労務管理とは?経営者・労務担当者が知っておくべき基本を社労士が解説
従業員を一人でも雇用する企業にとって、労務管理は重要な業務である一方で、
「具体的にどのような業務があるのか?」
「何に注意をすればいいのか?」
分からずに困っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事では労務管理の業務範囲・業務内容や、労務管理をする上で注意しておくべきこと。効率的に労務管理を行うための考え方といった労務管理の基本についてご紹介いたします。
従業員を雇用する経営者や、労務管理担当者の方はぜひご一読いただき、今後の労務管理にお役立ていただけますと幸いです。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
労務管理とは?
労務管理とは、労働時間や有給休暇をはじめ、健康・ハラスメント・安全衛生などを管理する仕事で、従業員が安心して働くための「環境づくり」を主に目的として行います。
そのため、従業を一人でも雇用すると必要不可欠な領域であり、大企業・中小企業問わずに意識しなければならない業務と言えます。
労務管理と人事管理はどう違うのか
よく経営者の方から「人事担当者と労務担当者は別で必要なのか?」「人事と労務とは、どういった違いがあるのか?」という「人事管理と労務管理の違い」についてよくご質問をいただきます。
簡単な考え方を下記の表にまとめました。
労務管理 | 人事管理 | |
---|---|---|
目的 | 従業員が安心して働くための 組織づくり | 従業員が成長することによる 組織の活性化 |
従業員との関係 | 間接的 | 直接的 |
主な業務 | 給与計算 労働社会保険手続き 福利厚生の管理 | 採用活動 研修 評価・待遇管理 |
労務管理は「従業員が安心して働くための組織づくり」を目的としていますので
- 従業員の労働時間や残業時間を確認・計算して給与計算に反映させる
- 入社や退職をした際の労働・社会保険手続きを行い、雇用保険や健康保険への加入処理を行う
- 福利厚生の適用や利用について管理を実施する
とった業務となります。
一方で人事管理とは「従業員が成長することによる組織の活性化」を目的としており
- 会社の方向性に合致する人材を探し、採用を行う
- 採用した従業員が会社で活躍できるように、人材育成の研修やコンプライアンス研修を実施する
- 人事評価を運用し、会社への貢献度合い等に応じて昇進・昇格や待遇を管理する
このようなイメージで多くの企業は取り組んでおります。
「労務管理」も「人事管理」も大切な仕事ですが、どういった違いがあるのか知っておくことで自社に何が足りていないのか把握することができますので、今一度整理しておきましょう。
下記の人事・労務業務一覧表で黄色の業務は「人事管理」、青色の業務が「労務管理」に関することと棲み分けをしておりますので参考にしてください。
「人事・労務業務一覧表」は、当事務所でお客様を支援する際に実際に使っているものになります。よく「人事労務の仕事で何をすればいいのか分からない」とご相談をいただく際に参考にしていただいておりますので、ぜひご利用ください。
労務管理がずさんな場合のリスクから見る労務管理の重要性
「労務管理をする時間がない」「資金繰りに厳しいため、労務管理に手が回らない」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
労務管理ができていない場合にどういったリスクがあるのか考えると、労務管理の重要性がわかりますので確認していきましょう。
ずさんな労務管理が招くリスク①「コンプライアンス意識の低下」
労務管理には
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 雇用保険法
- 健康保険法 etc.
このように、多くの労働諸法令に基づいて実施しなければなりません。昨今、インターネットの普及やSNSの活発的な利用により、従業員も簡単に法律の知識が得られる時代であり、
「働いている会社って、きちんと労働基準法が守られているのだろうか?」「残業代が少ない気がするけど、これは法律違反にならないのか?」といった、コンプライアンス意識が高まっています。
そのため労務管理がずさんな場合には、従業員側も「会社が法律を守っていないので、会社のルールも守る必要がない」と無秩序に働き出す可能性が高まってしまいます。
事例としては「有給休暇の日数がおかしいと思うので、就業規則を見せてください」と従業員の方から言われた関与先様がいらっしゃいました。法令通りの内容だったため問題はなかったのですが、不備があるとトラブルになりかねません。
ずさんな労務管理が招くリスク②「離職率・トラブルの増加」
労務管理ができていない会社では「無秩序に働き出す可能性がある」とお伝えしましたが、その後に待ち受けているのが「離職率やトラブルの増加」です。
働く環境が悪ければ、従業員のモチベーションは低下し「別の会社に転職したい」という考えに至ります。
また「今まで払われていない残業代も請求しよう」と弁護士や労働基準監督署に相談される方も増えていますので、労使トラブルに発展することも覚悟しなければいけません。
厚生労働省によると労働局や労働基準監督署が実施している労働問題に関する相談件数について、令和3年度は124万2,579件であり、14年連続で100万件を超えて高止まりしていると公表されています。
このように、労務管理がきちんとできていない場合にはトラブルが起こってしまい、対応コストが余計にかかってしまうことになります。
残業代の請求があった場合、対応期間としては1ヶ月以上掛かってしまうケースが多いです。労働基準監督署や弁護士とのやり取りだけでなく、頭を悩ませてしまう時間もありますので、トラブルが起こらないように日々の労務管理を徹底することをおすすめいたします。
会社を成長させるためにも労務管理は重要
一般的に経営を行う上で「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つは欠かせない経営資源と呼ばれていますが、この中でも一番重要なのが「ヒト」であるとされています。「モノ・カネ・情報」は「ヒト」が関係していなければ意味がないことが理由です。
労務管理がずさんであると経営に悪影響を及ぼすことをしっかりと把握し、重要な業務として取り組んでいきましょう。
また、下記コラム記事は「社会保険労務士に寄せられる労務相談事例」について執筆をしております。他社が労務管理でどういった課題・悩みを抱えているのかぜひ参考にしてください。
労務管理の基本的な業務を紹介
では、労務管理を行う上で基本となる業務を紹介させていただきます。自社でできているのか考えながら、確認いただけますと幸いです。
雇用契約に関する手続き
従業員を雇用する上で「雇用契約書」もしくは「労働条件通知書」は必ず締結しなければなりません。この際、
- 従業員を新しく採用したとき
- パートやアルバイト、契約社員の契約期間を更新するとき
- 定年再雇用するとき
上記のタイミングで労務管理担当者の方は書類を作成し、従業員に交付をすることが求められます。
「雇用契約書」や「労働条件通知書」については実務上、労働基準法で定められている内容が記載されている場合は「雇用契約書」「労働条件通知書」のどちらを作成・交付しても問題はありませんが、一般的には「雇用契約書兼労働条件通知書」という形で利用されているケースが多くあります。
どう異なるのか比較表を作成しておりますので、ご確認ください。
雇用契約書 | 労働条件通知書 | |
---|---|---|
根拠法律 | 民法 | 労働基準法 パートタイム労働法 労働者派遣法 |
作成・交付の必要性 | なくても問題ない (雇用契約は口頭でも成立するため) | 必要 (なければ労働基準法違反・要件を満たせば雇用契約書でも問題ない) |
従業員との合意 | 必要 | 不要 |
押印の有無 | 会社・従業員双方に押印 | 会社のみ押印 |
労働保険・社会保険の手続き
労働保険・社会保険とは、要件を満たした際に「会社」も「従業員」も加入する必要がある公的な保険です。労務管理をする上では、それぞれ下記の分野を対応することになります。
各手続きには、作成・行政への届け出について期日があります。この期限内に対応ができなければ従業員とのトラブルになるケースもありますので、注意が必要です。
入社時の手続きを忘れてしまい「健康保険者証はまだできていないのか?」と従業員の方とトラブルはよくありますので、忘れずに対応しましょう。
労働保険・社会保険は、様々なシーンで手続きを行う必要があります。どのようなタイミングで必要なのか、それぞれまとめておりますのでぜひ参考にしてください。
労働保険でよくある手続き
主な事業所に関する手続きが必要な出来事
- 事業所が雇用保険の適用を受けるとき
- 事業所が労災保険の適用を受けるとき
- 事業所の名称、所在地を変更するとき
- 適用事業所が廃止等により、適用事業所に該当しなくなったとき
従業員に関する手続きが必要な出来事
- 従業員を雇用したとき(雇用保険の資格取得)
- 従業員が退職、死亡したとき(雇用保険の資格喪失)
- 従業員の氏名、住所が変更になったとき
従業員やその家族が保険給付等を受けるときに必要な出来事
- 業務または通勤が原因となった傷病の療養を受けるとき
- 業務または通勤が原因となった傷病の療養を受けるため、労働ができず賃金が受けられないとき
- 業務または通勤が原因となった傷病の療養後、1年6か月たっても傷病が治癒しないで、障害の程度が傷病等級に該当するとき
- 業務または通勤が原因となった傷病が、治癒して傷病等級に該当する身体障害が残ったとき
- 労働者が死亡したとき、および労働者が死亡し、葬祭を行ったとき
- 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の一定の障害により、現に介護を受けているとき
会社が負担する保険料に関する手続きが必要な出来事
- 労働保険の年度更新
保険給付を受ける際の手続きが必要な出来事
- 従業員が育児休業を開始、育児休業基本給付金を受けようとするとき
- 従業員が育児休業者職場復帰給付金を受けようとするとき
- 高年齢雇用継続給付金を受けようとするとき
- 介護休業給付金を受けようとするとき
社会保険でよくある手続き
主な事業所に関する手続きが必要な出来事
- 事業所が健康保険、厚生年金保険の適用を受けるとき
- 事業所の名称、所在地を変更するとき
- 適用事業所が廃止等により、適用事業所に該当しなくなったとき
従業員やその扶養家族に関する手続きが必要な出来事
- 従業員を雇用したとき(健康保険、厚生年金保険の資格取得)
- 従業員が退職、死亡したとき(健康保険、厚生年金保険の資格喪失)
- 従業員が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったとき
- 従業員及び被扶養者の氏名、住所が変更になったとき
従業員の保険料に関する手続きが必要な出来事
- 従業員の報酬月額の届出を行うとき(算定基礎・月額変更)
- 従業員に賞与を支給したとき
- 従業員が産前産後休業を取得したとき
- 従業員が育児休業を取得、延長したとき
保険給付を受ける際の手続きが必要な出来事
- 従業員が病気やケガをしたとき、働けないとき
- 従業員が出産したとき
- 従業員が死亡したとき
勤怠管理
勤怠管理では、従業員の出勤や退勤時間から有給休暇の取得状況などを管理する業務となります。特に残業があった場合はその時間数に応じて割増賃金を計算・支給しなければならず、計算に誤りがあると「違法」だとしてトラブルを招きますので注意が必要です。
労働時間・休憩時間・残業時間の管理
労働基準法において、「1日8時間・1週40時間」と定義がされていますが
- 従業員が何時から何時まで働いていたのか?
- 休憩時間は適切に取得できていたのか?
- 残業時間が労働基準法や36協定の範囲内で行われているのか?
といった勤怠の状況を、1日、1週間、1ヶ月の単位で確認や管理していくことになります。多くの企業ではタイムカードや勤怠管理システムに打刻をすることで記録しているケースがありますが、その時間が正しいのかどうか、確認することも大切です。
「残業手当を払っているのだから問題ない」と思っていても、実は労務担当者が把握していない残業が隠れて行われていたというケースもあります。実態を把握するためにも、現場とコミュニケーションを取りながら労働時間の管理を行いましょう。
年次有給休暇の管理
労働時間に併せて管理が必要なのが「年次有給休暇」です。
2019年「働き方改革関連法」の施行により「年5日以上の有給休暇取得」が義務化されており、企業側は有給休暇管理簿を作成しておかなければなりません。
- 有給休暇の取得日と取得日数:誰が、いつ、有給休暇を取得したのか?
- 有給休暇の取得状況:年間5日の取得義務の対応に向けて、誰が、あと何日取得する必要があるのか?
- 有給休暇の付与状況:誰に、いつ、新しい有給休暇を付与するのか?残日数はどのくらいあるのか?
このように、有給休暇の管理を正しくする必要が義務付けられています。
2021年には、年次有給休暇の取得義務の対応ができていないとして会社と事業場の責任者が書類送検された事例も出ていますので、年間5日間は会社側で積極的に取得促進するなどをおすすめいたします。
愛知・津島労働基準監督署(戸嶌浩視署長)は、労働者6人に対して年次有給休暇取得の時季指定を怠ったとして、給食管理業の栄屋食品㈱(愛知県あま市)と各事業場の責任者である店長3人を、労働基準法第39条(年次有給休暇)違反の疑いで名古屋区検に書類送検した。
※労働新聞社「年休5日の時季指定怠り送検 取得申請に応じず 津島労基署」より引用
給与計算
従業員を雇用すると毎月発生する「給与計算」は、労務管理業務の中でもで大きな仕事といえるでしょう。給与計算を正確に行うためには「支給する金額」と「控除する金額」を算出しなければいけません。主にどういったものがあるのかまとめておりますので、ぜひ確認してください。
上記は従業員一人ひとりに対して行う必要があるだけでなく、間違えて計算をしてしまうと従業員との信頼関係に傷がつくこともあるため慎重かつ正確にしなければなりません。
『勤怠管理』で取り上げている「労働時間・休憩時間・残業時間の管理」や「年次有給休暇の管理」は給与業務に直接関わります。そのため勤怠管理が間違っていると給与計算の内容も間違うことになるので注意してください。
法定三帳簿の作成・整理
従業員を雇用する際、会社は「法定三帳簿」と呼ばれる書類の作成および一定期間の保存が、労働基準法より義務付けられています。
法定三帳簿とは「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の総称ですが、労働基準監督署の調査時によく確認がされる書類ですので注意が必要です。記載内容に不備があると指摘されてしまいますので、確認しておきましょう。
労働者名簿 | 賃金台帳 | 出勤簿 | |
---|---|---|---|
作成するタイミング | 従業員を採用したとき | 毎月の給与計算の後 | 毎月 |
記載する内容 | 氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入年月日、退職や死亡年月日かつ理由や原因 | 氏名、性別、賃金の計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数、基本給や手当等の種類と額、控除項目と額 | 出勤簿やタイムレコーダー等の記録、残業命令書及びその報告書 |
保存しておく期間 | 労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年 | 最後の記入をした日から3年 | 最後の出勤日から3年 |
労働基準法上では、法定三帳簿の作成・保存ができていない場合は「30万円以下の罰金」と定められていることもぜひ知っておきましょう。
就業規則の作成・管理・運用
就業規則は、職場のルールブックと呼ばれるもので、労働時間や休日・休憩の取り扱いであったり、守るべき服務規律をまとめた規則のことを指します。法律上は10人以上従業員がいる場合に作成・労働基準監督署への届け出が義務となっていますが、従業員が数人であっても作成しておくことをおすすめいたします。
就業規則を作成している企業では一般的に
- 就業規則
- 賃金規程(給与規程)
- 育児介護休業規程
- 通勤規程(マイカー規程)
上記のようにいくつかに分けているケースが多いのではないでしょうか。
労務管理の担当者は、このような就業規則の作成や管理を担当します。また、就業規則に記載されている内容通りに従業員が働いているのか、運用されるようにサポートすることも大切な役割といえるでしょう。
厚生労働省は「モデル就業規則」を無料で公開しています。そのため「厚生労働省からダウンロードした就業規則を使っていますが、問題ありませんよね?」とそのまま利用することについてご相談をいただくのですが、必ず自社用にカスタマイズを行いましょう。特に労働時間や休日、服務規律は本来独自の内容になりますので注意してください。
安全衛生・健康管理
職場における安全・衛生や健康管理については労働安全衛生法に基づき対応が必要な業務になります。労働安全衛生法では
- 快適な職場環境の形成する
- 従業員の安全と健康を確保する
ことを目的としています。それぞれどのような取り組みが必要なのか、確認しましょう。
快適な職場環境の形成に向けて
厚生労働省の「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」によると
- 作業環境の管理
- 作業方法の改善
- 労働者の心身の疲労回復を図るための施設・設備の設置・整備
- その他の施設・整備の維持管理
上記4つの観点で措置を講じることが望ましいとされています。
この指針の方向性は「従業員が仕事の疲労やストレスをできるだけ減らし、働きやすい職場環境を作ること」というのが読み取れますので、
労務管理担当者として「快適な職場とはどのような状況なのか?」しっかりと職場を見渡しながら考えることが重要ではないでしょうか。
従業員の安全と健康の確保に向けて
職場環境の整備と併せて重要なのが「従業員の健康管理」です。心身ともに健康な状況で働いてもらうためにも、仕事の内容やそれに関わる要因などから病気にならない仕組み作りが重要になります。
そのためにも安全衛生管理を担当とするスタッフの配置や、従業員に対する安全衛生教育の研修を実施しましょう。また、労務管理の上で「従業員の健康状況を可視化する」ことを目的に健康診断・ストレスチェックは欠かせません。
健康診断 | ストレスチェック | |
---|---|---|
制度の位置付け | 従業員の健康管理 | 従業員自身が心身の健康について振り返る機会 |
結果の通知 | 本人と会社へ通知 | 本人のみ通知 |
受診の義務 | 義務あり | 義務あり (従業員数50人未満は努力義務) |
ハラスメント対策(パワハラ・セクハラ・マタハラ)
労務管理をする上で、近年より注意が必要になったのが会社内における「ハラスメント対策」です。
会社で対策をするべきハラスメントは主に
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- マタニティハラスメント
上記の3つとなります。
労務管理担当者はそれぞれのハラスメントについて「ハラスメントが起こらないように従業員への教育」および「ハラスメントが起こった際の対応・再発防止策の実施」を担当することになります。
パワーハラスメント | セクシュアルハラスメント | マタニティハラスメント | |
---|---|---|---|
ハラスメントの定義 | 役職や上下関係・人間関係の優位性を背景に行われる精神的・身体的苦痛を与える行為 | 意に沿わない性的な言動や嫌がらせにより、就業環境を害する行為 | 妊娠・出産をしたことや、育児休業の利用に関して、就業環境を害する行為 |
ハラスメントになりうる コミュニケーション | 「存在が目障り」 「いるだけで迷惑だから消えてくれ」 | 「◯◯が部下に厳しくあたっているのは、彼女に男がいないからだ」 | 「勝手に妊娠して休むとか自己中ではないのか」 「忙しいときに休めていいよね」 |
ハラスメント対策については、
- 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 相談に応じ、適切な対応をするために必要な体制の整備
- ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な対応
こういった取り組みをしましょう。社内でのハラスメント対策を進めるときは厚生労働省が運営している「あかるい職場応援団」というハラスメント対策サイトをチェックすることをおすすめします。「あかるい職場応援団」のサイトでは
- ハラスメントに悩んでいる方・管理職の方・人事労務担当者の方といったそれぞれのシチュエーションを想定したコンテンツがあり参考になる
- 従業員に向けた研修資料がダウンロードできるため、社内研修の実施に役立てることができる
このような役に立つ情報が無料で利用できますので、ぜひハラスメント対策の取り組みの参考にしてください。
私も関与先の企業からハラスメントの相談を受ける際に、よく参考にしています。専門家から見ても有益だと感じる情報が多くあり、おすすめです!中でもハラスメント対策として他社がどういった取り組みをしているのか事例紹介がされており、そのページは必見です。
まとめ:労務管理の業務のチェックリスト
労務管理を適切に行う上で、今回ご紹介した業務は基本的かつ重要なものになります。ぜひ自社で対応ができているのか今一度確認されてはいかがでしょうか。
- 雇用契約に関する手続きは正確にできているのか?
- 労働保険・社会保険の手続きは必要に応じてできているのか?
- 勤怠管理は日々正確に行えているのか?
- 給与計算は勤怠管理の内容を踏まえて毎月正確に行えているのか?
- 法定三帳簿の作成・整理は適切にできているのか?
- 就業規則の作成・管理・運用はできているのか?
- 安全衛生・健康管理は適時行っているのか?
- ハラスメント対策(パワハラ・セクハラ・マタハラ)は行えているのか?
「労務管理」は、労働基準法や労働契約法といった労働に関する法律が関わっているため、業務を行うためには注意すべきポイントがたくさんあります。自社のみで対応することに不安がある場合は専門家に相談することをおすすめいたします。TSUMIKI社会保険労務士事務所では無料相談会を実施しておりますのでお気軽にご相談ください。
労務管理に必要な資格やスキルとは?
労務管理を行うためには、最低限「どういった法律に基づいて管理が必要なのか」把握することができる知識が必要です。では、労務管理を行う上で
- どういった資格が必要なのか?
- どのようなスキルがあればいいのか?
それぞれ確認していきましょう。
労務管理と資格について
結論、労務管理を行う上で資格は必要ありません。
とはいえ、労務管理には先程紹介した法律の知識や、専門的な知識も重要です。そのため資格を取得する上で専門的な知識が身につけば
- これまで以上に重要な労務管理業務を任せてもらえる
- 教育係や労務管理の責任者などキャリアアップが狙える
といった業務・裁量の幅が広げることができる場合もあります。経営者の場合は、自社の労務管理に問題がないのかセルフチェックができますので、労務管理に関係する資格を少しご紹介いたします。また「難易度」と「おすすめ度」は合格率や実際に自分が体験した事例をもとに作成していますので、参考程度でご確認ください。
社会保険労務士
労務管理に関する資格といえば、やはり「社会保険労務士」ではないでしょうか。労働・社会保険に関する法律を広く学ばなければ合格することはできず、難易度の高い国家資格です。資格取得は目指さない場合でも、勉強する価値は高いためおすすめです。
社会保険労務士の資格は「社会保険労務士試験オフィシャルサイト」よりご確認ください。
労務管理士
労務管理士も、労働諸法令や、職場における労務管理に関わる知識・能力の程度を証明する資格です。社会保険労務士と違い民間の資格である点と、受験費用や年間の登録費用が必要なため、注意してください。労働基準法など、労務管理上必須の法律知識をしっかりと学びたい場合は、手にとっても良いのではないでしょうか。
労務管理士の資格は一般社団法人日本人材育成協会「労務管理士受験方法」よりご確認ください。
衛生管理者(第一種・第二種)
従業員の健康管理や、快適な職場環境の整備に関して必要な知識が体系的に取得できる国家資格です。また、従業員が50人以上の企業においては「衛生管理者」の選任が義務付けられています。
従業員が安心して仕事に集中できる環境づくりのためにも、ぜひ取り組んでみてください。
衛生管理者の資格は公益財団法人安全衛生技術試験協会「資格の紹介」よりご確認ください。
メンタルヘルスマネジメント検定
近年、うつ病や心の病で体調を崩す方も増えています。従業員の心の不調を未然に防ぎ、職場環境を明るいものにするためにもメンタルヘルスの知識は重要になりますの、健康経営を行う上でおすすめの検定になります。
メンタルヘルスマネジメント検定は大阪商工会議所のWEBサイトよりご確認ください。
労務管理とスキルについて
労務管理を行う上で資格は不要と解説いたしましたが、一方でスキルは重要になります。今回は「ハードスキル」と「ソフトスキル」の2つの軸でお伝えいたします。
ハードスキル
ハードスキルは、特定の業務を行うために必要な知識・スキルのことを言います。過去の学びや業務の中で習得したものであり、わかりやすい例としては「翻訳の仕事をするためには語学的知識」ということになります。
労務管理の業務では「法律」と切り離せないため、法律の知識は重要になります。そのため、下記の法律に関する知識はハードスキルの面におてい重要と言えます。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働契約法
- 最低賃金法
- 育児・介護休業法
- パートタイム・有期雇用労働法
- 労働者派遣法
- 男女雇用機会均等法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用保険法
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
上記の法律だけでなく、労務管理には多岐にわたる法律が関係しています。また、時代の流れに応じて法改正は度々行われますので、常に最新情報をキャッチアップしていきましょう。
ソフトスキル
ソフトスキルは、コミュニケーション能力や、仕事に向き合う姿勢や考え方といった「仕事をこなす上で大切になるスキル」のことを指します。
労務管理を行う上では、
- 社会情勢の動きを見ながら社内ルールを見直す発想力
- 従業員のモチベーションや健康を把握し、改善するためのコミュニケーション力
- 労働時間や残業時間を分析し課題を発見する能力
このような能力はソフトスキルとして大切になります。経営者の視点だけでなく、従業員の視点を取り入れながら、労働時間の見直しや安心して働ける環境づくりを推進していきましょう。
労務管理で今後意識しておくべきこと
労務管理は、社会情勢の変化にあわせて取り組む必要があります。一例をあげますと「終身雇用時代」から現在は「成果主義時代」にシフトしつつあり、年齢に問わず仕事ができる人材を評価する仕組みを取り入れる企業が増えています。
この場合、労務管理の在り方も変化が必要になりますので、しっかりと時代の流れを意識しておきましょう。今後、どのような流れに注意しておくべきなのか、お伝えいたします。
多様化し変化する働き方への対応
新型コロナウィルスの影響もあり「在宅勤務・リモートワーク」や「副業」が一般的になっています。これらの制度を会社に導入するためには労務管理の手法は変えなければなりません。
- 労働時間や残業をどう管理するのか?
- 日々の業務をどのように報告させるのか?
- リモートワークを行う従業員には「通勤手当」の代わりに「在宅勤務手当」を支給するのか?
このように、就業規則・社内ルールの見直しや制度運用を支えていくためにも、「今後社内における働き方はどのように変化していくのか」意識をしておきましょう。
社内制度を見直さずに、リモートワークを認めた会社では「従業員が本当に働いているのか分からない。終日オンライン会議を繋ぐことにしたが、従業員から批判された」とトラブルに繋がる事例もありました。
コンプライアンス意識を高める
情報化社会により、従業員も法律を簡単に学べたり、専門家に気軽に相談ができる環境になっています。法令遵守ができていない場合、よりトラブルが起こりやすいとも言えます。
そのため、労務管理を行う上で最低限のコンプライアンスが守れるようにしておきましょう。
業務効率化の推進
人口減少が顕著であり、その先にあるのは人的リソース不足の未来です。会社としては生産性(一人あたりの売上高)を高めていく取り組みが必要不可欠になります。
しかしながら労務管理業務はいわゆる「間接業務」であり、売上に繋がる仕事ではありません。そのため「業務に係る時間的コスト」をいかに削減することができるのか追求することが重要です。
労務管理業務の効率化する上で「給与計算」は特に着手したい領域ではないでしょうか。給与計算は毎月行われますので、クラウドシステムやソフトを導入して効率化を図っていきましょう。
労務管理の効率化について(ソフト導入・アウトソーシング)
さきほど「業務効率化」は労務管理を今後行っていく上で重要だと解説させていただきました。実際に関与先様へコンサルティングする上で「どのように効率化を図るべきなのか?」とご相談いただくことが増えましたので、労務管理の効率化手法をご紹介いたします。
なぜ労務管理の効率化が進まないのか、背景の解説やより具体的な効率化手法については下記のコラム記事にて解説をしておりますので、併せてご確認いただけますと幸いです。
ルールの見直し・改善する
まず最初に行っておきたいのは「社内ルールの見直し」を行いましょう。
- 自社に適しているルールなのか?
- 今まで運用ができていたルールなのか?
- 従業員が働く上で必要なルールなのか?
こういった視点で、就業規則や各種規程の見直しをすることで、不要なルールを削減できます。運用していないルールがあればあるほど、労務管理の際に不要な混乱を招いたり、従業員が働いにくくなったり、悪循環がうまれてしまいます。
書類のペーパーレス化を図る
労務管理では
- 雇用契約書
- 労働・社会保険手続き
- 出勤簿
といった書類を扱います。
これらは従業員数が多くなると比例して増えていき、紙で運用をしていると管理が煩雑になってしまいます。ペーパレス化することは業務の効率化に繋がるだけでなく、情報管理の面でも大切になります。
労務管理クラウドシステム・ソフトの活用
クラウドシステムやソフトを導入することで、
- 書類作成の効率化
- 電子申請活用による行政への書類提出の簡易化
- 従業員情報の管理効率化
上記のようなメリットを受けることができるだけでなく、システム内には書類のテンプレートが用意されてるため書類作成が間違えにくくなったり、会計ソフトとの連携ができたりと業務効率化に繋がる特徴があります。
ただし、労務管理システムは多いため、自社に合致するソフトの選定が難しく、導入コストも掛かりますので慎重に進めることをおすすめします。
アウトソーシングや業務委託(外注)を実施
労務管理業務は
- 専門的な知識が必要
- 「間接部門」であり売上をうまない
とご紹介しておりますが、こういった業務は「アウトソーシング」や「業務委託」といった形で外注することで業務効率化を推進するケースも増えております。労務管理業務自体を専門家に依頼することで、本業に集中する時間が確保できますので、生産性向上が期待できます。
TSUMIKI社会保険労務士事務所では、労務管理におけるアウトソーシング支援を積極的に行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
労務管理で困ったときには
労働・社会保険手続きに困ったときは
給与計算に困ったときは
労務管理の基礎知識を学べる本のご紹介
「労務管理をこれからしっかりとしていきたい」「資格の勉強はするつもりは無いが、実務に使える知識は学びたい」という経営者や、労務管理担当者の方に向けて、実際にTSUMIKI社会保険労務士事務所で利用している実務書籍をご紹介いたします。
また、ご自身で本を探す場合は
- 参考となる事例が記載されているのか
- 専門的な知識を分かりやすく学べるか
この2つはぜひ意識してみてください。
労務管理は従業員の「雇用」や「労働の管理」をしなければならないため、専門知識が必要不可欠です。今回は労務管理の入門書となる2冊ご紹介します。
基本と実務がよくわかる 小さな会社の給与計算と社会保険
労務管理の重要な業務であり、毎月発生する「給与計算」を体系的に学ぶことができるためオススメです。
- 給与のルールから税金・社会保険の仕組みが体系的に学べる
- 給与計算未経験の方でも事例が豊富でわかりやすい
- 年間の業務も紹介されており、労務管理の重要なポイントが押さえられる
このような特徴があります。
給与計算をする中で不安な要素があった場合、すぐに確認することで実務能力は高まりますので、仕事場に備え付けておきたい一冊ではないでしょうか。
書籍の内容は出版社のWEBサイトよりご確認ください。
「労務管理」の実務がまるごとわかる本
労務管理を進める上で重要な「労働時間・休日・休暇」「メンタルヘルス不調と休職・復職」など、会社で起こりやすいリスクを軽減するための実務が解説されています。
- 従業員の採用から退職まで起こりうる事柄について対応方法が記載されている
- 著者は5人の社会保険労務士であり、信頼性が高い
- 労務リスクを低減するための考え方が網羅的に記載されている
このような観点からオススメできる一冊です。
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まとめ:労務管理を適切に進めるにあたって
今回労務管理について、基本的な業務や基礎的な知識をご紹介いたしました。
労務管理は、従業員の「採用」から「退職」するまで、様々なシーンで発生する大切な業務です。
従業員を一人でも雇用すると、個人事業主であっても、会社であっても対応をしなければなりませんので、本記事が少しでも労務管理をする上でお役立ちいただけますと幸いです。