カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?企業が取るべき対策と法的責任

カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)は、近年企業が直面する深刻な課題として注目を集めています。
顧客による理不尽な要求や暴言、暴力的行為が従業員の心身(特にメンタル)を蝕み、企業の健全な運営を脅かす場合があります。
今回のコラム記事では、
- カスハラの定義
- 企業が取るべき具体的な対策
- 企業側にある法的な責任
について、わかりやすく解説いたします。
人事労務担当者や経営者の方にとって、カスハラ対策は今後重要な課題になります。従業員を守り、企業価値を高めるためにも最新の他社事例もご紹介いたしますので、ぜひご一読ください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

カスハラとは?定義・具体例から確認
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、近年急速に社会問題化している現象です。
顧客による理不尽な要求や行為が従業員の労働環境を著しく悪化させ、企業活動にも深刻な影響を及ぼしています。まずはカスハラの定義から具体例、そして増加傾向と影響について詳しく見てみましょう。
カスハラの定義と具体例
カスハラとは、顧客による不当な言動や要求が社会通念上の許容範囲を超え、従業員の就業環境を悪化させる行為を指します。具体的には以下のような例が挙げられます。
- 従業員に対する暴言や脅迫的な発言
- レジで並んでいる間に店員が失礼だと感じ、「お前なんか店にいる資格がない、今すぐ辞めろ」と大声で罵る。
- 電話でのクレーム対応中、「上司を出せ!お前はバカだから相手にならない!」といった誹謗中傷的な発言を繰り返す。
- 長時間にわたる執拗なクレーム
- 商品のわずかなキズに対し、「これでは使い物にならない」と数時間にわたって居座り、他の顧客や業務を妨害する。
- 電話を一日に何度もかけ、同じ内容のクレームを延々と繰り返す。担当者を変えても対応を終わらせない。
- 従業員への土下座要求
- 店員が品切れ商品について謝罪したにも関わらず、「謝るだけでは済まない。土下座して誠意を見せろ」と要求する。
- オーダーの手違いで発生した小さなミスに対し、動画撮影しながら土下座を強制する。
- 根拠のない返品や過剰な賠償要求
- 購入して明らかに長期間使用した商品に「最初から不良品だった」と主張して返金を要求する。
- 遅延配送に対し、「精神的苦痛を受けた」として無償サービスを求める。
- SNSでの誹謗中傷や個人情報の拡散
- 店員が自分の意向に沿わない対応をした際、名前や顔写真を撮影してSNSに投稿し、「この店員は使えない」などのコメントを添えて拡散する。
- 対応が遅れたことに腹を立て、店舗名や従業員の情報を含む投稿をして拡散する。
上記に該当するような行動・行為は、企業に対する苦情・要望・依頼とは明確に異なっており、従業員の尊厳や心身の健康を害する可能性があります。
カスハラと正当なクレームの違い
カスハラと正当なクレームとの違いは、要求内容の妥当性や、その要求を伝える手段や態度で区別することができます。
正当なクレームは、商品やサービスの改善を目的とした適切な指摘であり、企業にとっても有益な意見となるでしょう。一方でカスハラは、顧客の立場を利用して不当な要求を押し付けたり、従業員に対して威圧的な態度を取る行為を指します。
下記表はカスハラと正当なクレームがどのように違うのか整理したものになりますので、ご参考ください。
項目 | カスタマーハラスメント | 正当なクレーム |
---|---|---|
目的 | 自己満足や従業員への威圧、感情の発散が目的 | 商品やサービスの問題点を改善するための建設的な意見 |
要求の妥当性 | 社会通念上、不合理または過剰な要求が多い | 妥当かつ企業が対応可能な範囲内の要求 |
コミュニケーションの内容 | 高圧的で感情的、暴言や威圧、脅迫を伴う場合が多い | 冷静で理性的、適切な言葉遣い |
行動 | 長時間の拘束、暴力、侮辱的な発言、無理な対応要求 | 問題を具体的かつ明確に指摘 |
従業員への影響 | 精神的・身体的なストレスや業務の妨害 | 問題解決への建設的なフィードバック |
企業への影響 | 顧客対応のコスト増加、従業員の士気低下 | サービスや商品の改善につながる可能性が高い |
カスハラの発生状況と増加傾向
カスハラの発生状況は、業種によって差があるものの、全体的に増加傾向にあります。
厚生労働省の調査によると、過去3年間のハラスメント相談件数において、カスハラは「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」に次いで3番目に多く、しかも唯一増加傾向にあることが明らかになっています。

また、カスハラに関して相談件数が多かった業種は「医療、福祉」、「宿泊業、飲食サービス業」、「不動産業、物品賃貸業」となっており、顧客と直接対面する業種でカスハラの発生率が高くなってることがわかります。

調査結果のように、「カスハラ」は一つの社会的な問題になっています。従業員の働きやすい環境づくりは会社・経営者が推進すべき領域ですので、カスタマーハラスメントへの対応は準備すべきと言えるでしょう。
カスハラが従業員と企業に与える影響
カスハラが及ぼす影響は、従業員・会社の双方に深刻な問題となります。
従業員に及ぼす影響 | 会社に及ぼす影響 |
---|---|
メンタルヘルスの悪化 モチベーションの低下 業務パフォーマンスの低下 休職や退職の増加 | 業務効率の低下 人材の流出 企業イメージの悪化 法的リスクの増大 |
また、カスハラへの対応に時間を取られてしまうと普段の業務が滞ることなります。結果として、顧客サービス・品質が低下してしまい、新たなカスハラにつながる悪循環も考えられます。
近年ではSNSで手軽に情報発信ができるため、企業名や従業員名が拡散されてしまうと、企業イメージが急速に悪化するリスクもあるでしょう。
社会問題にもなっているカスハラの対策に向けて、厚生労働省ではカスハラ対策を義務化する方針を検討しています。2025年には法改正案が提出されて、具体化が進む見込みのため、企業は現段階から従業員を守るための取り組みを検討する必要があると言えます。
カスハラ対策の必要性と企業の法的責任
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、企業にとって看過できない問題となっています。
従業員の心身の健康を脅かすだけでなく、企業の生産性や評判にも悪影響を及ぼしてもおかしくありません。企業がカスハラ対策に取り組む必要性、関連する法律について確認しましょう。
企業がカスハラ対策に取り組む必要性
カスハラ対策は、企業にとって単なる選択肢ではなく、必須の取り組みになっています。
- 従業員の健康と安全の確保
- 生産性の維持向上
- 人材流出の防止
- 企業イメージの保護
従業員の健康と安全の確保
カスハラが従業員に与える影響は、単に嫌な思いをするだけではありません。弊社にご相談事例の中でもカスハラが原因で体調を崩したり、心の病を抱えてしまった結果、従業員が休職してしまったとお聞きすることが増えています。
精神的なストレスや、時には身体的な危害につながる場合もあります。従業員が安心して働ける環境を作ることは、企業としての基本的な責任ではないでしょうか。
生産性の維持向上
職場にカスハラが横行していると、従業員が仕事に集中できなくなり、組織全体の生産性は低下します。カスハラの対応に時間を取られると、他の業務が滞ってしまい、本業に集中することができません。
人材流出の防止
もしカスハラを放置すれば、優秀な人材ほど『ここでは安心して働けない』と感じて辞めてしまうかもしれません。
若手社員が「顧客対応がストレスで耐えられない」と言って退職しているケースもあり、人材定着の観点からもカスハラ対策は重要なテーマです。
企業イメージの保護
カスハラへの対応が不十分な企業は、「従業員を大切にしない会社」と思われ、消費者や求職者からの信頼を失う可能性があります。裏を返せば、従業員を守る姿勢を示せば、企業の評価の向上が期待できます。
カスハラに関する法律と企業の安全配慮義務
現時点では、カスハラに特化した法律は存在しませんが、関連する法律としては
- 労働契約法
- 労働施策総合推進法
において、カスハラにも関係があると考えられます。
労働契約法とカスハラ
労働契約法第5条では「使用者(雇用主)は労働者が働く上での安全を確保する義務を負う」とされています。これには、従業員が精神的・身体的に安全な環境で働けるようにすることが含まれます。
例えば、カスハラにより従業員が精神的ストレスや身体的被害を受け、精神疾患を発症した場合には企業が安全配慮義務違反に問われるリスクがあります。
労働契約法の根拠条文をみる
第五条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
e-GOV「労働契約法」
労働施策総合推進法とカスハラ
労働施策総合推進法は、趣旨として「従業員が安全に働ける環境を守る」ことが挙げられています。
ハラスメント関係ですとパワーハラスメント(パワハラ)を防止するための条文が定められており、具体的には以下のような企業の取り組みが義務化されています。
- パワハラ防止のための措置義務(防止策の実施や相談窓口の設置など)。
- ハラスメントに関する指針の策定。
一方で、カスハラは「顧客から従業員に対するハラスメント」を指します。労働施策総合推進法の直接的な対象ではありませんが、その趣旨に基づき、企業は従業員が安心して働ける職場環境を整備することが望ましいとも考えられます。
労働施策総合推進法の目的条文をみる
第一条(目的)
1 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。
e-GOV「労働契約法」
2 この法律の運用に当たつては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。
企業が実施すべきカスハラ対策とは?
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、企業にとって看過できない重要な問題です。
従業員の心身の健康を守り、健全な職場環境を維持するためには、包括的なカスハラ対策が不可欠です。企業が実施すべき具体的なカスハラ対策について詳しく解説いたします。
- カスハラに関する基本方針の策定と周知
- 社内対応マニュアルの作成とフローの整備
- 従業員教育と研修の実施
- 相談窓口の設置と対応体制の整備
- 再発防止策の実施と定期的な見直し
カスハラに関する基本方針の策定と周知
カスハラ対策の第一歩は、企業としてのスタンスを明確にし、基本方針を策定することです。
基本方針としては
- カスハラを容認しない企業姿勢
- 具体的にカスハラとしてみなす行為や対応方針
上記二点の明文化が必要です。また、策定した方針は社内イントラネットやポスター掲示などを通じて全従業員に周知し、新入社員研修や定期的な全体会議でも繰り返し伝え、組織風土として浸透させることが大切です。
カスハラを容認しない企業姿勢
カスハラに対する基本方針における、企業姿勢の例としては、次のような内容が考えられます。
当社は、従業員が安全かつ安心して働ける環境を守るため、カスタマーハラスメントを断固として容認しません。
従業員が不当な要求や暴言、その他のハラスメント行為により精神的・身体的に被害を受けることのないよう、全社一丸となって取り組みます。
また、従業員がカスハラに対して適切に対応した結果として不利益を受けることは一切ありません。会社は従業員を守る責任を負います。
具体的にカスハラとしてみなす行為や対応方針
カスハラに対する基本方針における、具体的にカスハラとしてみなす行為や対応方針としては、次のような内容が考えられます。
以下のような行為は、当社ではカスハラに該当するとみなし、断固たる対応を取ります。
- 暴言や脅迫
- 大声での叱責や、人格を否定する発言
- 身体的な暴力や威嚇行為
- 不当な要求
- 社内規定や法律を超える無理な要求
- 明らかに常識を逸脱したクレーム
- 過度な時間拘束
- 長時間の電話や直接対応を強要
- 連絡の頻度や手段での嫌がらせ行為
- 差別的・侮辱的発言
- 性別、国籍、職業、年齢に基づく侮辱
- 社会的マイノリティに対する差別発言

会社の業種・業務内容によってはカスハラとして発生する具体例が異なります。過去に発生したカスハラの内容を整理することで具体的な禁止行為・対応方針を策定することができます。
社内対応マニュアルの作成とフローの整備
続いて、カスハラに対するマニュアル整備と対応フローを具体化しましょう。実際にカスハラが発生したことを想定しておきます。
カスハラに対するマニュアル整備
カスハラ発生時の初期対応は極めて重要です。
マニュアルには、カスハラを受けた従業員が取るべき具体的な手順を明記することで、冷静な対応につながります。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
顧客や取引先などの外部関係者による、従業員への不当な要求や嫌がらせを指します。従業員がカスハラの場面を想像しやすいように、具体例・自社で発生した過去事例等を記載しましょう。
カスハラにはしっかりと対応する旨、カスハラを容認しない姿勢を示すことで、従業員がカスハラに直面した際、すぐに会社に相談できる環境に繋がります。
従業員が適切に対応した結果、責任を問わないことも明記しましょう。
カスハラだと感じる場面に遭遇した場合の、従業員に対する行動ガイドラインを記載しましょう。要点として次の3つは押さえておけると望ましいです。
- 冷静で毅然とした態度で対応。
- 応じられない要求は丁寧かつ明確に断る。
- 身の危険を感じた場合は即座に上司に報告し、その場を離れる。
カスハラが発生した場合には、その内容の記録や適切なエスカレーション(社内での対応フロー)整備が必須です。
- 顧客からカスハラ行為を受けた場合の記録方法
- 記録内容としては日時、場所、顧客名(もしくは特徴)、発言内容、対応経過
- 必要に応じたエスカレーションフロー
- カスハラを報告する専用のグループチャットや、相談窓口での連絡
カスハラは、従業員一人で対応すべき問題ではありません。そのため対応における禁止事項として
- 自分で問題を解決しようとしない(エスカレーションを怠らない)
- 感情的な対応や、顧客を挑発する言動をしない
上記のようなルール策定も大切になります。
冷静に状況を把握し、上司や専門部署に速やかに報告する手順、顧客の要求を傾聴しつつも不当な要求には毅然とした態度で対応する方法などを具体的に示しましょう。
フローの整備:エスカレーション方法の確立
初期対応で解決できない場合のエスカレーションプロセスを明確に定めます。
例えば、
- 現場責任者への報告
- 人事および法務部門への連携
- 外部専門家への相談
といった段階的な対応フローが考えられます。
現場責任者への報告、人事部門や法務部門の介入、外部専門家への相談など、段階的な対応フローを整備します。このプロセスを明確化することで、従業員が一人で問題を抱え込むことを防ぎ、組織的な対応につながります。
従業員教育と研修の実施
カスハラの注意点としては、顧客から一方的に発生するだけでなく、従業員側に要因があるケースもあります。そのため、
- 顧客対応スキルの向上
- カスハラ対応トレーニング
といった、従業員に対する教育・研修は欠かさず行いましょう。
顧客対応スキルの向上
カスハラを未然に防ぐためには、従業員の顧客対応スキルを向上させることが重要です。コミュニケーション技術、クレーム対応の基本、感情コントロールの方法などを学ぶ研修を定期的に実施します。
特にコミュニケーション技術はどのような業界でも必須となるスキルです。敬語の使い方や丁寧な言葉遣い、顧客の話を傾聴する技術、第一印象を良くする非言語コミュニケーション(表情、姿勢、声のトーンなど)。トラブル時の適切な謝罪の仕方(「共感→解決案提示→謝罪」のステップ)といった内容を改めて共有することは重要です。
カスハラ対応トレーニング
カスハラの具体的な事例を用いたロールプレイング演習を行い、実践的な対応力を養成します。この演習では、カスハラの早期発見方法、適切な初期対応、エスカレーションの判断基準などを重点的に学びます。
相談窓口の設置と対応体制の整備
カスハラ被害を受けた従業員が安心して相談できる窓口の設置も有効です。
この窓口は、人事部門や外部の専門機関など、中立的な立場で対応できる体制を整えます3。また、相談者のプライバシーを厳守し、報復行為から保護する仕組みも併せて構築します。
相談窓口における担当者・担当部署の例
カスハラの相談窓口としては下記の部署が考えられます。
- 人事部(従業員のサポートに直接関与)
- 総務部(全社的な問題対応窓口として)
- コンプライアンス室(問題の適切なエスカレーションを担う)
相談窓口における相談方法の例
従業員が利用しやすく、相談内容に応じた適切な手段を選べるように複数の方法を整備するのが理想です。下記は相談窓口として運用される一例となりますので、ご参考ください。
相談方法別の特長・留意点 | 電話窓口 | メール | 専用の グループチャット | 連絡フォーム 匿名の |
特徴 | 即時対応が可能で、緊急性のある場合に有効。 | 時間を問わず相談が可能で、詳細な内容を整理して伝えやすい。 | 社内の既存ツール(例: Slack、Microsoft Teamsなど)を活用し、迅速なやり取りが可能。 | 匿名で相談できるため、ハラスメント被害を受けた従業員の心理的ハードルを下げられる。 |
留意点 | 窓口の受付時間を明確に設定(例: 平日9:00~18:00) 担当者が不在の場合は留守番電話や折り返し対応を整備 | 担当者個別のメールアドレか、専用メールアドレスを用意 初回返信の目安時間を設定(例: 24時間以内に返信) | 相談用の専用チャンネルで情報共有がスムーズに 担当者以外が閲覧できないよう権限管理を検討 | Googleフォームや社内イントラネット上で簡単にアクセス可能な仕組みを用意 匿名のままやり取りできる方法(例: 特定のメールアドレスで返信)を整備 |
再発防止策の実施と定期的な見直し
カスハラ事案が発生した場合は、その原因を徹底的に分析し、再発防止策を講じます。
例えば、顧客対応プロセスの見直し、社内規定の改定、従業員教育の強化などが考えられます。
また、カスハラ対策の効果を定期的に検証し、社会情勢や法改正に合わせて継続的に見直しを行うことが重要です。これらの対策を総合的に実施することで、企業はカスハラに対する強固な防御線を築き、従業員が安心して働ける環境を整えることができます。
カスハラ発生時の具体的な対応方法
カスタマーハラスメント(カスハラ)が発生した際、迅速かつ適切な対応が求められます。
企業は従業員を守りつつ、状況を冷静に判断し、組織的に対処する必要があります。
カスハラ発生時の具体的な対応方法について、現場での初期対応から管理職の役割、被害者へのケア、そして法的対応について確認しましょう。
現場での初期対応のポイント
カスハラが発生した際、現場での初期対応が極めて重要です。以下のポイントを押さえて対応しましょう。
- 冷静さを保った行動
- 感情的にならず、冷静な態度を維持
- 丁寧な態度で、相手の話をよく聞く
- 対応方法
- 店頭での対応ではなく、個室等に招く(ただし、複数人での対応は必須)
- 即答せずに、後で確認して回答するなど冷却期間を設ける
- 記録
- 日時、場所、状況、顧客の言動を具体的に記録
- 必要に応じて、相手に了承を得た上で録音する
- エスカレーション
- 状況が悪化する場合は、速やかに上司や管理職に連携
管理職・上司の役割と対応
管理職や上司は、カスハラ発生時に重要な役割を果たします。顧客対応をスムーズにするためにも、次の5つの点は押さえておきましょう。
- 状況把握
- 現場からの報告を受け、詳細な状況を把握
- 対応方針の決定
- 企業の方針に基づき、具体的な対応方針を決定
- サポート体制の構築
- 必要に応じて、法務部門や人事部門と連携
- コミュニケーション
- 顧客との交渉が必要な場合、管理職による対応
- 部下のフォロー
- 被害を受けた従業員のメンタル面でのフォローを行う
被害を受けた従業員へのケアは忘れずに
カスハラ被害を受けた従業員に対して、企業は迅速に状況を把握し、心理的ケアや必要なサポート(カウンセリング、配置転換、休暇提供など)を行うとともに、被害者が安心して働き続けられる環境を整備することが大切です。
悪質なカスハラへの法的対応
悪質なカスハラに対しては、法的対応を検討する必要があります。厚生労働省が発行している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」にて、カスハラに係る犯罪や違法行為が抵触する可能性のある法律として下記が紹介されています。
- 傷害罪
- 暴行罪
- 脅迫罪
- 恐喝罪
- 強要罪
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 信用毀損及び業務妨害
- 未遂罪
- 不退去罪
そのため、企業としては法的措置の検討も含めて情報収集・専門家への相談・場合によっては警察への通報などで対応を進めましょう。
カスハラ対応は、個人ではなく組織として取り組むことが重要です。従業員の安全と心身の健康を守りつつ、毅然とした態度で対応することで、健全な顧客関係の構築と企業価値の向上につながります。
カスハラ対策の成功事例と今後の課題
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。
すでにカスハラ対策として取り組みを開始している企業もありますので、取り組みや法整備の動向を確認し、効果的な対策を講じていきましょう。公表されている企業の取り組み事例や今後の課題と展望について解説いたします。
企業のカスハラ対策事例
多くの企業がカスハラ対策に取り組んでいますが、特に効果的な事例をいくつか紹介します。
ヤマト運輸
運送業大手であるヤマト運輸では「社員の健全な業務を守る」ために、カスハラ対策の取組を推進しています。主な内容としては
- カスハラ対応マニュアルを作成し、社員研修を通じて全従業員に周知
- 「カスハラ発言リスト」を作成。「カスハラ発言」と「カスハラの可能性のある発言」に分けて、具体的な文言や対応フローを整備
- カスハラ情報は全社で共有。カスハラ行為を伴う顧客対応があった場合には、レポートを作成し全社データベースへ蓄積
上記のように、マニュアル作成からノウハウの可視化、過去事例の共有といった取り組みをされています。
タリーズコーヒージャパン
飲食店を全国展開しているタリーズコーヒージャパンは「SNSでのつきまとい行為」をきっかけとして、カスハラ対策を推進しています。
- スタッフの個人情報を保護するために、ネームプレートをフルネームからイニシャル表記に変更
- 従来はレシートにレジ担当者の氏名が記載されていたが、社員番号表記へ変更
- 悪質なクレームの場合には店舗・エリアの営業担当・お客様相談室の3者で事実確認から対応方法を検討し、お客様相談室からお客様に返答する等、事案に応じた対応
従業員の氏名が見えていまうことがトラブルの要因になることもあるでしょう。従業員の個人情報を守る観点で重要た取り組みといえます。
その他の会社事例は厚生労働省が運営している「あかるい職場応援団」にて紹介されています。情報収集されている経営者・人事労務担当者の方はぜひ確認しておきましょう。


カスハラに関する最新の動向と法整備
カスハラ問題への社会的関心の高まりを受け、法整備が進む見込みです。
2023年12月には、改正された旅館業法により、ホテル・旅館業においてはカスハラに当たる特定の要求を行った顧客に対して宿泊拒否ができるようになっています。
また、労働施策総合推進法の改正も検討されており、2025年にもカスハラ対策の義務化を含む法案が提出される見込みです。
東京都では、令和7年4月1日からカスタマーハラスメント防⽌条例が施行されます。地方自治体レベルでも動きがあることから、カスハラが社会問題になっていると感じます。
まとめ:カスハラ対策に困ったら
カスハラ対策として、企業は従業員が安心して働ける環境づくりと、顧客との良好な関係構築の両立を目指していく必要があります。
カスハラに対する具体的な方針策定や就業規則の作成、従業員への対応マニュアルの整備などに課題を感じておられる経営者・人事労務担当者の方は専門家にご相談されることをおすすめいたします。
弊社でもお客様の状況に沿ったサポートをしておりますので、お気軽にご連絡いただければ幸いです。