最低賃金とは?制度や注意点をわかりやすく解説【違反するとどうなる?】

「最低賃金ってニュースでよく聞くけど、正直よくわからない…」「自社(自分)の給与額は最低賃金を上回っているのか気になる」「もし違反したらどうなるの?」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
最低賃金は、労働者が最低限の生活を保障されるために、国が定めた賃金の下限ルールです。雇う側にも働く側にも関わる重要な制度であり、知らずに違反してしまうと、企業には罰則や信用低下など大きなリスクが生じます。
今回のコラム記事では、最低賃金の基本的な仕組みや計算方法、そして違反した場合の罰則までを、専門家である社労士の視点でわかりやすく解説できればと思います。ぜひ最後までお読みいただき、「うちの給料、大丈夫かな?」「何に注意すればいい?」といった疑問がクリアになれば幸いです。
労働環境を守り、トラブルを未然に防ぐために、今こそ最低賃金を正しく理解しましょう。
最低賃金の基本を理解しよう
最低賃金は、雇用する企業・働く労働者すべてに関係する最低限守らなければならない給与のルールです。とくに近年では、最低賃金の引き上げが全国的に注目されており、経営者・労働者の双方が正しく理解しておくことが不可欠となっています。
ここでは、「最低賃金とは何か」「なぜ必要なのか」「どんな種類があるのか」について、わかりやすく解説します。
そもそも最低賃金とは何なのか?
最低賃金とは、労働者に支払わなければならない賃金の最低額を法律で定めた制度です。これに満たない金額で労働契約を結んだ場合、その契約は無効とされ、不足分の支払い義務が発生します。
労働諸法令の一つである「最低賃金法」に基づき、最低賃金審議会において議論の上で都道府県労働局長が毎年金額を決定しています。2024年度に改定された最低賃金額は、全国的にも1,000円を超える地域も多くなり、地域差も年々広がっています。
そんな最低賃金ですが、よくある誤解の一つに「最低賃金は時給だけの話では?」というものがあります。公表される最低賃金額は「時間額」のため、確かに時給制で勤務するパートやアルバイトに適用されるイメージがあるかもしれません。
しかしながら、日給や月給でも、労働時間に応じて時給換算し、最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。これを見落とすと、知らないうちに違反しているケースも少なくありません。
最低賃金の目的と重要性
最低賃金制度が存在する最大の目的は、「働く人が最低限の生活を維持できるようにすること」や「国民経済の健全な発展に寄与すること」です。すべての労働者に対し、健康で文化的な生活を送れる水準の所得を保証することが、この制度の出発点です。
また、以下のような副次的な役割も持ち合わせています。
- 労働条件の底上げによる労働市場の健全化
- 不当な低賃金競争の抑制
- 働きがいの向上と雇用の安定
特に中小企業の経営者にとっては、「最低賃金が上がる=コストが増える」という意識が先行しがちですが、適正な賃金の確保は、離職率の低下や従業員の定着率向上など、中長期的なメリットも大きいことを理解しておくべきです。
最低賃金の種類:地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金
最低賃金には、
- 地域別最低賃金
- 特定(産業別)最低賃金
上記2種類があります。どのような制度なのか、見ていきましょう。
地域別最低賃金とは?
全国すべての都道府県に適用される最低賃金で、毎年、都道府県ごとに決定されます。すべての業種・職種に適用される、いわば「ベースライン」となる賃金です。
各都道府県の令和6年(2024年)における最低賃金は次のとおりとなっています。
都道府県名 | 最低賃金時間額【円】 2024年10月・2023年10月 | 引上げ率【%】 | 発効年月日 | |
---|---|---|---|---|
北海道 | 1,010 | (960) | 5.2 | 令和6年10月1日 |
青森 | 953 | (898) | 6.1 | 令和6年10月5日 |
岩手 | 952 | (893) | 6.6 | 令和6年10月27日 |
宮城 | 973 | (923) | 5.4 | 令和6年10月1日 |
秋田 | 951 | (897) | 6.0 | 令和6年10月1日 |
山形 | 955 | (900) | 6.1 | 令和6年10月19日 |
福島 | 955 | (900) | 6.1 | 令和6年10月5日 |
茨城 | 1,005 | (953) | 5.5 | 令和6年10月1日 |
栃木 | 1,004 | (954) | 5.2 | 令和6年10月1日 |
群馬 | 985 | (935) | 5.4 | 令和6年10月4日 |
埼玉 | 1,078 | (1,028) | 4.9 | 令和6年10月1日 |
千葉 | 1,076 | (1,026) | 4.9 | 令和6年10月1日 |
東京 | 1,163 | (1,113) | 4.5 | 令和6年10月1日 |
神奈川 | 1,162 | (1,112) | 4.5 | 令和6年10月1日 |
新潟 | 985 | (931) | 5.8 | 令和6年10月1日 |
富山 | 998 | (948) | 5.3 | 令和6年10月1日 |
石川 | 984 | (933) | 5.5 | 令和6年10月5日 |
福井 | 984 | (931) | 5.7 | 令和6年10月5日 |
山梨 | 988 | (938) | 5.3 | 令和6年10月1日 |
長野 | 998 | (948) | 5.3 | 令和6年10月1日 |
岐阜 | 1,001 | (950) | 5.4 | 令和6年10月1日 |
静岡 | 1,034 | (984) | 5.1 | 令和6年10月1日 |
愛知 | 1,077 | (1,027) | 4.9 | 令和6年10月1日 |
三重 | 1,023 | (973) | 5.1 | 令和6年10月1日 |
滋賀 | 1,017 | (967) | 5.2 | 令和6年10月1日 |
京都 | 1,058 | (1,008) | 5.0 | 令和6年10月1日 |
大阪 | 1,114 | (1,064) | 4.7 | 令和6年10月1日 |
兵庫 | 1,052 | (1,001) | 5.1 | 令和6年10月1日 |
奈良 | 986 | (936) | 5.3 | 令和6年10月1日 |
和歌山 | 980 | (929) | 5.5 | 令和6年10月1日 |
鳥取 | 957 | (900) | 6.3 | 令和6年10月5日 |
島根 | 962 | (904) | 6.4 | 令和6年10月12日 |
岡山 | 982 | (932) | 5.4 | 令和6年10月2日 |
広島 | 1,020 | (970) | 5.2 | 令和6年10月1日 |
山口 | 979 | (928) | 5.5 | 令和6年10月1日 |
徳島 | 980 | (896) | 9.4 | 令和6年11月1日 |
香川 | 970 | (918) | 5.7 | 令和6年10月2日 |
愛媛 | 956 | (897) | 6.6 | 令和6年10月13日 |
高知 | 952 | (897) | 6.1 | 令和6年10月9日 |
福岡 | 992 | (941) | 5.4 | 令和6年10月5日 |
佐賀 | 956 | (900) | 6.2 | 令和6年10月17日 |
長崎 | 953 | (898) | 6.1 | 令和6年10月12日 |
熊本 | 952 | (898) | 6.0 | 令和6年10月5日 |
大分 | 954 | (899) | 6.1 | 令和6年10月5日 |
宮崎 | 952 | (897) | 6.1 | 令和6年10月5日 |
鹿児島 | 953 | (897) | 6.2 | 令和6年10月5日 |
沖縄 | 952 | (896) | 6.3 | 令和6年10月9日 |
全国加重平均額 | 1,055 | (1,004) | 5.1 | ー |
特定(産業別)最低賃金とは?
特定の業種において、より高い水準の最低賃金が必要と判断された場合に設けられる制度です。対象業種は、主に製造業・繊維業・電子機器産業などが多く、地域別最低賃金よりも高く設定されることがあります。
また、特定(産業別)最低賃金の特徴として
- 各都道府県ごとに決められる
- 両方が適用される場合は「高い方」が適用される
上記は押さえておかなければ知らないうちに最低賃金の基準を下回ってしまっているケースも見受けられます。
都道府県 | 産業名 | 最低賃金時間額【円】 | 発効年月日 |
---|---|---|---|
北海道 | 処理牛乳・乳飲料、乳製品、砂糖・でんぷん糖類製造業 | 1048円 | 令和6.12.01 |
鉄鋼業 | 1100円 | ||
電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具製造業 | 1049円 | ||
船舶製造・修理業、船体ブロック製造業 | 1040円 | ||
沖縄県 | 糖類製造業 | 769円 | 平成30.11.25 |
新聞業 | 879円 | 令和4.11.17 | |
各種商品小売業 | 770円 | 平成30.11.23 | |
自動車(新車)小売業 | 770円 | 平成30.11.18 |
企業担当者は、最低賃金が「単なる時給の数字」ではなく、法的義務としての基準であることをしっかり認識すべきです。特に雇用形態が多様化している昨今、時給換算の誤りや手当の計算漏れなど、見落としによる違反が増加傾向にあります。必ず、年1回は自社の給与体系と最低賃金を照合することをおすすめします。
最低賃金の適用範囲と計算方法
最低賃金はすべての労働者に一律に適用される制度のように見えますが、実は対象となる範囲や計算方法には細かなルールが存在します。正社員はもちろん、アルバイトやパート、外国人労働者にも適用される一方で、例外もあるため注意が必要です。
また、月給制や日給制など賃金の形態によっても、最低賃金を満たしているかどうかを判断する方法が異なりますので、「誰が対象になるのか」「どのように計算すればいいのか」を具体的に見ていきましょう。
最低賃金は誰に適用されるのか?
最低賃金は、「原則としてすべての労働者」に適用されます。正社員だけでなく、以下のような働き方をする人にも幅広く適用される点に注意が必要です。
- 正社員
- アルバイト・パートタイマー
- 契約社員・派遣社員
- 外国人労働者(留学生アルバイトを含む)
- 試用期間中の労働者
- 日雇い・短時間労働者
つまり、「雇用形態」「国籍」「雇用期間」に関係なく、日本で働いていれば最低賃金は必ず守られなければなりません。
最低賃金の適用除外の例(非常に限定的)
一方で、一般的に働ける方に比べて「著しく労働能力が低い」場合など、最低賃金を適用すると雇用機会がなくなる可能性につながる恐れもあるため、下記に該当する方については個別に最低賃金減額の特例が認められます。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方(合理性がある場合のみ)
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
ただし、これらに該当する場合で、最低賃金減額の特例を受けようとする会社は、あらかじめ都道府県労働局長の許可を得る必要があります。許可を得ずに最低賃金を引き下げることは違法ですので、ご注意ください。
よくある誤解として、「試用期間中だから最低賃金を下回ってもいい」と考える企業がありますが、これは誤りです。基本的に試用期間中であっても最低賃金は守らなければならない法的義務であり、違反した場合は是正勧告や罰則の対象となります。
月給制・日給制・時間給制における計算方法
最低賃金との比較は、実際の1時間あたりの賃金額を求めた上で行う必要があります。賃金形態に応じた計算方法は以下の通りです。
月給制の場合
一般的な正社員のように月給制で勤務している方は、以下のように1時間あたりの賃金額を算出し、最低賃金額と比較することになります。
- 月給のうち、最低賃金の対象となる項目を確認する
- その金額を「1か月の平均所定労働時間」で割る
- 1か月の平均所定労働時間は、次のように求めます。
- (年間の日数ー年間休日)✕1日の労働時間÷12ヶ月
- 計算例:(365日ー125日)✕8時間÷12ヶ月=160時間
- 1か月の平均所定労働時間は、次のように求めます。
- 計算結果が最低賃金額を上回っていればOK
例えば、
- 勤め先の会社:大阪府
- 最低賃金の対象となる月給:200,000円
- 1か月の平均所定労働時間:160時間
- 時給換算額:200,000円÷160時間=1,250円
とすると、大阪府の最低賃金は1,114円ですので、上記は適法な労働条件であることになります。
日給制の場合
日給制の場合、1日あたりの所定労働時間を使って時間単価を算出します。
- 日給8,000円・1日8時間労働の場合
- 8,000円÷8時間=1,000円
上記のように算出し、最低賃金と比較することになります。
なお、基本給が日給制、諸手当を月給制として給与の内訳が混在する場合、
- 日給部分は1日あたりの所定労働時間を使って時間単価を算出
- 月給部分は前述の「月給制の場合」をあてはめ時間単価を算出
- 各時間単価の合計と最低賃金額を比較チェック
上記のように複雑になるため、注意が必要です。
時間給制(時給)の場合
そのまま最低賃金と直接比較します。例えば時給1,030円であれば、2024年の大阪府最低賃金(1,114円)を下回っているため違反となります。
最低賃金に含まれない手当や賃金項目
最低賃金との比較を正しく行うためには、「賃金の中で最低賃金の対象になるもの」と「含まれないもの」を明確に理解しておく必要があります。
最低賃金に【含まれない】賃金項目
最低賃金を算出する際、下記の項目については「最低賃金の算定に含めない」ことが可能です。
- 臨時に支払われる賃金
- 項目例:結婚手当など
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 項目例:賞与など
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
- 項目例:残業手当、時間外割増手当など
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金
- 項目例:休日手当、休日残業手当、休日割増手当など
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
- 項目例:深夜手当、深夜残業手当、深夜割増手当など
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
最低賃金に【含まれる】賃金項目
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされています。
そのため
- 基本給
- 職務手当、業務手当(実労働に対するもの)
- 役職手当、資格手当
上記のように、実際の労働に直接対価として支払われるもののみが最低賃金との比較対象にる点は押さえておきましょう。
通勤手当込みで「時給1,100円」として求人を出していても、実質の時給が950円なら違反になります。求人広告や雇用契約書の表記も最低賃金との整合性をチェックしましょう。
このように、最低賃金を守るには「計算の仕方」と「賃金の中身」を正しく理解することが何より重要です。企業としては、最低賃金の引き上げにあわせて毎年チェックし、知らず知らずのうちに違反しないよう体制を整えることが求められます。
最低賃金違反のリスクと罰則
最低賃金を下回る賃金で従業員を働かせていた場合、事業主は「知らなかった」では済まされません。最低賃金の違反は、法律違反であるだけでなく、企業イメージや従業員のモチベーションにも大きな悪影響を与えます。
このセクションでは、最低賃金違反が具体的にどういう形で問題になるのか、またどのような罰則や指導が行われるのかを詳しく解説します。
最低賃金を下回る契約の無効性と差額支払い義務
最低賃金法第4条により、最低賃金を下回る賃金での契約は無効とされます。これは、合意があっても無効という点が重要です。
つまり、本人が納得して働いていたとしても、「契約として成立している」とはみなされず、最低賃金との差額を支払う義務が発生します。
条番号 | 条文 |
---|---|
第四条一項 | 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。 |
第四条二項 | 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。 この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。 |
例えば、地域最低賃金が1,000円にも関わらず時給額が950円で契約している場合は「50円✕労働時間分」が不足していることになるため、差額分は支払う必要があるのです。
最低賃金の罰則①:地域別最低賃金違反時
地域別最低賃金に違反すると、最低賃金法第40条により50万円以下の罰金が科される可能性があります。これは企業・個人事業主を問わず、全事業者が対象です。
第四十条
第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。
引用元:e-Gov「最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)」
さらに、悪質と判断された場合には、以下のような行政対応を受けることもあります。
- 労働基準監督署による是正指導
- 立ち入り調査
- 企業名の公表(労働基準関係法令違反に係る公表事案として掲載)
- 助成金の不支給
特に昨今は、SNSや口コミサイトなどを通じて労働環境の見える化が進んでおり、違反が発覚すれば企業の信用は一気に失われかねません。
最低賃金の罰則②:特定(産業別)最低賃金違反時の罰則
特定(産業別)最低賃金についても地域別と同様の法的拘束力を持ちます。ただし、特定(産業別)最低賃金に違反するケースは2つありますので、特に注意が必要です。
特定最低賃金が適用される場合で地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった
前述の通り、特定最低賃金が適用される業種においては、地域別最低賃金も同様に適用されます。
例えば
- 地域別最低賃金:1,114円
- 特定最低賃金:1,127円
- 従業員に対して支払う時間額:1,100円
上記のような場合には特定最低賃金額>地域別最低賃金額>従業員に支払う賃金額となります。このとき「地域別最低賃金を下回っている」として最低賃金法第40条により50万円以下の罰金が科される可能性があります。
特定最低賃金が適用される場合で特定最低賃金額以上の賃金を支払わなかった
次に、下記のような場合も罰則があります。
- 地域別最低賃金額:時間額1,114円
- 特定最低賃金:1,127円
- 従業員に対して支払う時間額:1,120円
このとき、特定最低賃金額>従業員に支払う賃金額>地域別最低賃金額という関係になり、労働基準法第120条の定めにより30万円以下の罰金に処せられることがあります。
特定最低賃金は、適用業種が明確に限定されているため、「自社が該当していることに気づかない」というケースもあります。経営者・人事担当者は、管轄の労働局や商工会議所などで該当有無を確認することが重要です。
労働基準監督署の行政指導と企業イメージへの影響
最低賃金違反が疑われると、労働者の申告や匿名通報をきっかけに、労働基準監督署の調査が入ることがあります。調査の結果、違反が確認されれば、以下のような行政指導が行われます。
- 是正勧告書の交付
- 従業員への未払賃金支払い命令
この段階で対応すれば、罰則を回避できることもありますが、指導に従わない場合や違反が繰り返される場合には、刑事罰や企業名の公表に至ることもあります。
最低賃金違反は、経営上のリスクとして「コスト」よりも「信頼損失」のほうが深刻です。特に成長中の企業にとっては、たった1件の違反が事業成長にブレーキをかけてしまう可能性すらあります。「適切に支払っているつもり」ではなく、「計算根拠を明示できる体制」を構築することが、今後ますます重要になるでしょう。

最低賃金違反を防ぐためのポイント
最低賃金の引き上げが続く中で、知らないうちに違反してしまう企業が後を絶ちません。しかし、多くのケースは「確認ミス」や「制度の誤解」が原因であり、少しの工夫とチェック体制で防ぐことが可能です。
ここでは、実務の現場で役立つ違反防止のためのチェックポイントをわかりやすく解説します。
定期的な最低賃金額の確認と更新
最低賃金は、毎年10月頃に全国一斉で改定されます。そのため、1年を通じて常に「最新の金額」を把握しておくことが重要です。
- 都道府県別の最低賃金を毎年夏ごろから秋にかけて(9月頃)情報を収集する
- 特定(産業別)最低賃金の有無も同時に確認
- 変更後の給与体系が新基準を満たしているか検証
実務では「前年と同じ給与で継続しているが、今年は最低賃金を下回っていた」というケースが多く見受けられます。年度ごとに自社の給与体系を見直すことが、違反を未然に防ぐ第一歩です。
労働者への最低賃金の周知義務とその方法
最低賃金は「労働者に周知する義務」も法律上求められています。これは、労働者が自分の権利を認識し、必要に応じて会社とコミュニケーションを取るためのきっかけとも言えます。
(周知義務)第八条
最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。
引用元:e-Gov「最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)」
最低賃金の状況を周知する方法としては
- 社内掲示板や休憩室でのポスター掲示
- 給与明細や就業規則への記載
- 入社時説明や労働契約書への明記
上記のようなものが考えられます。
なお、厚生労働省では、最低賃金のポスターや案内チラシをPDFで配布しており、誰でも無料で活用できます。これらを職場に掲示することで、法令順守の意識を社内に浸透させることができます。
最低賃金の違反防止には「定期的なチェック体制の構築」と「正確な賃金管理」が欠かせません。とくに中小企業では、社内に人事・労務の専門家がいないケースも多いため、社会保険労務士など外部専門家の定期的なサポートを受けることも有効な対策です。
また、従業員に対しても「なぜこの金額になるのか」を丁寧に説明することで、信頼関係の強化にもつながります。違反を防ぐことは、単なる法令順守にとどまらず、企業の働きやすさ・信頼性を高めるブランディング活動の一環でもあるのです。
最低賃金のチェック、できていますか?
給与を支払う上で「最低賃金以上の条件になっている」ことは欠かせません。改めて、下記のポイントを押さえられているのか確認することをおすすめいたします。
- 最新の地域別・特定最低賃金を確認している(年1回以上)
- 自社の賃金(時給・月給など)を時間単価に換算している
- 控除対象を含めずに比較している
- 全従業員の賃金が最低賃金を上回っているか確認済
- 特定(産業別)最低賃金の対象業種に該当しないか確認した
- 労働契約書・給与明細に賃金内訳を明記している
- 労働者に最低賃金額を周知している(掲示・説明など)
上記1つでも抜けている場合は、改めて自社のルールを見直しましょう。
まとめ:最低賃金を遵守し、健全な労働環境を築こう
最低賃金は、働く人すべてが最低限の生活を維持するために設けられた、社会のセーフティーネットともいえる制度です。法律によって義務づけられているだけでなく、企業にとっては労働環境の健全性を示す重要な指標でもあります。
本記事では、最低賃金の基本的な仕組みから、計算方法、違反時のリスク、そして防止策までを幅広く解説しました。
「うちは小さな会社だから」「昔からこの金額だから」という感覚で運用していると、思わぬ落とし穴にハマるかもしれません。
今一度、自社の賃金体系を見直し、「安心して働ける会社」であることを内外にアピールしましょう。それが、採用力・定着率の向上にもつながり、結果的に企業価値を高める最良の近道になるのではないでしょうか。