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Q. 給与の締め日・支払い日は変更できますか?注意点を教えてください。

給与 締め日 支払い日 変更
この労務Tipsでわかること
  • 給与計算における締め日・支払日の変更に関して注意すべきこと
  • トラブルを防止するためのルール変更の進め方

現在は給与計算を「15日締め」の「20日支払い」で行っているのですが、「20締め」の「末日支払い」への変更を考えています。

従業員が増えてきたため、5日間で給与の計算・振込処理が難しくなってきました。締め日や支払日を変更してもよいのでしょうか?何か問題があれば教えてください。

A. 給与の締め日・支払い日は変更可能ですが、従業員への配慮が必要です。

給与の締め日・支払日は、会社が自由に定めることができますので、現在設定している日から変更自体は問題ありません。

ただし、「制度の変更」と「従業員への配慮」をしなければ、法律に抵触する可能性や従業員とのトラブルに繋がりますので、注意点およびポイントを解説いたします。

まず前提として、賃金の支払いに関しては「賃金支払いの5原則」と呼ばれるルールを守ることが必要になります。

賃金の支払い時に守るべき5つのルール
  1. 通貨払いの原則
    • 給与は原則的に「現金」で支払わなければならない。ただし、従業員の同意があれば銀行口座等へ振込みが可能。
  2. 直接払いの原則
    • 給与を手渡し・振り込みする場合は「従業員本人」でなければならない。病気・入院中などで従業員本人が受け取れない場合、配偶者等が「使者」という扱いを受けられれば従業員本人以外でも可能。
  3. 全額払いの原則
    • 社会保険料や所得税などの法律上定められているものおよび、労使協定で定めるもの以外は給与から控除してはいけない。
  4. 毎月1回以上払いの原則
    • 給与は毎月1回以上支払わなければならない。2か月に1度まとめて支払うなど法律違反。
  5. 一定期日払いの原則
    • 給与の支払日は「支払い日を特定」しなければならない。「月末」の指定は可能だが、「毎月10日から20日の間」や「毎月第四木曜日」などは特定したことにならないため法律違反。

上記のルールのうち、給与の締め日・支払日の変更に関わる部分は「毎月1回以上払いの原則」と「一定期日払いの原則」となりますので、どのような観点に注意しなければならないのか見ていきましょう。

また、給与の締め日・支払い日の基本的な事項については別途解説をしております。

  • 起業をしたばかりで、これから給与の支払いルールを考えていく方
  • 他の会社は締め日・支払日をどのように決めているのか知りたい方

はぜひ下記コラム記事を併せてご一読いただけますと幸いです。

締め日・支払い日を変更する際の注意点とは?

給与の締め日・支払い日は会社によって自由に定めることができますので、現在の締め日・支払日をどのように変えるのかによって対応方法が異なります。想定できるパターンとしては

締め日・支払日の変更パターン
  • パターン①:締め日のみ変更する場合
    • 変更前:15日締め・20日支払い
    • 変更後:10日締め・20日支払い
  • パターン②:支払い日のみ変更する場合
    • 変更前:15日締め・20日支払い
    • 変更後:15日締め・25日支払い
  • パターン③:締め日・支払い日ともに変更する場合
    • 変更前:15日締め・20日支払い
    • 変更後:20日締め・月末支払い

上記3つに分類ができます。また、今回は

  • 3月勤務分は変更前のルール
  • 4月勤務分以降は変更後のルール

として解説をいたします。

パターン①:締め日のみ変更する場合

1つ目のパターンとしては、給与の「締め日」のみを変更することです。従来は「15日締め・20日支払い」のところを「10日締め・20日支払い」に変更するとどうなるのでしょうか。

締め日のみ変更するケース

添付画像を見ると、

  • 【変更前】4月20日の支給分は「3月16日から4月15日」の勤務に対するため満額支給
  • 【変更後】5月20日の支給分は「4月16日から5月10日」の勤務に対するため25日分のみ
  • 【変更後】6月20日の支給分は「5月11日から6月10日」の勤務に対するため満額支給

の支払いになります。つまり、変更後初回の給与である5月20日分は対象となる勤務日数が減ってしまうため、給与も減額となるので注意が必要です。

今回のケースですと「5日分」の減少となっていますが、変更前後の締め日によっては更に減ってしまうこともあります。従業員からするとローンの支払いや、クレジットの引き落とし、日々の生活費などに影響がありますので事前に説明しておかなければトラブルになるため気をつけておきましょう。

パターン②:支払い日のみ変更する場合

2つ目のパターンとしては、給与の「支払い日」のみを変更することです。従来は「15日締め・20日支払い」のところを「15日締め・25日支払い」に変更するとどうなるのでしょうか。

支払い日のみ変更するケース

添付画像を見ると、

  • 【変更前】4月20日の支給分は「3月16日から4月15日」の勤務に対するため満額支給
  • 【変更後】5月25日の支給分は「4月16日から5月15日」の勤務に対するため満額支給
  • 【変更後】6月25日の支給分は「5月16日から6月15日」の勤務に対するため満額支給

の支払いになります。つまり、給与の支払い日のみの変更については、支給金額が変わることはありません。

ただし、従業員の口座に振り込まれるタイミングが5日ずれてしまうため、人によってはローンやクレジットの引き落としに影響が出る点はパターン①と同様になりますので注意をしましょう。

パターン③:締め日・支払い日ともに変更する場合

最後のパターンは給与の「締め日」も「支払い日」も両方とも変更する場合です。従来は「15日締め・20日支払い」のところを「20日締め・月末支払い」に変更するとどうなるのでしょうか。

締め日・支払日ともに変更するケース

添付画像を見ると、

  • 【変更前】4月20日の支給分は「3月16日から4月15日」の勤務に対するため満額支給
  • 【変更後】4月30日の支給分は「4月16日から4月20日」の勤務に対するため5日分を支給する
  • 【変更後】5月31日の支給分は「4月21日から5月20日」の勤務に対するため満額支給

の支払いになります。つまり、同時に締め日・支払日を変更すると「4月に2回給与の計算・支給」が発生することになります。

従業員に説明をした上で「4月16日から4月20日」の勤務分は、5月31日支給分にまとめて支払うということも実務上は可能です。賃金支払いの5原則は「毎月1回以上の支払い」ですので、4月、5月ともに1回ずつ支払えば問題ありません。

トラブルを防止するために取り組むべきこと

締め日・支払日変更パターンごとに解説しましたが、トラブルを防止しながら制度を変更するには結論として

給与は従業員の生活に直接影響があるため配慮が必要

になります。そのため締め日や支払日の変更を考えている経営者の方は、下記は必ず念頭に置いてください。

  • 締め日・支払日の変更を決定したタイミングで、従業員に説明を実施する
    • 「翌月から変更」するのではなく「3ヶ月後から変更」などある程度期間を空けておく
  • 給与の支給額が減るケースであれば、従業員と個別面談を実施して生活に問題がないか確認を行う
    • 万が一生活に支障があると申し出があった場合は「賞与の一部を先払いする」「賞与の支給月に給与の締め日・支払い日を変更する」「会社から無利子で貸付を行う」など、給与の補填を実施
  • 就業規則の変更を行い、今後の社内ルールとして運用を続ける
    • 変更した就業規則は従業員に周知を行い、今後の給与計算時に運用する
    • また、今後入社する従業員や、パート・アルバイトとの契約更新時には、変更後の締め日・支払日が記載された新しい労働条件通知書(雇用契約書)を交付する

賃金支払の5原則の遵守ができていれば、全く問題ないわけではありません。締め日・支払日は就業規則を作成しているのであれば必ず記載しなければならないため、就業規則の内容も併せて変更しましょう。また、給与は従業員の生活の糧そのものです。現在の支払日をベースに「住宅ローン」を組んでいたり、クレジットカードの引き落とし日を設定している方は多いと思いますので、しっかりと説明して同意を得ることが大切です。

まとめ

給与の締め日や支払日の変更は、会社の経営判断で行えますが、不要なトラブルを防止するためにも

  • 変更することで従業員の給与金額にどのような影響ができるのか?
  • 従業員への配慮としてどのような取り組みができるのか?

しっかりと確認をしておきましょう。特に従業員数が多くなればなるほど、不満の声も集まりやすくなりますので慎重に進めることをご提案いたします。

社労士によるワンポイント解説

給与の締め日・支払い日の変更を円滑に進めるためのフローを整理しておりますので、検討している方は参考にしてください。

給与の締め日・支払い日の変更フロー
STEP
締め日・支払日の変更日を決める

資金繰りの影響であったり、給与計算の期間が厳しかったり、締め日・支払日の変更をするのであれば理由があると思います。その理由から逆算して、どの締め日・支払日であれば問題なく従業員に給与が支給できるのかしっかりと吟味し、変更日を特定しましょう。

また、変更を開始するタイミングも同時に決定します。

給与の支給金額が減ったり、大幅に支払い日がスライドするのであれば、従業員に対する緩和措置も検討してください。

STEP
従業員に説明会を実施する

経営判断として変更することが決まったら、すぐに従業員に説明を行います。従業員数が少ない企業の場合、個別面談で説明をしても構いません。

従業員によっては不平不満の声が上がる可能性がありますが、検討した緩和措置等で納得いただけるように慎重に説得します。

STEP
就業規則も変更して運用を進める

従業員への説明および同意が得られましたら、就業規則を変更していきます。就業規則の変更については

  1. 就業規則の条文を変更する
  2. 従業員の過半数の代表から意見を聴く
  3. 所轄の労働基準監督署に届け出を行う
  4. 従業員に就業規則の変更内容を周知する

この対応が必要不可欠です。就業規則の専門家である社会保険労務士に相談されることをオススメいたします。

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執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

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