退職届をいきなり出された!対応策やマネジメント方法を社労士が解説

日々頑張って働いてくれている従業員の方であっても「会社を辞めます」といきなり退職届を提出されることも少なくありません。
特に優秀な従業員だった場合、経営者や現場責任者からすると大きな痛手になりますし、人事労務担当者は退職手続きや人員補充のための採用活動など対応に追われます。
一方で、退職の予兆や可能性を早期に発見し、会社として適切な対応をすることで退職の防止や「今月末で退職します」といったいきなり退職届を提出されることは防げる可能性があります。
今回の記事では退職届をいきなり出されないために、マネジメント方法や対応策について解説いたします。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

いきなりの退職届!会社を辞めますと言われたらどうする?
営業や経理、総務、現場の技術職など、会社によっては様々な働き方があり、組織運営をする以上は従業員の方の協力は必要不可欠です。
特に今まで頑張ってくれた従業員から「会社を辞めます」「転職します」といきなり退職届を出されたら、経営者からすると対応に困ることかと思います。
とはいえ従業員からすると退職について事前に相談することは難しく、辞めるときになってようやく報告できるケースが多いことも事実です。経営者、人事労務責任者の方は、従業員からいきなり退職届を出されたとしても、冷静にルールや状況の確認から行いましょう。
退職にまつわるルールを確認する
従業員の退職については、民法により「退職の申出をした日から2週間を経過したときは退職」となります。
一方で、就業規則において「退職を希望する場合、1か月前に申し出る」ような規定がある場合、従業員と退職日については交渉できる余地があります。
就業規則の内容と民法の規定が異なる場合、原則として民法が優先されるのですが「話し合いや合理的な理由があれば、就業規則に定める期日まで延長できる可能性がある」のです。
まずは自社の就業規則を確認し、従業員が希望する退職日の調整が可能かどうか慎重に進めましょう。
「退職届」と「退職願」はどのような違いがあるのですか?
退職の意思を伝える方向性は同じですが、下記のような違いがあります。
退職届 | 退職願 |
---|---|
会社が受領した後は原則撤回できない 会社の承諾問わず14日経過後に退職可能 期間の定めがない場合に限る | 退職の意思を明確に伝えるもの退職の意思をお願いするもの 会社の承諾前であれば撤回できる 会社の承諾がなければ退職できない |
退職の日付を確定させる
従業員から「退職届」もしくは「退職願」が提出された場合、「退職(希望)日」の確認を行いましょう。
退職手続きにおいて、退職日は非常に重要なものです。退職日は
- 最終出社日(最終勤務日)
- 業務引き継ぎまでの残り期間
- 有給休暇の消化期間
- 給与や賞与計算、退職金がある場合は退職金計算
- 雇用保険、社会保険の手続き
労務周りだけでも多くの要素に影響があります。
いきなり退職届の提出があった場合「なぜ辞めるのか?」「なにか従業員同士でトラブルがあったのか?」こういった疑問や不安が生じるかと思いますが、後の混乱や誤解を防ぐためにまずは「退職(希望)日」を確認することが大切です。
「退職(希望)日」がない場合は、従業員と会社双方で良しとするタイミングを調整できる可能性があります。
ただし、「退職(希望)日」が記載されており、従業員の退職理由が確固たるもので退職の引き止めが難しい場合はその意向で対応をしなければなりません。

企業はこのような状況に直面した場合、書類確認および従業員とのコミュニケーションにより、退職の意向と具体的な日付を確認することが重要です。もし従業員が特定の日付を指定しない場合は、企業側から合理的な通知期間を提案し、両者間で合意を形成することが望ましいです。
退職の理由を把握する
一度退職を決めた従業員に対して退職理由を聞くことは心理的に難しいかもしれませんが、退職理由を把握することは今後の対応方法を検討する上で重要です。
退職理由に会社や上司の対応に不満があるなどの場合は、退職自体を引き止められる可能性もあります。
特に、優秀な従業員からの退職を思いとどまらせたい場合は、
- 退職者の話を最後まで聞く
- 退職者の気持ちを理解しようとする
- 退職者の希望を汲み取った提案をする
上記のように慎重な対応が必要です。ただし「会社への不平不満」が自己的な理由から発生するのであれば、気持ちや希望に寄り添いすぎるとリスクもありますので注意をしましょう。
ヒアリングを行い、退職を思いとどまらせることができない場合は、
- 退職までのスケジュールを決める
- 業務の引き継ぎを依頼する
- 人員補充の準備をする
退職後に組織運営が回るようにフォローしなければなりません。退職までのスケジュールを決めて、業務の引き継ぎや人員補充を行い、業務に穴が開かないように進めましょう。
もし「次の日から行かない」と言われたら
退職届の提出後、従業員から「次の日から行きません」「退職日まで出社しません」と言われたらどう対応すべきなのでしょうか?
先程の重複しますが、民法上では「退職の申出をした日から2週間を経過すると退職できる」というルールがあります。裏を返すと「退職の申し入れがあってから2週間までは勤務を命ずることができる」ことになります。
いきなり退職届を出し、次の日から出社しないという申し出は「2週間以内」であれば拒否・出勤を命じられますので、業務の引き継ぎなどを依頼しましょう。
退職の意思があり、退職日も決まっていたとしても無断で欠勤する場合は従業員に状況確認も大切です。もし連絡がとれないのであれば、書面やメールで連絡を取り続けてください。
通常、退職となった場合は業務の引き継ぎが発生します。業務の引き継ぎが適切にされないと会社として損害賠償を求めたい気持ちも出てくるかと思いますが実際に請求するには厳しい場合が多いです。そのため退職届の提出後にこういったトラブルを防ぐためには
- 退職金がある場合、退職金の支給ルールとして「適切な業務引き継ぎ」を明文化しておく
- 退職届の提出日を「退職する日の30日(1か月)前まで行う」として従業員とコミニュケーションを図る
といったルール整備や運用をご提案いたします。
退職届を受け取った後の具体的な流れ
従業員から退職の連絡を受け取ったら、上司や人事労務担当者とコミュニケーションを取ります。従業員の希望する退職日が数ヶ月先であればまだ良いのですが、退職は最短で2週間後、会社のルールとして伸ばせたとしても1か月程度が限度となります。
組織運営を維持するためには速やかに
- 業務の引き継ぎを依頼する
- 人員補充の準備をする
- 退職後のフォローを行う
上記の実施が求められます。退職に伴う業務の引き継ぎや人員補充の対応は一朝一夕では難しいため、退職届を受け取ったら早急にフォローしてください。
いきなり退職届を出されたら、慌てずに冷静に対応することが大切です。退職届を受け取ったらすぐに社内の関係者とコミニュケーションを取り、退職に伴う影響を最小限に抑えるアクションを決めましょう。
業務の引き継ぎを依頼する
退職する従業員の業務を
- 誰に引き継ぐのか
- どのようなスケジュールで行うのか
- 関係者(社内・社外)にどのタイミングで説明するのか
順序立て考える必要があります。
業務を引き継ぐ従業員は、退職する従業員の業務内容やスキルを把握している人を選ぶとスムーズです。また、引き継ぎのスケジュールは、退職までの期間を考慮して、無理のないスケジュールを組むようにしましょう。



業務の引き継ぎは、退職する従業員と引き継ぐ従業員が密にコミュニケーションを取りながら行うことが大切です。また、業務を引き継ぐ従業員が、退職する従業員の業務内容を十分に理解できるように、丁寧に指導するようにしましょう。
人員補充の準備をする
社内の従業員だけで業務の引き継ぎが可能であれば新規採用は不要ですが、リソースが足りないのであれば退職する従業員の穴埋めのために、新たな人材を採用しなければなりません。
採用にかかる時間や費用を想定し、早めに採用活動を開始するようにしましょう。また、採用の条件を明確にすることで、ミスマッチを防ぐことができます。
採用活動では、退職する従業員の業務内容やスキルを踏まえて、適切な人材を採用するようにしましょう。
採用活動において、どのような準備が必要なのかチェックリストを作成し配布しています。下記資料は無料でダウンロードいただけますのでぜひ活用ください。
退職者のフォローを実施する
近年、人手不足に悩む企業では「アルムナイ制度」に注目するケースがあります。
日本では
- 三井住友海上
- 双日
- ロート製薬
- ニトリ
といった大企業は率先して導入するなど、事例としても出てきています。
人事労務において「アルムナイ」とは一度自社を退職した従業員を意味しており、「アルムナイ制度」とは退職者の再雇用やジョブリターン採用を指すことが多いです。
特に優秀な従業員の場合は「一度会社を離れて経験を積み、また戻ってきてほしい」と感じる方もおられると思います。そのため企業としては退職する従業員であっても、退職後のキャリアや生活を応援し良好な関係を取り続けることも重要な施策になるのです。
いきなり退職届を出されても有給は取らせるべき?
退職届の対応だけでも大変ですが「退職日まで有給休暇を取得します」と言われた場合はどのような対応ができるのでしょうか?
法的な観点とトラブル防止に向けたポイントをお伝えいたします。
退職と有給休暇の関係
従業員が退職を希望する際の有給休暇の取得はトラブルになりやすいテーマのため慎重に進めることが重要です。
労働基準法上では「年次有給休暇の取得」は従業員の権利です。会社として取れる唯一の選択肢として「年次有給休暇の時季変更権」がありますが、退職日が決まっている場合で「時季の変更ができない」のであれば利用できません。
時季変更権が使えるケース | 時季変更権が使えないケース |
---|---|
退職日までの残り期間:40日 有給休暇の保有日数:10日 | 退職日までの残り期間:10日 有給休暇の保有日数:10日 |
上記のように、「退職日まで有給休暇を全て使ったとしても勤務日が残っている」場合であって、事業の正常な運営を妨げると認められるのであれば時季変更権は利用できますが、退職日まで有給休暇をすべて使える場合は時季変更権の余地がないのです。
時季変更権については下記コラム記事で詳細を解説しています。併せてご一読いただけますと幸いです。


退職日まで有給休暇を使いたいと言われたら
先程の解説の通り、
- 退職日まで30日
- 退職予定者の保持している有給休暇は残り30日
の場合は「時季変更権」が使えませんので、有給休暇の申請がされると会社は拒否できません。ただし「お願い」ベースでは交渉することは可能です。企業としては社外・社内への業務引き継ぎに一定協力してもらいたいことを伝えて、有給休暇の取得日数について交渉しましょう。
また、業務の引継ぎに必要な日数がある程度算出できる場合、従業員の未消化の有給休暇日数から逆算して退職日を再度交渉(退職日を後ろに変更)することも検討してください。会社、従業員の両者が納得できるとトラブルも防止できます。



特に業務引き継ぎが不十分だった場合、残る従業員の方のモチベーションに悪影響を及ぼすことも考えられます。お互いに円満になるような進め方が望ましいですね!
退職届をいきなり出されないために、経営者・人事担当者ができること
従業員が退職届を出す理由は、人によって様々です。キャリアアップのための転職や、自身の健康や家族環境、もしくは会社に不満を持っているため退職を希望することもあります。
しかし、どのような理由であっても実は「退職の兆候」が見られることもあります。退職直前に現れるのではなく、退職の前から徐々に表れてきますので、経営者や人事担当者は、これらの兆候を見逃さないようにすることで、いきなりの退職届を未然に防ぐことにつながります。
退職の兆候を見逃さないために
退職の兆候としては、以下のようなものが挙げられます。
- 仕事への意欲やモチベーションの低下
- 職場の人間関係の悪化
- 遅刻や欠勤の増加
- 仕事のミスやトラブルの増加
- 退職の相談や噂
これらの兆候が表れている従業員には、注意深く観察し、早期にコミュニケーションを図るなどフォローしましょう。
従業員のモチベーションを高める
従業員のモチベーションが低下すると、退職のリスクが高まります。経営者や人事担当者は、従業員のモチベーションを高めるために、
- 仕事のやりがいや成長の機会を提供する
- 適切な評価やフィードバックを行う
- 従業員の意見や要望を積極的に聞く
上記のようなアクションを取りましょう。
コミュニケーションを密にする
コミュニケーションの不足も、突然退職の原因のひとつです。経営者や人事担当者は、従業員とのコミュニケーションを密にすることで、従業員の悩みや不安を早期に発見し、対処できるようにしましょう。
定期的な1on1や従業員へのアンケート(キャリア・働き甲斐・要望など)を通じて、従業員の声を積極的に聞くことが大切です。
キャリアアップの機会を提供する
キャリアアップの機会が不足していると、従業員はやりがいを感じにくくなり、退職のリスクが高まります。社内外でのキャリアアップ支援制度を充実させることで、従業員のキャリアアップを支援することが大切です。
具体的には、社内研修や資格取得支援、社内異動(社内ジョブチェンジ)などが考えられます。



これらの取り組みを継続することで、退職の兆候を早期に発見し、退職を未然に防ぐことができます。また、従業員のモチベーションを高め、退職を思いとどまらせることにつながる可能性もあります。
まとめ
今回の記事では、退職届をいきなり出されたときの対応策や、マネジメント方法について解説いたしました。従業員の突然の退職は、どの組織にとっても避けられない課題です。しかし、適切な対応策と理解を深めることで組織風土の維持はできると考えられます。
中小企業の経営者からは
- 退職するといっていきなり出社をしなくなった
- 退職者が業務の引き継ぎをしてくれない
こういったお悩みをよくお聞きいたします。弊社では退職に関する制度設計や、コミニュケーション方法、退職防止のコンサルティングなども行っておりますので、お気軽にご相談ください。