顧問社労士を変更・お探しの方は100社以上のサポート実績を持つTSUMIKI社会保険労務士事務所へ

退職願と退職届の違い:人事労務担当者・経営者が知っておくべき重要ポイント

本記事ではこのようなお悩みを解決いたします
  • 従業員から退職願を提出されたが、退職が決定した認識でいいのか分からない
  • 退職願と退職届の違いがよくわからない。従業員からどちらの用紙も提出されていて、問題ないのか確認したい

従業員を雇用していると避けて通れないのが「退職届」や「退職願」といった、退職の申し出です。

退職願と退職届は、一見似ているように思えますが、その役割や書類の意味合いには重要な違いがあります。人事労務担当者や経営者の皆様にとって、この違いは正確に押さえておくことが円滑な人材管理と労使トラブル回避に繋がります。

今回のコラム記事では

  • 退職願と退職届の本質的な違い
  • 退職願と退職届の適切な使用方法
  • 企業が注意すべきポイント

について解説いたしますのでご参考ください。

社会保険労務士 矢野貴大

従業員の退職プロセスを適切に管理し、トラブルを未然に防ぐための実務的な知識としてお役立ちいただければ幸いです!

執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

このページの概要

退職願と退職届の基本的な違い

退職願と退職届は、一般的に混同されがちですが、その本質と使用目的は大きく異なります。

ここでは、退職願と退職届の定義、役割、そして法的な位置づけといった前提部分について解説いたします。従業員の退職プロセスを円滑にするためにも、ぜひご確認ください。

退職願の定義と役割

まずは、退職願です。これは、従業員が会社に対して退職の意思を表明する非公式な文書です。

退職願の主な特徴
  1. 退職の意向を伝える手段
    • 従業員が退職を考えていることを会社に知らせる最初のステップに用いられることが一般的です。
  2. 交渉の余地がある
    • 退職願の提出後、会社側と従業員の間で話し合いの機会が設けられ、退職理由や退職引き止めといったコミュニケーションが可能な場合があります。
  3. 柔軟性がある
    • 退職の日程や条件について、双方で調整する余地があります。
  4. 法的拘束力はない
    • あくまで意思表示の段階であり、この時点では正式な退職手続きは完了していません。

退職願は、従業員と会社のコミュニケーションツールとしての役割がある、退職プロセスの第一歩と言えます。

退職届の定義と役割

退職届は、従業員が正式に退職を申し出る公式文書です。

退職届の主な特徴
  1. 正式な退職の意思表示
    • 法的に有効な退職の意思表示となります。
  2. 具体的な退職日の明記
    • 退職届には明確な退職日が記載されるため、これが退職の効力発生日となります。
  3. 会社の受理が必要
    • 会社が受理することで初めて効力を持ちます。
  4. 変更が困難
    • 一度提出し受理されると、変更や撤回が難しくなります。

退職届は、従業員の退職意思を確定させ、退職日を明確にする重要な役割を果たします。これにより、会社側も退職に向けての準備を本格的に進めることができます。

退職願と退職届の比較

退職願と退職届の大きな違いは「退職に関する確定事項」の面で大きな違いがあります。

スクロールできます
退職願退職届
法的効力人事決裁者に到達したとしても
承認前であれば2週間必要
人事決裁者に到達した時点で発生
退職意思の撤回しやすい難しい
退職日調整可能原則調整不可

ただし、退職日については給与や退職金の計算、雇用保険・社会保険の手続きといった労務管理に大きな影響を及ぼします。「退職願」「退職届」どちらの用紙が提出されたとしても、人事労務担当者の方は慎重なコミュニケーションが必要になります。

社会保険労務士 矢野貴大

退職願と退職届の違いを正確に把握することで、従業員の退職プロセスをスムーズに進行させ、潜在的な労務問題を回避することができます。では、具体的にこれらの文書をどのように使い分けるべきかについて見て行きましょう!

退職願と退職届の使い分け

退職願と退職届は、一見似ているように見えますが、効果の違いについては前述の通りです。では、具体的にどのようなシーンで利用される書類なのか、使い方についてご紹介いたします。

ただし、実務的には会社の規定・慣例にも左右されますので、一般的な事例としてご参考いただければ幸いです。

退職願を使用するべき状況

まずは退職願の利用シーンですが、次のような状況が適切と考えられます。

退職日が固まっていないとき

退職の時期や条件について会社側と話し合いたい場合、退職願を使用することで会社側との交渉の余地を残すことができ、柔軟な対応が可能になります。

会社に引き留められる可能性があるとき

現在の職場環境の改善や条件交渉の余地がある場合、退職願を出すことで会社側からの提案を受ける機会にもつながる可能性があります。

退職届を使用するべき状況

退職届は、以下のような状況で使用するのが適切です。

退職の意思が固まっているとき

家庭の事情や健康上の問題など、個人的な理由で退職が避けられない場合や、すでに転職先が決まっているなど、退職することが確実に決定している場合は退職届が適しています。

速やかに退職手続きを進めたいとき

退職届を提出することで、会社側に明確な退職の意思を伝え、迅速な手続きを促すことができます。

会社の規定と慣例の重要性

とはいえ、実務的には「退職願」「退職届」の意味合いを意識して活用されていることは少ない場合があります。従業員からすると、会社に伝えるべき事項は

  • いつ辞めるのか(日付の確定)
  • 退職意思は固いのか(確定事項なのか)

上記2つですので、退職願で記載して提出されることもあるでしょう。

退職願と退職届の使い分けには、会社の規定や慣例にも関わってきますので、次の事項について確認することを推奨いたします。

確認すべき会社の規定と慣例
  1. 就業規則の確認
    • 退職の事項は、就業規則に記載する必要があります。退職手続きについてどのように進めるのか、あらかじめ記載し従業員へ周知しておきましょう。
  2. 提出時期の明確化
    • 民法により、正社員であれば退職日の2週間前までに退職の意思表示をすれば退職できます。ただし、業務の引き継ぎ等を勘案して、一般的には「退職日までの一ヶ月前」程度であれば、社内ルールとして明文化できると考えられます。
  3. 退職の意思を伝える担当先・担当部署
    • 退職の意思表示は、まずは直属の上司であることが多いですが、人事・労務部門も関与することでトラブルを避けながら適切な手続きを進められます。
  4. 会社の慣例
    • 会社や業界によっては、退職願、退職届のどちらを利用するのかすでにフォーマット化されているケースがあります。退職を検討されている方は、同僚や先輩の経験を、退職を受理する労務担当者の方は過去の退職書類を参考にすることも大切です。

退職願と退職届の正しい書き方

退職願と退職届は、退職プロセスにおいて重要な書類です。これらの書類を正しく作成することで、円滑な退職手続きが可能となり、トラブルの防止になります。退職願と退職届の書き方、注意点、テンプレートについて紹介いたします。

退職願の書き方と注意点

退職願は、退職の意思を会社に伝える最初の文章となります。以下の点に注意して作成しましょう。

退職願の作成における注意点
  1. 用紙:白のA4またはB5サイズの無地の用紙を使用します。
  2. 書き方:手書きが望ましいですが、パソコンで作成する場合は署名を手書きにします。
  3. インク:黒のボールペンで記入しましょう。フリクション等は文字が消せるため、利用は避けるべきです。
  4. 日付:提出日を記入します。
  5. 宛名:会社の正式名称と代表者の氏名を記入します。
  6. 本文:「一身上の都合により」という表現を使い、退職希望日を明記します。
  7. 署名:所属部署、氏名を記入し、押印します。

退職願は退職の意思表示であり、この時点では退職が確定していないことを理解しておくことが重要です。退職願は、会社が合意することで法的効果が生じますが、合意されない場合2週間を経過するまでは一方的に雇用契約を解約することはできません。

退職願のテンプレートと例文

退職願
私事、このたび一身上の都合により、
令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、
ここにお願い申し上げます。
令和〇年〇月〇日〇〇部
氏名 〇〇 〇〇 印株式会社〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇 様
※縦書・横書等に応じて改行してください。

退職届の書き方と注意点退職届

次に、退職届ですが、退職が正式に決定した後に提出する文書です。

退職届の作成における注意点
  1. 用紙:退職願と同様、白のA4またはB5サイズの無地の用紙を使用します。
  2. 書き方:退職願と同様です。
  3. 日付:提出日と退職日を明確に記入します。
  4. 本文:「退職いたします」という断定的な表現を使用します。
  5. 署名:退職願と同様です。

退職届は法的効力を持つ文書であり、この提出をもって退職が確定することを理解しておくことが重要です。

退職届のテンプレートと例文

退職届
私事、このたび一身上の都合により、
令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。
令和〇年〇月〇日〇〇部
氏名 〇〇 〇〇 印株式会社〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇 様
※縦書・横書等に応じて改行してください

退職理由の書き方について

退職理由については、その詳細を記載する必要はありません。また、退職の理由によってはそもそも退職願・退職届が不要なケースもあります

退職理由の補足事項
  1. 自己都合退職の場合
    • 「一身上の都合により」と記載します。具体的な理由を書く必要はありません。
  2. 会社都合退職の場合
    • この場合は通常、退職願や退職届を提出する必要はありません。ただし、トラブルを防止する観点から「会社都合により」として退職届を出すことも可能です。
  3. 契約期間満了の場合
    • 契約期間満了での退職においては、自然退職となります。そのため、契約社員本人が退職届を提出する必要はありません。

退職理由は簡潔に記載し、会社や個人を批判するような内容は避けましょう。また、退職理由によって失業保険の受給資格に影響が出ることもありますので、ご留意ください。

退職願・退職届の提出方法とタイミング

退職願や退職届の提出は、円滑な退職プロセスの鍵となります。適切な提出先、タイミング、書類準備をすることで、会社との良好な関係を維持し、スムーズな退職につながりますので、ご参考ください。

適切な提出先と提出方法

退職願・退職届の提出先は通常、直属の上司です。ただし、会社の規模や組織構造によっては、人事部門への提出が求められる場合もあります。以下のステップに従って適切に提出をしましょう。

STEP

直属の上司に事前相談

まず口頭で退職の意思を伝え、提出方法や提出先を確認します。

STEP

提出の場所と時間を選ぶ

プライバシーが保たれる会議室などを選び、上司の都合の良い時間に合わせます。

STEP

丁寧に手渡す

退職願・退職届を封筒に入れ、両手で恭しく渡します。

STEP

説明を添える

提出時に簡潔に退職理由や希望退職日を説明します。

提出方法は一般的に手渡しが多いですが、IT系の企業やベンチャー企業等の場合、メールや社内イントラネットから提出等が定められているケースもあります。

提出のタイミングと注意点

退職願・退職届の提出タイミングは、会社の規定や業務の状況によって異なります。下記ポイントについてはあらかじめ確認しておきましょう。

退職願・退職届に関する提出タイミングや注意点
  1. 就業規則の確認:多くの会社では退職日の1ヶ月前までの提出を求めています。
  2. 業務の引き継ぎ期間:後任者への引き継ぎに必要な期間を考慮し、余裕を持って提出します。
  3. プロジェクトの節目:進行中のプロジェクトの状況を踏まえ、適切なタイミングを選びます。
  4. 有給休暇の消化:残りの有給休暇を考慮し、実際の最終出社日を計算に入れましょう。

理想的には退職予定日の2~3ヶ月前に退職の意思を伝え、1~2ヶ月前には正式な書類を提出するのが望ましいでしょう。ただし、退職理由に労働環境(例えば、長時間労働や労務管理に法的問題があるなど)であれば、就業規則に規定されているルールに従うだけでも問題ありません。

封筒の選び方と記載事項

退職願・退職届を提出する際、「書類はどのように渡すべきなのか?」と迷われる方もいらっしゃると思います。一般的なビジネスマナーとしては封筒に入れて提出が適切と考えられます。

封筒に関するポイント
  1. 封筒の種類:白色で無地の封筒を選びます。二重封筒が最適です。
  2. サイズ:A4サイズの書類なら長形3号、B5サイズなら長形4号を使用します。
  3. 表面の記載:中央よりやや上に「退職願」または「退職届」と記入します。
  4. 裏面の記載:左下に所属部署と氏名を記入します。
  5. 筆記具:黒のボールペンか万年筆を使用します。
  6. 折り方:書類は三つ折りにし、右上が封筒の裏から見て右上になるように入れます。

封をする場合は、封の中央に「〆」と記入します。ただし、手渡しの場合は封をしなくても特に問題はありません。

社会保険労務士 矢野貴大

近年、退職についてはネガティブなものではなく、個人の意思を尊重してスムーズに進むことが多いです。退職理由が会社起因ではない場合は、最低限のビジネスマナーは守っておきたいところです。

退職願・退職届に関する人事労務上の注意点

退職願や退職届の取り扱いは、企業の人事労務管理において非常に重要な側面です。

従業員の円滑な退職プロセスを確保しつつ、会社もトラブルを避けるために慎重な手続きが求められることがあります。人事労務担当者や経営者が押さえておくべき主要な注意点について詳しく解説します。

従業員の退職意思の確認と対応

従業員から退職の意思表示があった場合、まず重要なのは、その意思を正確に確認することです。退職に関するトラブルの多くは「会社・従業員の間で退職日の認識が異なっている」ことです。

POINT

退職理由の把握

退職理由を丁寧に聞き取り、会社側で改善できる点がないか検討します。ただし、プライバシーに配慮し、過度な詮索は避けましょう。

POINT

冷静な対応

感情的にならず、専門的かつ客観的な立場で対応することが重要です。退職を引き留める場合も、強引な説得は避け、従業員の意思を尊重しましょう。

POINT

退職日の調整

業務の引き継ぎや後任の採用などを考慮し、可能な限り会社側の準備期間を確保できるよう交渉します。

POINT

書面での確認

口頭での意思表示だけでなく、退職願や退職届など、書面での意思確認を行います。これにより、後々のトラブルを防ぐことができます。

退職に関する社内規定の整備

労務管理上「退職」はトラブルになりやすい領域です。そのため、退職に関する明確なルールとして就業規則の整備は必須です。

就業規則・社内ルールで整備しておきたい3つのポイント
  1. 退職手続きの明文化
    • 退職の申し出から最終日までの手順を詳細に規定し、就業規則に明記します。これにより、従業員と会社双方の混乱を防ぐことができます。
  2. 退職届・退職願のフォーマット作成
    • 従業員の退職時、雇用保険の離職票の手続きや国民健康保険の加入時に必要な書類など、場合によっては会社が準備しなければなりません。退職に関する連絡フォーマットが用意できていない場合、退職する従業員と個別に確認する事項が増えますので、フォーマットを事前に用意しておくとスムーズかつ手続きの漏れを防止できます。
  3. 退職時の権利義務の明確化
    • 退職金、有給休暇の取り扱い、競業避止義務などについて明確に規定し、トラブルを未然に防ぎます。

円満退職のための対策と手順

従業員との良好な関係を維持しつつ、円満に退職プロセスを進めるための対策と手順を整えることが重要です。

円満退職につながる施策としては

  • 退職面談の実施
  • 引き継ぎ計画の策定
  • 退職後のネットワーク構築

等が考えられます。

退職面談の実施

人事部門や上司が退職予定者と面談を行い、退職理由や今後のキャリアプランなどを聞き取ります。この機会に会社への要望や改善点も聞くことで、今後の組織改善に活かせます。

引き継ぎ計画の策定

退職予定者と上司、後任者を交えて具体的な引き継ぎ計画を立てます。十分な引き継ぎ期間を設けることで、業務の継続性を確保します。

退職後のネットワーク構築

近年では「アルムナイネットワーク」を整備している企業が増えています。これは、退職者とのつながりを大切にすることで、将来的な再雇用や業務提携の可能性を広げる目的があります。

退職願・退職届に関するよくある質問(FAQ)

退職願と退職届に関しては、多くの疑問や不安を抱えている方もいらっしゃると思います。ここでは、弊社が実際に企業様のサポートをする中で人事労務担当者や経営者の方々からいただいた質問事項などをFAQとして整理しましたので、ご紹介いたします。

退職願・退職届は法的に必要ですか?

結論、法律上では退職願も退職届も必要ではありません。退職の意思表示は口頭でも成立いたします。

ただし

  1. 退職の意思を明確に示す証拠となる
  2. 会社の規定や慣例に従うことで、円満な退職につながる
  3. 退職日や条件を明確にすることで、後々のトラブルを防ぐ

上記の観点から、多くの企業では実務上において退職願もしくは退職届の提出をルールとして運用されています。

退職願・退職届の撤回は可能ですか?

退職願の場合、撤回可能なことがあります。退職願は退職の意思表示がメインとなりますので、会社側がまだ受理・承認していない段階であれば退職意思を撤回しやすいでしょう。

一方で、退職届の場合は難しいと考えられます。退職届を提出した時点で、従業員から一方的に雇用契約を終了する意思表示がされたと解することができるためです。

とはいえ、どちらのケースであっても退職を撤回したいのであれば、速やかに上司・人事労務部門へ相談することが大切です。会社側としては、撤回を受け入れることは任意になりますが、慎重に対応しましょう。

まとめ:退職願と退職届の適切な運用で円滑な労務管理を実現しましょう

退職願と退職届は、従業員の退職プロセスにおいて重要な役割を果たす文書です。これらを適切に運用することで、企業は法的リスクを軽減し、円滑な人材管理を実現に繋がります。

同時に、退職する従業員との良好な関係を維持することで、残る従業員のモチベーション維持であったり、再雇用が実現できる可能性もあるでしょう。

人事労務担当者の方や、経営者の皆さまはぜひ自社の退職に関するルールを見直してみてはいかがでしょうか。

このページの概要