Q. 役員報酬を変更しました。月額変更届は必要ですか?
- 役員報酬を変更した際の社会保険の取り扱い
- 月額変更届けの作成方法および役員報酬計算時の実務
役員報酬の変更を考えています。税務的な取り扱いは理解しているのですが、社会保険上どのような影響があるのでしょうか?
従業員の給与が変わると月額変更届けの作成が必要かと思いますが、役員報酬の場合も同じなのか教えてください。
A. 役員報酬を変更した場合の月額変更届けの作成が必要です。
月額変更届とは、従業員の給与変更だけにとどまらず、役員報酬について変更があった場合も作成・提出の必要がある届出書になります。
毎月の給与計算から控除されている健康保険料や厚生年金保険料は、従業員に支払っている給与だけでなく役員報酬も対象となっておりますので、正確な事務処理を行う上で月額変更届けは必須となります。
また、将来受け取るべき年金計算の基礎となる報酬額にも影響しますので、注意が必要です。月額変更届を提出することで、正確な年金の計算が行われ、適切な保険料の徴収や給付が可能となります。
月額変更届けとはどのような書式なのでしょうか?
月額変更届けとは、被保険者(役員であっても社会保険に加入していると対象)および70歳以上被用者の受ける給与や役員報酬が、昇給や降給により大幅に変動があった場合に提出しなければならない書類で、様式は次のものを利用します。なお、届け出書類の原本は「日本年金事務所」よりダウンロード可能です。
役員報酬変更に伴う月額変更届けの記入例:実際の流れを解説
では具体的に、月額変更届けを作成する上での流れを一つひとつ確認してみましょう。
- 事業所情報を記入
- 被保険者の情報を記入
- 役員報酬が変わった月から4ヶ月目の月日を記入
- 現在(改定前)の標準報酬月額・適用された月を記入
- 昇給・降給の記入
- 実際に変更後の役員報酬が支給された月と金額を記入
- 備考欄の該当内容をチェック
①事業所情報を記入
事業所の情報としては、事業所整理番号や事業所所在地・名称・代表者名といった基本的な内容を記入します。
なお、事業所整理番号がわからない場合、年金事務所から送付される「保険料納付告知書」や「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬月額決定通知書」などに記載されていますので確認してみましょう。
②被保険者の情報を記入
被保険者(今回役員報酬が変更となった方)の情報を記入します。被保険者整理番号は健康保険証に記載のある番号を指します。
③役員報酬が変わった月から4ヶ月目の月日を記入
役員報酬が変更により、新しい標準報酬月額が適用となる月を記載しましょう。役員報酬が変更となり、実際にその金額が支給された月から4ヶ月目となります。
④現在(改定前)の標準報酬月額・適用された月を記入
現在の給与計算で利用している標準報酬月額と、それが適用開始された年月を記入します。
⑤昇給・降給の記入
役員報酬が変更された月と、随時改定が昇給なのか、降給なのか、丸で囲みましょう。
⑥実際に変更後の役員報酬が支給された月と金額を記入
役員報酬が変更された月以降の情報を3ヶ月分記入します。役員の場合は暦の日数を記入することになるので、6月から変更・給与支払いが末締め翌月払いの場合には
- 6月:5月の暦で31日
- 7月:6月の暦で30日
- 8月:7月の暦で31日
上記日数となります。
⑦備考欄の該当内容をチェック
該当する項目を確認し、丸で囲っておきましょう。今回は4の「昇給・降給の理由」をチェックし、役員報酬の変更である旨を記載します。
月額変更届を作成する上での注意点
会社内で手続きを進める場合、特に次の3つの点に注意いただけるとスムーズに月額変更を行うことができますので確認しておきましょう。
- 正確に記入する
- 随時改定の対象者か確認を行う
- 最新の記入要領やサンプルを参考にする
正確に記入する
月額変更は、健康保険・厚生年金保険に関する保険料の見直し手続きです。間違って手続きをしてしまうと、毎月控除すべき保険料も誤ってしまいますので、注意しなければなりません。
- 給与や役員報酬の変更に関する情報
- 給与であれば昇給・降給のもととなる情報
- 役員報酬であれば議事録
- 賃金台帳
- 月額変更は基本的に給与計算後に行うため、各月で計算・完了した情報を賃金台帳で確認することが大切
このような情報、資料を手元に置き、手続きを進めることで正確な処理につながります。
随時改定の対象者か確認を行う
随時改定は、役員報酬のような固定的賃金の変動により、標準報酬月額が2等級以上変更される場合に行うものになります。
そのため役員報酬の変更金額によっては、月額変更届の作成が不要な可能性もありますので注意しましょう。
最新の記入要領やサンプルを参考にする
月額変更届をはじめ、健康保険や厚生年金保険に関する届け出フォーマットは行政から指定されています。滅多にありませんが、そのフォーマットが変わっている可能性もありますので、手続きをする前に様式変更がなかったか確認もしてください。
随時改定に関するフォーマットは日本年金機構の「随時改定に該当するとき(報酬額に大幅な変動があったとき)」のページにてご確認いただけます。
月額変更届の添付書類や提出先、手続き後はいつから保険料を変更する?
随時改定は給与や役員報酬が大幅に変動したときの手続きのため、「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を作成しなければなりませんが、作成だけでなく行政に届け出・給与計算への反映が必要です。
提出先から、提出後までに会社が取るべきアクションを簡単にまとめましたので、ご参考ください。
提出先 | 自社が管轄されている年金事務所(事務センター) ※各リンク先で提出先の詳細をご確認いただけます。 |
提出期限 | すみやかに |
添付書類 | 原則なし ※届け出が遅延したときに求められるケースがあります。 |
提出後の流れ | 届け出が受理されると 「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬改定通知書」が会社に届くため、 その内容をもとに役員報酬から控除する保険料を変更する ※変動月から数えて4ヶ月目の保険料から変更 |
社会保険労務士によるワンポイント解説
月額変更届の正確な記入と提出をするために 月額変更届は、役員報酬の変動に伴う年金や税務上の影響を適切に反映させるための重要な手続きです。正確かつ詳細に記入し、必要な書類を添付して提出することで、適切な手続きを進めることができますので、ぜひ本ページを参考に諸手続きください。
なお、弊社では労務管理に関する手続き代行サポートも行っておりますので、少しでも気になる部分があればご相談ください。
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TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。