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忌引き休暇とは?人事労務担当者が知っておきたい制度設計と運用のポイント

本記事ではこのようなお悩みを解決いたします
  • 「忌引き休暇」はよく聞くが、どのような制度なのか一般的な内容を確認したい
  • 忌引き休暇を導入している企業の事例を知りたい
  • 忌引き休暇の制度化を考えているので、導入時の注意点などを教えてほしい

中小企業・大企業問わず導入されることの多い忌引き休暇。

忌引き休暇は、従業員が家族や親族を亡くした際に必要な時間を確保するための重要な制度です。

今回のコラム記事では、

  • 忌引き休暇の定義や法的位置づけ
  • 制度設計時に考えるべき実務・運用方法

について解説いたします。

忌引き休暇の制度を適切に整備できると、従業員の福祉向上につながりますので、忌引き休暇の制度整備をされる際にぜひご参考ください。

執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

このページの概要

忌引き休暇とは?定義・法的位置づけについて

忌引き休暇は、多くの日本企業で広く導入されている重要な休暇制度です。

一方で、忌引き休暇に関する法的な位置づけについては、意外と知られていないことも多かったりいたします。ここでは、忌引き休暇の基本的な概念から法的な側面まで、人事労務担当者や経営者が押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

忌引き休暇の定義と目的

忌引き休暇とは、従業員の家族・親族・近親者が亡くなった際に、葬儀への参列や喪に服するために与えられる特別な休暇のことです。

忌引き休暇の主な目的としては

  1. 故人への弔意を表す時間の確保
  2. 葬儀の準備や参列のための時間的余裕の提供
  3. 従業員の精神的ケアと心の整理のための期間の保証

これらを考慮していることが一般的です。

忌引き休暇は単なる休暇ではなく、人としての尊厳を重んじ、従業員の心情に配慮した制度といえます。この制度により、従業員は仕事の心配をすることなく、大切な人との最後の時間を過ごすことができるのです

労働基準法における忌引き休暇の位置づけ

では、忌引き休暇は法律上ではどのような取り扱いになっているのでしょうか?

一般的に広く認知されている休暇制度ではありますが、実は労働基準法には明確な規定がありません。つまり、忌引き休暇の制度は法律上の義務ではなく、各企業の裁量に委ねられている福利厚生制度の一つなのです。

この点は非常に重要で、以下のような特徴があります。

忌引き休暇で注意すべき特徴
  • 企業ごとに制度の有無や内容が異なる可能性がある
  • 忌引き休暇を導入する場合、就業規則や労働協約で具体的な運用方法を定める必要がある
  • 制度がない場合でも、年次有給休暇の取得などで対応可能

とはいえ平成7年に実施された調査によると、96.1%の企業が何らかの形で忌引き休暇制度を設けているとされており、古くから事実上の慣行として定着していることがわかります。

資料出所:労働省「平成7年賃金労働時間制度等総合調査」

忌引き休暇と他の休暇制度との違い

広く日本の企業でも導入されている忌引き休暇ですが、その他の休暇とはどのような違いがあるのでしょうか?年次有給休暇と比較して確認してみましょう。

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比較項目忌引き休暇年次有給休暇
取得理由近親者の死亡時のみ理由を問わず取得可能
法的根拠法的義務なし(企業の任意制度)労働基準法で規定
給与の取り扱い企業の規定により有給または無給必ず有給
付与される日数故人との関係に応じて設定
(通常1〜10日程度)
勤続年数に応じて付与
(最大20日)
申請手続き通常、事後申請も認められる原則として事前申請が必要

このように比べますと、忌引き休暇と年次有給休暇は

  • 給与の取り扱い
  • 付与される日数

の観点が大きく異なります。実務上、忌引き休暇を取り扱う際にはこれらの違いを把握しておくことで、忌引き休暇の特殊性と重要性が明確になり、運用のしやすさも変わってくると思います。

忌引き休暇の制度設計:適切な規定作成のポイント

忌引き休暇は、従業員の福利厚生として重要な役割を果たす一方で、適切な制度設計が求められます。

忌引き休暇に関するルール・規定を作成する際に押さえるべきポイントご紹介しますので、すでに導入している場合は内容の比較を、これから作成される場合にはどこまで自社のルールとして捉えるのか確認しながらご一読いただければと思います。

社会保険労務士 矢野貴大

従業員の心情に配慮しつつ、公平性と業務への影響のバランスを取った制度設計のヒントになれば幸いです!

対象となる親族の範囲設定

忌引き休暇の対象となる親族の範囲は、多くの企業では「2親等」までとされています。ただし、企業によって柔軟な対応も可能です。以下のポイントを考慮して範囲を設定しましょう。

対象となる親族の範囲設定
  • 基本的な対象範囲
    • 配偶者、子、父母、兄弟姉妹、祖父母、孫
  • 配偶者の親族の範囲
    • 配偶者の父母、兄弟姉妹なども含めるか検討
  • その他検討事項
    • 事実婚、同棲パートナー、養子など

    範囲設定の際は、従業員の多様な家族形態や価値観にも配慮し、柔軟性を持たせることが重要です。

    休暇日数の決定方法と一般的な目安

    では、実際に弔事が発生した場合に忌引き休暇として何日程度付与することが一般的なのでしょうか。

    • 続柄別の標準的な休暇日数
    • 特殊なケース(遠方の葬儀、海外在住の親族など)への対応

    上記2つの観点から事例をご紹介いたします。

    続柄別の標準的な忌引き休暇の日数

    忌引き休暇の日数は、故人との続柄によって異なるのが一般的です。標準的な日数としては次のように定められることが多いです。

    忌引き休暇の日数
    • 配偶者:7〜10日
    • 父母・子:5〜7日
    • 祖父母・兄弟姉妹・配偶者の父母:2〜3日
    • その他の親族:1日

    これらの日数は、葬儀の準備や参列、諸手続きに必要な時間を考慮して設定されています。企業の実情に合わせて調整することも可能です。

    特殊なケース(遠方の葬儀、海外在住の親族など)への対応

    標準的な日数では対応が難しい特殊なケースについても考慮することが望ましいでしょう。

    • 遠方での葬儀:移動時間を考慮した追加日数の設定
    • 海外在住の親族:渡航に必要な日数の加算
    • 喪主を務める場合:準備や手続きに必要な追加日数の付与

    ただし、上記はケースバイケースですので、就業規則等への明文化が難しいのも実情です。

    個別の状況に応じて柔軟に対応できるよう、上限日数を設定した上で、申請ベースでの判断を可能にする規定を設けるのも一案です。

    また、企業によっては「会社が特別に必要と判断した場合、会社が認めた日数を追加で付与する場合がある」として忌引き休暇の一般的な日数だけでなく、状況次第では別途付与するケースもあります。

    忌引き休暇は有給?無給?給料は減るのが一般的?

    忌引き休暇中の給与支払いについては、企業によって対応が分かれます。そのため

    忌引き休暇を取得した場合の給与の取り扱い
    • 通常勤務と同様に給与を支払う(有給扱い)
    • 無給。ただし、希望に応じて事後であっても年次有給休暇の使用を認める

      実務的には、従業員の福利厚生の観点からは有給扱いとすることが望ましく、弊社が関与させていただいている企業様の多くは有給として対応されています。

      土日祝日が含まれる場合の忌引き休暇の付与は?

      土日祝日(もしくは会社で定められている休日)が忌引き休暇期間に含まれる場合の取り扱いは、企業によって異なります。

      そのため取り扱い方法としては

      • 暦日(カレンダー)通りにカウントする
        • 例:金曜日から3日間の場合、金・土・日で終了
      • 実労働日のみをカウントする
        • 例:金曜日から3日間の場合、金・月・火で終了

      上記どちらかの運用になります。

      忌引き休暇が土日などの休日に重なったとき、どちらの方法を採用するかは企業の方針によりますが、就業規則に明確に記載し、従業員に周知することが重要です。また、葬儀の日程が休日に当たる場合の振替休日の取り扱いについても規定しておくと良いでしょう。

      忌引き休暇の運用:スムーズな対応に向けて

      忌引き休暇は、従業員が大切な人を失った際に必要な時間を確保するための重要な制度です。

      センシティブな休暇ですので、運用には一定の注意が必要となります。忌引き休暇をスムーズに運用するための手順について確認していきましょう。

      休暇申請の手続きと必要書類

      忌引き休暇の申請手続きは、従業員の負担を考慮しつつ、必要な情報を確実に把握できるよう設計することが重要です。

      申請方法

      一般的には、電話・メール・チャットにて訃報の旨の連絡が入ります。その際、忌引き休暇として何日付与されるのか従業員に伝えましょう。

      特別休暇の利用に際して「事前に特別休暇申請書を提出すること」としてルールを定めている会社は多いですが、忌引き休暇においては事後提出を認めることを推奨いたします。

      連絡・申請時に必要な情報

      忌引き休暇を付与するためには

      • 故人との関係
      • 死亡日
      • 休暇取得予定期間
      • 葬儀の日程(分かる範囲で)
      • 緊急連絡先

      上記の情報を共有するように伝えておきましょう。

      忌引き休暇の申請に添付書類を設けることも

      忌引き休暇の利用にあたっては「特別休暇申請書」に必要事項を記載するのみとしている会社が多いように思いますが、添付書類として

      • 会葬礼状のコピー
      • 死亡診断書や埋葬許可証のコピー(必要な場合のみ)

      を求める場合もあります。

      忌引き休暇を利用する従業員は、心理的負担が大きくなっていることが考えられますので、申請手続きは簡素化することも検討しましょう。

      社員への周知方法と理解促進

      忌引き休暇制度を効果的に運用するには、全社員への周知と理解促進が不可欠です。

      周知の方法としては

      • 社内イントラネット、クラウドストレージにていつでも閲覧ができるようにする
      • 社内チャットで、定期的に福利厚生制度の紹介をする
      • 新入社員にはオリエンテーションで説明をする

      上記のように、全従業員が制度を知れる機会を作りましょう。

      慶弔金・香典の相場

      慶弔金や香典は、会社としての弔意を表す重要な要素です。適切な金額と渡し方を定めておきましょう。

      1. 慶弔金の相場:
        • 従業員本人の親族:10,000円〜50,000円
        • 従業員の配偶者の親族:5,000円〜30,000円
      2. 香典の相場:
        • 役職や関係性に応じて5,000円〜30,000円

      慶弔金や香典の金額は、会社の規模や業界の慣習によっても異なります。自社に適した基準を設け、公平性を保つことが大切です。

      慶弔見舞金規程として制度を整える場合、下記のコラム記事にて解説していますので、併せてご一読ください。

      忌引き休暇に関するよくある質問と回答(FAQ)

      忌引き休暇は、従業員の福利厚生として重要な制度ですが、その運用には様々な課題が存在します。

      よくある質問と専門家目線での回答を記載していますので、社内での運用にお役立ていただければ幸いです。

      事実婚や同性パートナーの場合も忌引き休暇の対象になりますか?

      近年の多様な家族形態を考慮し、事実婚や同性パートナーも配偶者と同等に扱うことが望ましいです。就業規則に明記し、公平な運用を心がけましょう。

      海外在住の親族が亡くなった場合、追加の休暇は認められますか?

      渡航に要する時間を考慮し、通常の忌引き休暇に加えて数日の追加休暇を設けることをお勧めします。個別の状況に応じて柔軟に対応することが重要です。

      パート・アルバイト従業員にも忌引き休暇は適用されますか?

      雇用形態に関わらず、全従業員に適用することが望ましいです。ただし、勤務日数や勤続期間に応じて日数を調整するなど、公平性を保つ工夫が必要です。

      忌引き休暇中の給与は全額支給すべきですか?

      忌引き休暇はすべて有給とすることが従業員支援の観点から理想的ですが、企業の経営状況に応じて判断してください。仮に5日付与する場合、3日を有給として扱い、残りの2日を無給(ただし、事後でも年次有給休暇として振り返ることが可能)のようなルール設計も可能です。

      忌引き休暇の証明書類は必ず提出を求めるべきですか?

      原則として提出を求めることで不正利用を防げますが、従業員の心情に配慮し、柔軟な対応も必要です。会葬礼状のコピーなど、負担の少ない書類で代替することも一案です。

      まとめ:安心して使える忌引き休暇制度の構築と運用に向けて

      忌引き休暇制度は、従業員の福利厚生と企業文化の重要な要素であり、適切に設計・運用することで、従業員の満足度向上と企業価値の向上につながります。

      今回のコラム記事では

      • 忌引き休暇の定義や法的位置づけ
      • 制度設計時に考えるべき実務・運用方法

      上記をお伝えさせていただきました。

      もし本記事を参考に忌引き休暇制度の見直し・新規整備を考えておられる会社様がおられましたら、お気軽にご相談いただければ幸いです。

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