住宅手当・家賃手当とは?規定例や相場・運用方法を専門家が解説

従業員への福利厚生として、通常の給与とは異なる手当を導入する企業は多くあります。住宅手当・家賃手当も福利厚生の一つとして利用されており、主に
- 従業員が生活に必要な住居に掛かる費用を補助する
- 新卒などで給与水準が低い従業員の生活を支援する
こういった目的で、一定の条件に合致する従業員に対して支給することがあります。今回は、住宅手当・家賃手当を福利厚生として新しく導入される場合に検討すべきルールの内容や、すでにある制度の変更・廃止の際の注意点を解説いたします。
社会保険労務士 矢野貴大私が過去に勤めていた企業でも住宅手当が制度としてありましたので、その実体験も含めてお伝えできればと思います。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。


住宅手当・家賃手当とは?
住宅手当や家賃手当は、会社が任意で設けることができる制度です。しかしながら、従業員への待遇として支給する場合は就業規則・賃金規程に記載する義務が発生するため注意しなければなりません。
就業規則や賃金規程に記載すべき内容としては
- 住宅手当、家賃手当の支給対象となる条件(範囲や要件)
- 支給する金額や期限
- 支給のための申請手続き
- 不正受給時における返金
上記のようなルールを定めておくことが大切です。
住宅手当・家賃手当の名称に違いはある?
結論、どのような名称を用いて従業員へ支給するのか、会社側が自由に定めることができます。そのため従業員の住居に関する補助を目的とする場合、住宅手当や家賃手当、その他住宅補助手当など名称は任意に定めましょう。



ただし、住宅補助を目的としていながら「従業員補助手当」のような名称は避けてください。実態に沿った手当名にしなければトラブルに繋がります。
住宅手当と家賃手当のよくある支給条件(範囲や要件)
住宅手当・家賃手当の導入の際に、まず決める必要があるルールが「支給条件」です。支給条件では
- 支給範囲:居住形態や会社からの距離
- 支給要件:入社からの勤続年数や従業員本人の年齢
この2つの観点で検討することをおすすめいたします。
支給範囲①:居住形態(持ち家・賃貸)
従業員の居住形態によって、規定の内容は異なります。一般的な「持ち家」と「賃貸」における支給ルールをみていきましょう。
持ち家に対して支給する場合
持ち家に居住する従業員に対して、住宅手当・家賃手当を支給する場合は主に「住宅ローン」を補填することが目的となります。従って、持ち家に住む従業員への規定例は次のように考えられます。
- 従業員本人が世帯主として居住する持ち家があり、かつ住宅ローンを組んでいる従業員に対して支給する
- 住宅手当の支給を受ける従業員は、住宅ローンを組んでいることがわかる次の書類を会社に提出し、会社の承認を受けなければならない。
- 住宅ローンに関する金銭消費貸借契約書
- 住宅ローンの引き落としがわかる明細書(直近半年間における通帳の写しや金融機関から発行される残高証明書等)
賃貸に対して支給する場合
従業員が賃貸物件に居住する場合は、その家賃料を補填する目的とされます。賃貸物件に住む従業員への規定例は次の内容がよく見受けられますので、この場合は次のような規定例を検討しましょう。
- 従業員本人が世帯主として居住する賃貸物件があり、家賃の支払いを行っている従業員に対して支給する
- 住宅手当の支給を受ける従業員は、家賃の支払いを行っていることがわかる次の書類を会社に提出し、会社の承認を受けなければならない。
- 賃貸借契約書の写し
- 家賃の引き落としがわかる明細書
支給範囲②:会社からの距離(所要時間)
支給範囲の2つ目として考えておきたいルールは「会社からの距離」や「所要時間」を含めるのかどうかになります。例えば
- 居住する場所から会社までの距離が◯km以内の場合
- 居住する場所から会社まで所要時間が◯分以内の場合
- 居住する場所から会社までの公共交通機関が◯駅以内の場合
このように、会社の近隣に住む従業員に支給することも可能です。距離や所要時間を要件にする理由としては、通勤時間の削減により従業員の負担軽減とすることが目的になるでしょう。
- 住宅手当は、次のいずれかに該当する従業員を支給対象となる。
- 居住地から会社までの直線距離が5km以内の場合
- 居住地から会社までの所要時間が20分以内の場合



会社からの距離を勘案して支給する場合、通勤手当と相殺するケースもよくあります。例えば「住宅手当は会社から直線距離で5km以内に居住を構える住宅手当に支給する。ただし、住宅手当の支給を受ける場合は通勤手当は支給しない」等と決めるイメージです。
支給要件①:入社からの勤続年数
支給要件としては「入社からの勤続年数」を考慮することもあります。これは新卒社員の生活を支援する目的となりますので
- 新卒のみを対象として入社日から5年間支給する
- 中途採用も考慮して一律入社日から3年間支給する
会社独自に期間を設けることも問題ありません。
- 住宅手当の支給は入社日から起算して3年を経過する日の属する月の前月までとする。
支給要件②:従業員の年齢や扶養状況
新卒採用や中途採用等に限らず、従業員の年齢や扶養状況を要件にすることも可能です。例えば
- 従業員が30歳になるまでなどの従業員の年齢
- 結婚しており、扶養家族が1人以上いる場合
このように、従業員のライフスタイルごとに発生する負担を考慮することで良い福利厚生制度と言えます。
- 住宅手当は、次のいずれかに該当する従業員を対象として支給する
- 30歳未満の従業員
- 扶養家族を1人以上有する従業員
住宅手当・家賃手当の相場は?
住宅手当・家賃手当の制度を検討する際に「一般的にいくら支給されるのか?」「相場はどの程度なのか?」気になる経営者の方も多いと思いますので、目安となる金額感を確認しましょう。
また支給する方法としては
- 金額を一律に支給する
- 最大額を決めた上で家賃の◯割を支給する
大きくこの2パターン考えられます。
金額を一律して支給する
金額を一律に支給する場合は、概ね10,000円から30,000円程度が目安となるでしょう。各支給範囲・要件ごとに決めることも可能ですので、下記金額・規定例を参考にしていただければ幸いです。
| 支給範囲・要件 | 金額・規定例 |
| 持ち家・賃貸を対象 | 持ち家・賃貸問わずに20,000円 |
| 入社からの勤続年数を対象 | 入社1年目:30,000円 入社2年目:20,000円 入社3年目:10,000円 |
| 従業員の年齢や扶養状況を対象 | 世帯主のみ:15,000円 扶養家族が1名以上いる場合:30,000円 |
最大額を決めた上で家賃の◯割とする
持ち家・賃貸のように、従業員の住居に関する出費を負担する際、その出費金額に応じて住宅手当の金額を定めることもあります。例えば
- 住宅手当は、従業員が居住する賃貸物件の家賃に対して、月額賃料の4分の1を負担して支給する。ただし、30,000円を超える場合は30,000円を上限とする。
このように、家賃に対して◯割分を基本としながら、上限金額を設けている企業もあります。
住宅手当・家賃手当と就業規則の関係性
就業規則には「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」というそれぞれ記載しなければならない項目があります。
この内、住宅手当・家賃手当は「絶対的必要記載事項」の賃金の決定、計算及び支払いの方法に該当します。支給するのであれば就業規則に記載しなければなりません。
| 絶対的必要記載事項 | 相対的必要記載事項 |
|---|---|
| 就業規則を定める上で必ず記載しなければならない事項 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の 締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) | 会社でルールを定める場合は就業規則に記載しなければならない事項 退職手当に関する事項 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項 食費、作業用品などの負担に関する事項 安全衛生に関する事項 職業訓練に関する事項 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 表彰、制裁に関する事項 その他全労働者に適用される事項 |
住宅手当・家賃手当を廃止・変更する場合は不利益変更に注意
なお、住宅手当や家賃手当をすでに支給している場合であって
- 支給する金額や期間を減らす
- そもそも住宅手当自体を廃止する
上記のような方向性で制度変更を考えているのであれば「労働条件の不利益変更」に該当しますので注意してください。対応方法については下記の労務Tipsで解説しておりますのでぜひご一読ください。


住宅手当・家賃手当の運用上の注意点
住宅手当は福利厚生として従業員に喜ばれる制度ではありますが、導入時・運用時における注意点があります。
せっかく職場環境の向上を目指して住宅手当を新設したとしても、逆に従業員トラブルにつながる可能性もありますので慎重に進めましょう。
割増賃金の計算基礎の該当・不該当
住宅手当は
- 住宅に要する費用に応じて算定される
- 費用に応じた算定とは「算定に定率を乗じるもの」「費用を段階的に区分し、費用の増加に応じて額が増加するもの」
上記の2点に該当するのであれば、住宅手当として支払う金額は割増賃金を計算する際の単価から除外することが可能です。
ただし、
- 住宅以外の費用に応じて算定されるもの
- 住宅の費用以外の要素によって算定されるもの
- 一律定額の手当
については、割増賃金の算定基礎から除外することはできませんので注意が必要です。
住宅手当だからといって、必ず割増賃金の計算時の単価から除外できるとは限りません。制度の内容を確認し、日々の給与計算に反映させなければ労働基準法違反としてトラブルに発展することもあります。
| 割増賃金の算定基礎に含めない規定例 | 割増賃金の算定基礎に含まれる規定例 |
|---|---|
| 家賃が5万円未満の場合は◯万円 家賃が5万円以上の場合は◯万円 | 従業員に一律して支給している 世帯主のみの場合は◯万円・扶養家族がいる場合は◯万円 持ち家は◯万円・賃貸は◯万円 |
新しく導入する場合は不公平感を考慮する
従業員への福利厚生として住宅手当・家賃手当の導入したとしても、制度によっては支給対象外となる従業員も当然いるでしょう。特に住宅手当は生活費に直結するため、不公平感を生み出しやすい制度でもあります。
従業員の住宅事情を考慮しながら、支給範囲や支給金額の検討が大切です。



本当に「住宅手当」の導入が会社・従業員が幸せになる制度なのかも含めて考えたいところです。住宅手当として制度化してしまうと、会社側には支給義務が発生しますので、制度化せずに、賞与やインセンティブ等で従業員の給与を手厚くするなど、会社側に負担が増えすぎない対応方法も考えられます。
まとめ
今回は、住宅手当・家賃手当における規定例や相場、運用方法を解説させていただきました。従業員の採用や定着につながる福利厚生として、これから住宅手当の導入を考えている経営者の方や、現状の制度を見直しされる方の参考になりますと幸いです。












