顧問社労士を変更・お探しの方は100社以上のサポート実績を持つTSUMIKI社会保険労務士事務所へ

Q. 従業員に支給する諸手当の種類を一覧で教えてください。

諸手当 種類 一覧
この労務Tipsでわかること
  • 従業員に支給が必要な諸手当の種類
  • 諸手当の整備方法や支給ルール
  • 従業員のモチベーションアップに繋がる手当

これから会社の規模を大きくするために、従業員の雇用環境を整備する予定です。優秀な人材からの応募の獲得や、既存社員のモチベーションアップに向けて社内の給与制度を変更したいと考えています。

会社が従業員に支給すべき手当の種類や、どのようなケースに支給することがあるのか教えてください。

A. 会社がよく支給している各諸手当の名称や支給ルールについて解説いたします。

従業員の採用や定着を考えますと、雇用環境の整備は重要です。その中でも経営者の方の頭を悩ませることになるのが「給与制度の見直し」ではないでしょうか。

従業員に支給する各種諸手当には、

  • 法律的に支給義務があり、対応を怠れば罰則がある手当
  • 法律的に支給義務はなく、会社が自由に設定できる手当

大きくこの2つの考え方になります。また、一部の手当については支給するルールによって割増賃金や最低賃金に影響を及ぼすこともあります。会社がよく支給している各種諸手当がどのようなものがあるのか、注意点も踏まえてご紹介いたします。

給与の構成とは

従業員に支給する給与の構成として、下記のような図を見たことがある経営者・人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。

厚生労働省「モデル就業規則」を参考に作成

この給与の構成は、就業規則や賃金規程に記載していることが多くあります。この表をベースとして考えますと、手当としては「諸手当」と「割増賃金手当」の2種類に分かれることになります。

労働基準法において支給義務があるのは水色の「割増賃金手当」となっており、実はその他は諸手当として会社が任意に支給することが可能です。

法律上支給義務がある手当

前述の通り、労働基準法に則り従業員に支給する必要がある手当は

  • 時間外労働割増手当
  • 休日労働割増手当
  • 深夜労働割増手当

上記の3つとなります。それぞれ労働時間・労働日によって発生することになりますので、確認してみましょう。

時間外労働割増手当

時間外労働割増手当とは、従業員が残業をした際に支払う必要のある手当です。企業によっては「残業手当」や「割増手当」など様々な名称が使われていますが、名称が異なっていても、支給方法や金額が法的に問題なければ構いません。

時間外労働割増手当は、

  • 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき
  • 時間外労働の限度時間の1ヶ月45時間・1年360時間を超えたとき
  • 時間外労働時間が60時間を超えたとき

法律で定められている労働時間を超過して働かせた場合、それぞれ割増率を掛けた手当を支払う義務を企業は負うことになります。

ただし、変形労働時間制を導入していると、法定労働時間の枠組みが少し異なります。とある1日の労働時間を6時間にする代わりに、別の1日を10時間まで増やすといったことが可能です。変形労働時間制度は複雑な制度のため、詳細は専門家に相談しましょう。

社会保険労務士 矢野貴大

企業によっては「1日の労働時間が7時間30分」のように、8時間を下回る場合があります。この7時間30分を超えて8時間以内に収まる残業に対しては、割増率は不要ですが「1時間あたりの賃金×その時間数」で計算した残業手当を支給する必要がありますので注意してください。

休日労働割増手当

労働基準法では、週に1回以上もしくは4週間に4回以上の法定休日を取得させることが義務付けられています。この法定休日に労働した場合、35%以上の割増率で計算した手当を支給しなければなりません。

深夜労働割増手当

午後10時から午前5時までの労働に対して、企業は25%以上の割増率で計算した手当を支給しなければなりません。

各割増手当の対象となり時間が重なった場合は?

「時間外労働割増手当」「休日労働割増手当」「深夜労働割増手当」については、それぞれ別計算になりますので、

  • 1日8時間・週40時間を超えた法定休日の労働に対しては、その時間は割増率が50%
  • 1日8時間・週40時間を超えて深夜割増の対象となる時間の労働に対しては、その時間は割増率が50%
  • 法定休日の労働が深夜割増の対象となる時間に行われると、その時間は割増率が50%
  • 法定休日の労働かつ深夜割増の対象となる時間かつ1日8時間・1週40時間を超えた労働に対しては、その時間は割増率が75%

上記のようになる点は注意をしてください。

法律上支給義務がない手当

前述の通り、各種割増手当以外の諸手当については、企業は支払う義務はありません。しかしながら、

  • 従業員が定着してくれるように、一定の職種については待遇を手厚くしたい
  • 優秀な人材を採用するために他社と比べてよい給与水準にしたい

このような思いから、諸手当を支給している企業が多数あります。まずはよくある諸手当について、それぞれ見てみましょう。

定額残業手当・固定残業手当

各種割増手当は、原則その時間数に対して支払うことが必要ですが、残業時間を集計・給与計算を行う手間があります。予め「この時間数は残業が発生するだろう」と見越して「定額残業手当」もしくは「固定残業手当」を支給し、給与計算業務の負担を減らしている企業もあります。

法律上、実際の残業時間が、この手当で設定している時間数を超えていなければ、この手当のみの支給で問題ありません。

なお、導入をご検討されている場合、定額残業代は注意すべき点があります。下記コラム記事にて解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。

役職手当

部長や課長、リーダー職などの従業員の役職に応じて支給する手当が「役職手当」です。役職に応じて従業員の業務量・責任の範囲が代わりますので、それに応じた対価として支払う制度となります。

家族手当

家族手当は、従業員が家族を扶養している場合や、配偶者・子供の人数を対象として支給されるもので、類似する手当としては「扶養手当」や「配偶者手当」があります。

通勤手当

意外に思われる経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、通勤手当(交通費)は法律上では支払う義務はありません。ただし、会社が指定する職場に出社を促すことになりますので、一般的にどの会社も支給していると考えられます。

通勤手当は、自宅から勤務先までの通勤にかかる実費金額の範囲で支給されることが多く、

  • 公共交通機関(バス・電車)は1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月などの定期代を支給
  • マイカー(自転車・車)は通勤距離×単価でガソリン代の代わりに支給

上記のような支給ルールを設けている企業が多いのではないでしょうか。また、パートタイマー・アルバイトなど勤務日数が月によって変動する場合「往復の交通費×出勤日数」のように毎月計算することもあります。

住宅手当

従業員の住居に関する補助を目的として、持ち家のローンや賃貸物件に住んでいる場合に支給されることがあります。住宅手当は、福利厚生として従業員に喜ばれる制度ですが、こちらも支給自体は企業が決めることが可能です。

住宅手当の規定例や金額の相場を、下記のコラム記事で具体的に紹介しておりますので、併せてご一読ください。

資格手当

資格手当は、国家資格や民間資格を取得している従業員に対して支給するものです。資格手当を支給する背景としては

  • 業務の遂行上で必須の資格であり、従業員への負担や責任を考慮して支給をする
  • 業務の遂行上必須ではないが、日々の仕事に役に立つたつことを期待して支給をする

このように様々ありますが、「従業員のモチベーションUP」に繋がる制度となります。類似する手当には「技能手当」があります。

諸手当早見一覧表

その他、企業の採用力強化を目的として、様々な手当を導入している場合がありますのでぜひ参考にしてみてください。

手当名手当の目的よくある支給の要件
精皆勤手当従業員の日々の出勤を奨励することを目的とした手当欠勤・遅刻の有無や回数により判断
危険手当業務を行う上で身の危険が伴う可能性がある際に、その負担を考慮して支払われる手当特定の業務・職務に付いていることを要件
勤務地手当勤務場所が広域にある場合、各勤務場所における経済事情・環境に差がある場合、生活水準を一定に調整することを目的とした手当特定の地域に住んでいることを要件に支給
※東京・神奈川・大阪など
無事故手当運転中の事故や、運搬している荷物の破損などを未然に防ぐ意識を醸成することを目的とした手当事故の有無により判断
食事手当就業時における食費支出をカバーすることを目的として支給1食あたり◯◯円等の単価で支給
調整手当様々な要因により通常の給与に加えて従業員へ支払うことを目的として支給する個別判断による
インセンティブ手当個人の月間成績に応じて通常の給与に別途加算することで、従業員のモチベーションUPを図る手当営業数値など予め基準を設けておき、その水準の達成度合いなどで判断
インフレ手当物価上昇などを考慮して一時的な手当として支給される対象者・期間を定めて支給
メンター手当新入社員のサポートをするメンター制度を取り入れ、そのメンターの負担を考慮して支給する手当メンターとなる従業員に対して支給
様々な諸手当制度の一例

諸手当を導入する際の注意点

諸手当の導入は会社・従業員ともにメリットのある施策ですが、

  • 各種割増手当の単価に入れる必要がある
  • 導入すると廃止する際に手続きが必要

この2つについては注意が必要となりますので、事前にご確認しておきましょう。

各種割増手当の単価に入れる必要がある

割増手当を計算する際、その計算の単価となる給与は基本給だけでなく、それ以外に支給する諸手当も含めなければなりません。そのため、諸手当として「営業手当」や「精皆勤手当」などを支給しているとその金額も割増手当の単価に計上しましょう。

ただし、下記一部の手当については、支給する要件を満たすことで割増賃金の計算基礎から除外することが可能です。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
社会保険労務士 矢野貴大

「家族手当」や「住宅手当」については、従業員に一律に支給している場合は割増賃金の計算基礎に入れる必要があります。詳細は専門家にご相談ください。

導入すると廃止する際に手続きが必要

各諸手当の導入は、従業員の労働条件・待遇向上に繋がります。一方で、一度従業員に「有利」な制度を導入すると、会社側の都合で「手当を廃止」しようとすると、労働条件の不利益変更に該当し、難しくなります。

労働条件の不利益変更の対応方法は下記の労務Tipsにて解説していますので、参考にしてください。

まとめ

割増手当を除き、諸手当は企業独自で様々に決めることができるものです。

そのため企業環境が独自文化を反映したユニークな手当の導入も可能ですが、割増手当の計算単価に含める必要があったり、一度導入すると廃止は手続きが必要であったり、注意点もあります。

また、どの程度の金額を手当として支給するのか検討が難しい部分もありますので、少しでもご不安な箇所がありましたらお気軽にお問い合わせください。

社会保険労務士によるワンポイント解説

労働環境の向上や、従業員のモチベーションアップ、採用力を強化することを目的に諸手当を見直したい経営者の方もいらっしゃると思います。各種手当の導入については、下記の手順を参考に進めてください。

諸手当制度を見直す際のSTEP
STEP
諸手当制度の目的を整理し、導入する手当名を決める

諸手当制度を新しく整備する場合、主に

  • 採用力の強化
  • 従業員の待遇向上(従業員満足度・定着率にも寄与するため)

この2つを目的とするケースが多いと考えられます。このような目的の場合、どのような諸手当導入が会社により効果的なのか精査もできますので、一度目的を整理した上で検討を進めましょう。

なお、採用力の強化および従業員の待遇向上の観点ですと、諸手当制度導入に向けて下記のような施策が考えられますので、ご参考ください。

採用力強化を目的とする場合従業員の待遇向上を目的とする場合
同業他社の諸手当制度を求人票やリクルート用のWEBページから調査する

地域の標準的な給与相場を確認し、どの程度水準と乖離しているのか把握する
従業員にキャリアや資格に関するアンケートを実施し、意向を確認する

他社のユニークな諸手当制度を調査し、自社に落とし込めるか検討する
諸手当制度を検討する際のアクション例
STEP
導入する諸手当を決め、要件(対象者含む)・支給金額を検討する

会社で導入すべき諸手当が決まりましたら、

  • 諸手当の対象となる働き方、対象者、
  • 一人あたりの支給金額および会社全体で年間の支払い金額を試算する

当然、諸手当を新しく設ける場合、会社としては支払金額が増えることになります。資金繰りに影響がありますので、年間でどの程度人件費が増加するのか試算することは忘れずに行いましょう。

STEP
就業規則を変更・従業員へ周知する

賃金に関する事項は、就業規則に関する「絶対的必要記載事項」となりますので、諸手当制度の要件・金額が決まりましたらその内容を就業規則もしくは賃金規程に記載しましょう。

また、就業規則を変更しましたら労働基準監督署への届け出だけでなく、従業員への周知も忘れずに行ってください。

STEP
運用を開始する

せっかく制度を導入しても、運用できなければ意味がありません。毎月の給与計算で忘れずに処理をしましょう。

無料相談をご希望される方へ

TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。

執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

関連記事