との違い
守秘義務の誓約書と似た書類で、秘密保持契約書(NDA)があります。実務的には以下のような違いがあります。
比較内容 | 守秘義務誓約書 | 秘密保持契約書 |
---|---|---|
当事者 | 主に企業と従業員の間で 取り交わされる | 企業対企業や企業と個人事業主の間で締結される |
義務の方向性 | 一方向 (従業員が企業に対して誓約する) | 双方向 (両当事者が互いに秘密保持義務を負う) |
書類の形式 | 比較的簡潔な形式 | より詳細で包括的な内容 |
使用される場面 | 主に入社時、昇進時、退職時に使用 | 業務提携や共同開発などの際に使用 |
守秘義務の誓約書は、主に企業が自社の従業員に対して秘密保持を義務づけるために使用します。
一方、秘密保持契約書は、より広範な状況で使用され、双方の利益を保護するためのより詳細な取り決めを含む点が異なると言えます。
企業は、状況に応じて適切な文書を選択し、重要な情報を保護するための法的基盤を整えることが重要です。



守秘義務誓約書は「秘密保持誓約書」と呼ばれることもありますが、内容に大きな違いはありません。
守秘義務の誓約書はどのような場面で必要になるのか?
守秘義務の誓約書は、企業の機密情報を保護するために利用されます。
特に業務上知り得た機密情報や企業秘密を外部に漏らさないことを約束する一定の法的拘束力のある文書になりますので、取得が必要になる場面としては
- 入社時
- 退職時
- 一定の役職への昇進時
- プロジェクトなどへの参画時
こういった場面で作成することがあります。
適切なタイミングで誓約書を取得することで企業は重要な情報の漏洩リスクを最小限に抑え、法的な保護を強化することができますので、各状況における誓約書の役割と重要性を見てみましょう。
入社時の誓約書の目的・内容・効果
新入社員が入社する際に守秘義務の誓約書を取り交わすことは、最も一般的な事例ではないでしょうか。
- 目的
- 企業の機密情報や顧客情報の保護することを予め認識させること
- 内容
- 就業規則(主に服務規律)の遵守、秘密保持義務、競業避止義務などを含む
- 効果
- 社員の意識向上と法的拘束力の確保
入社時の誓約書は、雇用契約の一部として扱われることが多く、従業員の基本的な職務義務を明確にするといえます。



会社ごとに設けているルールは異なりますので、これから勤務する先の会社がどのようなルールになっているのか、しっかりと従業員には理解を促したいところです。
昇進時の誓約書の目的・内容・効果
従業員が昇進し、より機密性の高い情報にアクセスできるようになる際に、新たな誓約書を取り交わすこともあります。
- 目的
- 新たな職責に応じた秘密保持義務の確認
- 内容
- より具体的な秘密情報の定義、取り扱い方法の指示(部下の人事評価に携わる場合など)
- 効果
- 責任の重さの再認識と情報管理の徹底
昇進時の誓約書は、従業員の新しい立場と責任を明確にし、情報管理の重要性を再確認する機会となります。
役職によっては部下の人事情報(給与の金額など含む)を閲覧することもあるでしょう。今まで以上に会社の機密情報にアクセスできる場合もありますので、昇進や昇格の際も注意が必要してください。
退職時の誓約書の目的・内容・効果
退職時の誓約書は、企業秘密を守るために重要視しておくべきタイミングといえます。
- 目的
- 退職後の秘密保持義務の確認と競業避止
- 内容
- 秘密情報の定義、退職後の使用・開示禁止、競業避止期間
- 効果
- 退職後の情報漏洩リスクの低減
退職後は基本的に雇用関係が無くなりますので、会社の就業規則や服務規律が及びません。つまり、当然の秘密保持義務がなくなることになりますので、誓約書を交わすことで一定のリスクヘッジを図ることになります。
プロジェクト参加時の誓約書の目的・内容・効果
その他、特定のプロジェクトに参加する際、そのプロジェクト特有の機密情報を保護するために誓約書を取り交わすことがあります。
- 目的
- プロジェクト固有の機密情報の保護
- 内容
- プロジェクト関連の秘密情報の定義、取り扱い方法、プロジェクト終了後の義務
- 効果
- プロジェクト参加者全員の情報管理意識の統一
プロジェクト参加時の誓約書は、特定の業務に関連する秘密情報を明確に定義し、その保護を徹底します。



これらの場面で適切に誓約書を取り交わすことで、企業は重要な情報を保護し、競争力を維持に繋がります。ただし、誓約書の内容が過度に制限的である場合、法的効力を失う可能性があるため、バランスの取れた内容にすることが重要です。
効果的な守秘義務の誓約書作成のポイント
守秘義務誓約書は、前述の通り入社時や退職時などに交付する重要な書類になりますが、作成方法を間違えると意味が薄くなります。
効果的な守秘義務の誓約書を作成することは、企業の機密情報を適切に保護するために欠かせないステップですので、誓約書作成のポイントを押さえておきましょう。
単なる形式的な文書ではなく、法的効力があり実際に機能する誓約書を作成するには、次の4つの要素を必ず記載しましょう。
- 秘密情報の明確な定義
- 具体的な秘密保持義務の内容
- 期間の設定(在職中と退職後)
- 違反時の罰則規定
これらのポイントを押さえることで、法的に有効で実効性の高い誓約書を作成し、企業の重要な情報資産を確実に保護することが期待できるでしょう。
秘密情報の明確な定義
秘密情報を具体的かつ明確に定義することは、誓約書の有効性を高める上で極めて重要になります。
- 具体例を挙げる
- 「顧客リスト」「製造プロセス」「研究開発データ」など
- 形式を明記する
- 文書、電子データ、口頭情報など
- 除外事項を明確にする
- 公知の情報、独自に開発した情報など
上記のポイントを整理し、どのような情報を秘密情報として取り扱うのか例文を作成すると
「本誓約書における秘密情報とは、文書、電子データ、口頭を問わず、当社の事業に関する非公開情報を指し、具体的には顧客リスト、製品設計図、財務データ、マーケティング戦略を含むが、これらに限定されない。」
このような内容が考えられますので、参考にしてみてください。
具体的な秘密保持義務の内容
秘密保持義務の内容を具体的に記載することで、従業員の行動指針を明確にします。
- 情報の使用制限
- 業務目的以外での使用禁止
- 情報の管理方法
- パスワード設定、施錠管理など
- 第三者への開示禁止
- 口頭、文書、SNSなどあらゆる手段での開示禁止
- 複製・持ち出しの制限
- 無断複製や社外への持ち出し禁止
上記のポイントを整理し、どのような情報を秘密情報として取り扱うのか例文を作成すると
「従業員は、秘密情報を業務目的以外で使用してはならず、パスワード設定等の適切な管理を行うこと。また、秘密情報を第三者に開示したり、無断で複製・社外に持ち出したりしてはならない。」
このような記載となります。
期間の設定(在職中と退職後)
秘密保持義務の期間を明確に設定することで、長期的な情報保護が可能になります。
- 在職中
- 雇用期間中は当然に秘密保持義務が課される
- 退職後
- 合理的な期間を設定(通常2〜5年程度)
上記を整理し、どのような情報を秘密情報として取り扱うのか例文を作成すると
「本誓約書に基づく秘密保持義務は、在職中及び退職後3年間継続するものとする。ただし、製品の製造方法に関する情報については、退職後も永久に秘密を保持するものとする。」
このように記載することができます。
違反時の罰則規定
違反時の罰則を明記することで、従業員の意識を高め、抑止力となります。
- 損害賠償
- 具体的な金額または算定方法を記載
- 差止請求
- 違反行為の即時停止を求める権利
- 懲戒処分
- 就業規則に基づく処分(譴責、減給、解雇など)
- 刑事告訴
- 刑法上の秘密漏示罪などに該当する場合の対応
上記を整理し、どのような情報を秘密情報として取り扱うのか例文を作成すると
「本誓約書に違反した場合、当社は従業員に対し、違反行為の差止めおよび損害賠償を請求する権利を有する。また、違反の程度に応じて、就業規則に基づく懲戒処分の対象となる。」
これらのポイントを押さえて誓約書を作成することで、法的効力が高く、実効性のある文書となります。なお、各ポイントおよび例文については、あくまでも表現の一例ですので、業務内容等に応じて自社専用の誓約書を作成しましょう。
守秘義務の誓約書のテンプレート
予め企業で利用する守秘義務の誓約書をテンプレート化しておくことは、従業員に対して守秘義務を求める際にスムーズなやり取りが可能になります。
テンプレートを作成する場合、基本的な構成要素を押さえつつ、業種や状況に応じてカスタマイズすることが重要です。
守秘義務の誓約書の基本的な構成要素や業種別のカスタマイズポイントを解説しますので、ぜひ自社にあった守秘義務誓約書を作成してみてください。
記載すべき重要事項のチェックリストも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
基本的な構成要素
守秘義務の誓約書には、以下の基本的な構成要素を含めることが望ましいです。
- 表題(「守秘義務誓約書」など)
- 宛名(会社名、代表者名)
- 秘密情報の定義
- 秘密保持義務の内容
- 秘密情報の帰属や権利
- 義務違反時の罰則
- 誓約した日付
- 誓約者の署名・捺印
上記項目例は、最低限設けておくべき構成要素となりますので、すでに自社に守秘義務誓約書がある場合は、各要素が表記されているのか見直しもしてみてください。
なお、守秘義務誓約書のテンプレートは下記よりダウンロードいただけます。カスタマイズいただくことが前提になりますが、ご参考くださいませ。
業種別のカスタマイズポイント
守秘義務誓約書に記載すべき内容は、業種によって内容や範囲、重要性が異なります。カスタマイズすべき事項について、下記業種ごとに整理いたしましたので、ご参考ください。
業種 | 守秘義務で具体化したい内容 |
---|---|
IT・技術系企業 | ソースコード、アルゴリズム、技術仕様書の取り扱い |
開発中の製品情報の保護 | |
医療・製薬業界 | 患者情報の厳格な管理 |
研究データ、臨床試験結果の秘匿 | |
金融機関 | 顧客の財務情報の保護 |
投資戦略、トレーディングアルゴリズムの秘密保持 | |
小売・サービス業 | 顧客情報(氏名・住所など)の機密保持 |
マーケティングの情報・戦略(例:売上分布)の保護 | |
製造業 | 製造プロセス、原材料配合の秘密保持 |
取引先情報の保護 |



業種ごとに、機密情報の範囲は異なります。より具体的に明文化しておくことで、従業員へ理解促進できますので、自社の場合どのような情報を保護すべきなのかぜひ考えてみましょう。
守秘義務誓約書に記載すべき重要事項のチェックリスト
すでに守秘義務誓約書を整備されている企業も多いかと思いますが、現在の内容で会社のリスクヘッジが図れるのか確認されることをオススメいたします。
以下の内容は守秘義務誓約書に記載しておきたい重要事項ばかりとなりますので、ご参考ください。
- 秘密情報の明確な定義
- 秘密保持義務の具体的内容
- 秘密情報の使用目的の限定
- 秘密情報の管理方法(保管、複製、廃棄など)
- 第三者への開示禁止
- 義務違反時の罰則(損害賠償など)
- 秘密保持期間(在職中および退職後)
- 競業避止義務(必要に応じて)
- 誓約書の適用範囲(関連会社を含むかなど)
- 秘密情報の返還または廃棄の手順
- 知的財産権の帰属
- 例外事項(法令による開示要請など)
- 誓約者の署名欄と日付
これらの要素を適切に組み合わせることで、効果的な守秘義務の誓約書を作成が可能となります。
ただし、過度に厳しい条件は従業員の権利を不当に制限する可能性があるため、合理的な範囲内で設定することが重要です。また、定期的に誓約書の内容を見直し、法改正や社会情勢の変化に応じて適切に更新することも忘れないようにしましょう。



自社で対応が難しいと感じましたら、専門家に相談されることを推奨いたします。
守秘義務誓約書の実務上の運用および管理方法
守秘義務の誓約書の効果を最大限に発揮するためには、適切な運用と管理が不可欠です。
単に誓約書を取得するだけでなく、その後の管理や従業員教育まで含めた総合的なアプローチは不可欠です。誓約書の取得タイミングと方法、効率的な保管と更新の手順、そして従業員への教育と周知の重要性について確認していきましょう。
また、昨今のデジタル時代に対応した管理システムの活用や、定期的な見直しの必要性にも解説しますので、長期的かつ効果的ば守秘義務管理を目指した管理体制構築を目指してください。
なお、取得のタイミングについては「守秘義務の誓約書はどのような場面で必要になるのか?」にて解説しておりますが、重要になりますので再度ご確認ください。
取得のタイミングと方法
従業員から守秘義務誓約書を取得する場合、
- 入社時
- 昇進・異動時
- プロジェクト参加時
- 退職時
- 定期更新
上記の5つのタイミングが一般的です。
入社時
新しく従業員を採用する際、会社とその従業員は雇用契約を締結します。雇用契約書(もしくは労働条件通知書)を交わす際に、守秘義務誓約書も同時に「入社時の提出必要書類」として締結する流れになります。
昇進・異動時
従業員が上位の役職への昇進や、機密事項を取扱う部署に異動になった場合、従来よりも従業員が取扱う情報の範囲が広くなる可能性があります。
このとき、その内容に応じた守秘義務誓約書を新たに交わすことも可能です。タイミングとしては昇進や異動の辞令を出す際、人事部門から提出期日を決めて対応する形になるでしょう。
プロジェクト参加時
企業によっては、取引先への業務を行う際に「プロジェクト」形式を取ることもあります。プロジェクトごとに取扱う情報や内容、範囲も異なりますので、各プロジェクトのキックオフ時に取得することが考えられます。
なお、人事だけでなくプロジェクトマネージャーにも管理責任を求めることも重要です。
退職時
従業員が会社を退職する際に改めて守秘義務誓約書を取り交わすことは、入社時の対応と同じくらい重要になります。入社時の締結はいわゆる「従業員への教育・説明」の観点になりますが、退職時の締結は「社内ルールの精算」的な意味合いです。
本来、退職後は労使の関係ではなくなりますので、会社は元従業員に対して指揮命令の権限を持つことができません。そのため、退職前に一定のルールとして守秘義務誓約書を結び、一定の行動を制限する最後のチャンスとなるのです。
退職時の守秘義務誓約書を取り交わす方法は、退職手続きの一貫として行うことが一般的でしょう。
定期的な更新
その他、会社の業務内容に応じて一定の期間ごとに更新を行うこともあります。定期的に取り交わすことで、従業員への周知・浸透の効果が期待できます。
ただし、多くの従業員を雇用している企業にとっては定期更新は負担になりますので、電子契約システムなどを利用して効率的な収集を行いましょう。
保管と更新の手順
続いて、従業員から回収した守秘義務誓約書の保管方法や、書面内容を更新する場合の手順について一覧化しましたので参考にしてください。
保管方法 | 紙の誓約書:施錠可能なキャビネットで保管 |
電子データ:アクセス制限付きのセキュアなサーバーで保管 | |
バックアップの作成:定期的にデータをバックアップし、別の安全な場所に保管 | |
アクセス管理 | 誓約書へのアクセス権限を人事部門や法務部門の特定の担当者に限定 |
アクセスログを記録し、定期的に監査を実施 | |
更新手順 | 法改正や社内規定の変更時に内容を見直し |
変更がある場合は、法務部門の承認を得て新版を作成 | |
全従業員に新版の誓約書への署名を求める | |
廃棄手順 | 保存期間(通常7年程度)を経過した誓約書は適切に廃棄 |
紙文書はシュレッダー処理、電子データは完全消去ソフトを使用 |
従業員への教育・周知方法
会社の守秘義務については、誓約書を締結したとしても守りきれるものではありません。日頃から機密情報の大切さ、違反したときの対応方法などを従業員に伝え、会社全体の意識を高める必要があります。
組織力を高めるために、会社が取り組める方法としては次のようなものがありますので、自社対応と比較してみましょう。
- 入社時研修
- 新入社員オリエンテーションで守秘義務の重要性を説明
- 具体的な事例を用いて、秘密情報の取り扱い方を指導
- 定期的な研修
- 年1回程度、全従業員を対象とした情報セキュリティ研修を実施
- eラーニングシステムを活用し、理解度テストを実施
- 部門別研修
- 各部門の特性に応じた具体的な秘密情報の取り扱い方を指導
- 営業部門向け、開発部門向けなど、業務に即した内容を提供
- 啓発活動
- 各部門の特性に応じた具体的な秘密情報の取り扱い方を指導
- 営業部門向け、開発部門向けなど、業務に即した内容を提供
- 違反事例の共有
- 実際の違反事例(社名は匿名化)を共有し、リスクの具体性を理解させる
- 違反による影響や罰則を明確に説明し、意識向上を図る
- 質問・相談窓口の設置
- 守秘義務に関する疑問や相談を受け付ける専用窓口を設置
- 法務部門や人事部門が連携して対応
- 経営層からのメッセージ
- 定期的に経営層から情報セキュリティの重要性を伝えるメッセージを発信
- トップダウンでの意識向上を図る
これらの運用・管理方法を適切に実施することで、守秘義務の誓約書の実効性を高め、企業の重要な情報を保護することができます。また、従業員の意識向上にも繋がり、情報セキュリティ文化の醸成に寄与することが期待できるでしょう。



定期的に運用状況を見直し、必要に応じて改善を行うことで、より効果的な情報保護体制を構築を目指しましょう!
守秘義務違反への対応
従業員による守秘義務違反は企業にとって深刻な問題のため、違反発覚時には迅速かつ適切な対応が求められます。
守秘義務違反への効果的な対応策について
- 守秘義務違反の早期発見方法
- 発覚時の具体的な対応策
- 従業員への法的対応
順番に解説いたしますので、ご参考になれば幸いです。
企業による適切な対応は、他の従業員に対する将来的な抑止力にも繋がります。守秘義務違反への準備・対応策をあらかじめ検討し、企業の情報セキュリティ体制を構築しましょう。
守秘義務違反の発見方法
守秘義務違反を早期に発見するためには、次の4つのアクションが重要になります。
内部通報制度の活用
経営者・経営層の方が、常時全従業員の管理をすることは現実的ではありません。現場の従業員から匿名通報を受け付ける仕組みを整備し、組織全体で守秘義務を守れる体制構築を目指しましょう。
また、通報者に対する不利益な取扱いを禁止するなど、身分・立場を保護することで制度の信頼性を高めます。
定期的な監査とモニタリング
管理部門や情報システム部門などと協力し、情報セキュリティ監査を実施しましょう。
具体的には、従業員が業務時にスマートフォンやPCを利用するのであれば、不適切なアクセス・会社が承認していないアプリケーションのダウンロードなど、情報流出に繋がる恐れがないかモニタリングすることが大切です。
ログ分析ツールを使用し、異常な情報アクセスパターンを検出することができれば、ウィルスなどによる情報漏えいを未然に防げる可能性が高まります。
他社事例の収集
機密情報・情報漏えいの観点でいくと、
- 同業他社のプレスリリースで情報漏えいがどのように起きたのか参考情報を収集する
- 過去の判例やトラブル事例を検索する
このように、他社がどういった経緯でトラブルを起こしてしまったのか調査することも重要です。
従業員教育と意識向上
守秘義務の遵守においては「従業員の意識」を忘れてはいけません。
定期的な従業員研修を通じて、守秘義務の重要性を周知しましょう。
従業員の意識が高まることで、違反防止・違反の早期発見につながりますので、日頃から経営者・経営層によるコンプライアンス遵守のメッセージを発信することが大切です。
具体的な対応手順
守秘義務違反が疑われる場合、以下6つの手順が効果的と考えられます。
初期調査の実施
違反の疑いがある事案の概要を把握しましょう。まずは関係者からの聞き取りを行い、事実関係を確認することが大切です。
証拠の収集と保全
電子メール、文書、アクセスログなどの関連証拠を収集し、守秘義務を違反している事実を精査します。このとき、証拠の改ざんや削除を防ぐため、各情報にはバックアップデータが取れているのかチェックもしておきます。
影響範囲の特定
漏洩した情報の内容と範囲を特定します。影響を受ける可能性のある関係者(顧客、取引先など)をリストアップする作業となります。
対策部門の選定
経営層、法務部門、人事部門、広報部門など、今回の守秘義務違反の内容や影響範囲がわかった段階で、必要な部門を対策部門として設定します。情報の一元管理と迅速な意思決定が重要になります。
関係者への通知
影響を受ける可能性のある関係者に対し、適切なタイミングで連絡をしましょう。謝罪と今後の対応方針を明確に伝えることが、今後の信頼回復の一助になります。
再発防止策の策定と実施
違反の原因を分析し、具体的な再発防止策を策定します。社内規程の見直し、セキュリティ対策の強化、従業員教育の充実などを実施しましょう。
法的措置の検討
残念ながら従業員による守秘義務違反が発生してしまった場合、その違反した内容が
- どの程度の範囲に
- どれくらい影響を及ぼしたのか
精査しなければいけません。また、その大きさによっては、法的措置を検討する必要があります。
損害賠償請求
守秘義務違反により会社が被った損害について、その損害額の範囲内で賠償を請求できる可能性があります。ただし、損害額の算定と因果関係の立証が重要となり、実務上は難しい場合が多いのではないでしょうか。
差止請求
情報の更なる流出や使用を防ぐため、差止請求を行うことも手段の一つです。
差止請求とは、従業員が違法(もしくは不当な行為)を行っている場合に、その行為自体を止めさせる手続きを言います。
従業員が持つべき守秘義務・秘密保持義務が理由となりますので、迅速な対応に繋がります。
懲戒処分
就業規則に基づき、違反者に対して適切な懲戒処分を行います。
ただし処分内容は、違反の程度に応じて慎重に判断しなければなりません。
法的措置における注意点
従業員による守秘義務違反があり法的措置を講じる場合であっても、次の3点は注意が必要です。
- 証拠の十分性
- 違反の事実を立証できる十分な証拠があるか確認する
- 費用対効果
- 法的措置にかかるコストと得られる効果を比較検討する
- レピュテーションリスク
- 法的措置が(社内・社外問わず)会社の評判に与える影響を考慮する
守秘義務違反への対応は、単に違反者を罰するだけでなく、組織全体の情報管理体制を強化し、再発を防止することが重要です。また、従業員の信頼を損なわないよう、公平かつ透明性のある対応を心がけることが求められます。
デジタル時代における守秘義務の誓約書
昨今、バックオフィス分野においても様々なITシステムが普及しており、契約関係の業務もペーパレス化が当たり前の時代になっています。
従来の紙ベースの文書から、より効率的で安全性の高いデジタルソリューションへの移行が進んでおり、契約書の作成・管理・締結のプロセスも大幅に効率化を図ることが可能です。
一方で、守秘義務誓約書をデジタル化する際に
- 電子署名はそもそも有効なのか?
- 紙媒体の管理とクラウド管理ではどのような違いがあるのか?
気になっている経営者の方もいらっしゃると思いますので、簡単に解説いたします。
電子署名の有効性
契約書を電子化する際、署名は当然「電子署名」となります。この電子署名は「電子署名及び認証業務に関する法律」にて要件が定められており、
- 署名者が本人であることを証明できる
- 署名後に改ざんされていないことを証明できる
上記が適切に行われた電子署名は手書きの署名・押印と同等の法的効力があるとされています。
第三条
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
e-Gov「電子署名及び認証業務に関する法律」より引用
クラウドベースの管理システム
クラウドベースの契約書管理システムは、守秘義務の誓約書を含む各種文書のペーパレス管理の実現につながります。メリットとしては次のようなものが考えられますので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
アクセシビリティの向上 | クラウドシステムにより、誓約書にいつでもどこからでもアクセスできるようになります。リモートワークを推奨している企業では重要な観点ではないでしょうか。 |
一元管理の実現 | 従業員と交わす書類をクラウド上で一元管理することで、文書管理の効率性が高まります。 システムによってはアクセス権限の管理も簡単に行えるため、セキュリティも向上します。 |
自動更新と通知機能 | 書類の有効期限や更新時期を自動で管理し、関係者に通知することができるシステムもあります。 契約書や誓約書の更新を忘れることなく適切な管理が可能です。 |
デジタル技術の進化により、守秘義務の誓約書の管理と運用は大きく変わりつつあります。電子署名、クラウドシステム、AIの活用により、誓約書の作成から管理、監視までのプロセスが効率化され、同時にセキュリティも向上しています。
しかし、これらの技術を導入する際には、データのセキュリティやプライバシーの保護に十分注意を払う必要があります。また、従業員に対する適切な教育と、定期的なシステムの見直しを忘れてはいけません。
守秘義務の誓約書に関するよくあるQ&A
守秘義務の誓約書に関して、弊社でも多くの経営者の方からご相談をいただくことがございます。よくいただくご質問内容と回答をQ&A形式で整理しましたので、参考にいただければ幸いです。



下記Q&Aを通じて、守秘義務の誓約書に関する理解を深めていただき、適切な作成・運用・対応につなげていただければと思います。守秘義務の誓約書に関する疑問を解消し、より効果的な情報管理を実現するための指針になれば幸いです。
まとめ:会社を守るために守秘義務誓約書の整備を
今回のコラム記事では、守秘義務誓約書にフォーカスして定義や目的から守秘義務誓約書が必要な場面、効果的な作成ポイントやテンプレート化する際の必要事項などを解説いたしました。
守秘義務誓約書は企業の重要な情報を保護するために不可欠なツールですが、その作成と運用には、法的知識と実務経験が大切になります。適切な対応を怠ると、法的リスクや情報漏洩のリスクが高まる可能性が生じます。
弊社では適切な守秘義務誓約書の作成や運用に向けて、誓約書の内容だけでなく就業規則の整備状況まで含めてサポートが可能ですので、お困りの経営者・人事労務担当者の方はぜひお気軽にご相談くださいませ。