有給休暇取得率とは?取得率を上げる施策も紹介【全国平均取得率は58.3%】

301人以上雇用する企業には「男女賃金格差等の実績」の公表義務化に伴い、年次有給休暇の取得率を公表する場合があります。これをきっかけに、企業の働きやすい環境を表す指標の一つとして、自社の有給休暇の取得率を公表する企業が少しずつ増えています。
大企業・中小企業問わず、社内の有給休暇取得率が全国の平均よりも上回るのであれば、取得率を公表するメリットもあります。
今回のコラム記事では、
- 年次有給休暇の取得率の算出方法
- 全国での年次有給休暇の平均取得率
- 有給休暇の取得率を公表するメリット
- 有給休暇の取得率を高められる施策
について解説いたします。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

年次有給休暇の取得率とは?
年次有給休暇の取得率は、従業員が一年間で実際に取得した有給休暇の日数を、付与された有給休暇の日数で割ったものをパーセンテージで表した数値です。
これは、従業員がどれだけ有給休暇を実際に利用できているのかを測る指標となりますので、ワークライフバランスや労働環境を評価する上で重要なポイントとなります。
有給休暇の取得率の算出方法
有給休暇取得率を算出する場合、次の計算式で求めることができます。
(1年間で実際に取得した有給休暇の日数 ÷ 付与された有給休暇の日数)×100
例えば、年間で10日の有給休暇が発生する場合でその内5日が使用されると、取得率は50%ということになります。
付与された有給休暇の日数については、前年度の繰越日数は含まずに、その年に付与された有給休暇のみを計算対象とすることが一般的です。

この平均取得率には、労働基準法上で発生する年次有給休暇のみを対象に計算することが多いでしょう。
有給休暇の消化率の意味は?取得率とは違う?
消化率も、取得率と同じ意味で使われることが一般的です。付与された有給休暇の中で実際にどれだけが利用されたか、を示す指標として参照されます。
全国の有給休暇平均取得率
全国の企業で、年次有給休暇がどの程度取得されているのかについて、気になる経営者も多いのではないでしょうか。自社の有給休暇平均取得率が全国の数値よりも上回っている場合には「働きやすい環境」である可能性が高まります。
厚生労働省では定期的に「就労条件総合調査」として企業の労働環境の調査および報告書を発行しており、その資料で全国の企業の有給休暇平均取得率が公表されております。
最新の「令和4年就労条件総合調査」によると、
- 年間の年次有給休暇の平均付与日数は17.6日
- 平均取得日数は10.3日
- 平均取得率は58.3%(昭和59年以降過去最高)
とされており、平均して約6割ほどの有給休暇が取得できている結果といえます。この数値は昭和59年以降においては過去最高の取得率になっていることから、働き方改革が進んでいる印象が見受けられます。
続いて、企業規模別および産業別の結果を確認してみましょう。
企業規模別の有給休暇取得率
令和4年度における、全国の企業(従業員規模別)の有給休暇平均取得率は次の通りとなります。
従業員の人数 | 平均取得率 |
1,000人以上 | 63.2% |
300〜999人 | 57.5% |
100〜299人 | 55.3% |
30〜99人 | 53.5% |



従業員数が多いほど、有給休暇の平均取得率が高い結果となっています。休んでも他の従業員の方がカバーできる体制づくりが、一つの要因になっていそうですね。
産業別の有給休暇取得率
令和4年度における、全国の企業(産業別)の有給休暇平均取得率は次の通りとなります。
従業員の人数 | 平均取得率 |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 58.0% |
建設業 | 53.2% |
製造業 | 62.6% |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 71.4% |
情報通信業 | 63.2% |
運輸業、郵便業 | 59.5% |
卸売業、小売業 | 49.5% |
金融業、保険業 | 56.8% |
不動産業、物品賃貸業 | 55.5% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 60.7% |
宿泊業、飲食サービス業 | 44.3% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 53.2% |
教育、学習支援業 | 50.1% |
医療、福祉 | 60.3% |
複合サービス業 | 72.4% |
サービス業(他に分類されないもの) | 61.3% |
有給休暇の取得率は公表すべき?
301人以上雇用する企業には「男女賃金格差等の実績」の公表義務化に伴い、有給休暇の取得率を広く周知することがありますが、すべての企業に義務付けられているものではありません。
しかし、法対応の観点だけでなく有給休暇の取得率を公表することは、次の3つのメリットが考えられます。それぞれ確認した上で、公表するかどうか検討してみてください。
ただし、公表する場合は、どのような方法で数値を算出し、それが何を意味するのかを明確に説明することが重要です。情報が誤解を招かないように配慮し、企業文化や従業員のニーズを尊重しましょう。
労務管理の透明性
有給休暇の取得率は、低ければ低いほど「休むことができない環境」というマイナスイメージにつながる恐れがあります。
そのため企業からすると積極的に開示することは難しい反面がありますが、 有給休暇の取得率を公表することで、組織の透明性を強化し、従業員・外部のステークホルダー(取引先、パートナーなど)から一定の信頼につながります。
採用のブランディング
有給休暇の取得率が高い場合、公表するメリットとして採用のブランディングがあります。
自社のワークライフバランスや社員の健康を重視する企業の姿勢を示す手段であり、リクルーティングが有利に働くことが期待できます。
従業員の意識向上
有給休暇の取得率を公表することで、従業員自身が休暇を取得する重要性に気がつく場合があります。また、公表された取得率が低い場合、従業員自身やマネジメントの改善に目を向けるきっかけになります。
有給休暇の取得率を高める施策
有給休暇の取得率を高めるためには、経営者・従業員が一丸となった理解と環境整備が重要です。効果が見込める施策を4つ紹介しますので、参考にしてください。



企業風土や経営方針によって、効果的な有給休暇の取得促進方法は異なります。自社に適してそうな施策を見つけてください!
従業員の教育
有給休暇は、経営陣から取得率を上げるように指示しても、中々現場が動かないケースがあります。現場の従業員からすると「休みたくても仕事が多いため休めない」というマインドになっている可能性が考えられます。
有給休暇の取得が健康と生産性に対してどのように有益なのか、しっかりと従業員に意識付けるために、ワークショップなどを開催しましょう。
計画的付与制度の導入
年次有給休暇は、5日を超える日数については、労使協定を結ぶことで有給休暇取得日を決めることができます。
計画的付与が実施されている企業では
- お盆や年末年始
- 会社の創業記念日
- 暦の関係で休日が飛び石となっている場合、その間の平日
など、会社全体が休みやすい日を指定して、全従業員に有給休暇を取得させるケースがあります。
取得しやすい環境・申請制度の導入
従業員が有給休暇をどのように計画し、取得するのか後押しするために、毎月有給休暇取得カレンダーを従業員に回覧し、記載してもらう施策もあります。
有給休暇は、申請する手続きの煩雑さ・周囲への配慮などから取得しにくい場合があります。
従業員全体に有給休暇取得カレンダーを回覧することで、休むタイミングなどを考慮できるだけでなく、上長への有給休暇申請の手間も省略することが可能になります。
トップダウンによる取得推進
経営陣や上長といった、会社の上層部から有給休暇の取得を促進するメッセージを伝えることも重要です。
また、部長や課長などの管理職や、マネージャーやリーダーが自身の有給休暇を積極的に利用することで、一般職員も気兼ねなく休むことができる風土になります。
まとめ
有給休暇の取得率は、全国平均で58.3%と、徐々に高まっています。有給休暇の5日取得義務化の法改正の影響もありますが、働きやすい環境づくりに舵を切った企業が増えていることが大きいと考えられます。
この数値を下回る場合、他社と比べて休みにくい環境になっていると考えられますので、今回紹介した施策をベースに、取得率向上を目指してみてはいかがでしょうか。