給料の翌月払いは違法?賃金支払いの5原則と適切な給与支払い方法とは
給料の翌月払いは違法なのか、それとも合法なのか。
給与計算を行っている担当者の方や、これから従業員をはじめて採用する経営者の方で、気になっていることもあるでしょう。
給与の支払いについては、労働基準法で定められた「賃金支払いの5原則」があり、これを遵守することが重要です。
今回のコラム記事では、
- 給与の翌月払いの適法性
- 賃金支払いの5原則の詳細や例外
- 適切な給与支払い方法
上記の内容について分かりやすく説明できればと思いますので、ぜひご一読ください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
給料の翌月払いに関する法的規制と注意点
給料の翌月払いについて理解を深めるには、まず労働基準法で定められた規制を把握することが不可欠となります。
まずは給与に関するルールとして労働基準法に定められている「賃金支払いの5原則」を解説いたしますので、翌月払いが違法なのかどうか見ていきましょう。
労働基準法における賃金支払いの5原則
労働基準法第24条では、賃金支払いに関する5つの原則が定められています。これらの原則は、従業員の権利を守り、公正な賃金支払いを確保するために設けられたものです。
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
賃金支払の5原則とは上記で構成されておりますので、具体的な内容を確認してみましょう。また、各種原則において勘違いのしやすいケース(法律違反になる場合)も押さえていただければ幸いです。
労働基準法の条文を確認してみる
第二十四条(賃金の支払)
①賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
②賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
e-GOV「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」より引用
通貨払いの原則
まず1つ目の通貨払いの原則とは、賃金を現金(日本円)で支払うことを義務付けるものです。
ただし、従業員の同意があれば、銀行振込などの口座振込も認められています。現物支給や商品券での支払いは原則として禁止されていますが、例外として、法令で定められた範囲内での現物給与は認められています。
また、近年においてはデジタル給与(例:PayPay等)での支払いも進んでいますので、下記関連する記事もご確認ください。
なお、外国人労働者を雇用していたとしても、日本円以外の通貨で払うことは認められていません。(ドル等で給与を支払うことは違法となります。)
直接払いの原則
直接払いの原則は、賃金を労働者本人に直接支払うことを定めています。
これは、中間搾取を防ぎ、確実に労働者の手元に賃金が渡ることを目的としています。ただし、病気や事故で本人が受け取れない場合など、特別な事情がある際は、使者(例:配偶者)への支払いも認められます。
未成年をアルバイトとして雇用している場合、本人の親に給与を支払うことは違法となるため注意してください。(従業員本人が同意していたとしても、違法です)
全額払いの原則
全額払いの原則は、賃金を全額支払うことを義務付けるものです。
使用者が一方的に賃金の一部を控除することは禁止されています。ただし、税金や社会保険料など、法令で定められた控除や、労使協定を結んでいる場合の控除は例外として認められています。
会社が従業員に金銭を貸し付けている場合(例:従業員貸付制度)であっても、一方的に賃金と貸付金を相殺することはできません。労使協定を締結し「貸付金の返済を賃金支払い時に控除できる」ルールの設計が必要になります。
毎月1回以上払いの原則
この原則は、賃金を少なくとも月に1回は支払わなければならないことを定めています。
これは、労働者の生活の安定を図るためのものです。ボーナスなど、臨時の賃金はこの原則の対象外となります。
その月に支払われる給与が低いからといって、翌月に2ヶ月分をまとめて支給することは違法となります。(例:入社したタイミングが給与の締め日のため1日分しか給与がでない場合、翌月の給与とまとめて支給する等)
一定期日払いの原則
一定期日払いの原則は、賃金の支払日を予め決めておき、その日に支払うことを義務付けるものです。
これにより、労働者は収入の見通しを立てやすくなります。ただし、休日の場合は前営業日に支払うなど、柔軟な対応も認められています。
給与の支払いを「毎月第4金曜日」のように、支払日が月によって変わることは認められません。また「毎月20日から25日のいずれか」といったルールも同様に違法となります。
給料の翌月払いが違法となるケースはあるのか?
結論、翌月払い自体は
- 雇用契約書や就業規則に明記しているサイクルで給与が支払えていること
- 毎月の支払日が一定であること
上記の対応がしっかりとできていれば違法ではなく、多くの会社で導入されている支払いサイクルです。
一方で、
- 採用時に「末締め・当月◯◯日払い」と説明している一方で、実際は「末締め・翌月◯◯日払い」と運用している場合
- 雇用契約書や就業規則に給与の支払日が明記されていない場合
- 支払いが恒常的に遅れ、一定期日払いの原則に反する場合
これらのケースでは、給与の支払方法が労働基準法違反となる可能性が高いため、注意をしましょう。
給与の支払い時期に関する一般的な慣行やルール
給与の支払い時期は、企業の運営や従業員の生活に大きな影響を与える重要な要素です。
日本の企業にフォーカスすると
- 月末締め翌月25日払い
- 月末締め翌月15日払い
- 月末締め当月25日払い
このような支払いサイクルがよく見受けられます。一般的な給料支払いの慣行について詳しく解説し、効果的な運用方法をご案内いたしますので、これから給与の支払い時期の変更を検討されている企業様はご参考ください。
月末締め翌月払いの仕組みと利点
月末締め翌月払いは、多くの日本企業で採用されている給与支払いの方式です。この仕組みでは、当月1日から月末までの労働に対する給与を、翌月の指定された日に支払うことになります。
具体的には、4月1日から4月30日までの労働に対する給与を、5月25日に支払うといった具合です。
この方式には以下のような利点があります。
- 会計処理の効率化:月単位で給与計算を行うことで、会計処理が簡素化され、効率的な経理業務が可能になります。
- キャッシュフローの管理:企業は当月の売上を翌月の給与支払いに充てることができるため、資金繰りが安定します。
- 残業代等の正確な計算:月末までの労働時間を確定させてから給与計算を行うため、残業代などの変動給の正確な計算が可能です。
給与支払日の設定方法と従業員への説明
給料日を適切に設定し、従業員に明確に説明することは、円滑な労務管理の基本です。
- 就業規則への明記
- 労働条件通知書での説明
- 支払日の柔軟な設定
- 変更時の適切な対応
上記について、効果的な給料日の設定方法と説明のポイントを紹介いたします。
就業規則への明記
給与の締め日と支払日は、就業規則に明確に記載する必要があります。
例えば、「給与の計算期間は毎月1日から末日までとし、翌月25日に支払う」といった具体的な記述が求められます。
労働条件通知書での説明
新規採用時には、労働条件通知書に給与の支払時期を明記し、口頭でも説明を行います。これにより、従業員の理解を深め、トラブルを未然に防ぐことができます。
支払日が土日にあたる場合の対応方法
支払日が休日と重なる場合の対応も予め定めておきましょう。例えば、「支払日が休日の場合は前営業日に支払う」といった規定を設けることで、給与の振込作業時に迷わず対応が可能となります。
変更時の適切な対応
給与日を変更する場合は、十分な周知期間を設け、変更理由と新しい支払いスケジュールを丁寧に説明します。従業員の理解と協力を得ることで、スムーズな移行が可能になります。
給与の締め日・支払日を変更する場合の注意点については、別途労務Tipsにて解説しておりますので、ぜひご一読ください。
適切な給与支払い方法のルールと運用
給与の支払いは、労使間の信頼関係を築く上で非常に重要な要素です。
適切な給与支払い方法を導入し、効率的に運用することは、企業の健全な発展と従業員の満足度向上につながりますので、特に確認をいただきたい
- 就業規則への明記
- 給与計算システムの活用
- 専門家との連携
上記について解説いたします。
これらの取り組みにより、法令遵守と業務効率化の両立を実現し、より良い職場環境の構築を目指しましょう。
就業規則への明記と従業員への周知
給与支払いに関する規定を就業規則に明確に記載することは、法的要件を満たすだけでなく、従業員との信頼関係を築く上でも重要です。以下の点に注意して、就業規則を整備しましょう。
- 給与支払いの基本原則について
- 賃金支払いの5原則(通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上払い、一定期日払い)を明確に記載し、例外がある場合はその条件も明示します。
- 支払い方法の詳細を記載する
- 現金支給か口座振込か、振込の場合の指定金融機関、支払日が休日の場合の取り扱いなどを具体的に記述します。
- 給与計算期間と支払日
- 例えば「毎月1日から末日までの期間を計算期間とし、翌月25日に支払う」といった具合に、明確に定めます。
- 控除項目
- 所得税、社会保険料など法定控除項目と、社員の同意に基づく任意控除項目がある場合はその項目も記載しましょう。
就業規則の改定後は、従業員への周知を徹底することが大切です。
全体会議での説明や、イントラネットでの公開、個別の説明会の実施など、複数の方法を組み合わせて情報を伝達しましょう。また、新入社員研修や定期的な勉強会を通じて、継続的な教育も行うことが望ましいです。
給与計算システムの活用と効率化
給与計算業務の効率化と正確性向上のために、適切な給与計算システムの導入が不可欠です。以下のポイントに注目して、システムを選択・活用しましょう。
- クラウド型システムの採用
- 例えば「マネーフォワードクラウド給与」や「ジョブカン給与」などのクラウド型システムを利用することで、場所を問わず給与計算業務が可能になり、テレワーク時代に対応できます。
- 勤怠管理システムとの連携
- 給与計算システムと連携ができる勤怠管理システムを導入することで、残業時間の自動計算や有給休暇の管理が容易になります。
- 法改正への迅速な対応
- 近年、労務に関する法改正は頻繁に行われております。法改正への対応が適切に行われているのかどうか、システム導入時の大きな注意点になります。
- ルールとシステムのどちらを優先的に捉えるのか
- システムによっては自社ルールに適合しないこともあります。そのとき「システムに合わせて社内ルールを見直すのか」「自社システムにできるだけマッチするシステムを探す」どちらの動き方をするのか、あらかじめ決めておくことも重要です。
システム導入後は、定期的に使用状況を確認し、必要に応じて従業員向けの操作研修を実施するなど、継続的な運用改善を心がけましょう。
専門家への定期的な相談
給与支払いに関する疑問や問題が生じた場合、社会保険労務士といった専門家に相談することで適切なアドバイスを受けることができます。給与に関する事項としては
- 自社の給与計算の内容が問題ないか?
- 社内ルールは適法になっているか?
2つの点は労務管理上押さえておきたいポイントになりますので、もし不安がありましたら専門家に相談されることをおすすめいたします。
専門家を活用することで法令遵守はもちろん、従業員にとってより良い労働環境の整備につながります。疑問点があれば躊躇せず相談し、適切な給与支払い体制の維持・改善に努めましょう。
まとめ:適切な給与支払い体制の構築による信頼関係向上へ
適切な給与支払い体制の構築は、法令遵守と従業員満足度向上の両面から企業の成長を支える重要な要素です。しかし、複雑な労働法制や頻繁な法改正に対応しながら、最適な給与支払い体制を維持することは、多くの企業にとって大きな課題となっています。
給与計算や労務管理でお悩みの企業様には、ぜひ弊社にご相談いただければ幸いです。貴社の状況に合わせて、給与計算のアウトソーシングや給与計算システムの選定などをご提案いたします。