試用期間と契約社員の違いや雇用する上で注意すべきポイントを解説

従業員の採用を考えている経営者の方から「試用期間と契約社員はどのように異なるのか。雇用されている期間が決決まっているのであれば、同じ制度なのか?」といったご相談をいただきました。
試用期間・契約社員と聞くと、確かに一定の期間が設けられている観点でいくと同じようなニュアンスに聞こえますが、実は大きな違いがありますので注意が必要です、
本記事では、経営者や人事担当者の方に向けて、試用期間と契約社員の違いや雇用する上でのそれぞれの活用方法を解説いたします。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

試用期間と契約社員:何が違うの?
企業経営や人事労務の業務に携わる中で、従業員の採用における雇用形態の選択は重要なポイントになっています。
特に「試用期間」と「契約社員」という言葉は、それぞれ異なる意味や考え方がある一方で、時として混同されることがあります。まずは、それぞれの定義と違いについて確認してみましょう。
試用期間と契約社員の基本的な定義
試用期間とは、新しく雇用された従業員が一定の期間、その適性や能力を試される期間を指します。この期間中は、雇用契約の解約の制限が少し緩いものと考えられたり、本採用時と比べて労働条件を一定低くする傾向にあり、企業は新しい従業員の能力や適性を確認し、従業員自身も企業の環境や方針を理解することができます。
一方、契約社員とは、一定の期間の雇用契約を結んだ従業員を指します。この契約期間が終了すると、契約の更新や正社員への昇格、あるいは契約の終了など、さまざまな選択肢が考えられます。
要するに、試用期間は「期間」を指し、契約社員は「雇用形態」を指すため、本質的に異なる概念であることを理解することが重要です。
試用期間 | 契約社員 |
---|---|
一定期間「適正や能力」を試される期間であり、本採用後も原則雇用形態は変わらない。 | 雇用形態そのものに期間が設けられているため、その期間が終了するタイミングで「更新する・しない」という選択肢がある。 |
「最初は契約社員・その後に正社員登用」は問題ない?
労務相談をいただく企業の中で「最初は契約社員として、問題ない従業員であれば正社員に登用するのは問題ないのか?」というご相談をいただくことがあります。
正社員として登用した場合、日本の労働規制において解雇は難しいのが実情です。一方で契約社員として採用した場合、基本的に契約期間満了によって雇用は終了しますが、本人の成績や会社の業績を勘案して、契約期間満了時に「正社員として採用し直す」こと自体は問題ではありません。
ただし、前述の「試用期間」と混同されることがありますが、実際には契約期間全体が試用期間として扱われるわけではない点に注意が必要です。

また、正社員としてではなくあくまで有期の契約社員として採用であり、契約満了時に状況次第では正社員登用の可能性がある、という形で説明をすることが大切です。ただし、必ず正社員になれるといった明言は避けておくべきでしょう。
なぜ「試用期間=契約社員」という誤解が生じるのか?
「試用期間=契約社員」という誤解が生じる背景には、「正社員登用前提の契約社員」という形で採用を行っていることが考えられます。
この場合、新しい従業員は一定の期間、契約社員として勤務した後、その実績や適性に応じて正社員に登用されるケースがあるため、この「契約期間」がまるで「試用期間」のように感じられるのでしょう。
しかし、契約社員の期間が自動的に試用期間として扱われるわけではなく、その違いを明確にしておかなければ従業員とのトラブルにつながりますので、気をつけておきましょう。
試用期間や契約社員の期間は半年が妥当?
試用期間や契約社員の雇用形態において、どの程度の期間を設ければいいのか悩ましい方もおられると思います。半年程度を一つの目安に置いているケースもありますが、その期間の妥当性については
- 企業の業界や規模
- 採用予定者の年齢やポジション
- 制度としての目的や意図
これらによって異なってきます。そのためここでは一般的に半年の期間が「試用期間」や「契約社員の期間」として妥当なのか考えてみましょう。
試用期間の場合
結論、試用期間においては「半年(6ヶ月)」程度は妥当かと考えられます。
- 評価期間としては十分
- 新入社員の適性やパフォーマンスを評価するには、数ヶ月の期間だけでは不十分ですが、半年間は、四半期の業務サイクルを2回経験することができます。業務自体のピーク・オフピークも体験できる可能性も高く、総合的に評価がしやすいといえます。
- 従業員の適応期間
- 新しい職場や職務に慣れるのには時間がかかる場合があります。特に人間関係は仕事を行う上で重要なポイントになるでしょう。半年程度時間があれば、従業員に職場の文化や業務内容を理解し、本来のパフォーマンスを発揮する時間を与えることができます。



実は、試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労働基準法にはありません。しかしながら、あまりに長い期間を試用期間とすることは従業員の地位が不安定になりますので避けるべきです。
契約社員の場合
契約社員として雇用する場合、その契約期間を「半年(6ヶ月)」とするのは短いことが考えられます。ただし、業界やビジネスモデルによって、判断は異なりますので一つの参考としてください。
- 業務内容と研修期間がマッチしない可能性
- 基本的に契約社員は、短期的な業務を依頼する傾向にありますが、特定のスキルや知識が必要な場合、短期間では十分に業務に取り組むことが難しいかもしれません。
- 採用リソースとコスト
- 短期間の雇用となると、再度の採用活動や研修のコストが発生する可能性があります。これらのコストとリソースを考慮しなければ、採用・離職サイクルの早さが企業の負担となり得ます。
- 雇用の安定性とモチベーション
- 契約期間が短いと、社員の雇用の安定感が低く、その結果としてモチベーションの低下や早期退職のリスクが高まる可能性があります。再契約の可否を明確にすることで、契約社員の不安を減少させ、モチベーションをコントロールすることも大切です。



形式上「半年」の雇用形態を取りながら、契約更新を当たり前にしている企業があります。契約が一定期間超えていたり、複数回契約を更新している場合には「雇止め法理」が関わってきますのでご注意ください。
試用期間・契約社員の期間を更新しないケースとは?
試用期間、契約社員では、それぞれ一定の期間が経過すると、
このような判断をすることになります。それぞれどういった観点で判断することになるのか確認しましょう。
試用期間の場合
試用期間は、新入社員の能力や適性を評価する期間として設けられます。その期間中に以下のような理由で試用期間での解雇(本採用を拒否)することが考えられます。
- 技術やスキルの不足:採用時の評価や面接では確認できなかった実際の業務能力が基準を満たしていない
- 組織への適合性:企業文化やチームとの相性が良くない、または社内ルールやマナーを守れていない
- 態度やモチベーションの問題:遅刻、欠勤が多い、または業務に対する取り組み方が適切でない
- 健康や安全の懸念:健康状態やその他の理由で業務継続が難しいと判断される
試用期間中における本採用拒否については、下記の労務Tipsで詳しく解説しています。併せてご確認ください。


契約社員の場合
契約社員の場合、特定の期間が経過した際の契約更新は企業の経営判断に委ねられています。以下のような理由で契約更新を行わないことがあります。
- 業績や経営状況:経営上の理由や業績悪化により、人員の削減やコストカットが必要と判断された
- 業務のニーズ変動:契約社員が担当していた業務の量や内容が変動し、その職種や役職の必要性が低下または変化した
- パフォーマンスの不足:契約期間中の業績や成果が企業の期待や基準を満たしていない
- 組織内の変動:組織の再編や部署の変更、事業の変更などにより、該当のポジションがなくなった
- 長期の不在や健康上の問題:長期の病気や休職により業務継続が難しいと判断された
ただし、雇用契約書の内容や今までの契約更新期間・回数によって、一定のルールが発生します。契約更新を巡った労務トラブルは発生しやすいため、専門家に随時相談することをおすすめします。
結論:試用期間と契約社員は人材マネジメントをもとに使い分ける
試用期間と契約社員の採用は、経営の効率化や人材の適正評価に役立つ手段として多くの企業で活用されています。しかし、その活用方法を適切にマネジメントすることが、企業の持続的な成長を支える鍵となります。
試用期間と契約社員にはそれぞれ違いはありますが、人材活用の観点では共通のポイントがありますので、ぜひ参考にしてください。
- 明確な評価基準の設定
- 試用期間や契約期間の目的、評価基準を明確にし、それを従業員と共有することが重要です。
- オンボーディングの徹底
- 新入社員や契約社員の業務適応を早めるための研修やサポートを実施しましょう。
- 定期的なフィードバック
- 試用期間中や契約期間中の業績や成果、態度などを定期的に評価し、フィードバックを行うことで、期間終了時の判断をスムーズにします。
- 正社員昇格の機会提供
- 契約社員に対して、一定の成果を上げた場合の正社員昇格の機会を提供することで、モチベーションの向上や優秀な人材の獲得・定着が期待できます。
経営者や人事担当者として、試用期間や契約社員の採用・管理に関する課題や不安を抱えている方は多いかと思います。
弊社は、企業の雇用形態の設計から採用活動をサポートしてきた経験を活かし、各社の状況やニーズに合わせた最適な雇用管理をご提案しております。
日々の労務管理の中で疑問や課題に直面した際は、お気軽にご相談ください。