【2025年最新】栃木県の最低賃金は?推移や引き上げ額・ランキングを解説

2024年10月、栃木県において最低賃金が大幅に引き上げられました。最低賃金の改定は毎年行われていますが、今回のように大きな上昇幅をともなう改定は異例であり、企業にとっては人件費戦略や労働環境の見直しを迫られる重要な転換点となっています。
特に最低賃金は、最低賃金法に基づく「法的義務」です。この基準を下回る賃金を支払っていた場合、たとえ意図的でなくても法律違反となり、企業には重大なリスクが生じる可能性があります。
たとえば、次のような不安や疑問を感じている経営者・人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか?
- 自社の賃金体系は、最低賃金をきちんとクリアしているだろうか?
- パートやアルバイトといった非正規社員にも、最低賃金は適用されるのか?
- 今回の引き上げによって、自社の経営や現場にはどのような影響があるのか?
本記事では、栃木県における最新の最低賃金額をはじめとして、
- 改定の背景やこれまでの最低賃金の推移
- 今後の見通しや全国平均との比較
- 企業や労働者に与える影響
といった観点から、最低賃金制度の要点をわかりやすく整理してお伝えいたします。
最低賃金については、もはや「知らなかった」では済まされない時代です。経営・人事・現場、それぞれの立場で正確な情報を把握し、先回りした対応が求められています。本記事が、貴社の雇用体制を見直し、適切な対応を取るための一助となれば幸いです。
栃木県の最低賃金とは?
最低賃金とは、すべての働く人に共通して適用される「これ以下では賃金を支払ってはならない」という、法的に定められた賃金の下限基準です。労働者の生活を守るために設けられた、非常に重要な制度であり、すべての事業者にとって無視できないルールとなっています。
栃木県でも、国の方針に基づいて最低賃金の見直しが毎年実施されており、すべての事業者には、この基準を下回らない賃金を労働者に対して支払う義務があります。
特に近年は、物価の上昇や人手不足の深刻化といった社会的な背景を受けて、最低賃金の引き上げが全国的に加速。
その結果、企業側では賃金体系の見直しや人件費の再設計が求められる場面が増えつつあります。
「最低賃金って、そもそもどういう制度?」「自分の働き方や雇用形態にも関係があるの?」「うちの給与体系、本当に大丈夫?」こうした不安や疑問をお持ちの方に向けて、本章では、最低賃金制度の基本的な仕組みと、栃木県における適用範囲について、わかりやすく解説していきます。
最低賃金制度の概要
最低賃金制度とは、使用者(企業)が労働者に支払う賃金の最低額を、国や都道府県が法的に定める制度です。目的は、労働者の生活の安定と、雇用環境の健全な維持とされます。
最低賃金には大きく分けて次の2種類があります。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに定められ、企業の所在地に応じて適用される。
- 特定(産業別)最低賃金:特定の業種に対して設定され、地域別最低賃金よりも高額になる場合がある。
つまり、栃木県で働く労働者には、原則として栃木県の地域別最低賃金が適用され、さらに該当する業種であれば特定最低賃金が優先される(特定最低賃金>地域別最低賃金の場合)ことになります。
最低賃金制度は単なる「時給の基準」ではなく、経営戦略や雇用維持にも密接に関わります。最低賃金の上昇に対応できる企業体制を早期に整えることが、人材確保と定着のカギになります。
前提確認:最低賃金の適用範囲と対象者
最低賃金は、すべての労働者に適用されるわけではありません。正社員やパート・アルバイトだけでなく、外国人労働者やインターンなど、多様な働き方がある中で、「自分が最低賃金の対象かどうか」を正しく理解することが大切です。
以下の表では、最低賃金が適用される人と適用されない人を一覧でわかりやすく整理していますので、ご参考ください。
適用される人 | 説明 | 適用されない人 | 説明 |
---|---|---|---|
正社員 | 通常の労働契約に基づく労働者。最低賃金が当然に適用される。 | 無償インターン・ボランティア | 労働契約がなく、報酬も発生しないため対象外。 |
パート・アルバイト | 雇用形態に関係なく、労働者であれば適用される。 | 自営業者・業務委託 (フリーランス) | 雇用契約ではなく、業務委託契約等に基づくため対象外。 |
契約社員・派遣社員 | 雇用されている限り、最低賃金が適用される。 | 同居の親族のみの 家族従業員 | 給与の支払いや労働の対価性が明確でない場合は対象外。 |
外国人労働者 (技能実習生・留学生含む) | 国籍や在留資格に関係なく、労働者であれば適用される。 | – | – |
試用期間中の労働者 | 試用中であっても雇用契約があれば適用される。 | – | – |
研修中の労働者 | 実務を伴う研修は労働とみなされ、最低賃金が適用される。 | – | – |
有償インターン (労働契約あり) | 労働契約があれば、インターンであっても適用対象。 | – | – |
栃木県の最低賃金はどこで勤務する人に適用される?
最低賃金は「働いている会社の場所(=事業所の所在地)」によって決まります。つまり、栃木県に事業所を構えており、そこで働いている場合は、たとえ東京や埼玉県といった他府県に住んでいたとしても栃木県の最低賃金が適用されます。
ここでは、最低賃金が誰にどのように適用されるのか、よくあるケース別に整理してご紹介します。
原則:最低賃金は実際に働く「事業所の所在地」ごとに適用
最低賃金は「会社の本社所在地」ではなく、実際に労働者が働いている事業所の場所で判断されます。
本社事業所の所在地 | 勤務先事業所の所在地 | 適用される最低賃金 |
---|---|---|
京都府 | 栃木県 | 栃木県 |
大阪府 | 栃木県 | 栃木県 |
そのため、就業場所ごとに最低賃金をチェックすることが重要です。
ヘルプなどで都道府県をまたいで移動する場合は?
たとえば、普段は栃木県の店舗で働いているアルバイトが、1日だけ埼玉県にある店舗に応援に行った場合であっても、その日の最低賃金は栃木県の最低賃金(=従業員が所属している就業場所)で判断されます。
従って、臨時の応援等で一時的に就業場所(勤務する都道府県)が変わったとしても、適用される最低賃金は変わらないという点に注意が必要してください。
テレワーク・在宅勤務の場合は?
テレワークや在宅勤務が増える中、「最低賃金はどこ基準で見るの?」という疑問もあるでしょう。この場合、従業員が所属している事業所の所在地が基準になります。
本社事業所の所在地 | テレワーク・在宅勤務の場所 | 適用される最低賃金 |
---|---|---|
東京 | 栃木 | 東京 |
大阪 | 栃木 | 大阪 |
【2025年最新版】栃木県の最低賃金改定内容
2024年度、栃木県の最低賃金は国の引き上げ方針を受けて、大幅に改定されました。
今回の動きは、単なる地域ごとの調整にとどまらず、全国的な流れとして進められている「賃金の底上げ」政策の一環です。その背景には、物価の上昇や人手不足の深刻化といった社会的課題があり、「誰もが安心して生活できる賃金水準の確保」が、政府・労働界・経済界の共通課題として強く認識されるようになっています。
こうした状況を受けて、三者による協議を経ながら、全国各地で最低賃金の引き上げが進められており、栃木県も例外ではありません。本章では、栃木県における最低賃金改定の内容を以下の観点からわかりやすく整理してご紹介します。
- 改定内容の主なポイント
- 過去の最低賃金の推移
- 近隣府県との比較
企業の人事労務担当者や経営者にとって、最低賃金の動向は経営判断にも直結する重要な指標です。まずは現在の水準とその背景を正しく把握することから始めましょう。
栃木県の新しい最低賃金額と発効日は?
2024年10月1日から、栃木県の最低賃金は時間額1,004円に改定されました。これは前年の954円から50円の引き上げとなり、過去最大級の上昇幅です。

- 改定前(2023年度):954円
- 改定後(2024年度):1,004円
- 引き上げ額:50円
- 発効日:2024年10月1日
この改定により、月100時間程度勤務するパートタイマーの場合、月給換算すると約5,000円以上増加する計算になります。企業にとっては人件費の見直しが求められ、労働者にとっては生活水準の改善につながる可能性があります。
栃木県の最低賃金(1,004円)はいつの給与から反映?
2024年10月1日より、栃木県の最低賃金が時間額1,004円に引き上げられます。以下は、締め日と支払日のパターンごとに、新しい最低賃金をいつから反映すべきかをまとめた表ですので、ご参考いただければ幸いです。
締め日・支払日 | 締め日例 | 支払日例 | 10月1日以降の労働を含むか | 最低賃金の反映 |
---|---|---|---|---|
末締め 末日払い | 9月30日 | 10月31日 | (9/1〜9/30の勤務) | 含まない旧賃金でOK (まだ最低賃金は反映されない) |
10日締め 当月25日払い | 10月10日 | 10月25日 | (9/11〜10/10の勤務) | 一部含む10月1日以降の 勤務分に反映必要 |
15日締め 当月末日払い | 10月15日 | 10月31日 | (9/16〜10/15の勤務) | 一部含む10月1日以降の 勤務分に反映必要 |
末日締め 翌月末日払い | 10月31日 | 11月30日 | (10/1〜10/31の勤務) | 含む全期間で反映必要 |
10日締め 当月25日払い | 11月10日 | 11月25日 | (10/11〜11/10の勤務) | 含む全期間で反映必要 |
最低賃金の適用タイミングは「支払日」ではなく「働いた日」に基づいて判断します。10月1日以降に1日でも勤務がある場合、その日から1,004円以上での支払いが必要です。
栃木県における過去の最低賃金推移と引き上げ幅
以下は平成14年度以降の、栃木県における最低賃金の推移をまとめたものになります。
年度 | 最低賃金 | 引上額 | 引上率 | 発行年月日 |
---|---|---|---|---|
平成14年 | 648 | – | – | 平成14年10月1日 |
平成15年 | 648 | 0 | 0 | 平成14年10月1日 |
平成16年 | 649 | 1 | 0.2 | 平成16年10月1日 |
平成17年 | 652 | 3 | 0.5 | 平成17年10月1日 |
平成18年 | 657 | 5 | 0.8 | 平成18年10月1日 |
平成19年 | 671 | 14 | 2.1 | 平成19年10月20日 |
平成20年 | 683 | 12 | 1.8 | 平成20年10月20日 |
平成21年 | 685 | 2 | 0.3 | 平成21年10月1日 |
平成22年 | 697 | 12 | 1.8 | 平成22年10月7日 |
平成23年 | 700 | 3 | 0.4 | 平成23年10月1日 |
平成24年 | 705 | 5 | 0.7 | 平成24年10月1日 |
平成25年 | 718 | 13 | 1.8 | 平成25年10月19日 |
平成26年 | 733 | 15 | 2.1 | 平成26年10月1日 |
平成27年 | 751 | 18 | 2.5 | 平成27年10月1日 |
平成28年 | 775 | 24 | 3.2 | 平成28年10月1日 |
平成29年 | 800 | 25 | 3.2 | 平成29年10月1日 |
平成30年 | 826 | 26 | 3.3 | 平成30年10月1日 |
令和元年 | 853 | 27 | 3.3 | 令和元年10月1日 |
令和2年 | 854 | 1 | 0.1 | 令和2年10月1日 |
令和3年 | 882 | 28 | 3.3 | 令和3年10月1日 |
令和4年 | 913 | 31 | 3.5 | 令和4年10月1日 |
令和5年 | 954 | 41 | 4.5 | 令和5年10月1日 |
令和6年 | 1,004 | 50 | 5.2 | 令和6年10月1日 |
栃木県における最低賃金の推移を振り返る中で、特に注目すべき年のひとつが令和2年(2020年)です。
この年は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、全国的に経済が深刻な影響を受けました。最低賃金についても、例年のような引き上げが難しくなり、一部の地域では改定自体が見送られるなど、これまでにない慎重な対応が取られました。
栃木県においても、引き上げ幅はわずか「1円」にとどまり、前年とほぼ同水準。異例とも言える抑制的な改定となりました。企業の経営環境が急速に悪化するなか、国としても現実に即した柔軟な判断が求められた結果と言えるでしょう。
その後は、経済活動の再開や物価の上昇を背景に、最低賃金の引き上げペースは再び加速し、令和6年(2024年)には、栃木県で過去最大となる「50円」の引き上げが実施され、大きな注目を集めました。
このように、最低賃金の動きは経済情勢や社会課題を色濃く反映する指標であり、単なる賃金調整にとどまりません。
企業にとっても、最低賃金の推移を注視し、適切な対応を行うことは、経営判断の重要な要素となりつつあります。
この推移を見ても、最低賃金は今後も継続して引き上げられる傾向にあると考えられ、企業にとっては「その場しのぎ」ではなく、中長期的な賃金設計の見直しが必要です。
栃木県の最低賃金は全国で何位?【全国ランキング】
栃木の最低賃金は、全国で第15位に位置しており、2024年度の最低賃金額は栃木県は1,004円です。前後では14位に茨城県で1,005円、16位は岐阜県の1,001円となっています。栃木県では2024年の最低賃金改定で大台の1,000円を超えた形になります。

栃木県と近隣府県の最低賃金比較
栃木県の最低賃金(1,004円)は、全国的には上位に位置していますが、隣接する府県と比べてどうなのでしょうか?以下は主要な近隣府県との比較となりますので、ご参考ください(2024年10月時点)。
地域 | 最低賃金 | 栃木県との比較 |
---|---|---|
茨城 | 1,005 | 1 |
群馬 | 985 | -19 |
埼玉 | 1,078 | 74 |
千葉 | 1,076 | 72 |
東京 | 1,163 | 159 |
神奈川 | 1,162 | 158 |
栃木県は全国的に見ても上位の最低賃金として設定されていますが、これは物価・経済規模・労働市場の状況を反映した結果といえるでしょう。また、今後最低賃金は1,500円を目指して引き上げられることが考えられます。
最低賃金と実際の賃金の比較方法
「最低賃金は守っているつもりだったのに、実は違反していた」こうしたケースは、実は決して珍しくありません。その主な原因は、最低賃金と比較すべき“正しい賃金額”の算出方法や、対象となる賃金項目への理解不足にあります。
最低賃金制度では、比較対象となるのは「給与の総支給額」ではなく、一定のルールに基づいて計算され「時間あたりの賃金」です。この点を誤解していると、意図せず最低賃金を下回るケースに陥り、法令違反となるリスクが生じてしまいます。
本章では、最低賃金と自社の賃金を正しく比較するための具体的な方法について、実務の視点からわかりやすく解説していきます。
- 月給制・日給制・時給制それぞれの換算方法と注意点
- 最低賃金との比較に含めるべき手当/含めてはいけない手当の違い
- 実際の計算例をもとにしたチェックポイント
など、現場で直面しがちな課題に即した実践的な内容を取り上げます。経営者・人事労務担当者の方はもちろん、「自分の給与はちゃんと最低賃金をクリアしているのか不安…」という労働者の方にも、ぜひご一読いただきたい内容です。
前提の整理:最低賃金の確認方法(給与形態別比較)
項目 | 月給制 | 日給制 | 時給制 |
---|---|---|---|
最低賃金との比較方法 | 月給を時間単価に 換算して比較 | 日給を時間単価に 換算して比較 | 支払われている時給と 直接比較 |
計算式の概要 | 月給 ÷ 月平均の所定労働時間 | 日給 ÷ 1日の所定労働時間 | 時給 ≧ 最低賃金額 |
補足事項 | ・賞与、残業代、通勤手当などは除外 ・月平均の所定労働時間=年間所定労働時間 ÷ 12か月 | ・日によって労働時間が異なる場合は、平均的な所定労働時間を使用 | ・一番わかりやすく比較しやすい形態 ・最低賃金に含まれない手当は除外する必要あり |
なお、最低賃金の確認方法や、最低賃金に含むべき賃金・含まれない賃金については下記コラム記事で解説しています。ぜひ併せてご一読ください。

栃木県の最低賃金違反になるケース
「計算方法の誤りや、手当の取り扱いに関する誤解によって、知らないうちに最低賃金を下回っていた」ということは、意外と起こり得るミスです。
特に注意が必要なのが、月給制や日給制での給与支払いです。名目上の月給や日給の金額が一見、最低賃金を上回っているように見えても、実際の労働時間で時給換算すると、最低賃金を下回っていたというケースが発生することがあります。
そのため、「時給換算で最低賃金を満たしているかどうか」を常に確認する視点が不可欠です。ここでは、2024年10月時点の栃木県における最低賃金(時給1,004円)を基準に、
- 月給制
- 日給制
- 時給制
それぞれの給与形態において、どのような場合に最低賃金違反となるのかを、具体的な金額例を交えてわかりやすく解説します。実際の給与が最低賃金を下回っていないかを確認する際のチェックポイントとして、ぜひお役立てください。
月給者の場合
月給制の場合は、「月給 ÷月平均所定労働時間」で1時間あたりの賃金を算出し、最低賃金を下回っていないか確認します。
なお、月平均所定労働時間は年間休日数によって異なってきます。同じ月給額であっても、時給換算額も変動するため、注意しなければなりません。
労働条件等 | ケース① | ケース② | ケース③ |
---|---|---|---|
暦日 | 365日 | 365日 | 365日 |
年間休日 | 120日 | 115日 | 110日 |
労働時間 | 8時間 | 8時間 | 8時間 |
所定労働時間月平均 | 164時間 | 167時間 | 170時間 |
対象賃金 | 170,500 | 170,500 | 170,500 |
時給換算 ※1円未満は四捨五入 | 1,040 | 1,021 | 1,003 |
違反状況 | 適法 | 適法 | 違法 |
上記の表を例に上げますと、栃木県では最低賃金の対象となる月給額が「170,500円」の契約においては、月平均所定労働時間が170時間の場合、時間給換算で1,003円になるため最低賃金に違反していることになります。
日給者の場合
日給制の場合は、「日給 ÷ 1日の所定労働時間」で時間単価を算出し、最低賃金と比較します。
労働条件等 | ケース① | ケース② | ケース③ |
---|---|---|---|
日給額 | 8,000 | 8,030 | 8,030 |
1日の労働時間 | 8時間 | 7.5時間 | 7時間 |
時給換算 ※1円未満は四捨五入 | 1,000 | 1,071 | 1,147 |
違反状況 | 違法 | 適法 | 適法 |
栃木県内において最低賃金の対象となる日給額が「8,000円」で1日の労働時間が8時間の場合は最低賃金に違反していることになります。
時給者の場合
時給制はもっともシンプルで、支払われている時給は栃木県の最低賃金1,004円を下回っていれば即違法です。
- 時給額:1,003円は違法
- 時給額:1,004円は適法
- 時給額:1,005円は適法
また、求人広告などで「交通費込みで時給1,200円」などと書かれていても、実際の基本時給が1,000円程度であれば違法になる可能性があります。
最低賃金引き上げが企業と労働者に与える影響
最低賃金の引き上げは、単なる数字の変更ではなく、企業経営や労働者の働き方に直接影響を及ぼす「経済政策の一環」です。特に2024年度のような大幅な引き上げは、事業者にとってはコスト負担の増加、労働者にとっては生活向上のチャンスといった、両面の影響をもたらします。
この章では、それぞれの立場から「何が変わるのか」「どう対応すべきか」を具体的に整理し、社労士視点からのアドバイスも交えながら解説します。
企業側の対応と注意点
最低賃金の引き上げにより、企業はまず人件費の増加という課題に直面します。特にパート・アルバイトを多く雇用している中小企業では、経営へのインパクトが大きく、慎重な対応が必要です。
最低賃金を下回っていた場合、行政指導や是正勧告にとどまらず、「未払い賃金の支払い」といった金銭的リスクが生じます。知らなかった、では済まされない法的義務として、年に一度はチェック体制を整えておくことが必要です。
人件費の見直しと再計算
最低賃金の上昇は、特にパート・アルバイトを多く雇用する業種にとって大きな影響があります。全従業員の賃金が最低賃金を下回っていないか確認し、必要に応じて賃上げを実施する必要があります。加えて、人件費全体のバランスを見直し、収益との整合性を図ることが求められます。
労務管理の見直し
最低賃金を下回る給与は労働基準法違反となるため、労働時間、給与体系、手当の内訳まで詳細に確認することが重要です。特に、固定残業代制度を採用している企業は、基本給部分が最低賃金を下回らないよう注意が必要です。
業務効率化・生産性向上の取り組み
人件費の上昇に対抗するためには、業務の効率化や自動化の導入がカギとなります。ITツールの活用や業務フローの見直しなど、生産性向上によるコスト抑制策を積極的に取り入れることが求められます。
中小企業には助成金の活用も視野に
賃金引上げに伴う経済的な負担を軽減するために、「業務改善助成金」などの制度活用も検討しましょう。
業務改善助成金を簡単にご紹介すると
- 目的: 会社内の最低賃金を引き上げ、また生産性向上のための設備投資等を行った場合に助成
- 助成額: 最大600万円(企業規模や引き上げ人数に応じて変動)
- 対象経費例: POSレジ、勤怠管理システム、パソコン、業務用ソフトなど
上記のようなものになります。
単に「コストが増える」と悲観するのではなく、助成金を活用しつつ社内の業務効率や生産性を見直す契機にすることが、中小企業にとっては長期的な競争力強化につながります。
詳細は下記のコラム記事でご紹介しておりますので、併せてご一読ください。

労働者が知っておくべきポイント
労働者にとって最低賃金の引き上げは、実質的な収入アップにつながる重要な制度改定です。しかし、現場レベルでは「時給が変わっていない」「手当で調整されている」など、ルールに則っていないケースも散見されます。
最低賃金は「お願いするもの」ではなく、「守られるべき権利」です。自分の労働条件をチェックすることが、健全な働き方の第一歩といえるでしょう。
自分の賃金が最低賃金を下回っていないか確認
最低賃金は都道府県ごとに設定されており、毎年改定されるため、最新の金額を確認しておくことが大切です。賃金には交通費や時間外手当など一部の手当は含まれないため、計算方法にも注意が必要です。
会社とのコミュニケーションも大切に
最低賃金を下回っていた場合は、まず雇用主である会社に事実を伝え、是正を求めることが望ましいです。改善されない場合は、労働基準監督署などの行政機関に相談することも選択肢となります。
自分の労働環境を見直す機会に
最低賃金の改定は、自分の働き方や労働条件を見直す良いタイミングでもあります。将来的なスキルアップやキャリアパスを考えるきっかけとして捉えることも可能です。
引き上げられる最低賃金への適切な対応策
最低賃金の改定は、企業と労働者にとって「一時的な痛み」ではなく、長期的な会社成長のチャンスととらえることが重要です。
最低賃金の議論は「損か得か」ではなく、「どうすれば働きがいのある職場になるか」という視点を持つことで、双方にとって有益な改善につながります。企業も労働者も、法令を守るだけでなく、信頼と安心のある職場づくりに活用していきましょう。
企業は定期的な給与チェックを習慣化することが重要
最低賃金の改定に限らず、賃金体系の見直しを怠らない体制づくりが、労務リスクの回避につながります。給与の納得感が高まると、優秀な人材の確保・育成につなげられることも考えられます。
従業員への情報共有とコミュニケーションを忘れずに
企業側が改定内容をきちんと説明し、従業員が納得感をもって働ける環境を整えることで、職場の信頼関係が強化されます。最低賃金を「底上げ」として取り入れ、モチベーションの向上や定着率アップを図ることが重要です。
【栃木県版】最低賃金に関するよくある質問と回答
最低賃金は一見シンプルな制度のように見えますが、実際には「例外」や「誤解されやすいポイント」が多くあります。そのため、企業側でも労働者側でも「この場合どうなるの?」「違反したらどうなる?」という疑問が日々寄せられています。
ここでは、よくある質問・回答をご紹介しますので、ぜひ自社の状況や自身の働き方と照らし合わせながらご確認いたただければ幸いです。
まとめ:最低賃金改定への理解と今後の対応
2024年、栃木県における最低賃金の改定は、労働者の生活を支えると同時に、企業にとっても経営方針や人件費戦略を見直す大きな節目となりました。
最低賃金制度は、単に「時給の下限」を定めるものではなく、公正な労働環境の整備や、地域社会・経済の持続的発展を支える重要な社会インフラでもあります。年々その存在意義は増し、企業経営に与える影響も無視できないものとなっています。
今や、最低賃金への対応は「決まったルールに従う」だけでは不十分です。制度の動向をどう捉え、どう自社の経営に活かすかが、今後の競争力や持続可能性を左右する時代へと移行しつつあります。
最低賃金に関する情報は今後も、国や都道府県単位で継続的にアップデートされていきます。本記事が、企業にとっては制度を正しく理解し、前向きに対応するためのヒントに、また、働くすべての方にとっては、自身の働き方や職場環境を見直すきっかけとなれば幸いです。