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Q. 役職手当を支給しない場合は違法になりますか?

役職手当 支給しない 違法
この労務Tipsでわかること
  • 役職手当の法的な考え方
  • 役職手当を導入する際の手順と注意点

会社を設立して軌道に乗ってきたため、従業員に対して役職を設けようと考えています。

係長や主任などの役職を想定していて、業務範囲の拡大・責任も重くなるのですが、役職手当の支給が必要でしょうか?また、支給しない場合は違法になってしまいますか?

A. 結論、役職手当の制度自体がなければ違法ではありません

労働基準法などにおいて、役職手当の支給は義務付けられていません。

役職手当の支給有無は企業が自由に決めることができるので、最初から役職手当を支給しないとすること自体は違法ではありません。

ただし、就業規則や賃金規程などで「◯◯の役職に対して、役職手当を支給する」と制度として定めている場合は、企業側に役職手当の支給義務が生じるため注意が必要です。

これから役職手当を支給を検討している場合、

  • 支給の基準
  • 役職手当の金額(計算方法)

を明確にし、企業として手当の透明性を保つことが重要になります。また、同一労働同一賃金の観点からも、同じ役職者に対しては同じ役職手当が必要になる点も考慮しておきましょう。

よくある役職手当の制度

役職手当は、役職(業務)の責任の重さや仕事の内容に対して、補填の意味合いで支給されることが多いものです。役職手当の制度でよくある3つの支給方法について紹介いたします。

役職手当の3つの支給方法
  • 固定額型
  • 役職階層型
  • インセンティブ型

固定額型

固定額型の役職手当とは、役職ごとに手当の金額を固定し、役職に就いた者に対して一律で支給する制度です。

固定型の場合、役職手当の支給額の計算や管理が容易であり、従業員からも「どの役職に就けばいくら貰えるのか」明確になります。非常に公平な制度になりますが、役職内でのパフォーマンスの違いは考慮されません。

役職階層型

役職階層型の役職手当は、役職のレベル・グレードに応じて支給額が異なります。同じ役職名であっても、職位が高い人ほど支給額が高くなりますので、従業員のモチベーションを維持・向上が期待できる支給方法です。

ただし、人事評価制度などで従業員のパフォーマンスを管理し、適正に評価することが大切になりますので、運用難易度は高い制度となります。

インセンティブ型

インセンティブ型の役職手当とは、役職手当の対象者のパフォーマンスと連動させて金額が決定される制度です。

役職に紐づく責任・業務範囲の考慮だけでなく、部下やチームの成果に対してインセンティブを支払いますので、役職階層型よりも更に「成果」を重んじるといえます。この方式を適用するには明確な評価基準と公正な評価プロセスが必要です。

役職手当と管理職手当に違いは?

「役職手当と管理職手当はどのような違いがありますか?」というご質問をいただくことがあります。

役職手当も管理職手当も「役職に就くことで生じる責任・業務不可への補填」という意味では共通していますが、管理職手当は特に企業経営上重要なポストに対して支給される傾向にあります。

役職手当も管理職手当も、支給基準や条件は企業ごとに定めることができますが、一般的な制度として違いを紹介いたします。

役職手当

役職手当は、主に次の3つの特徴があります。

  • 役職に応じる手当
    • その人の持つ役職に応じて支給されます。対象となる役職としては、主任(係長)、課長、部長など、企業の階層に応じて設定されることが多く、その役職に見合った役職手当を支給されると言えます。
  • 役職の責任と業務量が反映される
    • 役職に付随する責任や業務量を補償するために支給されます。より高い役職ではより大きな責任を負いますので、それに見合った手当が支給されることが多く、役職と役職手当の金額は比例することが一般的です。
  • 明確な基準
    • どの役職に対していくら支払うのか、明確な基準が設けられます。そのため昇格・降格に対して手当額の変動が明確になされます。

管理職手当

管理職手当は、役職手当と異なる点として「企業経営上重要なポストに対して支給される傾向にある」とお伝えしましたが、主に下記3つの特徴があります。

  • 管理職の定義
    • 管理職とは、主に部門やチームの統括、部下のマネジメント、業績目標の設定および達成のための管理など、企業の重要な意思決定に関与する役職が対象となります。
  • 労働基準法上の「管理監督者」への補填
    • 労働基準法では、管理監督者に対して深夜を除いて割増賃金の支払いは不要です。しかしながら管理職といっても報酬が低いと「名ばかり管理職」になってしまいますので、管理職者の負担を考慮した管理職手当を支給することがあります。
  • パフォーマンスとリスクへのインセンティブ
    • 管理職は企業全体のパフォーマンスに大きな影響を与えます。そのため、管理職手当はそのパフォーマンスや、時にはリスクに対する報酬として設定することもあります。管理職の達成目標を超えた場合、または特定の目標を達成した場合には、手当が増額されることもあります。

まとめ

役職手当は、元々企業に制度として存在しない場合は「支給しない=違法」になるわけではありません。

しかしながら、制度化されている場合は企業に支払う義務が生じますので、適切に制度設計することが重要になります。役職手当は、従業員のモチベーションを保つだけでなく、企業を成長させるためにも効果的な制度とも言えますので、検討してみてはいかがでしょうか。

社会保険労務士によるワンポイント解説

役職手当の支給を適法にするためには、制度をどのように設計するのかがポイントになります。ぜひ下記の内容を参考にしてください。

役職手当を導入する場合のSTEP
STEP
役職手当の支給目的を整備する

まずは役職手当の支給目的を明確にしましょう。

役職手当は通常、役職に伴う責任や業務負荷を補償するために支給されます。しかし、それだけでなく、役職に就くことへのモチベーション向上、リーダーシップの強化、優秀な人材の確保や引き留めなど、さまざまな目的が考えられます。

企業の方針にあった目的を定めておくことで、運用がしやすくなります。

STEP
支給対象者を定める

役職手当の支給対象者を定めます。どの役職に対して支給するのか会社が決めることができますので、「課長から支給」することや「主任から支給」することも問題ありません。

ただし一度定めて運用を開始すると、該当する役職者には原則支給義務が発生しますので、企業の経営体力(資金面)も念頭に置きましょう。

STEP
役職手当の支給額を検討する

手当の額は、企業の財務状況、役職の重要性や難易度、他社の手当額などを参考に設定します。また、役職のレベルや階層に応じて手当の額を差別化することもできます。

STEP
就業規則・賃金規程を変更する

役職手当を新たに設ける場合、就業規則(もしくは賃金規程等)の改定が必要となります。ここまでのSTEPで整理した内容を明記しましょう。

就業規則や賃金規程の変更には専門的な知識が必要です。社会保険労務士に相談しながら進めることをおすすめします。

STEP
従業員への周知・運用開始

制度が確定したら、全従業員に周知しましょう。役職手当の目的や支給の条件、手続きなどを明確に説明し、理解を深めてもらいます。そして、対象となる従業員がいる場合には、役職手当の支給を開始し、制度運用のスタートとなります。

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執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

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