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インフルエンザは出勤停止や欠勤になる?有給でも無給でもいい?

本記事ではこのようなお悩みを解決いたします
  • インフルエンザに感染した社員をいつまで出勤停止にすべきか迷っている
  • 出勤停止時の賃金支払ルールが分からず対応に不安がある
  • 就業規則にどのように感染症対応を盛り込めばよいか悩んでいる

インフルエンザが流行する季節、企業にとって従業員の健康管理と感染予防は避けて通れない課題です。

とくに、感染した従業員を「出勤停止」にするのか「欠勤」とするのか、判断に迷われる方も多いのではないでしょうか。判断や対応を誤ると、職場内感染や法的リスクに発展する可能性もあるため、注意が必要です。

今回のコラム記事では、企業が押さえておくべきインフルエンザに罹患した従業員の対応方法(出勤停止にすべきか、欠勤にすべきか)、休んだ日は有給なのか無給なのか、自社規定の整備ポイントまでを網羅的に解説いたします。

ぜひ人事・総務担当者の方はご一読ください。

このページの概要

インフルエンザにかかった場合は出勤停止にすべきか?

インフルエンザの流行期において、従業員が感染した場合の対応は企業にとって重要なリスク管理の一環です。

従業員の健康と職場全体の安全を守るためにも、法的な根拠を理解し、適切な対応を行う必要があります。まずは、インフルエンザに掛かった場合に出勤停止が必要なのか、法的根拠や企業に課される責任について、関連法規や指針をもとに解説します。

学校保健安全法などの関連法規

まず、出勤停止に関する代表的な法的根拠として挙げられるのが「学校保健安全法」です。この法律自体は児童・生徒を対象としていますが、社会的な基準として企業にも影響を与えています。

  • 学校保健安全法施行規則では、インフルエンザは発症後5日間かつ解熱後2日間は出席停止とされている。
  • この基準は、職場における感染予防の参考基準として、多くの企業の就業規則にも準用されているケースがある。

企業に直接適用される法律ではないものの、社会通念上の「合理的対応」としてこの期間に準じた出勤停止措置を取ることは、感染拡大防止の観点から有効とされています。

産業安全衛生法における企業の安全配慮義務

次に注目すべきは、「労働安全衛生法」に基づく企業の責任です。これはすべての事業者に適用される法令であり、従業員の健康と安全に配慮した環境を整備する義務が明確に規定されています。

  • 労働安全衛生法第3条では、事業者は「労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」とされている。
  • インフルエンザに感染した従業員を無理に出勤させることは、他の従業員への感染リスクを高め、安全配慮義務違反に該当する可能性がある。

このため、企業は感染拡大を防止する観点から、感染者の出勤停止や在宅勤務への切り替えを積極的に検討すべきでしょう。

厚生労働省の指針とガイドライン

さらに、厚生労働省はインフルエンザに関するガイドラインを公表しており、企業がどのように対応すべきかの指針を示しています。

  • 「職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」では、感染症の蔓延を防ぐための行動計画や従業員の健康観察の実施が推奨されている。
  • 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」も含め、感染者への適切な対応が求められる。

これらの指針は強制力はないものの、企業として社会的責任を果たすうえで重要な判断材料となります。ガイドラインに準じた対応を行うことは、従業員の安心にもつながるでしょう。

インフルエンザに対する企業の対応は、単なるマナーの問題ではなく、法律と社会的責任に裏打ちされた重要な義務です。感染拡大を防ぎ、従業員が安心して働ける職場を維持するためにも、法的根拠を理解し、実効性のある対応を講じることが求められます。

出勤停止期間の設定と判断基準

インフルエンザに感染した従業員が出勤停止となる期間については、企業ごとに基準を設ける必要があります。ただし、基準の設定には医学的・法的な観点を考慮し、過剰でも不十分でもないバランスが重要です。以下では、判断基準として押さえるべきポイントを整理します。

発症日からの期間目安

出勤停止の期間設定において、最も一般的な目安となるのが「発症日からの経過日数」です。これは先述の学校保健安全法施行規則の基準を参考にするケースが多く見られます。

  • 通常、発症後5日間かつ解熱後2日間はウイルスの感染力が高いとされ、出勤停止が推奨される。
  • 例えば、1月1日に発症し、1月4日に解熱した場合、1月6日までは出勤を控えるのが望ましい。

この期間は医学的根拠に基づいており、職場での感染拡大を防ぐための最低限の対応と言えるでしょう。

医師の診断書と治癒証明の取り扱い

出勤再開の判断材料として、医師による診断書や治癒証明書の提出を求める企業もあります。ただし、その運用には注意が必要です。

  • 医療機関の負担軽減のため、診断書提出を義務としない企業も存在する。
  • 治癒証明についても、医師の発行を受ける法的義務はないため、会社独自の様式で代替する方法もある。

したがって、診断書や証明書をどう扱うかは、自社の方針と現実的な対応を踏まえて判断するのが賢明です。

自社就業規則で定めるポイント

インフルエンザによる出勤停止を適切に運用するためには、就業規則や社内規程に明確なルールを設けることが重要です。

インフルエンザに関する社内ルール例
  • 出勤停止の判断基準(発症日・解熱日など)の明記
  • 医師の診断書や出勤許可の有無の扱い
  • 出勤停止中の給与の取り扱い(有給・無給・特別休暇)

これらを文書化しておくことで、社員の混乱を防ぎ、労使間のトラブルを回避する効果もあります。特に、法的トラブルを未然に防ぐ意味でも、労働基準監督署などと相談しながら整備を進めると良いでしょう。

インフルエンザ出勤停止期間の設定は、科学的根拠と企業の実情を踏まえて柔軟に行うことが求められます。ルールを明文化し、従業員と共有することで、より健全な職場環境の構築が可能となるはずです。

インフルエンザで会社を休む場合は休業手当が必要?賃金の取り扱い

インフルエンザ感染による出勤停止期間中、企業は従業員に対してどのように賃金を支払うべきか、という問題は非常に重要です。労働基準法をはじめとする法的規定を理解し、就業規則に反映させることで、トラブルを未然に防ぐことができます。ここでは、休業手当の根拠や、支払有無の判断基準を解説します。

インフルエンザによる「休み」は会社都合?従業員都合?

前提として、インフルエンザを理由とした「休み」が、会社判断なのか、従業員判断なのかによって、休業手当の有無は異なります。

会社都合とみなされる例従業員都合とみなされる例
会社が感染拡大防止を理由に一律出勤停止を命じた場合

医師の診断なしで「疑いがある」などとして企業判断で休ませた場合
労働者自身の判断で出勤を控えた場合

明確に医師の診断で「就労不可」とされた場合(私傷病扱い)

この判断は曖昧になりがちですが、原則として「企業の判断による休業=休業手当の対象」と理解するのが無難でしょう。

従業員都合となるケース

従業員自身の判断で休む場合、インフルエンザであっても風邪と同様に「欠勤」となり、給与・休業手当の支払いがありません。

ただし、

  • 年次有給休暇を利用して休む
  • 会社によっては「インフルエンザ休暇」「特別休暇」など別の制度を利用して休む

上記のような対応方法があります。

会社都合となるケース

冬に蔓延する季節性インフルエンザにおいては、出勤を停止させることは法的根拠がありませんので「会社都合」の判断となります。

そのため、休業手当(平均賃金の60%以上)を支給することが求められます。ただし、会社の就業規則で異なる取り決めがある場合は、その規定に則りましょう。

新型インフルエンザや鳥インフルエンザの場合は法律により「従業員の出勤停止」が義務付けられています。そのため、出勤停止を命じたとしても休業手当の支払い義務はありません。

休業手当の概要【労働基準法第26条】

労働基準法第26条では、会社都合により労働者を休業させる場合には「休業手当」の支払い義務があると定められています。

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

e-Gov「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」より

この条文に基づき、企業が感染拡大防止のために出勤停止を命じた場合には、原則として休業手当の支給が必要となります。

支給率と計算方法

休業手当は下記のように算出します。

  • 支給率: 平均賃金の60%以上
  • 平均賃金の計算: 原則として、過去3か月間の総賃金を総日数で割って算出
    • 例:過去3か月間の総支給額が90万円で総日数が90日の場合、1日あたり平均賃金は1万円 → 休業手当は1日6,000円以上

給与計算部門や社会保険労務士と連携し、正確な金額を算出することを推奨いたします。

賃金支払に関する取り扱いは、インフルエンザ感染対応の中でも特に慎重な判断が必要な領域です。法的根拠を踏まえた上で、柔軟かつ公平な対応を取ることが、企業の信頼性向上にもつながるでしょう。

社内ルール策定と従業員への周知方法

インフルエンザなどの感染症への対応は、企業としての信頼性や危機管理能力を問われるテーマです。

効果的な社内ルールを策定し、従業員に正確に周知することで、混乱を防ぎ、組織全体の安心感を高めることができます。本章では、就業規則の見直しポイントと、実効性のある社内コミュニケーションの進め方について解説します。

就業規則の見直し・改訂ポイント

感染症対応を就業規則に盛り込む際は、以下の観点を重視する必要があります。

  • 出勤停止の判断基準(発症日、解熱日、医師の診断有無など)
  • 出勤停止中の賃金扱い(有給・無給・特別休暇)
  • 診断書や治癒証明の提出要否
  • 感染拡大時の在宅勤務措置やフレックスタイム適用の可能性

これらのルールを明文化することで、従業員とのトラブルや誤解を未然に防ぎ、法令遵守の観点からも安心できます。なお改訂に際しては、労働者代表への意見聴取や、労基署への届け出も忘れずに行う必要があります。

出勤停止規定の文言例

実際に就業規則に記載する際の文言例は以下の通りです。

第○条(感染症による出勤停止)
労働者がインフルエンザ等の感染症に罹患し、他の労働者への感染のおそれがあると会社が判断した場合、会社は当該労働者に対し出勤を停止させることができる。

出勤停止の期間および条件は、発症後5日間かつ解熱後2日間が経過するまでとする。なお、医師の診断書等により出勤停止の必要性が確認された場合には、その指示に従うものとする。

企業の状況に応じて、より詳細な定義や例外規定を設けることも検討されるべきでしょう。

社内コミュニケーション戦略

規則を整備するだけでなく、それを「伝える」ことがなければ意味がありません。従業員にルールを正確に理解・浸透させるためには、次のような戦略的コミュニケーションが有効です。

  • メール配信・社内ポータルでの通知(定期的なリマインド含む)
  • 社内研修・説明会の実施(人事・衛生管理者主体)
  • FAQやフローチャートでの視覚的説明資料の配布
  • 感染拡大時の緊急対応マニュアル整備

特に感染症対策はタイムリーな対応が求められるため、迅速に情報共有できる体制づくりが鍵となります。

ルールを作るだけでなく、それを「活かす」仕組みを整えることが、企業全体のレジリエンス(回復力)を高めます。従業員との信頼関係を築きながら、柔軟で現実的な対応を目指しましょう。

出勤停止時における従業員のサポートフロー

インフルエンザによる出勤停止期間中、従業員が安心して療養に専念できるよう、企業としてのサポート体制が重要となります。

適切な情報提供と制度活用の支援が、社員の信頼と満足度を高め、早期復帰にもつながるでしょう。本章では、実務に役立つ従業員サポートの流れと施策を紹介します。

休暇・代替勤務の案内方法

まず大切なのは、出勤停止が決まった段階で、従業員に対して休暇取得や代替勤務の選択肢を明確に案内することです。ただし、代替勤務については従業員が勤務できる状態(家族がインフルエンザになったものの、自身は健康である場合等)であることが前提です。

  • 使用可能な休暇の種類:年次有給休暇、特別休暇(インフルエンザ専用)、病気休暇など
  • 代替勤務の可否:業務内容によっては在宅勤務や軽作業対応も検討
  • 申請手続きの簡素化:体調不良時でも負担にならないよう、Web申請や電話連絡のみで対応可能に

社内イントラネットやテンプレート付き案内文書を活用することで、スムーズな手続きが可能になります。

保険・福利厚生の活用

療養中の経済的・心理的負担を軽減するために、企業が提供する保険や福利厚生制度を案内・活用させることも重要です。

  • 健康保険の傷病手当金制度(私傷病による欠勤が4日以上続いた場合に支給対象)
  • 企業の団体保険や見舞金制度
  • 社内カウンセリングやEAP(従業員支援プログラム)

これらの制度は存在していても従業員が知らないケースが多いため、定期的な周知と個別案内が効果的です。

リモートワークや時差出勤の活用

軽症で自宅療養中の従業員や、濃厚接触を懸念する場合には、リモートワークや時差出勤を柔軟に取り入れることが推奨されます。

  • 在宅勤務の条件整理:PC貸与の有無、セキュリティ対策、労働時間の記録方法など
  • 時差出勤制度の活用:通勤ラッシュ回避による感染予防
  • 勤務評価への配慮:感染対策としての措置であることを明確にし、不利益な取り扱いがないよう制度化

これらの施策を「一時的な例外」ではなく、「柔軟な働き方の一環」として制度設計に取り込むことが、今後のパンデミック対策にも有効となります。

従業員の安心と職場の安全を両立するためには、ルールの整備だけでなく、それを支える実務的なサポート体制が不可欠です。出勤停止時にも従業員が不安を感じずに行動できるよう、企業としてできる限りの支援策を講じていくことが望まれます。

まとめ:インフルエンザになった場合の対応方法はあらかじめ決めておこう

インフルエンザによる出勤停止対応は、法律・ガイドライン・社内規定のバランスが鍵です。

毎年流行するインフルエンザなどの感染症に備えては、感染拡大を防ぐための社内対応が不可欠です。体調不良者には無理をさせず、リモートワークや時差出勤といった柔軟な勤務体制を取り入れることで、社員の安全を守りつつ業務への影響を最小限にとどめることができます。

企業は法的根拠を押さえつつ、就業規則の整備と従業員への丁寧なサポートを通じて、安全で信頼される職場づくりを目指すことが求められますので、今回の記事が参考になれば幸いです。

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