雇用保険に加入できない人とは?雇用保険の適用除外の条件を社労士が解説
従業員を雇用すると、雇用契約・労働条件の内容によっては「雇用保険」や「社会保険」の加入が必要になります。中でも「雇用保険」は、従業員が失業した際に利用できる失業手当に関わる重要な制度ですが、すべての従業員が雇用保険に加入できるわけではありません。
今回のコラム記事では、雇用保険に加入できない人の具体的なケースを解説いたしますので、従業員の方をこれからはじめて雇用される方や、改めて雇用保険制度について確認されたい方はぜひご一読ください。
雇用保険は労働者の生活を支える重要な制度ですが、すべての人が加入できるわけではありません。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
雇用保険の基本と適用除外の概要
雇用保険は失業した場合に労働者の生活を守る重要な制度ですが、その仕組みや適用条件を正しく理解することが大切です。まずは雇用保険の基本的な概念と、誰が加入できるのか、また誰が適用除外となるのかについて、わかりやすく解説します。
雇用保険制度の目的と重要性
雇用保険制度は、失業した労働者の生活を支え、再就職を促進するための重要な社会保障制度です。雇用保険制度の役割としては、主に次の4つがあります。
- 失業時の生活保障:失業給付金により、一時的に収入が途絶えた際の生活を支援すること。
- 再就職支援:職業訓練や就職活動支援を通じて、スムーズな再就職をサポートすること。
- 雇用の安定:企業向けの助成金制度により、景気変動時の雇用維持を促進すること。
- 能力開発:在職中の労働者のスキルアップを支援し、キャリア形成を後押しすること。
雇用保険は単なる失業時の保障だけでなく、労働市場全体の健全性を維持する上で欠かせない制度となっています。
雇用保険の適用事業所
従業員の方が雇用保険に加入する前に、会社(もしくは個人事業主)として雇用保険制度の手続きが必要となります。これは、従業員を1人でも雇用する場合には業種・事業規模(従業員数)などに関わらず、すべての会社や事業所が適用事業として取り扱いがされます。
ただし、農林水産の事業のうち一部の事業は、当分の間、任意適用事業(暫定任意適用事業)とされています。
ただし、後述する「雇用保険に加入できない人」に該当する方のみを雇用している場合には、雇用保険の適用事業所にはなりえませんので注意が必要です。
雇用保険の一般的な加入条件
では、雇用保険に加入できる人はどのような条件なのでしょうか。雇用保険に加入できる一般的な条件としてよくご質問をいただく
- 雇用形態
- 労働時間
- 雇用期間
- 年齢・国籍
上記について、どのような要件があるのか確認してみましょう。
なお、雇用保険の適用事業者に雇用される方で、条件を満たす場合には「本人の意思にかかわらず」雇用保険に加入となりますので、注意しましょう。
雇用形態
結論、従業員との雇用形態は問われずに、労働者性が認められることが重要となります。そのため、労働時間・雇用期間等が雇用保険の加入条件を満たし、労働者性が認められると正社員・パート・アルバイトといった名称は関係がありません。
労働時間
原則として、週の所定労働時間が20時間以上であることが求められます。
この労働時間とは、雇用契約書や就業規則等によって「その従業員が通常の週に勤務すべき時間」のことで、祝祭日や年末年始、夏季休暇などの特別な休日を含まない週での労働時間を確認する必要があります。
雇用期間
同一の事業主の適用事業所にて31日以上の雇用見込みがあることが条件となります。例えば、雇用契約における期間の定めがない(いわゆる正社員)場合や、6ヵ月や1年といった有期雇用契約の場合には条件を満たすことになります。
年齢制限・国籍
2017年1月1日以降、法改正により65歳以上の従業員についても「高年齢被保険者」として雇用保険の適用対象となりました。2024年12月時点において、雇用保険の加入に年齢要件はありません。65歳・70歳のシニア世代の方を雇用したとしても、他の条件を満たしているのであれば雇用保険の加入が必要になります。
また、日本国籍であるかどうかは問われません。在留資格が就労可能なものであれば、外国人労働者も加入できます。
これらの条件を満たしていても、後述する適用除外に該当する場合は加入できないことがあります。
雇用保険に加入できない人の具体的なケース
雇用保険は多くの労働者を対象としていますが、特定の条件に該当する人々は加入できません。
適切な雇用管理と労働者の権利保護のために、制度理解は重要となりますので、雇用保険の適用除外(雇用保険に加入ができない人)となる具体的なケースや特徴について確認していきましょう。
労働時間が週20時間未満の方
雇用保険の加入条件の一つに、週の所定労働時間が20時間以上であることが挙げられます。そのため、週20時間未満しか働かないいわゆる短時間労働者は雇用保険へ加入ができません。
例えば、1日3時間・週5勤務の労働条件の場合、週の労働時間は15時間となりますので雇用保険に加入ができません。
労働時間が週20時間未満でも加入ができる例外
2022年1月より、雇用保険マルチジョブホルダー制度が新設されています。本来であれば勤務先の会社で週の労働時間は20時間以上ある必要がありますが、複数の会社に雇用される65歳以上の方で、週の労働時間が合計20時間以上になる場合には特例的に「マルチ高年齢被保険者」として雇用保険へ加入することが可能です。
マルチジョブホルダー制度は、従業員本人からハローワークに申し出する必要があります。ただし、会社としても雇用状況について情報提供が必要になりますので、制度があることについてはあらかじめ確認しておきましょう。
雇用期間が31日未満の方
雇用期間が31日未満の方は、原則雇用保険への加入ができません。
例えば、雇用期間が25日で雇用を更新しない旨の明示がある場合には、雇用開始日から31日の条件を満たしませんので、雇用保険の対象外です。
ただし、雇用契約書に「更新する見込みがある」などの記載がある場合や、実際に1ヶ月以上働いた実績がある場合は、雇用保険の加入対象になってきますので、契約内容に応じた対応が必須になります。
学生・生徒(昼間学生)の方
原則として、学生・生徒等(昼間学生)は適用事業に雇用されたとしても、雇用保険に加入できません。
昼間学生とは?
学校教育法第1条、第124条又は第134条第1項の学校の生徒又は生徒を指しています。
(第一条)
この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。(第百二十四条)
第一条に掲げるもの以外の教育施設で、職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ることを目的として次の各号に該当する組織的な教育を行うもの(当該教育を行うにつき他の法律に特別の規定があるもの及び我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く。)は、専修学校とする。(第百三十四条)
e-GOV「学校教育法」
第一条に掲げるもの以外のもので、学校教育に類する教育を行うもの(当該教育を行うにつき他の法律に特別の規定があるもの及び第百二十四条に規定する専修学校の教育を行うものを除く。)は、各種学校とする。
学生・生徒で雇用保険の加入ができる例外①
昼間学生であっても、次に該当する場合には雇用保険に加入することが可能とされています。実際に対象となるケースはそこまで多くないかもしれませんので、見落とさないように注意が必要です。
- 卒業見込証明書を有する者であって、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一事業所に勤務する予定の者
- 休学中の者。(この場合、その事実を証明する文書が必要となります)
- 事業主の命により又は、事業主の承認を受け雇用関係を存続したまま大学院等に在学する者
- 一定の出席日数を課程終了の要件としない学校に在学する者であって、当該事業において、同種の業務に従事する他の労働者と同様に勤務し得ると認められる者。(この場合、その事実を証明する文書が必要となります)
学生・生徒で雇用保険の加入ができる例外②
昼間学生とは、学校教育法第1条、第124条又は第134条第1項の学校の生徒又は生徒を指しています。
そのため大学の夜間学部・高等学校の夜間又は定時制過程であれば週の労働時間・雇用期間を満たしている場合は加入しなければなりません。
季節雇用される方
季節的に雇用される場合で、
- 4か月以内の期間を定めて雇用される
- 1週間の所定労働時間が30時間未満
上記いずれかに該当する方は雇用保険に加入ができません。
ただし、当初の予定期間を超えて継続して雇用される場合は、その時点から雇用保険の対象となる可能性があります。季節労働者の雇用保険加入については、個別のケースに応じて慎重に判断する必要があります。
季節的に雇用される「季節労働者」って?
「季節的業務に期間を定めて雇用される者又は季節的に入離職する者」とされており、例えばスキー場やゴルフ場、観光施設などが該当します。
船員の方
船員であって、特定漁船以外の漁船に乗り組むために雇用される方(1年を通じて船員として雇用される場合を除き)は雇用保険の適用対象外とされています。
役員・非常勤役員
役員・非常勤役員は雇用保険に加入はできません。これは、役員が労働者としてではなく、経営者の立場にあるとみなされるためです。
ただし、役員であっても就業実態により労働者性が認められる場合は、被保険者となる可能性があります。例えば、取締役が同時に部長や支店長などの役職を兼任し、実質的に労働者として働いている場合は、個別に判断されることがあるため注意しましょう。
これらのケースは一般的な指針ですが、実際の適用は個別の状況に応じて判断されることがあります。雇用保険の加入について疑問がある場合は、ハローワークや社会保険労務士に相談することをおすすめします
家事使用人の方
家政婦(夫)紹介所を経由するなどで、ご家庭と直接労働契約を結び、ご家庭との雇用関係の下において家事業務を行う人方を「家事使用人」と呼びます。家事使用人も原則として雇用保険に加入はしません。
事業主と同居の親族の方
個人事業の事業主(実質的に代表者の個人事業と同様と認められる法人を含む)と同居している親族の方は、下記の例外を除いて雇用保険の加入ができません。
事業主と同居の親族の方で雇用保険の加入ができる例外
事業主と同居の親族であっても、次のいずれにも該当することで雇用保険被保険者として雇用保険に加入ができる場合があります。
- 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
- 就業の実態が当該事業所における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。
- 具体的には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払方法・締切・支払いの時期などが、就業規則その他これに準ずるものに定められ、その管理が他の労働者と同様になされていること。
- 事業主と利益を一にする地位(取締役等)にないこと。
- この場合、登記事項証明書、当該事業所に雇用されている他の労働者の出勤簿などの関係書類等の提出が必要となります。同居の親族以外の労働者がいない場合は、被保険者とはなりません。
雇用保険適用除外者への対応と注意点
雇用保険の適用除外者に対する適切な対応は、企業の労務管理において重要な課題にもなります。勤務意欲があり、これから組織の一員として頑張ろうとしている方と、雇用保険の加入可否を巡ったトラブルを避けるためにも、
- 適用除外者への対応のポイント
- 労働条件変更時の注意点
について、解説いたします。
適用除外者の労務管理のポイント
雇用保険の適用除外者の労務管理には、主に2つのポイントを押さえておきましょう。
- 明確な説明
- 雇用契約時に、雇用保険適用除外となる理由を丁寧に説明し、従業員の理解を得ることが重要です。
- 定期的な状況確認
- 労働時間や雇用期間が変更される可能性があるため、定期的に従業員の就業状況を確認し、適用要件を満たすようになった場合は速やかに加入手続きを行います。
労働条件変更時の雇用保険加入の検討
雇用保険に加入をしない方としては、一般的に「労働時間が短いパートやアルバイト」が挙げれます。この場合、労働条件については年に一度変更をされている企業も多いのではないでしょうか。
労働条件が変更されると、雇用保険への加入可否が見直しされることにもなりますので注意が必要です。
- 労働時間の増加:週の所定労働時間が20時間以上になる場合は、雇用保険加入の対象となる可能性があります。
- 雇用期間の延長:31日以上の雇用見込みが生じた場合、加入要件を満たす可能性があります。
- 学生アルバイトの卒業:学生が卒業し、継続して雇用される場合は、雇用保険加入の対象となります。
見出し2: 雇用保険加入のメリットと未加入のリスク
雇用保険は、労働者と企業の双方に重要な利点をもたらす制度です。しかし、その加入を怠ると深刻な問題に発展する可能性があります。雇用保険加入のメリットと未加入のリスクについて、従業員と企業それぞれの視点から詳しく解説します。
雇用保険は重要な制度ですので、適切な管理を心がけましょう!
従業員にとっての雇用保険加入のメリット
雇用保険は従業員にとって、生活の安定と将来の不安を軽減する重要な制度です。従業員目線での雇用保険加入のメリットとしては、次の5つが考えられます。
- 失業時の生活保障:失業した際に失業手当(基本手当)を受給でき、次の仕事を探す間の生活費用が受けられます。
- 育児・介護支援:育児休業給付金や介護休業給付金により、家族のケアに専念できる期間の収入を確保できます。
- スキルアップの機会:教育訓練給付金を利用して、新しい技能を習得するための機会につながります。
- 再就職支援:早期に再就職した場合、再就職手当が支給されるなど、積極的な就職活動を後押しします。
- 高齢者の就労支援:60歳以上の方が継続して働く場合、高年齢雇用継続給付を受けられる可能性があります。
これらの給付は、従業員の生活の質を向上させ、キャリア形成を支援する重要な役割を果たすと言えます。
企業にとっての雇用保険加入のメリット
雇用保険は企業にとっても、従業員の安定と事業の継続性を支える重要な制度です。
- 助成金の活用:雇用の安定や人材育成に関する様々な助成金を利用できる可能性があります。
- 社会的信頼の獲得:法令遵守の姿勢を示すことで、企業の社会的評価を高めることができます。
- リスク管理:経済状況の変化に伴う人員整理の際も、従業員の生活を支援する制度が整っていることで、円滑な対応が可能になります。
雇用保険未加入のリスクと罰則
雇用保険への加入を怠ると、従業員と企業の双方に深刻なリスクが生じます。
- 法的罰則:雇用保険への加入条件を満たしている一方で、手続きを怠った場合は雇用保険法違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
- 従業員からの信頼喪失:各種給付を受けられないことで、従業員の不満や不信感が高まり、トラブルに発展する恐れがあります。
- 遡及加入の負担:未加入が発覚した場合、過去に遡って保険料・追徴金を納付する必要があります。
- 社会的評価の低下:法令違反企業として認識され、取引先や顧客からの信頼を失う可能性があります。
- 労働局からの是正指導:度重なる指導・勧告を受けることで、事業運営に支障をきたす恐れがあります。
適切な加入手続きと管理を行うことが、企業の健全な発展には不可欠です。
雇用保険の加入に関するよくある質問(FAQ)
雇用保険に関して、対応方法が正しいのかどうかご質問をいただくことがあります。加入条件の境界線にあるケースや、社会保険との兼ね合い等について、弊社の関与先様から寄せられる内容をFAQとしてまとめましたので、ぜひご参考ください。
所轄のハローワークによっては、一部見解が異なる可能性もあります。詳細については最寄りのハローワークにご相談されることをおすすめいたします!
週の労働時間が20時間の場合は雇用保険に加入できますか?
原則として週20時間「未満」の場合に雇用保険の加入対象外となります。
そのため、週雇用契約において週の労働時間が20時間ちょうど(1日4時間・週5勤務)であれば、雇用保険に加入する必要があります。
週の労働時間が20時間を超えたり超えなかったりします。この場合は雇用保険に加入できないのでしょうか?
雇用保険の加入条件については「雇用契約」の内容によって個別に判断します。
例えば、雇用契約書において
- 「週20時間以上の労働」と明記されていれば、雇用保険の加入ができる
- 「週20時間未満の労働」と明記されていれば、雇用保険に加入ができない
上記のように判断がされます。
そのため、会社の閑散期・繁忙期を理由に週の労働時間が「20時間を超えたり、超えなかったり」したとしても、すぐに雇用保険の資格を取得したり喪失したりすることはありません。
ただし、雇用契約が「週20時間未満」であるにも関わらず、恒常的に週の労働時間が20時間を超える場合には雇用保険の加入が求められる可能性が高いため、注意しましょう。
2ヶ月の短期契約で雇用されましたが、雇用保険に加入する必要がありますか?
週の労働時間が20時間以上であり、雇用見込み期間が31日以上の場合は原則として雇用保険の加入対象となります。
雇用保険と健康保険・厚生年金保険の加入条件は同じですか?
雇用保険と社会保険の加入条件は異なります。
雇用保険は週20時間以上の労働を条件としていますが、健康保険・厚生年金保険(社会保険)は、原則として週の労働時間が正社員の4分の3以上であることが条件です。
そのため、雇用保険には加入しているが社会保険には加入していないケースもあります
雇用保険の加入手続きを忘れていましたが、遡って加入することはできますか?
雇用保険は遡って加入することができます。手続きの詳細は下記のコラム記事にて解説していますので、併せてご一読ください。
まとめ:適切な雇用保険の手続きを行いましょう
雇用保険は、従業員の生活を支える重要なセーフティネットであると同時に、企業にとっても人材確保や経営の安定化に寄与する重要な制度です。
適切な雇用保険管理は、法令遵守として当たり前に必要ですが、従業員の安心と企業の成長を両立させる重要な要素です。一方で適宜法改正も行われているため、常に情報のキャッチアップが求められます。
定期的な情報収集と社内制度の見直しを行い、常に最適な状態を維持することが重要となります。不明点がある場合は、ハローワークや社会保険労務士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。