資格手当の最適な活用方法は?導入のコツから廃止時の注意点
資格手当は従業員のモチベーション向上や組織の競争力を高めるための鍵となる要素です。
しかし、一度資格手当として従業員に支給を決めると、会社側に支給義務が発生するため、安易に導入すると「会社の資金繰りが厳しいため、給与の見直しを図りたい」ような場合、トラブルになりかねません。
導入や運用、廃止をどのように行えば最適なのか、今回のコラム記事で、資格手当の効果的な活用方法や廃止を検討する際のメリット・デメリットを踏まえた上で詳しく解説いたします。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
資格手当の相場とメリットを徹底解説
資格手当は多くの企業で導入されている諸手当です。
資格を持っている従業員に対して、金銭的に評価をする手当になりますが、まずはどういったメリットがあるのか、業種や業界、資格によって手当の相場がどの程度なのか確認してみましょう。
資格手当とは?
資格手当とは、特定の資格を取得している従業員に支払われる手当のことを指します。
企業や団体が、資格を持つ従業員のスキルや知識を評価し、その上で報酬として支払う制度で、例として、
- IT系の会社:特定のIT資格
- 建設業界:建築士の資格
- 士業:税理士や簿記、社会保険労務士の資格
このように、各業界や業務内容に関連する資格が対象になることが一般的です。
資格手当の名称は、企業が自由に決めることができます。資格名+手当のようにするケースもあれば、シンプルに「資格手当」とすることもあります。
資格手当の相場
資格手当の金額は、業界や企業、そして資格の種類や難易度によって大きく異なります。
例えば、一般的なビジネス系の資格で数千円から数万円、専門性の高い資格では十万円という手当が支払われる場合もあります。
業種や業界、資格に対してどの程度の資格手当が支払われているのか、リサーチした表になりますので、これから資格手当を考えられている方はご参考ください。
業種・業界 | 一般的な資格 | 手当相場(月額) |
---|---|---|
IT | 情報処理技術者試験(応用情報技術者試験、情報セキュリティスペシャリスト試験など) | 1万円~30,000円 |
建設・建築 | 施工管理技士(1級、2級、3級)、建築士(一級、二級)、測量士(一級、二級) | 5,000円~30,000円 |
病院(看護) | 看護師(准看護師、看護師、専門看護師、認定看護師など) | 5,000円~30,000円 |
金融・保険 | ファイナンシャル・プランニング技能士1級 | 5,000~15,000円 |
不動産 | 宅地建物取引士 | 5,000~15,000円 |
介護・福祉 | 介護福祉士、社会福祉士 | 5,000円~10,000円 |
保育 | 保育士 | 5,000円~10,000円 |
士業 | 社会保険労務士資格、税理士資格、簿記1・2級 | 5,000円〜50,000円 |
資格手当のメリット
資格手当は、給与が増えるため従業員が喜ぶ制度ではありますが、実は導入する会社側にも
- 従業員のモチベーション向上
- スキルの可視化・評価基準
- 企業の採用力・競争力向上
こういったメリットが考えられます。
従業員のモチベーション向上
資格を取得する努力が直接的な報酬として反映されるため、学び続ける意欲が高まり、結果的に業務への貢献が期待できます。
スキルの可視化・評価基準
資格を持つことで、自分のスキルや知識が認められ、外部や上司とのコミュニケーションがスムーズになります。
また、資格の取得を昇進・昇格に関連付けることで、従業員の評価を客観的な事実で行えるため不公平感を拭うことが可能です。
企業の採用力・競争力向上
資格手当の制度を求人広告等でアピールすることで、同業他社との差別化が行なえます。そのため、採用力が高まるなどの期待ができます。
資格手当は、従業員と企業双方にとって多くのメリットを持っています。企業としては従業員に支払う負担が増えますが、優秀な従業員を確保するためには検討の余地のある制度でしょう。
資格手当を導入するステップ
資格手当は企業の競争力を高める制度であることを紹介しましたが、これから新しく導入を検討している企業もあるかと思います。
資格手当は、導入方法・活用方法によって得られる効果が代わりますので、より効果的な資格手当になるような導入ステップを解説いたします。
資格手当の対象資格を決める
まず、資格手当を支給する資格を決める必要があります。企業の戦略や従業員のニーズを踏まえて、適切な資格を決めることが重要です。主に、
- 事業戦略との整合性
- 業務内容や中長期的な企業の戦略に基づき、どの資格が重要かを見極める
- 従業員のニーズ調査
- 従業員からの要望や意見を収集し、ニーズに合わせた資格を対象とする
- 市場の動向を参照
- 同業他社の取り組みや業界のトレンドにも目を向け、今後需要が見込まれる資格をリストアップを行う
これら3つの取組みを行い、どのような資格を対象とするのか検討することが大切です。
資格手当の支給額を決める
資格手当の対象となる資格を定めた後、具体的な手当の金額を検討しましょう。資格の難易度や取得にかかる費用などを考慮すると適切な支給額が決めやすくなりますので、
- 資格の難易度と需要
- 難易度の高い資格や企業内での需要が高い資格は、手当の額も相応にする
- 予算の確定
- 企業の財務状況や人件費に関する予算を元に、手当の総額や一人当たりの額を決定する
企業の経営戦略として、予算組みを行った上で制度化すると良いでしょう。
資格手当の運用方法を考える
資格手当をどのように運用するかも重要です。資格手当を効果的に活用するためには、企業の制度や従業員のモチベーションを高める効果を最大化できるように考えましょう。
- 明確なルール作り
- 資格取得後の手続きや、手当の支給タイミングなど、明確なルールを社内で共有することが重要
- 連携する制度の導入
- 資格取得支援制度や研修制度との連携を図り、従業員のスキルアップを促進する
- 成果の評価とフィードバック
- 資格手当の導入による効果を定期的に確認を行い、制度の改善を実施する
運用を考えると上記3つがポイントになります。
就業規則・賃金規程を変更する
資格手当が制度として固まりましたら、最後に就業規則・賃金規程の変更が必要となります。就業規則変更に関しては一定のルールがありますので、専門家に相談されることをおすすめいたします。
下記の労務Tipsに、就業規則変更時に必要な「就業規則変更届」について記入例や注意点を解説しておりますので、併せてご確認ください。
資格手当は、単なる報酬としての側面だけでなく、組織の成長や従業員のモチベーションアップのツールとしての側面も持っています。効果的な活用を心がけ、組織全体の発展に寄与するような制度化をしたいですね!
資格手当の廃止を検討する前に考えるべきポイント
資格手当の導入には多くのメリットがある一方、経営上の理由や企業の方針変更により廃止を検討する場面も出てくるかもしれません。資格手当の廃止を決定する前に、そのメリット・デメリットと判断基準を確認してみましょう。
資格手当廃止のメリット
資格手当を廃止するメリットとしては
- 経費削減
- 報酬体系のシンプル化
この2つが考えられます。
経費削減
資格手当は、企業にとって人件費の一部となります。定期的に支払が必要な資格手当を廃止することで、その分の経費を削減することができます。
報酬体系のシンプル化
従業員の給与を計算する際に、資格手当の対象者の確認や支給金額の確認が不要になりますので、よりシンプルに給与計算を行うことが可能です。
資格手当廃止のデメリット
企業側からすると、コスト削減になる資格手当の廃止ですが、従業員からすると今まで貰っていた給与金額が下がることになります。そのため、
- 従業員のモチベーション低下
- 人材力の低下
- 競争力の低下
こういったデメリットにつながる可能性が高いので注意が必要です。
従業員のモチベーション低下
資格手当は、従業員が保持している資格に対して評価がされるため、モチベーション向上につながる重要な要素の一つです。
資格手当を廃止することで、従業員のモチベーションが低下し、仕事に対する意欲やパフォーマンスが低下する可能性があります。
人材力の低下
資格手当は、従業員のスキルアップを促す効果があります。資格手当を廃止することで、従業員のスキルアップが進まず、人材力が低下する懸念があります。
また、手当の廃止により不満を持つ従業員が増加し、離職のリスクも同時に発生することもあります。
競争力の低下
資格手当は、企業の競争力を高める要素の一つでもあります。
資格手当を廃止することで、企業は優秀な人材の獲得や定着が難しくなり、競争力が低下につながります。
資格手当廃止の判断基準
メリット・デメリットをお読みいただくと、大切な働き手である従業員に不満が発生し、経営に悪影響を及ぼすことも考えられますので、安易に資格手当を廃止することはおすすめいたしません。
とはいえ、会社の方針によってはやむを得ず廃止する判断もあると思いますので、次の4つの観点から検討ください。
- 経営の状況:企業の財務状況や予算上の制約を考慮し、資格手当の継続が難しいかを判断しましょう。
- 業界のトレンド:同業他社や業界全体の動向を参考に、手当の有無が競争力に与える影響を検討しましょう。
- 従業員の意向:内部の声をしっかりと収集し、廃止による影響を予測しておきましょう。
- 代替の提案:資格手当の廃止を検討する場合、その代わりのメリットを提供できるかどうかを考慮します。例えば、研修制度の充実やキャリアパスの見直し等が重要です。
資格手当の廃止は、短期的な経費削減だけでなく、長期的な企業の競争力や従業員のモチベーションにも影響を及ぼす可能性があります。慎重な検討と意思決定が求められるテーマであることを忘れずに、最適な選択を行ってください。
資格手当を廃止するときの手続き
資格手当の廃止が経営判断として決定されましたら、適切な手順で進めることが必要です。
資格手当のように従業員が受け取っていた給与の金額が減ってしまう場合「不利益変更」として法的リスクが発生しますので、次のステップをご参考ください。
廃止の理由を明確にする
従業員に説明した際、納得感があるように資格手当を廃止する理由を明確にしましょう。企業によって廃止理由は様々ですが、主に
- 企業の経営状況の悪化
- 資格手当の運用コストの削減
- 資格そのものが業務に対して不要になった
等が考えられます。
従業員への説明と同意を得る
資格手当廃止は、法律上「不利益変更」になる可能性が非常に高いため、従業員への説明と同意を得ることが重要です。
従業員への説明は、廃止の理由や廃止後の給与の変動について行いましょう。従業員から意見や要望があれば、適切に対応することも大切です。
就業規則・賃金規程の変更および周知
資格手当廃止の決定後は、就業規則の改定作業です。
就業規則や賃金規程に資格手当の規定がある場合は、その規定を削除または変更しなければなりません。就業規則の改定後、改めて従業員への周知しましょう。
また、変更後の就業規則や賃金規程は所轄の労働基準監督署に届け出も忘れずに行います。
資格手当を廃止する
就業規則の改定が完了したら、資格手当の廃止を施行します。
ただし、いきなり資格手当を廃止するのではなく
- 緩和措置として一定期間は減額しながら資格手当の支給を行う
- 支給手当を受給していた方については、一定のベースアップをする
など、従業員への配慮を行うことで、スムーズな資格手当廃止につながります。
具体的な手続きは、企業の規模や業種によって異なる場合があります。資格手当を廃止する際には、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
手当廃止に関して不利益変更となるケースや、より詳細な進め方は下記コラム記事で解説しておりますので、ぜひご一読ください。
まとめ
「資格手当」は、従業員のモチベーションを向上させるだけでなく、組織の成長にも寄与する重要な制度の一つです。
資格手当の制度導入・運用・廃止に関する方針は、経営戦略や企業文化に大きく影響するだけでなく、慎重に進めなければトラブルの種になりえます。
TSUMIKI社会保険労務士事務所では、手当の設計から運用、廃止手続きについて、会社の方向性に沿った支援が可能ですので、お困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。