問題社員の放置は危険?問題社員の特徴や対応方法を社労士が解説
従業員を雇用していると、優秀で真面目に働く方もいれば、しばし問題を起こしてしまう方にも出会います。
ちょっとしたミスであれば仕方ありませんが、会社のルールを守らなかったり他の従業員に迷惑行為を働く「問題社員」の場合、放置していると会社に悪影響を与えてしまう可能性があります。
「問題社員がいた場合、即刻クビにすればいいのでは?」と思う経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、日本における労働諸法令では一定の制限があり、誤った対応をしてしまうと会社側もリスクを背負ってしまいます。
そのため問題社員の対応には
- 会社にとって損失を生む問題社員の特徴を知る
- 問題社員を放置するとどのようなリスクを考える
- 余計なトラブル防止に向けて適切な対応フローに従う
上記3つのポイントが大切になります。
今回のコラム記事では、問題社員の特徴から放置時のリスク、経営者が行うべき問題社員対応のフローについて解説いたしますので、ご参考にしてください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
問題社員とは?よくある特徴を紹介
問題社員とは、労働法令等で定められた言葉ではありませんが、一般的に
- 勤務態度や言動に一般常識がない
- 協調性に欠けており、職場の秩序が乱されている
- 業務を真面目にしないため納期に間に合わないことが多々ある
このような特徴があり、会社や周囲の従業員だけでなく、取引先にも迷惑をかける恐れのある従業員のことを「問題社員」と呼ばれています。
その他「問題社員かもしれない」と感じた際の具体的な特徴を紹介いたします。なお、「モンスター社員」と呼ばれるケースもあるようですが、こちらも問題社員と同じ意味合いです。
問題社員の特徴について解説をいたしますが、前提として、経営者の方も法令遵守や職場環境の向上のための取り組みをお願いいたします。「言うことを聞かない従業員は問題社員だ!」と一方的に考えるとリスクでしかありません。
会社のルールを守らない
問題社員は、会社で定めているルールや就業規則を守らない傾向があります。
「当たり前に守るべきもの」であっても、問題社員の場合は自分の都合にルールを置き換えますので、常識論が通じないケースがあるため注意が必要しなければなりません。常識のある従業員と比べると下記のような特徴が見受けられます。
常識的な社員 | 問題社員 |
---|---|
定められた始業時間に仕事が始められるように出勤をする 仕事がなければ残業をせずに退勤をする 定められたルール・決まりに従って仕事を行う | 無断で遅刻を繰り返す 残業代のために仕事もないのに残業をする 自分のやりやすいようにルールを無視して仕事を行う |
周囲と円滑なコミュニケーションを取らない
会社という組織に属する以上、自分ひとりで行える仕事は限られており、基本的には上司・同僚・部下を協力が必要不可欠です。しかしながら問題社員の場合は
- 報告・連絡・相談ができない
- 周囲の意見や発言を聞かずに自分勝手に仕事を行う
- 自分が正しいと思い込み、部下の仕事を否定する
このように協調性・コミュニケーションに課題を抱えている場合があるのです。またハラスメント行為につながることも考えられますので、他の従業員との関わり方は注視すべきといえます。
仕事を真面目にしない
会社のルールを最低限守っていたり、コミュニケーションや協調性があったとしても「勤務態度」に問題がある可能性があります。例えば
- トイレやタバコによる離席時間が明らかに他の従業員よりも長い
- 部下から確認依頼のあった書類をぱっと見ただけで返す
- 勤務時間中にも関わらず、仕事に関係のないWEBサイトやSNSばかりを閲覧している
- 会議に参加しているが常に上の空で集中せず、メンバーの発言を全く聞いていない
このように、仕事に対する姿勢が不真面目と捉えられる従業員も「問題社員」に該当するのです。
会社のパソコンを私的利用する従業員へどう対応すべきか?というお話はよくお聞きします。下記の記事にて注意点・判例を紹介しておりますので併せてご一読いただければ幸いです。
問題社員を放置するリスクとは
問題社員の特徴をいくつか紹介いたしましたが、放置してしまうと様々なリスクが生じます。会社全体に悪影響を及ぼす可能性もありますので、問題社員と見受けられる従業員がいた場合には対応が求められるのです。
まずは問題社員を放置した場合、次のようなリスク・トラブルに発展する恐れがあることを念頭に置いてください。
組織全体のエンゲージメントが低下する
組織として仕事をする以上、従業員一人でできる業務範囲・業務量は制限があります。従って、ともに働く従業員の方と協力して取り組む必要があります。
エンゲージメントの定義は様々ですが「会社や組織、仕事に対して熱意を持ってコミットメントしているのか?」という考え方をしてみましょう。
問題社員を抱えてしまうと、エンゲージメントの高い従業員からすると
- 頑張らなくても同じような給与がもらえるのなら、頑張るほうが損になる
- 自分が頑張っても、問題社員のせいで仕事がうまく回らないし、仕事を評価してくれない
のようにネガティブマインドになってしまい、優秀な人材ほど他社へ転職してしまう可能性すらあります。
従業員一人ひとりが自分の役割を全うすることで、業務を円滑に行うだけでなく強い組織になりますが、問題社員に対して改善・指導を行わなければ組織全体の雰囲気が悪くなることは明白です。
ハラスメントなど他の従業員とトラブルが発生する
問題社員の特徴で「周囲と円滑なコミュニケーションを取らない」点を紹介しましたが、その結果としてハラスメント等、他の従業員とのトラブルになる傾向にあります。
問題社員がパワハラやセクハラを行うだけでなく、問題社員の行動を見かねた同僚が注意・指導を行った際に「ハラスメントを同僚から受けた」と騒ぎ立てることもあり、従業員トラブルになりやすいといえます。
業務ミスにより取引先へ迷惑をかける可能性が増える
仕事をきちんと行わない社員がいた場合、業務ミスにつながります。チーム内でそのミスを修正・カバーできるのであれば被害は最小限に留められますが、
- 納期の管理ができていなかったため、仕事が間に合わない
- 請求書の記載内容をきちんと確認しなかったため、誤った金額を請求してしまった
- 成績のために社内ルールを無視した営業を行い、その結果対応しきれない業務を受注してしまった
問題社員の行動により会社だけでなく取引先・関与先にまで迷惑をかけてしまうことも考えられます。
社内の問題だけでなく、社外にまで悪影響を及ぼすこともありますので、問題社員を放置していると経営リスクは非常に高い点をぜひご理解ください。
問題社員から会社を守るための対応マニュアル
問題社員の特徴・放置時のリスクをご紹介しましたが「ここまで問題を抱えている従業員がいた場合、解雇すればいいのでは?」と改めて考える経営者の方もおられると思います。
冒頭でも申し上げましたが、日本における労働諸法令は従業員保護の観点もありますので、簡単に解雇処分を行うことはできません。
そのため適切な手順を踏み、従業員とコミュニケーションを取った上で慎重な対応を心掛けましょう。
- 個人面談を行い、問題行動の起因理由を確認する
- 経過観察期間として、本人の意識・行動の改善を図る
- 人事部・経営陣との面談を実施する
- 専門家に相談し、懲戒処分を検討する
- 退職勧奨を実施し、解雇は最終手段とする
個人面談を行い、問題行動の起因理由を確認する
従業員の問題行為が会社内で見受けられた場合、直属の上司・上長と個人面談を実施しましょう。
問題社員といっても、採用時点でその特性があるのではなく
- 社内の人間関係に躓いており、問題行動を起こしてしまった
- 業務量や業務内容が難しく、うまく仕事ができていない
このような背景が要因かもしれません。従って、問題行為をすぐに責めずに適切なコミュニケーションを取り、原因を考えることが重要です。
問題行動が悪質であれば、注意・指導はこのタイミングで行いましょう。
経過観察期間として、本人の意識・行動の改善を図る
上司との面談を通じて、従業員本人に「問題行為を繰り返してはいけない」意識を醸成させることが大切です。
そのため面談後に一定の期間を設けて、業務への姿勢や周囲とのコミュニケーションに変化がないのか経過観察を行いましょう。
改善が見られない場合、
- 再度上司との個人面談を設けて、状況ヒアリングを行う
- 口頭での注意・指導ではなく、改善報告書などを用いて書面でやり取りを行う
厳しい姿勢で対応を進めることになります。
人事部・経営陣との面談を実施する
それでも問題行為が繰り返し発生するんであれば、人事権のある人事部・経営陣との面談を実施します。これにより「会社全体が問題行為を認識していて、対応に動いている」と従業員本人に伝えることができます。
人事部・経営陣との面談においては、上司面談よりも一段影響力の強い
- 業務命令書
- 警告書
を用いましょう。改善を促すのではなく、改善を命令する形となります。
また、部署間での人間関係や業務への不適性が要因で問題社員となってしまった場合には、人事異動(部署の異動や業務の配置転換)を行い、従業員自身の環境を変える取り組みも大切です。
専門家に相談し、懲戒処分を検討する
それでも問題社員の行動に改善が見られない場合、就業規則に基づいて懲戒処分を検討するしかありません。ただし、懲戒処分はトラブルが更に大きくなることもありますので、労働基準法や過去の裁判例を参考に、慎重に進める必要があります。
そのため人事労務の専門家である社会保険労務士に相談しながら、
- 懲戒処分の対象となる行為なのか?
- 懲戒処分の重さはどの程度が妥当なのか?
しっかりと確認しておきましょう。
退職勧奨を実施し、解雇は最終手段とする
問題社員への懲戒処分は、始末書や減給が行われると思いますが、最悪の場合は「会社を辞めさせたい」「解雇したい」と思うケースもあるでしょう。
まずは退職勧奨を考えることをご提案いたします。退職勧奨はあくまでも「会社・従業員が合意の上で退職手続きをする」ことになりますので、紛争に繋がるリスクを軽減できます。
解雇・懲戒解雇は従業員からすると大変重たい処分のため、「権利の濫用だ」として、問題社員から逆に訴訟を起こされる可能性もあるのでご注意ください。
厳密には「解雇」と「懲戒解雇」は取り扱いが異なります。基本的には「解雇」になると思いますが、従業員の問題行為の内容に応じて慎重に判断しましょう。
問題社員に適切に対応するために準備すべきこと
問題社員を雇用せずに経営できることが望ましいですが、
- 人手不足に悩む中小企業では、簡単に従業員を減らすことはできない
- 従業員数の多い大企業では、相対的に問題行為発生のリスクが高まる
上記が背景にあり、現実的には難しいものです。問題社員の発生を想定して会社が準備しておくべきことをお伝えいたします。
就業規則を整備しておく
まずは働き方のルールである服務規律が適切に整備できているのか、就業規則や諸規程を見直しておきましょう。懲戒処分を行う際、就業規則等に服務規律・懲戒事由が記載がされていなければ懲戒処分を行った会社側にリスクが発生します。
就業規則や服務規程の作成や具体的な条文例を下記コラム記事にて詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
専門家と定期的に情報交換を行う
重複しますが、問題社員の対応は時間だけでなく専門的な知識が必要不可欠です。
しかしながら自社だけで完結するのは難しいため、日々の労務管理・従業員コミュニケーションについて専門家と情報交換を行いましょう。
社会保険労務士に相談をすることで
- 問題社員に備えてどのような就業規則を策定するべきか
- 問題社員の対応でうまくいったこと、失敗してしまったこと
専門的な知見のもとアドバイスを受けられます。
職場環境や労務管理を見直す
問題社員の発生が、職場環境やずさんな労務管理がきっかけとなっている可能性もありますので、注意してください。
真面目に働かない従業員がいたとしても
- 残業しても、きちんと計算して払ってくれない
- 社内ルールの通りに、1週間前に有給休暇の申請をしたが理由もなく拒否された
こういった会社の取り組みに対する不満が要因かもしれません。
近年、インターネットの発達で従業員も自社の労働環境に問題がないのかすぐに知ることができるため、会社側も法令遵守の意識が大切と言えます。
下記コラム記事では労務管理の基本的な内容を解説していますので、参考にしてください。
まとめ
今回は、問題社員の特徴や放置時のリスク、対応方法を解説いたしました。
従業員が問題行動を起こしているにも関わらず、放置してしまうと会社だけでなく他の従業員や取引先へも悪影響を及ぼす恐れがあります。
しかしながら、労働諸法令に基づき慎重に対応しなければトラブルの火種が大きくなりやすいため、社会保険労務士に相談することをおすすめいたします。
問題社員の対応にお困りの経営者様へ
人事・労務の悩みは、従業員を雇用している限り常に発生する可能性があります。中小企業であっても、大企業であっても経営に必要な資産は「ヒト」ですので、人事・労務の悩みには向き合っていかなければいけません。
TSUMIKI社会保険労務士事務所では「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」をMISSIONとして、経営者・従業員ともに安心して働ける環境作りの支援をしています。問題社員への対応についても、単なる法的な解決策のアドバイスにとどまらず、改善施策のご提案をして参りますので、お気軽に相談いただけると幸いです。
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