Q. 給与明細に有給休暇の残日数・取得日数の表示は必要でしょうか?
- 給与明細上に有給休暇に関して表示する義務はあるのか?
- 有給休暇の残日数や取得日数を給与明細に記載すべきか否か
従業員から「給与明細に有給休暇の取れる日数が載っていないが、法律違反ではないか?」と申し出がありました。
給与明細には有給休暇の残日数や取得日数を載せるべきなのでしょうか?法律上の取り扱いや注意点について教えてください。
A. 給与明細には有給休暇関連の項目の記載義務はありません
結論申し上げますと、法律上は有給休暇の取得日数や残日数について給与明細に記載する必要はありません。
記載自体は任意のため、会社によっては有給休暇の残日数や取得日数を給与明細に表示し、従業員に伝えていることもあります。
有給休暇に関して会社側に責任としてあるのは「管理」や「取得」の事項です。
とはいえ有給休暇は従業員とトラブルになりやすいテーマの一つですので、今回は有給休暇の「管理」や「取得」を給与明細を通じて実施していくのか解説いたします。
会社のスタンスや方向性を確認しながら、給与明細上で有給休暇の取得日数や残日数を取り扱っていくのかぜひ検討してください。
有給休暇の残日数や取得日数を給与明細上に表示すべき?
労働基準法上では、有給休暇の取得日数や残日数を給与明細に表示する義務はありません。しかし、各項目を給与明細に表示することで有給休暇の取得促進につながることも期待できるため、推進している企業もあります。
とはいえ有給休暇の取得日数や残日数を給与明細に表示することについてはメリット・デメリットがあります。予め確認をしておくことで、給与明細に表示すべきかどうか検討できると思いますので、それぞれ確認してみましょう。
有給休暇の残日数や取得日数を給与明細上に表示するメリットは?
給与明細に有給休暇の取得日数や残日数を表示するメリットとしては
- 従業員は自分の有給休暇の残日数を把握でき、有給休暇の取得を検討しやすくなる
- 会社側も従業員が有給休暇を取得できているかを把握しやくすなる
- 管理作業が効率化できる可能性がある
上記2点が考えられます。
従業員が自分の有給休暇の残日数を把握でき、有給休暇の取得を検討しやすくなる
有給休暇の残日数を給与明細に記載することで、従業員は自分の有給休暇の残日数を簡単に確認することができます。
これにより「あと◯日残っているのであれば、来月に△日取ってリフレッシュしたい」といったように有給休暇の取得を検討しやくなり、有給休暇の取得率の向上につながる可能性があります。
従業員が自分の有給休暇の残日数を把握していない場合「あと何日残っているのかわからないため、怪我や病気のことを考えると安易に休めない」となり、有給休暇を取得するタイミングを逃してしまう可能性があります。また、有給休暇を取得するかどうかを検討する際に、自分の残日数を把握していないと取得をためらう方もいるでしょう。
有給休暇の残日数が給与明細に記載されていれば、従業員は自分の残日数をいつでも確認することができます。これにより、有給休暇を取得するタイミングを逃さず、有給休暇を取得するかどうかを積極的に検討できるのです。
企業側も従業員が有給休暇を取得できているかを把握しやすくなる
有給休暇の残日数を給与明細に記載することで、企業側は従業員が有給休暇を取得できているかを把握しやすくなり、有給休暇の取得を促進するための施策検討が可能となります。
企業が従業員の有給休暇の取得状況を把握していない場合、従業員が有給休暇を取得していないことが分からず、有給休暇の取得を促進するための施策を講じることができません。
従業員の有給休暇の取得状況や残日数を常に意識することになりますので、結果として有給休暇の取得率の向上や、従業員の健康増進につながる施策を講じやすくなるのです。
管理作業が効率化できる可能性がある
有給休暇に関して、企業は「管理簿を作成すること」が義務付けられています。管理簿に求められる内容としては
- 従業員が有給休暇を取得した日(時季)
- 従業員が有給休暇を取得した日数
- 従業員に有給休暇を付与する基準日
上記3つになります。従業員に「有給休暇の残日数がどの程度残っているのか?」について管理簿上では整理していく必要はありますが、管理簿を従業員に開示する必要はありません。
そのため、個別に従業員から問い合わせが発生した際に「あと◯日残っています」と伝えている企業もございます。給与明細に有給休暇の情報を記載しておうことで、個別の問い合わせを削減することが可能になりますので経営者や管理部門の負担軽減が期待できます。
有給休暇の残日数や取得日数を給与明細上に表示するデメリットは?
一方で、会社からすると有給休暇の残日数や取得日数を給与明細に表示するデメリットも考えられます。デメリットとしては
- 給与明細の作成・管理に手間がかかる
- 従業員が有給休暇を取得しすぎてしまう可能性がある
この2つが挙げられますので、具体的に見ていきましょう。
給与明細の作成・管理に手間がかかる
デメリットの一つ目は「給与明細の作成・管理に手間がかかる」ことです。
有給休暇の残日数を給与明細に記載する場合、
- 給与明細に記載する有給休暇の残日数は、従業員ごとに異なるため、個別に管理する必要がある
- 給与明細は毎月発行するため、毎月残日数を更新する必要がある
こういった作業が発生します。
給与計算は間接業務のため会社の売上に関わりません。その作業が増えることになりますので、注意が必要です。
従業員が有給休暇を取得しすぎてしまう可能性がある
有給休暇の残日数を給与明細に記載することで従業員は自分の残日数を把握しやすくなり、有給休暇の取得促進につながることをメリットとしてお伝えしましたが「従業員が有給休暇を取得しすぎてしまう可能性」も懸念されます。これが2つ目のデメリットです。
前提として「有給休暇は従業員の権利」ですので、付与されている日数が残っている以上は従業員は有給休暇を使うことができます。一方でチームで仕事をしていたり、専門的な業務に従事している場合「連続して有給休暇を使うことで業務に支障をきたす」恐れも否定できません。
従業員が業務とのバランスを考慮して有給休暇を取得できるように、以下の対応策を検討ください。
- 有給休暇の取得状況を定期的に確認し、従業員に注意喚起する
- 必要に応じて会社も「時季変更権」により従業員と有給休暇取得のタイミングについて交渉する
有給休暇により心身がリフレッシュできると、業務とのメリハリもついて生産性を高める効果も期待できます。一方で仕事に影響がでる休み方の場合は会社だけでなく、他の従業員も働きにくくなりますので慎重な対応が求められます。
なお、有給休暇の時季変更権については下記コラム記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
社会保険労務士によるワンポイント解説
有給休暇の取得日数や残日数について、給与明細に記載する必要はありません。
一方で、働き方改革により「有給休暇の取得義務化」の対応が企業に求められていますので、有給休暇の取得促進を目的として給与明細に表示することを検討されてはいかがでしょうか。
また、給与明細に有給休暇の取得日数・残日数を表示するデメリットとして「給与明細の作成・管理に手間がかかる」とお伝えいたしましたが、
- 給与明細の作成・管理の自動化に向けたクラウドシステムを導入する
- 給与計算業務自体を社会保険労務士に外注(アウトソーシング)する
ことで解消することが可能となります。
TSUMIKI社会保険労務士事務所では、給与計算業務を効率化するためのシステム導入や、給与計算業務自体のアウトソーシングに対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
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矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。