顧問社労士を変更・お探しの方は100社以上のサポート実績を持つTSUMIKI社会保険労務士事務所へ

スマートウォッチ・アップルウォッチは仕事中であれば使用禁止にできる?

本記事ではこのようなお悩みを解決いたします
  • 職場でスマートウォッチやアップルウォッチの利用を禁止したいが、法律的に問題ないのか知りたい
  • 仕事中にアップルウォッチを頻繁に見ている従業員がいるが、どのように対応していいのか分からない

スマートウォッチの普及に伴い、職場での使用に関する課題が浮上しています。特に一定の業種・業界においては精密機器の取り扱いに制限が必要な場合もありますが、同時に「従業員が身につけるものをどこまで制限しても良いのか?」という懸念につながります。

今回のコラム記事では、職場におけるスマートウォッチ(主にアップルウォッチ)について、仕事中に使用を禁止しても良いのか、会社のルールとして設定しても問題ないのか解説いたします。

執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

このページの概要

スマートウォッチの職場での使用実態と課題

近年、スマートウォッチは急速に普及しており、町中だけでなく職場で身につけている方も多いのではないでしょうか。

スマートウォッチは単なる時計ではなく、便利なアプリ・ツールがありますが、情報セキュリティの観点で新たな課題も浮上することがあります。

まずは、スマートウォッチの普及状況や職場での使用に関する問題について確認してみましょう。

アップルウォッチなどスマートウォッチの普及状況

スマートウォッチの市場は拡大し続けており、中でも「Apple Watch」は牽引役となっています。2019年の時点でアメリカでは、成人のスマートウォッチ普及率は11.1%に達しており、おおよそ2,870万人が利用していると予測されています。

日本においても、18歳から79歳を対象とした調査において、Apple Watchの所有率は9.7%と高い数値を誇っており、20代男性では24.7%と高い普及率を示しています。

20代男性の利用率の高さは、職場での着用率にも関わっていることが考えられます。

仕事中のスマートウォッチ使用による問題点は?

スマートウォッチの職場での使用については、主に

  • 集中力の低下
  • 情報セキュリティのリスク
  • 職務専念義務との兼ね合い

上記について問題点を指摘されることがあります。

集中力の低下

スマートウォッチは通知を即時に確認できる便利さがある反面、仕事中の私的なSNSやメールのやり取りを助長し、業務への集中を妨げる可能性があります。

日常生活においては、LINEの通知は非常に便利です。しかしながら、勤務時間中に通知が頻繁にあると、集中力低下を招きます。

情報セキュリティのリスク

例えば、

  • 機密情報を取り扱う施設
  • 機密情報を保管している場所

上記のように、情報セキュリティに細心の注意が必要な場合には、スマートウォッチを身に着けていることが「情報漏えいリスク」そのものになります。

職務専念義務との兼ね合い

労働契約において、従業員には「職務専念義務」が当然発生します。これは、就業時間中は仕事に専念すること(=私的行為は必要最低限に抑えること)が求められるものです。

スマートウォッチの場合は様々なアプリが利用できるため、腕時計に比べて「過度な私的行為」につながる懸念もあります。

社会保険労務士 矢野貴大

スマートウォッチ(アップルウォッチ)の利用について、各問題点を考慮した上で使用制限を検討したい、という経営者の方からご相談をいただくことがあります。全面的な禁止ではなく、業務内容や状況に応じた柔軟な対応をおすすめいたします。

スマートウォッチの仕事中使用を禁止できる法的根拠

スマートウォッチの職場使用が増加する中、企業がその使用を制限したり禁止したりする動きが見られます。しかし、このような制限が法的に認められるのかどうかは企業・従業員の双方にとって関心事となっています。

スマートウォッチの仕事中使用を禁止できるのかどうか、法的根拠について詳しく見ていきましょう。

前提:職務専念義務との関連性

スマートウォッチの使用を禁止するにあたり、重要な観点は「職務専念義務にどの程度関わってくるのか?」です。

職務専念義務を簡単に整理すると「勤務時間中は、仕事に集中しましょう」という義務になります。これは、会社と従業員が雇用契約を締結した時点で当然に発生すると言われています。

スマートウォッチを着用していることで、

  • 私的なSNSやメールの確認をしている
  • ゲームなどのアプリをインストールして遊んでいる

このように、業務に集中していない場合には職務専念義務に反している可能性が高くなるた注意が必要です。特に、スマートウォッチは小型で目立ちませんので、携帯電話・スマートフォンに比べて私的利用を助長していることも考えられます。

関連するご相談事項として「業務時間中にPCを私的利用する従業員を解雇できるのか?」というものがあります。下記労務Tipsにて解説していますので、併せてご一読いただければ幸いです。

就業規則での規定方法

職務専念義務を理由に、職場でのスマートウォッチ利用を禁止する場合、就業規則に明確に記載することが必要となります。

就業規則は労働条件・服務規律を定める会社のルールブックとなりますので、以下のような点に注意して規定作成を検討してください。

スマートウォッチやアップルウォッチの職場利用を禁止する場合
  1. 対象デバイスの明確化:「スマートウォッチ」という一般的な表現だけでなく、具体的な製品名(例:Apple Watch、Fitbitなど)を挙げることで、規定の対象を明確にします。
  2. 使用制限の範囲:完全禁止なのか、特定の場所や時間帯での使用制限なのかを明確に記述しましょう。
  3. 違反時の措置:規定に違反した場合の懲戒処分などについても明記します。
  4. 例外規定:健康管理目的など、特定の条件下での使用を認める場合はその旨を明記します。

このように具体的かつ明確な規定を設けることで、従業員の理解を得やすくなり、また法的にも強固な根拠となります。

労働契約法における合理性の判断基準

就業規則を変更時、就業規則の変更が合理的であると認められる場合は変更後の内容を周知することで「労働者の個別の合意がなくても有効」となる可能性があります。

スマートウォッチの使用制限を導入する際も、この「合理性」が重要な判断基準となります。合理性の判断には以下の要素が考慮されます。

  1. 労働者が被る不利益の程度
  2. 労働条件変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉状況
  5. その他の関連する事情

例えば、情報セキュリティリスクの高い職場での使用制限は、変更の必要性が高いと判断される可能性が高くなります。一方で、過度に広範囲な制限は労働者の不利益が大きいと判断される可能性があります。

労働契約法の根拠条文をみる

第十条(就業規則による労働契約の内容の変更)

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

e-GOV「労働契約法

プライバシーへの配慮

一方で、スマートウォッチの使用制限を導入する際は、従業員のプライバシーへの配慮も必要です。

特に健康管理機能を利用している従業員にとっては、スマートウォッチが重要なツールとなっている可能性があります。

そのため、完全な使用禁止ではなく、特定の機能(例:通知機能)のみを制限したり、セキュリティ上重要な場所でのみ使用を制限したりするなど、柔軟な対応を検討することが望ましいでしょう。

また、従業員の健康管理ニーズと企業のセキュリティニーズのバランスを取るため、代替手段(例:会社支給の健康管理デバイス)の提供を検討することも一案です。

このように、スマートウォッチの仕事中使用の制限には法的な根拠がありますが、その導入には慎重な検討と従業員との十分なコミュニケーションが不可欠です。企業の事情と従業員の権利のバランスを取りながら、適切な規定を設けることが重要です。

【業種・職種別】スマートウォッチの利用制限・活用例

スマートウォッチの普及に伴い、様々な業種や職種で使用規制が設けられています。

これらの規制は、安全管理、衛生管理、情報セキュリティなど、それぞれの業界特有の課題に対応するために導入されています。主要な業種における具体的な規制事例をご紹介いたします。

製造業・建設業での安全管理

製造業や建設業では、作業現場での安全確保が最優先事項です。そのため、スマートウォッチの使用を禁止するルールを設けることがあります。

製造業・建設業の禁止例
  • 作業中の装着禁止:機械への巻き込み防止のため、腕時計を含むすべての装飾品の着用が禁止している場合があります。
  • 通知機能の制限:突然の通知音やバイブレーションによる注意散漫を防ぐため、作業エリアでは通知機能をオフにするよう指示するケースがあります。

一方で、現場作業は健康管理が必須です。その観点から、スマートウォッチで計測したバイタル(心拍数)や温湿度計から計測した環境を集約し、従業員の健康管理をしている企業もあります。

医療・介護分野での衛生管理

医療・介護分野では、患者の安全と衛生管理が重要です。スマートウォッチの使用に関しても、これらの観点から規制が設けられています。

医療・介護業の禁止例
  • 腕時計の禁止:清潔保持のため、スマートウォッチを含むすべての腕時計類の着用が禁止されています。
  • 機密情報の保護:患者情報を保護するために、スマートフォン・スマートウォッチを含む電子デバイスの持ち込みを一切許可していないクリニックもあります。

    とあるクリニックでは、医療スタッフのスマートウォッチ使用を原則禁止とし、特定の管理職のみが緊急連絡用として限定的に使用を許可されるという事例があります。

    スマートウォッチ使用に関する就業規則・社内ルール策定のコツ

    スマートウォッチの職場での使用に関する適切なルールを整備することは、企業にとって重要な課題になり得ます。スマートウォッチやアップルウォッチを職場で禁止・制限する場合の規定方法について、確認していきましょう。

    就業規則・社内ルールで規定すべき文面

    スマートウォッチ使用に関するルール整備をする場合、明確で具体的なガイドラインを作成することが重要です。以下の点に注意して就業規則の整備を行いましょう。

    STEP

    対象デバイスの明確化

    • 「スマートウォッチ」の定義を明確にし、対象となる具体的な製品名(Apple Watch、Fitbit、Galaxy Watchなど)を列挙する
    • 将来的な技術進化も考慮し、「ウェアラブルデバイス」など、より広い概念も含めて定義することを検討
    STEP

    使用可能な場所と時間の特定

    • オフィスエリア、会議室、生産現場など、場所ごとの使用ルールを明文化する
    • 勤務時間中、休憩時間、時間外労働中などの時間帯別のルールを設定する
    STEP

    許可される機能と禁止される機能の区別

    • 時刻確認、歩数計測など、基本的な機能の使用可否を明記する
    • メール通知、SNS、通話機能など、業務に影響を与える可能性のある機能の使用制限を具体化する
    STEP

    セキュリティ要件の設定

    • パスコードロックの義務付けや、会社のWi-Fiネットワークへの接続制限など、セキュリティに関する要件を策定
    • 機密情報を扱う部署や会議での使用制限を具体的に記載する
    STEP

    違反時の対応

    • 就業規則や服務規律への違反として、処罰の内容を明文化
    • 警告、使用禁止、懲戒処分など、段階的な対応にすることが大切

    従業員への周知・合意形成

    スマートウォッチやアップルウォッチの利用を急に制限するとなると、従業員からの反発・不満増加につながることがあります。特に就業規則の変更となると従業員の理解と協力が不可欠ですので、慎重に合意形成を図りましょう。

    STEP

    事前の情報共有

    • 就業規則変更となる背景や目的を全従業員に周知
    • 生産性向上やセキュリティリスク軽減など、具体的かつ納得度の高い背景を説明
    STEP

    意見収集

    • アンケートやヒアリングを通じて、従業員の使用実態や懸念点を調査
    • 部署ごとの特性や需要の違いを考慮し、柔軟な対応の可能性を検討する
    STEP

    フィードバックの反映

    • 収集した意見やフィードバックを基に、就業規則変更案を修正
    • 特に重要な懸念事項については、対応策を具体化する
    STEP

    説明会の開催

    • 最終的なポリシー案について、全社的な説明会を開催
    • 質疑応答の時間を設け、従業員の疑問や不安に直接答える機会を設けることが大切

    まとめ:スマートウォッチ規制の今後と企業の対応

    スマートウォッチの職場での使用に関する規制は、テクノロジーの急速な進化と労働環境の変化に伴い、今後も大きく変わっていく可能性があります。企業は、これらの変化に柔軟に対応しながら、生産性の向上と従業員の権利のバランスを取る必要があります。

    職場におけるスマートウォッチ・アップルウォッチの使用を禁止したり、一定の制限を設ける場合、就業規則の整備が必要となります。具体的な文面にお困りの企業様は、お気軽にご相談いただけますと幸いです。

    このページの概要