なぜ「分かりづらい」が正しい?「分かりずらい」が多く使われる理由と使い分け

文章を書くときに多くの人が迷うのが、「分かりづらい」と「分かりずらい」のどちらが正しい表記なのかという点があります。
辞書や文法上の観点からすれば「分かりづらい」が正しいとされますが、「分かりずらい」という表現を目にすることは少なくありません。
今回のコラム記事では、「分かりづらい」と「分かりずらい」の違いや成り立ち、正しい使い方に加えて、誤用が広まる理由についても考えてみましたので、ぜひ最後までご一読ください。
結論:正しい表記は「分かりづらい」
まず結論から言えば、正しい表記は「分かりづらい」です。
これは国語辞典や文法的な観点からも明確に示されており、公的な文書やビジネス文章では必ず「づらい」を用いるのが適切とされています。
一方で「分かりずらい」という表記は誤用とされるものの、日常会話やネット上では非常に多く使われているのも事実です。ここではその理由を語源や用法から整理していきましょう。
語源から見る「づらい」の意味
「〜づらい(辛い)」は、動詞に付いて「〜しにくい」「〜するのが難しい」という意味を持たせる接尾語です。
語源をたどると、動詞「する」に付く「つらい(辛い)」が転じ、「しづらい(するのが辛い)」という形で使われ始められたようです。やがて「見る」「分かる」などの動詞にも広がり、「見づらい」「分かりづらい」という表現が定着していったのです。
つまり、「づらい」は「辛い」という言葉のニュアンスがあり、心理的・身体的な困難さを表現するための正しい形といえるでしょう。
「ずらい」という表記が誤りになる理由
一方で「ずらい」という表記は、発音上の影響から生まれた誤りとされています。日本語の音声において「づ」と「ず」は現代ではほとんど区別されず、どちらも「zu」と発音されます。そのため、多くの人が「分かりずらい」と書いてしまう傾向があるのではないでしょうか。
しかし、国語辞典においては「づらい」が正式であり、「ずらい」という形はオーソドックスではありません。したがって、正しい日本語を書く場面では必ず「分かりづらい」を使うべきでしょう。
なお、「ずらい」という表現が広がった背景には「耳で聞いた音に基づいて書く」という習慣が関係しており、これは現代日本語における表記ゆれの典型的な一例といえます。
「づらい」と「にくい」の違いと使い分け
「分かりづらい」と似た表現に「分かりにくい」があります。どちらも「理解が難しい」という意味を持ちますが、実はニュアンスに微妙な違いがあります。この違いを理解することで、場面に応じて最適な表現を選ぶことができるでしょう。
「~づらい」のニュアンス:主観・心情的な壁
「~づらい」は、話し手の主観や心理的な負担を強調する表現です。「心情的にそう感じる」「個人の感覚として困難だ」というニュアンスが含まれており、
- 人前で話しづらい(緊張してしまうから)
- この漢字は読みにづらい(ぱっと見で理解しにくいと感じる)
- 雰囲気的に質問しづらい(場の空気が妨げになっている)
このように、「づらい」は客観的な難易度ではなく、感覚や状況による主観的な“やりにくさ”を表すのが特徴です。
「~にくい」のニュアンス:客観的・構造的な難しさ
一方、「~にくい」は客観的に困難さがある場合に使われます。物理的・構造的に難しい場合や、一般的に誰にとってもハードルが高い状況に適しています。
- 小さな文字は見にくい(物理的に目で捉えづらい)
- このデザインは操作しにくい(構造的に使い勝手が悪い)
- 暗い場所では歩きにくい(環境的な制約がある)
つまり、「にくい」は主観よりも事実としての難易度を指す傾向が強いといえます。
例文で比較:「分かりづらい」と「分かりにくい」
実際に「分かりづらい」と「分かりにくい」を比較すると、微妙な使い分けが見えてきます。
表現 | 例文 | ニュアンス |
---|---|---|
分かりづらい | この説明は専門用語が多くて 分かりづらい。 | 主観的に理解が難しい、 心理的な壁を感じる |
分かりにくい | この地図は道が細かく書かれていて 分かりにくい。 | 構造的に理解が難しい、 客観的な要因による |
分かりづらい | 曖昧な表現ばかりで 分かりづらい文章だ。 | 話し手の言葉遣いが原因で 理解しにくい |
分かりにくい | 手書きの文字が崩れていて 分かりにくいメモだ。 | 物理的に読み取りが困難 |
このように、ニュアンスの違いを意識すれば、より自然で説得力のある表現を選べるでしょう。
「分かりずらい」が広まった背景と誤用の実例
正しい表記は「分かりづらい」ですが、実際には「分かりずらい」という誤った表記を目にする機会は少なくありません。
その背景には日本語特有の発音上の特徴や、現代におけるインターネットの普及が大きく関係していると感じます。ここでは「分かりずらい」が広まった理由と、誤用に対してどのように注意すべきかを見ていきましょう。
読み仮名の問題:「ず」と「づ」は発音上区別されない
まず、日本語では「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の発音の違いはほとんどなく、どちらも「zu」「ji」と発音されます。これにより、耳で聞いた際に「分かりずらい」と書いてしまう人が多くなっていると思われます。
特に辞書で意識的に学んでいなければ、違いを意識する機会も少なくなりますので、自然に誤用が定着してしまう可能性があります。
SNS・ブログでの無意識な誤用の拡散
近年では、SNSやブログなど個人が自由に発信できる場が広がったことで、「分かりずらい」という表記を目にする機会が増えています。
ネット上の文章は校正を経ないため、誤用であってもそのまま拡散され、結果として「よく見る表記=正しい」と錯覚されてしまうケースもあるでしょう。
実際に検索エンジンやX(旧Twitter)で調べてみると、「分かりずらい」が多く表示されることもあり、誤用が広く浸透していることが分かります。
誤用に対する指摘と注意の仕方
ただし、誤用を見かけた際に過度に批判的になるのは避けるべきでしょう。相手を正す際には、次のような柔らかい伝え方が望ましいでしょう。
- 「正しくは『分かりづらい』と書きますが、発音の影響で『分かりずらい』と表記されがちですね。」
- 「公式文書では『づらい』が正しい表記なので、気をつけると良いですよ。」
このように、単なる誤りではなく「発音上の理由で広まった言葉」であることを理解した上で指摘することで、相手も納得しやすくなるはずです。誤用を責め立てるのではなく、正しい日本語を共有する姿勢が大切だといえるでしょう。
正しい使い方を定着させる方法
「分かりづらい」と「分かりずらい」の違いを理解していても、無意識に誤用してしまうことは少なくありません。
特に日常的に文章を書く人やビジネス文書を扱う人にとっては、正しい表記を定着させることが重要です。ここでは、誤用を防ぎ「づらい」を自然に使えるようにするための実践的な方法を紹介します。
校正時のチェックポイント
文章を仕上げる際には、以下のポイントを意識して確認しましょう。
- 「〜づらい」と「〜にくい」の使い分けを意識する
- 「分かりずらい」と入力していないか検索機能で確認する
- 校正ツールや文書校閲機能を活用して誤表記をチェックする
特にビジネス文書や公式資料では、一度「ずらい」という誤用が混ざるだけで文章全体の信頼性が下がる恐れがあります。
変換入力での注意点(IMEの挙動など)
日本語入力システム(IME)では、「わかりずらい」と入力しても自動的に「分かりづらい」と変換される場合があります。しかし環境や設定によっては誤変換のまま確定されるケースもあるため注意が必要です。
- 正しい候補が出ているか必ず確認する
- 一度「づらい」を登録単語にしておく
- スマホ入力では特に「ず」と「づ」の変換違いに注意する
入力の段階で意識を持つことが、誤用防止の第一歩となるでしょう。
類義語や言い換え表現の活用
どうしても「づらい/ずらい」で迷う場合には、類義語を活用するのも有効です。
たとえば「分かりづらい」の代わりに以下のような言い換えが可能です。
「分かりづらい」の言い換え例
- 「理解しにくい」
- 「把握が難しい」
- 「説明が不十分で分かりにくい」
このように表現を切り替えることで、誤用のリスクを回避できるだけでなく、文章に多様性を持たせる効果も期待できます。
正しい日本語表記を意識しながらも、柔軟な言い換えを取り入れることで、より自然で読みやすい文章を作ることができるでしょう。
「づらい」「ずらい」「にくい」に関してよくある疑問をQ&A形式で紹介
最後に、多くの人が感じやすい疑問をQ&A形式で整理しました。実際の文章作成や日常のやり取りで迷ったときの参考にしてみてください。
まとめ:正しい日本語を意識して「分かりづらい」を使おう
「分かりづらい」と「分かりずらい」は、発音上は同じでも正しい表記は「づらい」です。「ずらい」という表記は誤用であり、SNSやネットの影響で広まったにすぎません。また、「づらい」と「にくい」には主観と客観というニュアンスの違いがあり、場面によって適切に使い分けることが重要です。
正しい使い方を身につけるためには、校正時のチェックや入力変換の注意、さらには類義語を活用した表現の工夫が役立ちます。誤用を見かけた場合も批判せず、柔らかく正しい形を共有する姿勢が望ましいでしょう。