就業規則の見直し・チェックすべきポイントを解説【古い就業規則はどう直す?】
就業規則は従業員の働き方を整備・統一化するために大切な書類です。雇用している従業員が10人未満の場合は労働基準法上では作成・届け出義務はありませんが、トラブルを防止するために就業規則を作成している経営者の方も多いのではないでしょうか。
一方で「就業規則の見直しや変更ができていない」というお声もよくお聞きします。この背景としては
- 2019年から順次施行された働き方改革関連法や、2022年10月の育児・介護休業法の改正など、近年の法改正の多さ
- 企業の実態と就業規則に定める内容は異なるが、どのように就業規則を見直すべきかわからない
上記のように、就業規則を見直すべきポイントが複雑でわかりにくいことが要因と言えます。
今回のコラム記事では、就業規則の見直し・チェックすべきポイントを具体的に解説いたしますので、今後就業規則を点検する際の参考にしていただけますと幸いです。
就業規則の文言は、専門的な知識が必要になることがあります。少しでも不安な場合は、社会保険労務士にご相談されることをおすすめします。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。
\自社の就業規則の法律への対応状況や問題点を可視化しませんか?/
古いまま・更新されていない就業規則のリスク
就業規則の内容が古いまま放置されていると、企業経営上様々なリスクを抱えることになります。下記2つのリスクについては特に押さえておいてください。
知らないうちに法律違反の可能性
就業規則を見直すべきタイミングとして「労働諸法令の改正」を取り上げましたが、対応ができていないと法律違反の状態となってしまいます。
働き方改革をきっかけに従業員の労務リテラシーも高まっていますので、「なぜ自社ではこの制度がないのか?」という質問をされる可能性もあります。年に1回か、2年に1回程度は法改正の情報と自社の就業規則の内容をすり合わせしておきましょう。
労務トラブルのきっかけになる
従業員との労働条件は、就業規則の内容に準じて決まります。例えば
- 父親から会社を引き継いだ二代目社長は、会社を安定させるために退職金制度の導入はまだ行うつもりはない
- 昔から勤めていた従業員が定年退職することになり「就業規則に定まっているので、退職金を支払ってほしい」と申し出があった
このようなケースに置いて、経営者としては退職金制度を導入したつもりがなくとも、就業規則に従って退職金を支払う義務が発生します。「先代の社長が作った就業規則なので、無効にしたい。そんな内容は知らない」このような言い分は通りません。
過去の就業規則の内容と実際の労働条件が異なる可能性がありますので、古い就業規則を放置することは危険なのです。
就業規則の見直しに関するチェックポイント
就業規則は一度作成して終わり、という書類ではありません。法令遵守の観点に加えて、定期的な見直しをしなければ会社をトラブルから守ることが難しくなります。
では、具体的にはどのようなシーンで就業規則のメンテナンスをするべきなのでしょうか。主に下記5つに対応ができているのかチェックしてみましょう。
- 労働諸法令の法改正に対応ができているか?
- 社内の働き方が変化していないか?
- 従業員トラブルを想定しているか?
- 多様な働き方に対応をしているか?
- 事業承継やM&Aを予定していないか?
労働諸法令の法改正に対応ができているか?
就業規則は、
- 労働基準法
- 労働契約法
- 労働安全衛生法
- パートタイム・有期雇用労働法
- 育児介護休業法
といった、労働諸法令と親密な関係があります。そのため各法律の改正が行われた場合、就業規則を見直さなければ知らずして法令違反となっていることがありますので、直近5年程度で行われた労働諸法令の法改正については必ずご確認ください。
働き方改革関連法(2019年から順次施行)
労働諸法令の法改正で、近年一番インパクトが大きかったのは「働き方改革関連法」ではないでしょうか。
労働基準法に加えて、労働安全衛生法やパートタイム・有期雇用労働法などが変更となったことで、就業規則の見直しをしておかなければ従業員とのトラブルに繋がったり、一部法律違反となる可能性もありますので注意しておきましょう。
働き方改革関連法と就業規則の見直しの関係性は下記表に整理しておりますので、点検時の参考にご確認ください。
主な働き方改革関連法 | 就業規則見直しの必要性 | ワンポイント解説 |
---|---|---|
残業時間の上限規制 | 見直すべき項目 | 社内における残業を抑制するためにも、残業希望時には申請・承認ルールを設ける場合は見直しが必要 |
年次有給休暇の5日取得義務 | 必ず見直すべき項目 | 年次有給休暇を事業主から時季指定をするためには就業規則に規定が必須 |
労働時間の客観的な把握 | 見直すべき項目 | 打刻システムの導入などにより、打刻方法が実態と就業規則の内容が異なる場合は変更が必要 |
月60時間超の残業に対する 割増率50%猶予措置の廃止 | 見直すべき項目 | 割増率猶予について就業規則に規定している場合は変更が必要 |
同一労働・同一賃金 | 必ず見直すべき項目 | 雇用形態別の就業規則の作成や、正社員・非正規社員の間に不合理な格差があるのか見直しが必須 |
パワハラ防止法(2020年・2022年に施行)
大企業では2020年6月から、中小企業には2022年4月より「職場におけるパワーハラスメント」への対策が義務化されていますので、会社・事業主は下記4つの対応が求められます。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
- 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
- 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
- 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
- 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること
- 上記①②③の措置と併せて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
- 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
参考:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
これらに対応するためには就業規則やハラスメント防止規程を整備しなければなりません。
育児・介護休業法(2017年から2022年10月までに施行)
育児・介護休業法の改正は高頻度で行われており、直近5年間では下記のように制度変更されています。
法改正の時期 | 改正内容 |
2017年1月 | 介護休業の分割取得 |
2017年10月 | 育児休業の最長取得期間を1歳6か月から2歳まで延長 |
2021年1月 | 子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得 |
2022年4月 | 有期雇用従業員に対する育児・介護休業の取得要件の緩和 |
2022年10月 | 産後パパ育休(出生時育児休業)制度の開始 育児休業の2回までの分割取得 |
育児・介護に関する制度についてはどの内容も就業規則に明記する必要がありますが、制度自体が複雑なため整備ができていない経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。表を参考に見直してみましょう。
社内の働き方が変化していないか?
従業員の働き方に関するルールが変更されている場合、就業規則の見直しが必須となります。主に次の2つのシーンは気をつけてください。
労働時間・休日や給与体系の変更
労働時間や休日、給与体系を変更するのであれば、就業規則にその内容を記載しなければなりません。例えば
- 始業・終業の時間を変更・追加する場合
- 9時-18時から10時-19時に一律に変更する
- 9時-18時に加えて、申請することで10時-19時の勤務が可能とする
- 変形労働時間制度を導入する、廃止する場合
- 「営業手当」や「家族手当」のような諸手当を導入する、もしくは廃止する場合
このようなケースですと、就業規則の見直しが必須となります。
また、労働時間制度や給与体系の変更においては、従業員への不利益変更に該当しやすいため注意してください。対応方法は下記の労務Tipsにて解説をしておりますので参考にしていただけますと幸いです。
福利厚生の制度を導入する
福利厚生制度は、内容によって就業規則への記載義務の有無が異なります。記載義務のない制度については「社内規定」や「内規」のように文章化している企業もあります。
就業規則 | 社内規定・内規 | |
---|---|---|
法的根拠 | ||
周知・運用 | ||
見直しやすさ | ※規程の作成方法によって異なる | |
整備しておきたい企業の特徴 | 従業員が10名を超える企業 | 従業員が10名未満で 就業規則の作成義務がない企業 |
福利厚生制度を導入し、就業規則を整備するときには
- 就業規則本則の中にまとめて記載する方法
- 福利厚生規程のように別規程として切り分けて作成する方法
上記2つのやり方があります。企業の規模や方向性によって最適な整備方法が異なりますので、社労士など専門家に相談されることをオススメします。
従業員トラブルを想定しているか?
従業員とのトラブルから会社を守るためには、服務に関する規定を整備する必要があります。就業規則の服務規律や懲戒事由に明文化されていなければ懲戒処分はできませんので、
- 従業員とのトラブルがあり、今後ルールを設けたい場合
- 従業員とのトラブルを想定し、予めルールを設けておく場合
上記に該当するのであれば就業規則の見直しは実施しましょう。服務規程の決め方や条文例については、下記コラム記事で詳しく解説していますので併せてご確認ください。
多様な働き方に対応をしているか?
法律上対応する義務はありませんが、会社によっては多様な働き方ができるような制度導入を進めるケースが増えています。下記のような制度を検討されるのであれば就業規則の見直しが必須となります。
短時間正社員・地域限定正社員
正社員であっても
- 通常は8時間だが、一定の理由があれば6時間とする(給与もその時間に応じて按分する)
- 総合職の場合は全国転勤があるが、転勤範囲を一定の地域のみとする
このように、通常の正社員と異なる労働条件を適用するのであれば、就業規則上に適用される従業員の要件などを明記する必要があるためご注意ください。
副業・兼業
副業や兼業を巡っては
- 副業や兼業は一律に禁止する
- 会社に申請・許可を得た場合にのみ可能とする
- 会社に申請をするだけで可能とする
- 特に届け出も必要としない
会社によって様々な制度が設けられています。例えば一律に副業・兼業を禁止している企業が、副業を解禁するためには
- 申請、承認までの手続きの流れ
- 副業をすることにより本業に支障をきたした場合の取り扱い
- 本業の情報漏えいや利益相反となる副業をした場合の罰則
このようなルールを検討し、就業規則に記載しましょう。
在宅勤務・リモートワーク
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、在宅勤務やリモートワーク制度を導入する企業は増えております。労働時間やその他の労働条件に変更がない場合には就業規則の変更は必要ないとされています。
通常勤務とテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。
厚生労働省「テレワークモデル就業規則 作成の手引き」より引用
しかし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合には、就業規則の変更が必要となります。
また、テレワーク勤務の導入に際して、例えばフレックスタイム制を採用したい場合は、既存の就業規則にその規定が定められていなければ、就業規則の変更が必要となります。
ただし、在宅勤務・テレワーク制度を導入することで
- テレワーク勤務用の始業、終業時刻を設ける
- テレワーク選択時には通勤手当は支給しない
このように、従業員との労働条件が変わるのであれば就業規則を変更しなければならないのです。
事業承継やM&Aを予定していないか?
事業承継やM&Aを行う場合、就業規則の見直しは必須です。
譲渡対象となる企業に対して、財務・法務・税務・IT・ビジネス・人事労務などの側面から企業価値がどの程度あるのか、リスクを内在していないのかデューデリジェンス(調査分析)が実施されます。このデューデリジェンスでは就業規則の内容も当然チェックされ、不備があるとすぐに修正しなければなりません。
今後事業承継やM&Aを考えているのであれば、定期的に就業規則のメンテナンスを行いましょう。
まとめ:就業規則を定期的に見直すことでトラブルを防ぎましょう
今回は、就業規則の見直し・チェックすべきポイントについて解説いたしました。貴社の就業規則の状態が
- 就業規則の見直しは過去5年で一度もしていない
- 市販の就業規則を購入して、そのまま利用している
- 実際の働き方と就業規則の内容に矛盾がある
このような場合には、特に注意が必要ですので、すぐに点検されることをおすすめいたします。
TSUMIKI社会保険労務士事務所では、労務トラブルを未然に防止する就業規則の作成をご支援しております。まずは貴社の就業規則の状況を無料で診断いたしますので、お気軽に活用ください。
\自社の就業規則の法律への対応状況や問題点を可視化しませんか?/