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「静かな退職」とは?会社にもたらすリスク・取るべきアクションを解説

本記事ではこのようなお悩みを解決いたします
  • 静かな退職の兆候にどう気づけばよいのか分からない
  • 静かな退職が増えており、離職リスクが見えにくくなっている
  • 静かな退職を防ぐための制度やマネジメントに悩んでいる

近年、社員が仕事への熱意を失いながらも表立って辞意を示さない「静かな退職(クワイエット・クイッティング)」が企業の大きな課題として注目されています。

外からは見えにくいこの現象は、組織の生産性やエンゲージメントの低下を招き、放置すれば深刻な人材流出や業績悪化につながりかねません。

本記事では、「静かな退職」とは何かを明確にするとともに、企業が見落としがちなリスク、そして未然に防ぐために取るべき実践的なアクションを詳しく解説します。社員の本音に気づき、離職予防に繋がる組織づくりを目指す方は、ぜひご一読ください。

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静かな退職とは?企業が知るべき背景と意味

近年、企業の人材戦略において注目を集めているキーワードのひとつが「静かな退職(クワイエット・クイッティング)」です。

これは単なる離職とは異なり、企業側が気づかないうちに進行する「見えない退職」の兆候とも言える現象です。企業がこの問題にどう向き合うかが、今後の組織の安定性や人材定着に大きく関わってくるでしょう。

静かな退職の定義と最近のトレンド

静かな退職とは、社員が表立って辞意を示すのではなく、仕事に対する熱意や主体性を失いながら、必要最低限の業務のみをこなす状態を指します。形式的には在籍を続けていても、実質的には「職場から心が離れている」状態とも言えます。

特にZ世代を中心に、「ワークライフバランスを重視し、過剰な努力を避ける」価値観が広まり、この考え方が徐々に浸透してきたと考えられます。

主な特徴は以下の通りです。

「静かな退職」の特徴
  • 上司からの追加業務依頼を避ける
  • 昇進や評価に無関心になる
  • チームへの貢献よりも自分の業務範囲を重視
  • モチベーションが低下しているが表立って不満を言わない

静かな退職は一見すると問題が見えにくいため、企業側が気づいたときには既に手遅れとなっているケースも多いのが現実です。

社員が静かに去る理由と企業へのシグナル

社員が静かに退職へ向かう背景には、職場環境や組織文化に対する不満や失望が隠れています。単なる怠慢ではなく、企業へのメッセージとして捉える必要があります。

以下に、静かな退職の主な原因をまとめます。

  • 評価制度への不信感:努力が報われない、成果が正しく評価されないと感じている
  • 成長機会の欠如:スキルアップやキャリアパスが見えない
  • 人間関係のストレス:上司や同僚とのコミュニケーション不全
  • 過重労働とワークライフバランスの崩壊:長時間労働やサービス残業に疲弊

これらの兆候が見られたとき、社員は口に出さずとも「この会社に期待していない」というサインを出しているのです。静かな退職は、やがて本当の退職へとつながるリスクを孕んでおり、早期の気づきと対応が求められます。

企業にとって重要なのは、社員の声を拾い、働きがいのある職場づくりを進めることです。エンゲージメントサーベイや1on1ミーティングなどを活用し、社員の変化に敏感になることが、静かな退職を防ぐ第一歩となるでしょう。

なぜ今「静かな退職」が増えているのか?企業側が見るべき原因

「静かな退職」は突発的な現象ではなく、時代の変化とともに徐々に顕在化してきた組織課題のひとつです。

企業がこの現象に対処するためには、その背景にある社会的・心理的な要因を正しく理解する必要があります。

ポストコロナ時代の働き方と従業員の価値観変化

コロナ禍をきっかけに、多くの企業でテレワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方が導入されました。それに伴い、従業員の「働くこと」への価値観も大きく変化しています。

特に以下のような傾向が顕著になっています。

ポストコロナ時代の働き方
  • プライベート重視の志向:「人生のための仕事」という考えが広まり、仕事中心の生活からの脱却を図る動きが強まっています。
  • 心理的安全性の重視:評価や人間関係に過度なストレスを感じる環境では、社員が距離を置くようになっています。
  • 目的志向の強化:ただ働くだけではなく、「自分の価値観に合う仕事をしたい」という意識が高まっています。

このような変化の中で、企業が従来通りの管理型マネジメントや一律の働き方を押し付けてしまうと、従業員との意識のギャップが広がり、「静かな退職」に至る原因となりやすいのです。

コミュニケーション不足やエンゲージメントの低下

もう一つの大きな要因は、社内のコミュニケーション不足とエンゲージメント(愛着・信頼)の低下です。特にリモートワークの普及により、物理的な距離だけでなく、心理的な距離も広がっているのが現状です。

企業が陥りやすい落とし穴として、次のような3つの状況があります。

  • 対話の機会の減少:雑談や日常会話が減ることで、社員のちょっとした不満や悩みに気づきにくくなります。
  • 一方通行の業務連絡:業務は効率的に進められても、社員の意見や感情が置き去りにされがちです。
  • 評価と貢献の見える化不足:自分の仕事が組織にどう貢献しているのかが見えにくいと、やりがいを失う原因になります。

エンゲージメントが低下した社員は、会社に対する信頼や期待を徐々に失い、「静かに離れていく」傾向を強めます。こうした状態を放置すれば、組織の生産性やチーム力にも悪影響を及ぼすことは避けられないでしょう。

だからこそ企業は、単なる業務管理ではなく「人との関わり」を重視した組織運営にシフトしていく必要があるのです。

静かな退職を防ぐには?企業として取るべき対策

「静かな退職」は従業員のサイレントなサインとも言える重要な兆候です。

これを未然に防ぐためには、企業側が積極的にその予兆をキャッチし、働きがいのある職場環境を整える必要があります。以下に具体的な対策を紹介します。

早期警戒サインの見つけ方と相談窓口の整備

静かな退職に至る前には、必ず何らかの“サイン”があります。企業がその兆候に敏感になることで、早期対応が可能になります。

特に注目すべきサインは、次のような状況です。

  • 業務上の発言や提案が減る
  • 定時退勤や最低限の業務のみを遂行
  • 会議での反応や表情が乏しくなる
  • 休暇や有給取得が極端に増える、または減る

こうした変化に気づいたとき、重要なのは「評価」ではなく「対話」です。上司や人事が定期的に1on1面談を実施し、安心して本音を話せる関係性を築くことが求められます。

さらに、信頼できる相談窓口を社内に整備することも効果的です。ハラスメント対応だけでなく、キャリアやメンタル面の相談ができる環境を提供することで、社員の孤立感を防ぐことができるでしょう。

柔軟な働き方やキャリアパスの再設計

静かな退職の多くは、「このまま働き続けても将来が見えない」という漠然とした不安から生まれます。これを払拭するには、社員一人ひとりのライフスタイルや価値観に合わせた柔軟な働き方とキャリア設計が必要です。

具体的な施策としては、

  • リモート勤務やフレックスタイム制度の導入・拡充
  • 副業・兼業の許容と支援によるスキルの多様化
  • ジョブローテーションや社内公募制度でのキャリア探索
  • キャリア面談による中長期的な目標設定の支援

また、昇進や昇給といった「一方向的な成功モデル」ではなく、多様なキャリアのあり方を企業として認める文化の醸成も大切です。

こうした柔軟な制度と対話の積み重ねが、社員の「ここで働き続けたい」という意欲につながり、結果的に静かな退職の抑止に寄与するはずです。

退職の意思が表面化する前に――ヒアリングとフィードバックの重要性

静かな退職を防ぐには、社員が「辞めたい」と言い出す前の段階で、その不満や不安に気づく仕組みが必要です。

そのためには、日常的なヒアリング体制と、その結果を元にした実効的なフィードバック・改善策が欠かせません。企業として「聞くだけで終わらせない姿勢」が試されているのです。

1on1ミーティング制度の効果的な運用方法

近年、多くの企業が取り入れている「1on1ミーティング」は、上司と部下が定期的に対話を行う場として非常に有効です。ただし、その運用方法次第で効果には大きな差が出ます。

効果的に1on1を運用するためのポイントは以下の通りです。

1on1ミーティングを効果的にするための4つのポイント
  • 週または隔週など、定期的な実施スケジュールを設定
  • 業務進捗よりも「感情・課題」に焦点を当てた対話を重視
  • 信頼関係を築くことを第一優先とし、部下の発言を否定しない
  • 話された内容は記録し、次回以降の改善行動へとつなげる

1on1は評価面談とは異なり、あくまで社員の声に耳を傾ける場です。だからこそ、上司には「聞く力」と「共感力」が求められます。これにより、社員のモチベーション低下や静かな退職の兆候を早期に察知し、対応することが可能になります。

エンゲージメント調査の活用とアクションプラン策定

組織全体の健全度を測る手段として、「エンゲージメント調査」の実施も有効です。これは社員の仕事への満足度や信頼感、組織との一体感などを定量的に把握するためのツールです。

調査導入のポイントと活用法は以下の通りです。

  • 匿名性を担保し、社員が率直に回答できる環境を整える
  • 調査結果は速やかに共有し、何らかのアクションにつなげる
  • 部門別・属性別にデータを分析し、課題を明確化する
  • 改善策については社員のフィードバックを受けながら立案する

特に重要なのは、「調査をして終わり」にしないことです。集めたデータをもとに、具体的なアクションプランを策定し、進捗状況を定期的に可視化することで、社員に対して「声が届いている」という実感を与えることができます。

このように、ヒアリングとフィードバックの体制を整えることが、静かな退職を未然に防ぐための“地道ながら確実な”アプローチとなるでしょう。

企業文化を育てる――組織風土・制度設計で“静かな退職”ゼロへ

静かな退職を根本から防ぐためには、個別の対応や制度の改善だけでなく、組織全体としての「文化づくり」が不可欠です。社員一人ひとりが安心して働き、キャリアを描ける企業風土こそが、離職の芽を摘む最も有効な土台となるのです。

信頼醸成型マネジメントと透明性のある企業環境

社員が自らの意志で組織と関わり続けるためには、「心理的安全性」と「情報の透明性」が欠かせません。その実現には、上司と部下の関係性を「管理」ではなく「信頼」に基づいたものへと進化させる必要があります。

信頼を構築するためには、

  • 目的や戦略を明確に伝え、組織の方向性と個人の業務を結びつける
  • 意思決定の背景や評価基準を開示し、不信感を払拭する
  • 対話を通じて部下の価値観や志向を理解し、尊重する
  • 失敗に寛容で、チャレンジを称賛する文化を育てる

これらの文化形成が重要だと考えられます。また、透明性のある情報共有は、「組織に参加している実感」を強め、社員のエンゲージメント向上につながります。こうした土壌が整っていれば、社員が黙って離れるリスクは大きく低下するでしょう。

福利厚生、評価制度、キャリア支援の再構築

制度面においても、社員の満足度と将来への期待値を高めるような設計が求められます。画一的な制度では多様化する働き方に対応できず、結果として静かな退職を招く恐れがあります。

再構築すべき主な制度は次の通りです。

  • 福利厚生の柔軟性:リモート勤務手当、育児・介護支援、副業制度など、ライフステージに応じた選択肢を拡充
  • 公正かつ納得感のある評価制度:成果だけでなくプロセスやチーム貢献も評価し、上司によるバイアスを排除
  • キャリア支援制度:自己申告型キャリア申請や社内FA制度、外部研修費補助など、多様な成長支援の仕組み

これらの制度を形だけでなく、「社員にとって意味のある支援」として機能させるには、運用の丁寧さと継続的な見直しがカギになります。

最終的には、社員が「この会社にいることで成長できる」「ここなら未来を描ける」と思えることが、静かな退職をゼロに近づける最良の対策になるのではないでしょうか。

まとめ:「静かな退職」を機会に変えるための企業アクションリスト

「静かな退職」は決してネガティブな現象だけではありません。それは、従業員の声なき声を受け取り、組織の在り方を見直すチャンスでもあります。最後に、企業がすぐに着手できる短期的な施策と、中長期的に進めるべき組織づくりのロードマップを整理いたしました。

今すぐ取り組める5つの施策

まずは、社員の離脱を防ぐために即実行できる優先度の高い施策をピックアップします。

  1. 1on1ミーティングの制度化と運用ガイドラインの整備
    • 上司が部下の声を定期的に拾う仕組みを作り、早期対応の基盤を整える。
  2. エンゲージメントサーベイの導入とデータ活用
    • 組織の健全度を可視化し、感情のサイレント化を未然に防ぐ。
  3. 評価基準と昇進要件の明文化
    • 不透明な評価はモチベーション低下の原因に。納得性を高めることが重要。
  4. 社内コミュニケーションの活性化施策
    • オンライン雑談ルーム、シャッフルランチなど、部門を超えた交流の場を用意。
  5. 相談しやすい社内チャネルの整備
    • 匿名チャットやキャリア相談窓口など、心理的安全性を意識した窓口の導入。

これらは短期的にも社員の心理的離脱を防ぐ効果が見込める施策です。

中期的に整える組織力強化のロードマップ

一方で、静かな退職の根本的な解決には、文化や制度の再構築といった中長期的な視点が必要です。

以下は、企業文化を強化するためのステップロードマップの一例です。

STEP
フェーズ1(〜6ヶ月)

課題の可視化と現場の声の収集。サーベイや1on1の運用定着を図る。

STEP
フェーズ2(〜12ヶ月)

制度の見直し:評価制度、福利厚生、キャリア支援プランの再構築に着手。

STEP
フェーズ3(〜18ヶ月)

ミドルマネジメント層の意識改革研修と、信頼マネジメントの浸透。

STEP
フェーズ4(〜24ヶ月)

企業理念と従業員体験(EX)の整合性強化。人事戦略と経営戦略の連携を図る。

STEP
フェーズ5(〜36ヶ月)

 “静かな退職ゼロ”を掲げた組織ビジョンの共有と、成功事例の社内発信。

このように段階的に改革を進めることで、社員が主体的に働き続けられる「強い組織文化」が醸成されていくでしょう。

「静かな退職」というサインを受け止め、企業が変わる契機とできるか否かが、今後の持続的成長を左右する重要な鍵になると考えられます。ぜひ自社の環境改善・向上のため、本記事がご参考になれば幸いです。

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