顧問社労士を変更・お探しの方は100社以上のサポート実績を持つTSUMIKI社会保険労務士事務所へ

Q. 賞与の金額はどう決めれば良い?就業規則に記載する必要は?

賞与 金額 就業規則
この労務Tipsでわかること
  • 賞与(ボーナス)で支給する金額の決め方
  • 賞与制度を導入する際の手順

会社の業績が良くなったため、従業員に賞与を支給する方向で考えています。創業以来はじめての賞与になるので、賞与の金額をどう決めるべきか迷っています。

一般的な賞与の計算方法があれば教えてほしいです。また、継続的に支給できるのか分かりませんが、就業規則に記載する必要はあるのでしょうか?

A. 賞与の支給金額は自由に決められますが、就業規則の作成が必要です。

賞与の支給金額は会社で自由に決められますので「金額の決め方が分からない」という経営者の方も少なくありません。

一方、賞与を支給する場合は就業規則に制度(支給するルール)を記載しておく必要があるため「今回は業績が良かったため支給したい」という場合であっても就業規則を見直しましょう。

今回は、賞与の支給金額のよくある決め方と、賞与制度導入にあたって設けておくべきルールをお伝えいたします。

賞与(ボーナス)支給金額の決め方とは

賞与を支給する際、

頑張っている従業員には報いたい」「全従業員を比べたときにあまりに不公平な差はつけたくない

このような悩みを持たれる経営者の方も多いのではないでしょうか。

企業によっては経営者のさじ加減で金額を決めることもあれば、支給基準を作りその範囲内で金額を算出する企業もございますが、下記の3つの決め方に分類することができます。

賞与金額の3つの決め方
  • 給与連動式
  • 業績・評価連動式
  • 定額方式

それぞれの内容およびメリット・デメリットをそれぞれ解説いたしますので、自社の方針や風土にどの制度が合いそうなのか確認しながら慎重に選びましょう

給与連動式

中小企業ではオーソドックスな支給方法ではないでしょうか。

給与連動式では支給金額を「給与×2ヶ月分」のように、ベースとなる給与金額に支給率(主に月数)を掛け合わせて算出します。ここでベースとなる給与は「基本給」や「職能給」といった、一部の手当を指定することが一般的です。

給与連動式による算出例
  • 前提
    • 給与×支給率
  • 給与とは
    • 基本給、職能給、その他一部の手当とすることが一般的で、月額給与すべてを対象とすることは少ない
  • 支給率とは
    • 月数(1か月、2か月等)や評価による係数(0.9、1.0、1.1等)を組み合わせることが多い

給与連動式による賞与を算出するメリットやデメリットは次のようなものがあります。

メリットデメリット
経営者目線:賞与に必要な原資がわかりやすい
従業員目線:自分に支給される賞与の金額がわかりやすい
経営者目線:業績に関わらず一定の資金が必要
従業員目線:自分の頑張りが反映されているのか不明
社会保険労務士 矢野貴大

人事評価を反映させる場合には「給与×月数×評価による係数」のようにしますが、金額の調子が難しくなりますね。

業績・評価連動式

続いて「業績・評価連動式」です。これは会社や個人の業績から賞与の支給金額を計算する方法で、主に「営業利益」や「経常利益」を用いるケースが多く、その金額を従業員の評価に応じて分配する流れになります。

業績・評価連動式による算出例
  • 前提
    • 賞与の原資と分配するための評価制度を導入する
    • 会社によって「原資」に何を当てはめるのか、分配するための評価をどう決めるのか異なる
  • 原資の決め方
    • 「売上高」「営業利益」「経常利益」に対してその金額の何%を原資にする等
    • 原資となる項目が業績不振などの場合は賞与の減額や不支給としていることがある
  • 評価による分配
    • 部署単位、チーム単位の目標達成度に応じて原資を分配し、個々人の評価に応じて振り分ける

業績・評価連動式による賞与を算出するメリットやデメリットは次のようなものがあります。

メリットデメリット
経営者目線:景気(業績)に応じて支給ができるため資金繰り対策がしやすい
従業員目線:賞与金額の査定における透明性が高く、個人の頑張りも反映されやすいため納得しやすい
経営者目線:人事評価を実施するため、賞与の算定期間が煩雑となる
従業員目線:個人成果を上げたとしても、全社の業績が悪ければ賞与の金額に期待ができない
社会保険労務士 矢野貴大

経団連によると、業績連動型で賞与を支給している会社は55.2%と半数以上と、多くの企業が取り入れていることがわかります。詳しくは経団連「「2021年夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」」をご確認ください。

定額方式

最後に紹介する定額方式とは一番シンプルな支給方法であり、役職・勤続年数に応じて一律に金額を決めることです。

起業直後の会社で資金繰りとの調整をするために導入したり、従業員数も少なく一律に決めて賞与計算の手間を省きたいという会社で導入していることがあります。

定額方式による算出例
  • 前提
    • 従業員を特定の分野でカテゴライズし、それぞれ一律に支給金額を設定する方法
  • 従業員のカテゴリと金額例
    • 役職:「部長は500,000円」「課長は400,000円」「係長は350,000円」「その他300,000円」
    • 職種:「営業部は300,000円」「マーケティング部は200,000円」「総務部は150,000円」
    • 勤続年数:「10年以上は500,000円」「5年以上10年未満は300,000円」「5年未満は200,000円」
    • 雇用形態:「正社員は300,000円」「契約社員は200,000円」「パートやアルバイトは100,000円」

定額方式による賞与を算出するメリットやデメリットは次のようなものがあります。

メリットデメリット
経営者目線:金額を設定しやすく、賞与支給の時期に悩む必要がない
従業員目線:自分にいくら支給されるのかひと目で分かる
経営者目線:支給金額の調整が難しい
従業員目線:成果が反映されないため、不平不満につながりやすい

賞与の支給ルール

賞与を正式に社内で制度化するためには、就業規則の作成が必要不可欠になります。

「例年支給せずに1回だけボーナスを支給したい」のであれば就業規則に定めなくともトラブルは発生しにくいですが、「ボーナスを支給することが慣行的になっている」場合は従業員からすると「定期的に支給されるもの」と認識されてしまいます。このとき「業績が悪いから賞与を支給しない」とすると従業員からは当然「聞いていない」となり、トラブルになりかねません。

賞与の制度を就業規則に定めておくことで、「支給する・支給しない」の運用をしやすくなりますので、賞与を定期的に支給していきたい場合には、

  • 支給目的・要件
  • 支給となる対象者
  • 支給回数・支給金額

このような内容は最低限整備しておきましょう。

基本的に「発生した利益を従業員に還元する」ことを目的として賞与を支給されることが多いと思いますが、一度制度を定めると企業運営に良くも悪くも影響を及ぼします。しかしながら、従業員のモチベーションを維持・向上させるための重要な文化にもなりますので、どのような制度を導入するのか経営者の腕の見せどころとも言えます。

社会保険労務士 矢野貴大

就業規則はいわゆる会社の憲法になりますので、運用を間違えることはできません。法律的な観点のアドバイスも受けられるため、社会保険労務士等の専門家に相談しながら作成することをおすすめいたします。

支給目的・要件

支給目的・要件には、支給および不支給となる要件を記載しておきます。ポイントは「業績低迷ややむを得ない事由が発生」した場合には支給の延期もしくは不支給にできると定めておくことです。

「賞与を支給する」という文言だけ規定で明記してしまうと、業績の悪化により賞与の原資がなく支給ができない場合であっても賞与支給の義務が会社に発生してしまい、賞与の減額や不支給の行為が「労働条件の不利益変更」となりトラブルになりかねませんのでご注意ください。

就業規則に記載する条文例

(賞与の支給・不支給)

賞与は、考課対象期間における勤務成績の結果を考慮し、賞与を支給する場合がある。ただし、会社業績の著しい低下、その他やむを得ない事由がある場合には、支給時期を延期、または支給しないことがある。

労働条件の不利益変更とは?

労働契約法により「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定められています。これは、従業員と結んでいる労働条件を会社が一方的に変更することは認められないという趣旨であり、不利益になる変更をしたとしても無効になるとされています。詳細については下記の労務Tipsにて解説しておりますので、ご一読ください。

支給となる対象者

次に、賞与を支給する対象者やその範囲を具体的に定めます。このとき

  1. ある一定の期間の貢献に対して支給する場合は「支給対象期間」を設けて、その期間中に在職している従業員を対象とする
  2. 賞与を今後も会社で勤めるモチベーションにしてもらうために「賞与の支給日に在籍している」従業員を対象とする

ことがトラブルを防止するために必要な要素です。上記を制度化しておくことで、支給対象期間に勤務していない場合や、賞与の支給日に退職している従業員には支給する必要がなくなります。

就業規則に記載する条文例

(賞与の支給対象者)

賞与は、支給算定期間に在籍し、かつ賞与の支給日に在籍している従業員に支給する。

支給回数・支給金額

最後に、支給回数や支給金額の算定方法を明記しておきます。当然、この内容も企業に応じて独自に定めることができますので「決算賞与として年1回のみ」や「一律に300,000円とする」なども設定いただけます。

就業規則に記載する条文例

(賞与の支給回数および金額)

賞与は、原則として毎年夏期および冬期に支給するものとする。それぞれの支給算定期間は次に定める。

【夏季賞与】

12月1日から5月31日までを支給算定期間とし、この期間中に勤務実績のあるものを支給対象者とする。

【冬季賞与】

6月1日から11月30日までを支給算定期間とし、この期間中に勤務実績のあるものを支給対象者とする。

なお、支給金額については「基本給×2か月×個人評価係数」をベースとして支給する。ただし、支給算定期間内に不就労日がある従業員はその不就労日数を除して支払うものとする。

まとめ

今回は、賞与の支給金額の決め方や社内における制度化に向けて就業規則に記載すべきルールや条文を解説いたしました。

中小企業では「経営者の判断で金額を決める」ことが少なくありませんが、

  • 賞与金額に対する透明感がなく、従業員目線では納得しにくい
  • 自分自身がどのように評価されているのかよく分からず、モチベーションにつながらない

せっかく賞与を支給しても上記のようなデメリットにつながってしまいます。

賞与の制度は毎月の給与と違って、会社に支払義務はありませんが、従業員の方のモチベーションを左右するために重要な施策ですので、しっかりと検討をした上で制度化を進めましょう。

社会保険労務士によるワンポイント解説

賞与の制度を新しく導入する場合、会社の状況を俯瞰して自社に適したルールを設けていきましょう。その際、下記フローを参考にしていただけますと幸いです。

賞与制度導入のフロー
STEP
原資・分配率を検討する

賞与を支給することで、人件費が高まります。

売上高や営業利益などから「原資をどうするのか」「年間いくらくらいであれば賞与で還元しても問題がないのか」確認した上で経営を圧迫しないように調整しつつ、賞与の金額を試算しましょう。

CHECK
制度の方針を決める

今回紹介した

  • 支給目的・要件
  • 支給となる対象者
  • 支給回数・支給金額

は最低限整理し、就業規則に記載します。このとき、規定内容に問題がないのか社会保険労務士等の専門家に相談されることをおすすめいたします。就業規則は一度作成すると、変更が難しい場合がありますので注意してください。

CHECK
就業規則通りに運用を行う

就業規則に賞与の規定を定めたらそれで終わりではありません。ルールに従って、賞与の支給を行うことが大切です。規則に定まっている内容と、実際の運用が異なると余計なトラブルが発生してしまうため、しっかりと運用を行いましょう。

無料相談をご希望される方へ

TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。

執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

関連記事