試用期間中に休職を求める社員への正しい対応方法とは
試用期間中であり、まだ本採用に至っていない従業員から「怪我をしたので休職したい」と相談を受けた場合、多くの経営者は頭を悩ませるのではないでしょうか?
試用期間と休職を巡って、どのような対応が企業として望ましいのか権利保護と企業の人材評価の両立という難しい課題と言えます。
今回のコラム記事では試用期間と休職について、法的観点と実務的な側面から試用期間中の休職への適切な対応方法を解説します。
特に休職の制度は就業規則が重要になります。休職制度の適用範囲、そして本採用判断への影響など、人事担当者が知っておくべき重要なポイントも併せて説明いたしますので、会社ごとに適切な対応検討いただき、健全な労使関係の構築につなげていただければ幸いです。
多くの会社で試用期間や休職の制度を設けていると思います。適切な労務管理を行いトラブルを防止していきましょう!
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
事前確認:試用期間と休職の定義とは?
試用期間中の休職に対する確認の前に、試用期間と休職について、それぞれの定義を確認していきましょう。
試用期間とは?
試用期間は、新しく採用した従業員の能力や適正を評価するために設けることが一般的です。
主に試用期間では、
- 従業員の業務への適正度、発揮できる能力
- 他のメンバーとのチームワーク、コミュニケーション能力
- 組織文化への適応度
このようなものを確認する時間であり、従業員としても「会社に合っているのか」すり合わせる期間とも言えます。
試用期間は一般的に3カ月から6カ月程度に設定されることがあり、その他の特徴は次のような内容になる点は気を付けておきましょう。
- 本採用前の評価期間
- 解約権留保付き労働契約の性質
- 従業員の権利と義務が本採用とほぼ同等
- 試用期間の長さは合理的に設定する必要がある
試用期間は多くの企業が利用している制度です。予め、自社での運用が適切にできているのか確認してください。
多くの方が誤解しているのは、試用期間が「お試し期間」ではないということです。実際には、この期間中も雇用契約は有効であり、企業には従業員に対する責任が当然にあります。
休職とは?種類や理由
続いて、休職とはどのような制度なのでしょうか。
休職とは、会社の制度に従って従業員が一定期間労務の提供を休止する状態を指します。この休職には様々な種類がありますが、主に以下のようなものがあります。
- 私傷病休職:従業員の私的な病気やケガによる休職
- 業務上の傷病休職:仕事が原因で発生した病気やケガによる休職
- 育児・介護休職:子育てや家族の介護のための休職
- 自己啓発休職:スキルアップや資格取得のための休職
上記の休職制度は、一例です。
というのも、労働基準法などの法律には休職制度について定められておりませんので、会社が休職事由(どのような場合に休職させるのか)や休職期間を自由に設定することができるのです。
試用期間中の休職で問題になりやすいケース
試用期間中の休職で最も問題となりやすいのは、私傷病休職ではないでしょうか。
試用期間は従業員の適正を確認する期間でありながら、従業員側の私傷病を理由にその期間勤務できないとなると、本来の目的である従業員の評価が難しくなるからです。
企業は試用期間中の休職は慎重に対応しなければなりません。休職を理由に解雇することは権利の濫用として不当解雇につながる可能性もあります。一方で、従業員も試用期間中の休職が本採用に与える影響を理解し、適切なコミュニケーションを心がけることが重要です。
試用期間中の休職は、労働法と企業の方針が交錯する複雑な領域です。両者のバランスを取りながら、公平かつ合理的な対応を行うことが、健全な労使関係の構築につながります。
試用期間中に休職する場合の法的な扱い
では、試用期間中の休職対応について、法律上で気をつけるべき点はあるのでしょうか?
試用期間中の休職は、企業と従業員の双方にとって難しい状況を生み出す可能性があります。この複雑な問題を適切に扱うためには、法的な観点と実務的な側面の両方を理解することが重要ですので、確認してみましょう。
労働基準法における試用期間中の休職の取り扱い
前提として、試用期間も休職も、労働基準法上では直接的な規定は設けられていません。しかしながら、試用期間中の休職を従業員の権利にしていないわけでもありません。
試用期間中であっても、会社は従業員と雇用契約が成立していますので、従業員には一定の権利が保障されるべきと言えます。
例えば「試用期間なのだから、会社に適さないと思ったら雇用契約を解消することができる」と考えている経営者の方も少なくないと思います。しかしながら、試用期間であっても基本的には本採用後と同様で「社会通念上相当であると認められなければ、その解雇は権利濫用」とされます。
休職に関しては、法律上では定義されておりませんが、会社によって制度を設けている場合は注意が必要です。
試用期間中だからといって、休職の申し出を自動的に拒否することが問題ないのか、次に解説する「就業規則での規定」によって判断することになります。
就業規則での規定の重要性
試用期間中の休職に関する法的な取り扱いが明確でない以上、企業にとって就業規則での明確な規定が極めて重要となります。
仮に休職の規定上で「試用期間中の従業員に対しても適用させる」と読み取れる場合は、試用期間中であっても休職の事由に該当する場合は休職対応しなければなりません。
そのため、休職の制度について以下のような点が就業規則に明記できているのか、確認してください。
- 試用期間中の従業員に対する休職制度の適用の有無
- 適用がある場合の休職期間の長さ
- 休職中の給与や福利厚生の取り扱い
- 休職後の復職プロセス
上記のような規定を設けておくことで、企業は法的リスクを軽減し、従業員との間で生じうる誤解やトラブルを未然に防ぐことに繋がります。
試用期間中の休職は、法律上定められていないため会社によって対応方法が異なる領域が多い問題です。
しかし、適切な就業規則の整備と個別ケースへの慎重な対応により、企業と従業員の双方にとって公平で合理的な解決策を見出すことが可能です。重要なのは、法的な側面だけでなく、従業員への配慮と長期的な人材育成の視点を持つことではないでしょうか。
就業規則に「試用期間中の休職は原則として認めないが、個別の状況に応じて会社が判断を行う」といった柔軟な文言を入れることで、企業の裁量権を確保しつつ、従業員の権利にも配慮した対応が可能となります
試用期間中の休職を認める場合の制度設計
試用期間中の従業員も休職を認める場合、次の2つの点を考慮して制度設計を行いましょう。
延長の際は、試用期間との関係を慎重に検討する必要があります。場合によっては、試用期間の延長も併せて検討することになるでしょう。
試用期間中の休職が与える影響
試用期間中の休職について、法律上の定めはないが会社の制度に沿った対応が必要であると解説をいたしました。
それでは、試用期間中の休職を認めている場合であって、実際にその場面になったときは従業員と企業の双方に様々な影響を及ぼします。労務管理上どのような影響があるのか確認してみましょう。
本採用への影響
試用期間中の休職は、本採用の判断に大きな影響を与える可能性があります。
企業は通常、試用期間中に従業員の能力や適性を評価しますが、休職によってこの評価プロセスが中断されてしまいます。
- 評価期間の不足:休職により、企業が従業員の能力を十分に評価できない場合があります。
- 適応性の疑問:長期休職は、従業員の職場環境への適応能力に疑問を投げかける可能性があります。
- 信頼関係の構築困難:休職により、同僚や上司との信頼関係構築が難しくなることが考えられます。
そのため、試用期間中に休職期間が発生した場合、適正判断のために試用期間自体を延長されることもあります。
給与や福利厚生への影響
試用期間中の休職は、給与や福利厚生にも影響を及ぼす可能性があります。
例えば、
- 給与
- 基本的に休職中は無給となるケースが多いでしょう。
- 社会保険
- 育児休業などの休職でない限り、健康保険や厚生年金などの社会保険は通常継続されます。そのため、従業員は給与が0円であっても保険料を支払わなければなりません。
- 福利厚生
- 企業独自の福利厚生制度(社員食堂の利用、社員旅行への参加など)は、休職中は利用できない場合があります。
このように、休職中は特に給与の面で注意すべき必要がありますので、事前に人事・労務担当者に確認することが重要です。
試用期間の延長可能性
前段の「本採用への影響」でも記載しましたが、試用期間中の休職により試用期間自体の延長につながる可能性があります。これは、企業が従業員の能力を適切に評価するための時間を確保するためです。
- 延長の合意:試用期間の延長には、従業員の同意を取るようにしましょう。
- 延長期間:通常、休職期間と同等か、それ以上の期間が延長されることが多いです。
- 評価基準の明確化:延長される場合、改めて企業は評価基準を明確に示しておきましょう。
試用期間の延長は、従業員にとってはチャンスであると同時に、プレッシャーにもなり得ます。企業側も、公平かつ適切な評価を行う責任があります。
試用期間中の休職は、従業員と企業の双方にとって難しい状況をもたらします。
しかし、適切なコミュニケーションと相互理解があれば、この状況を乗り越え、良好な雇用関係を築くことも可能です。両者が柔軟性を持ち、建設的な対話を続けることが、最善の結果につながる鍵となるでしょう。
試用期間中に休職する際の手続き
試用期間中の休職を認める場合、適切な手続きを定めておくことでトラブルを未然に防げる労務管理に繋がります。また、休職から復職までスムーズにできますので、確認していきましょう。
会社への申請方法
休職を申請する際は、以下のステップを規定化しておくことが重要です。
- 上司との事前相談:まず、直属の上司に状況を説明し、休職の必要性を伝えます。
- 担当部門への連絡:上司との相談後、人事労務部門に正式な休職申請の意向を伝えます。
- 申請書の提出:会社指定の休職申請書に必要事項を記入し、提出します。
申請の際は、具体的な症状や休職が必要な理由を明確に説明することが大切です。特に、試用期間中の場合は通常の社員と比べて「休職を取得できる事由」について制限しておくことも検討しましょう。
また、可能な限り早めに申請することで、会社側の対応準備時間を確保できます。
必要な書類と証明書
休職を申請する場合、一般的には次のような書類を会社に提出することになります。
- 休職申請
- 会社指定の様式に従って記入します。
- 診断書
- 医師による休職の必要性を証明する書類です。
- 治療計画書
- 回復の見込みや予定を示す書類で、医師が作成します。
- 同意書
- 休職中の連絡方法や条件に同意する書類です。
特に診断書は重要で、休職の正当性を裏付ける根拠となります。診断書には休職の必要性、推奨される休職期間、予想される回復の見込みなどを明記してもらいましょう。
試用期間中の休職から復帰する際の注意点
試用期間中の休職からの復帰は、通常の休職復帰以上に慎重な対応が求められます。従業員の健康と会社の利益のバランスを取ることが重要です。
復帰時の手続き
試用期間中に休職を取っている従業員が、無事復職できるとなった場合、次のような手続きを踏むことが推奨されます。
- 復職可能診断書の取得
- 主治医から復職可能であることを証明する診断書を取得します。
- 復職面談の実施
- 人事部門や上司と面談を行い、復職の準備状況を確認します。
- 復職プランの作成
- 段階的な業務復帰のためのプランを作成します。
- 試用期間の取り扱いの確認
- 休職期間中の扱いや試用期間の延長有無を確認します。
復職面談では、従業員の健康状態や業務遂行能力を慎重に評価します。同時に、会社側の支援体制や配慮事項についても話し合いましょう。
復帰後の評価への影響
続いて、試用期間中の休職をどのように評価するのか検討しましょう。
- 業務習熟度:休職により業務習得が遅れる可能性があります。
- チーム適応性:同僚との関係構築に影響が出る可能性があります。
- 勤務態度:休職前後の勤務態度の変化が評価対象となります。
休職に入る前に業務を行っている場合、上記のような項目でどのような評価ができるのか確認します。もし試用期間開始後にすぐ休職に入った場合、休職期間を考慮した評価基準の調整が必要です。同時に、従業員の努力や回復状況を適切に評価に反映させることも重要です。
再度の休職リスクへの対処
再度の休職リスクに備え、従業員と会社が協力してリスク管理を行うことが重要です。オープンなコミュニケーションを維持し、早期の問題発見と対処を心がけましょう。
再度の休職リスクを軽減するために、以下の対策を講じることが効果的です。
- 段階的な業務復帰:業務量や責任を徐々に増やしていきます。
- 定期的な健康チェック:産業医との面談や健康状態の確認を定期的に行います。
- ストレス管理サポート:ストレス軽減のためのカウンセリングや研修を提供します。
- 柔軟な勤務体制:必要に応じて時短勤務やテレワークを導入します。
試用期間中の休職と復帰は、従業員の将来的なキャリアに大きな影響を与える可能性があります。慎重かつ適切な対応を通じて、従業員の健康回復と会社の生産性維持の両立を図ることが求められます。
企業側の対応と配慮
試用期間中の休職は、企業にとって難しい判断を迫られる状況と言えます。適切な対応と配慮を行うことで、従業員との信頼関係を築き、長期的な人材育成につながる可能性がありますので参考にしてください。
適切な情報提供と相談体制の確保
企業は、試用期間中の休職に関する明確な情報を従業員に提供する必要があります。これには以下のような取り組みが含まれます。
- 入社時オリエンテーションでの説明
- 社内イントラネットでの情報公開
- 定期的な情報発信
また、従業員が気軽に相談できる体制を整えることが重要です。例えば
- 人事部門内に専門の相談窓口を設置
- 外部の専門家と連携した相談サービスの提供
- 匿名で相談できるオンラインシステムの導入
これらの取り組みにより、従業員は不安を感じることなく、必要な情報や支援を得ることができます。
柔軟な対応の重要性
試用期間中の休職は、個々の状況に応じて柔軟に対応することも大切なケースがあります。
画一的なルールを適用するのではなく、以下のような柔軟な対応を検討しましょう。
- 休職期間の調整:状況に応じて休職期間を延長または短縮
- 段階的な復帰プログラム:短時間勤務やリモートワークを活用した段階的な復帰
- 業務内容の見直し:休職理由に配慮した業務内容の調整
このような柔軟な対応は、従業員の円滑な職場復帰を支援し、企業にとっても有能な人材の確保につながります。
法令遵守と公平な扱い
試用期間中の休職者に対しても、法令を遵守し公平な扱いをすることが不可欠です。
例えば
- 労働契約法などの関連法規の遵守
- 社内規定の整備と透明性の確保
- 休職者と非休職者の間での不当な差別の排除
公平な扱いは、企業の評判を高め、優秀な人材の獲得・定着にもつながります。
従業員の責任
会社側の対応と配慮事項について解説いたしましたが、従業員も一定の責任があります。しっかりと理解していただき、適切な行動が円滑な職場復帰につながります。
休職中の従業員の責任
休職中の従業員にも以下のような責任があることはしっかりと理解してもらいましょう。
- 定期的な健康状態の報告
- 復職に向けた努力(医療機関での治療や自己管理など)
- 会社との連絡を維持すること
- 会社の機密情報を守ること
たとえ試用期間中の休職であっても、これらの責任を果たすことで、スムーズな職場復帰が可能になります。
試用期間中の休職に関するその他の重要ポイント
試用期間中の休職は、従業員と企業の双方にとって複雑な課題をもたらします。この状況を適切に管理し、双方にとって最善の結果を導くためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
従業員と企業双方の理解の重要性
試用期間中の休職を円滑に進めるためには、従業員と企業の双方が状況を正確に理解することが不可欠です。
従業員側の理解ポイント | 企業側の理解ポイント |
---|---|
試用期間の目的と意義 休職が評価に与える可能性のある影響 復職後の期待される役割と責任 | 従業員の健康状態と回復の見込み 休職が業務に与える影響と対応策 法的義務と倫理的配慮のバランス |
双方が互いの立場を理解し、共感することで、より建設的な解決策を見出すことができます。
例えば、従業員が休職の必要性を明確に説明し、企業が柔軟な対応策を提案するなど、互いの理解に基づいた対話が重要です。
適切なコミュニケーション方法
試用期間中の休職において、適切なコミュニケーションは問題解決の鍵となります。効果的なコミュニケーションとしては
- 頻度:定期的な状況報告と情報共有
- 透明性:隠し立てのない誠実な対話
- 双方向性:一方的な通知ではなく、相互の意見交換
- 記録:重要な会話や決定事項の文書化
上記のような内容をしっかりと押さえておきましょう。具体的には定期的な面談(対面が難しければオンライン)や書面による状況報告、専用のコミュニケーションツールによるやり取りが考えられます。
適切なコミュニケーションにより、誤解や不信感を防ぎ、スムーズな休職と復職のプロセスにつながります。
将来的なキャリアへの影響を考慮する
試用期間中の休職は、従業員の将来的なキャリアに大きな影響を与える可能性があります。この影響を最小限に抑え、むしろポジティブな経験として活かすことが重要です。
- スキルの維持と向上:休職中でもできる自己啓発の方法。ただし、休職中は労務の提供がない状況になるため、仕事として強制することはできないので注意が必要。
- ネットワークの維持:同僚や上司との適度な交流
- 復職後のキャリアプラン:休職経験を踏まえた新たな目標設定
企業側も、従業員の長期的なキャリア発展を支援する視点を持つことが大切です。例えば、復職後のキャリアパスを柔軟に再設計したり、休職経験を活かした新たな役割を提案したりすることで、従業員のモチベーション向上につながります。
まとめ:試用期間中の休職対応に困ったら
試用期間中の休職は、確かに困難な状況ですが、適切に対応することで、従業員と企業の双方にとって成長の機会となり得ます。
互いの理解、効果的なコミュニケーション、そして将来を見据えた対応が、この難しい状況を乗り越えるための鍵となるでしょう。
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