【経営者・人事担当者向け】権利ばかり主張する社員への対応策
近年、働き方改革や情報化社会により、従業員が「働き方」や「職場環境」について他社と比較しやすい状況になっていることもあり、社員の権利意識の高まりが見られます。
これは、多様なバックグラウンドを持つ社員が増える中で、健全な組織運営には欠かせない要素です。一方で、権利を過剰に主張する社員が現れた場合、経営者や人事担当者はどのように対応すれば良いのでしょうか?
今回のコラム記事では「権利ばかり主張する社員への対応策」として権利主張型社員と効果的に向き合うための取り組みやコミュニケーション方法を、実践的な事例を踏まえて解説いたします。
職場の調和を保ちながら、会社・従業員が同じ方向性を向くための対応策をお伝えいたしますので、組織運営のヒントになれば幸いです。
従業員は雇用契約により「働く義務」が課せられますが、労働基準法や就業規則で「権利」が発生します。そのため「権利の主張」自体は問題ありません。「働く義務」を放棄して「権利の主張ばかりする」ケースの対応指針をお伝えいたします!
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
「権利ばかり主張する社員」の背後にある心理とは?
近年、組織運営を円滑にするためには従業員と経営層の間で権利と責任のバランスをどのように取るかが重要なテーマとなっています。
その中で「権利ばかり主張する社員」がいる場合、対応方法を誤ると組織運営にマイナスな影響を及ぼします。そのため、権利を主張する背後にある心理を把握し、適切に対応することが組織全体の調和と生産性の維持することが求められます。
まずは権利主張型の社員の心理的特徴を探り、対応方法を確認していきましょう。
権利を主張する人の心理的特徴
権利を主張する社員の根底には、さまざまな心理的動機が存在します。例えば、
- 過去の経験から不公平感を感じており、自己防衛の手段として権利を強く主張する
- 自己の価値や貢献を適切に認識されていないと感じることから、その確認として権利を主張する
といった心理が考えられます。
これらの行動は、基本的には承認と安全の欲求から来るものであり、自己表現の一形態とも言えます。
なぜ「権利ばかり」が問題なのか?バランスの重要性
「権利ばかり」を主張することが問題視されるのは、それが職場内での協調性やチームワークを損ない、組織全体の目標達成を妨げる可能性があるからです。
権利と責任は表裏一体であり、一方が過剰に強調されるとバランスは崩れてしまいます。
健全な職場環境を維持するためには、社員が自己の権利を主張することは大切ですが、それと同時に責任を果たすことの重要性を理解し、受け入れる必要があります。
このバランスを適切に管理することが、会社と従業員双方にとって適切な関係性を維持することができるのです。
権利主張型社員の種類とその対応策
前提として、権利主張ができる職場というのは「心理的安全性」が一定以上あることになりますので、健全な組織運営を目指すのであれば容認されるべき行動です。
しかし、その主張が過剰になると、チームワークの乱れや業務の非効率化を招くことがあります。権利ばかり主張する社員のタイプと、それぞれに対する効果的な対応策について検討してみましょう。
権利ばかり主張する新人の特徴や対応策とは?
新しく組織に加入した、新人社員が権利を強く主張する背後には、不安や期待の裏返しという心理が考えられます。
- 知識不足による誤解
- 新入社員は職場のルールや文化を完全には理解していない場合が多く、その不足した知識が権利を過剰に主張する原因になることがあります。
- 理想と現実のギャップ
- 学校や社会から受けた理想的な職場環境のイメージと実際の職場環境とのギャップに直面し、そのギャップを埋めるために権利を主張しているケースもあります。
- 自己主張の強さ
- 特に若い世代の中には、自分の意見や権利を積極的に主張する傾向があり、これが適切なバランスを欠いた権利主張につながることがあります。
新入社員に関しては、職場の文化や期待される行動様式を理解できるよう、入社時だけでなく継続的な教育プログラムの提供が重要になります。
また、経験豊富な社員をメンターとして配置し、新入社員が職場にスムーズに適応できるようサポートすることが有効です。メンターとの定期的なコミュニケーション・フィードバックセッションを設け、新入社員の意見を聞きながら会社の方針や風土を伝えることで相互理解を深めることができます。
権利ばかり主張するパート社員の特徴や対応策とは?
パート社員の権利主張は、しばしば自身が直面する不安定な雇用状況や不十分な労働条件から生じます。
- 流動的な雇用に対する不安
- パートタイムの従業員はしばしば不安定な雇用状況に置かれがちで、その不安から自己の権利を強く主張することがあります。
- 待遇の不満
- 正社員と比較して不利な待遇(給与、福利厚生、昇進の機会など)に対する不満が権利主張の背景にあることが多いです。
- 認知の欠如
- 組織内での彼らの貢献が適切に認知されていないと感じることが、自己の権利を強く主張する動機になることがあります。
パート社員に対しては、「働く環境」が正社員と比べても変わらないように努めることが重要になります。
給与の待遇というより、福利厚生や社内教育の観点です。また、パート社員の声を聞き、意見や懸念を理解するために、定期的なミーティングや一対一の面談を行うことが重要です。
さらに、パート社員にも成長とキャリアアップの機会を提供することで、モチベーションの向上と組織への貢献度を高めることができます。
権利ばかり主張するベテラン社員の特徴や対応策とは?
勤続年数が長く、社内経験が豊富なベテラン社員が権利を主張する場合、それは彼らの知識や経験に基づくものであり、しばしば組織内の改善点を指摘する貴重な機会となります。
- 変化への抵抗
- 長年にわたって同じ環境や条件の下で働いてきた社員は、組織の変化に対して抵抗感を持ち、既得権益を守るために権利を主張することがあります。
- 過去の経験に基づく期待
- 過去に享受してきた特定の待遇や権利が、新しい経営方針や制度変更によって脅かされると感じた時、これらを守るために声を上げることがあります。
- 認識のズレ
- 組織内での自分の位置づけや貢献に対する過大評価が、不当な待遇を受けているという認識につながり、それが権利主張の形で表れることがあります。
勤続年数の長い社員に対しては、組織の変化や新しい方針の背景にある理由を共有し、組織変化の必要性を理解できるようにすることが効果的です。
新しい技術や方法に適応するためのトレーニングやサポートを提供し、新しい環境やツールに適応できるよう個別のサポートを行うことも大切です。
また、長い勤続年数によって培われた経験や知識が組織にとって価値があることを認識し、適切に評価し、報酬や昇進の機会を提供することで、社員のモチベーションを維持し、貢献を促していきましょう。
「権利ばかり主張する社員」への具体的な対策
権利を主張する社員と効果的に向き合うためには、根本的な課題解決に向けた戦略的アプローチが必要です。ここでは、そのような社員のモチベーションを理解し、改善に繋げるための3つの具体的な対策を紹介します。
対策1:コミュニケーションの強化で理解を深める
権利ばかりを主張する社員との最初のステップは、効果的なコミュニケーションを確立することです。
定期的なミーティングや個別面談を設け、彼らの意見や懸念を聞き出すことが重要です。このプロセスでは、非難や批判を避け、オープンマインドで接することで、信頼関係を築きます。
また、社員の意見が職場の改善にどのように貢献できるかを共に考えることで、権利主張の背後にある真の動機を理解し、より建設的な関係へと導くことができます。
対策2:明確なルール設定とその適用
権利主張が過剰になる一因は、ルールや期待が不明確であることにあります。職場のルールやポリシーを明確にし、それを公正に適用することが、争いを避ける鍵になります。
具体的には、勤務時間、業務遂行の基準、職場で遵守すべき働き方といった職場の基本的なルールを明文化し、全員に周知・徹底をしましょう。これにより、社員は自身の権利と責任を正確に理解し、不公平感を感じにくくなります。
なお、社員の働き方を明文化するには「就業規則」や「服務規程」の整備が急務になります。下記コラム記事で服務規程について解説しておりますので、併せてご確認ください。
対策3:キャリアパスの提示とモチベーション向上策
社員が権利ばかりを主張する背後には、キャリアに対する不安や不満が隠れていることがあります。
社員一人ひとりに対して明確なキャリアパスを提示し、その達成に向けたサポートを提供することで、社員のモチベーションを向上させることができます。
また、達成感や所属感、会社への帰属意識を高めるために、小さな成功を認め、適切な報酬を与えることも重要です。社員が自身の成長と職場への貢献を実感できる環境を整えることで、権利ばかりを主張する姿勢から、積極的に職務に取り組む姿勢へと変化を促すことができます。
対策4:問題社員の場合はより慎重な判断が必要
社員が主張している内容が
- 極端に労働条件の改善を求める主張
- 業務範囲内の仕事も拒否する主張
- 過剰なワークライフバランスの要求
- 合理性のない職場環境の改善を求める主張
- 過度なプライバシー保護の主張
上記のような内容の場合で、その主張の仕方が過剰であったり、組織や他の社員との協調性を欠いたりするのであればその方は「問題社員」である可能性が高いです。
「問題社員」に該当すると、労働義務を果たさずに権利主張するケースが多いため、経営者の頭を悩ませる種になるでしょう。対応方法を誤ると想定外のトラブルにつながるため慎重な対応をオススメいたします。
問題社員に対する対応方法は、下記コラム記事で解説しておりますのでご参考ください。
権利主張がハラスメントにつながるケースとその防止策
権利を主張することは、個人の尊厳と職場での公正な扱いを保証する上で不可欠です。
しかし、その主張が過度になり、他者への配慮を欠くと、職場内でのハラスメントにつながる可能性があります。権利主張がハラスメントにエスカレートする場面や、そのような状況を未然に防ぐための職場環境の整備方法を考えてみましょう。
権利を主張する行動がハラスメントになる瞬間
権利主張がハラスメントになる瞬間は、その主張が他人の権利や尊厳を侵害する形で行われる時です。
例えば、
- 自己の意見を強引に通そうとする行為
- 合理的な範囲を超えた要求を繰り返す
上記のような場面が考えられます。
また、自身の権利を主張する過程で、他者に対する言葉の暴力や、不当な圧力をかける行為も、ハラスメントとして捉えられる可能性があるため注意しましょう。
こういった行動は、職場の信頼関係を損ない、全体の士気を下げる結果につながります。
ハラスメント防止のための職場環境の整備
ハラスメントを防止するためには、職場環境を見直しましょう。まず、全社員が参加するハラスメント防止研修を定期的に実施し、権利主張とハラスメントの境界線についての理解を深めることが必要です。また、公平で透明性の高いコミュニケーションチャネルを確立し、社員が懸念や不満を安心して表明できる環境を作ることも大切です。
さらに、ハラスメントの申し立てがあった場合に迅速かつ公正に対応するための明確なガイドラインを設けることが重要です。これには、申し立ての受付、調査、対応、そしてフォローアップの各ステップを含めるべきです。職場における相談役やメンター制度の導入も、社員が問題を共有しやすい環境を作り出す一助となります。
これらの対策を講じることで、権利主張が健全な形で行われ、ハラスメントに発展することを防ぎ、職場の健全なコミュニケーション文化を育みましょう。
まとめ:権利主張ばかりする社員の対応に困ったときは
今回は、組織内で「権利ばかり主張する社員」との向き合い方についてさまざまな視点からアプローチをご紹介してきました。
コミュニケーションの強化、明確なルール設定、キャリアパスの提示など、具体的な対策を講じることで、職場の課題を解決し、より健全で生産的な環境に近づけると考えています。
しかし、組織の状況や社員の個性は多岐にわたり、一つの解決策が全ての問題に対応できるわけではありません。もし、ご紹介した内容で不明な点がある場合や、貴社独自の課題に対する取るべきアクションを模索されてる場合には、ぜひ弊社までお問い合わせください。
貴社の現状を詳細に把握した上で、最適な解決策をご提案いたします。職場の課題解決に向けて、一緒に最良の道を探しましょう!