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給与の締め日・支払日とは?決め方や注意点を社労士が解説

給与 締め日 支払日 決め方
本記事ではこのようなお悩みを解決いたします
  • これから会社を立ち上げるが、給与の支払いルールをどう設定していいか分からない
  • 会社の資金繰りを考慮した給与の締め日・支払日を知りたい
  • 給与の支払日はいつが多いのか、他社の事例を教えてほしい

正社員・アルバイトやパートといった雇用形態を問わず、従業員を一人でも採用すると経営者は給与の支払い義務が発生します。この給与の支払いには「締め日」と「支払日」が重要であり、労働基準法によって一定の制限があります。

今回は多くの企業で取り入れられている「月給制」をベースに、締め日・支払日に関するルールや決め方を解説いたします。

会社を立ち上げてこれから従業員の採用を考えていたり、現在の締め日・支払日の変更を検討されている経営者の方はぜひ参考にしてください。

執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

このページの概要

給与の締め日・支払日とは?

給与の締め日・支払日は、労働基準法第24条においていくつか定められています。

まず最初に法律の考え方を確認し、その後に締め日と支払日の考え方を事例に基づき解説いたしますので、それぞれ順番に見ていきましょう。

労働基準法による定め

従業員に支払う給与については、労働基準法第24条で一定のルールが設けられており、経営者はすべからく守る義務があります。法律に定められている内容をまとめて「賃金支払の5原則」と呼ぶことがあり、これらに違反してしまうと

  • 労働基準法120条の定めにより30万円以下の罰金
  • 労働基準監督署の調査による是正勧告・悪質な場合は書類送検

上記のようなリスクがあります。また、何かしら社内でトラブルが起こってしまうと、近年はSNS等ですぐに情報が知れ渡り、ブラック企業と呼ばれることも少なくないため注意しておきましょう。

社会保険労務士 矢野貴大

労働基準監督署から是正勧告を受けても、しっかりと改善すれば大きな問題になることはありませんが、違法な状態が続いてしまうと送検されて刑事裁判となる可能性があります。

賃金支払いの5原則は、雇っている従業員の数や個人事業主・法人成り会社など関係なく、従業員を一人でも雇用すると対応が求められます。

賃金支払いの5原則の概要は次の通りです。

賃金支払いの5原則とは
  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

これら5つのルールのうち、給与の締め日・支払日に関係する部分は毎月1回以上払いの原則」「一定期日払いの原則であり、具体的な内容を表内にて整理しておりますので要点をご確認ください。

毎月1回払いの原則とは定期日払いの原則とは
従業員に対する賃金(給与)は、毎月1回は支払わなければならないことが定められています。
給与は従業員の生活を維持するために必要不可欠です。従って半年や1年に1回まとめて支払うことを禁止する目的があります。
特定の期日に支払わなければならないことが定められています。
基本的なパターンである月給制の場合は「毎月10日」や「毎月月末」、週給制の場合は「毎週木曜日」のようになります。
ただし、月給制にも関わらず「第三木曜日」にすることは「期日を特定」したことになりません。
給与の締め日・支払日に関する法律

そのため従業員を雇用する経営者は、

  • 給与を毎月1回以上必ず支払うこと
  • その支払い日を一定の期日と約束すること

従業員に対して保証しなければならないのです。「今月は資金繰りが厳しいから、給与は来月に二ヶ月分支払う」ような対応は法律違反のため、行えません。

ただし、保証することができれば給与の計算期間や支払日を自由に定められますので、会社によって締め日も支払い日も様々あるのです。

労働基準法第24条の内容をみてみる

第二十四条 (賃金の支払)

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

e-gov「労働基準法」より引用

給与の締め日

では「毎月1回以上払いの原則」及び「一定期日払いの原則」を守るために必要な取り組みの一つである「給与の締め日」を解説いたします。

「給与の締め日」とは、給与の計算対象となる期間をいつからいつまでにするのかを決めていただき、その区切られた期間における最終日のことを指す言葉です。よくある締め日を例に、給与の計算対象の期間の軸を見てみましょう。

締め日の例
  • 月末締め
    • 毎月1日から月末までの勤務に対して給与を支払う
  • 10日締め
    • 前月の11日から当月10日までの勤務に対して給与を支払う
  • 25日締め
    • 前月の26日から当月25日までの勤務に対して給与を支払う

この「月末締め」「10日締め」「25日締め」のように、締める日が異なるとどのような影響があるのでしょうか。結論、従業員の入社日や退職日によって、給与計算の方法を変える必要があります。

4月1日入社時における
初回の給与支給額
4月30日退職時における
最後の給与支給額
月末締め満額満額
10日締め10日分のみ
(4月1日から4月10日分)
20日分のみ
(4月11日から4月30日分のみ)
25日締め25日分のみ
(4月1日から4月25日分のみ)
5日分のみ
(4月26日から4月30日分のみ)
締め日と給与支給額の関係

「給与の締め日」とは、「何日から何日まで働いた分を支払うのか」期間を区切るため、その期間に勤務していなければ給与は発生しないことになります。

給与の支払日

次に知っておくべき点は「給与の支払日」になります。

結論、支払日自体は会社の独自に決めることができますが、支払うタイミングについては大きく2パータンあり、給与計算の方法が異なりますので確認しておきましょう。

当月払いとは

給与を支払うタイミングの一つ目は「当月払い」になります。これは先に解説しました「給与の締め日」と「給与の支払日」が同じ月になることを言います。

当月払いの例
  • 給与の締め日が15日・支払いが当月25日の場合
    • 4月16日から5月15日の勤務に対する給与を、5月25日に支払う
  • 給与の締め日が月末・支払いが当月25日の場合
    • 4月1日から4月30日の勤務に対する給与を、4月25日に支払うこと
    • 4月26日から4月30日の勤務は4月25日時点で発生していないため、実質先払いとなる。

翌月払いとは

2つ目のパターンは「翌月払い」です。これは「給与の締め日」の翌月に「給与の支払日」が到来することを言います。

翌月払いの例
  • 給与の締め日が15日・支払いが翌月25日の場合
    • 4月16日から5月15日の勤務に対する給与を、6月25日に支払うこと
  • 給与の締め日が月末・支払いが翌月25日の場合
    • 4月1日から4月30日の勤務に対する給与を、5月25日に支払うこと
    • 5月25日時点で、4月1日から4月30日の勤務は確定しているため、当月払いのように先払いにならない。

当月払い・翌月払いの比較

当月払いと翌月払いと、給与金額の相関関係は一部分かりにくい箇所がありますので、下記表に整理をいたしました。タイミングによっては支給する給与の金額が異なることはぜひ知っておいてください。

当月払い・翌月払い早見表
社会保険労務士 矢野貴大

給与の支払いについては、必ず勤務が行われた月中に支払う必要はありませんが、不当に長い期間を空けるとトラブルになりえます。実務上支払い日を「翌月払い」に設定している企業は多々ありますが、「翌々月」や「締め日から3ヶ月後」は止めておくべきでしょう。

賞与の締め日・支払日は?

賞与は通常の給与と異なり、支給することについて義務ではなく、支給する場合であっても「毎月1回以上払いの原則」及び「一定期日払いの原則」対象外となります。そのため給与の支給日や支払い方法とは別に定めても問題ありません。

これから賞与の支給も考えられている経営者の方は、下記の労務Tipsにて賞与の金額の設定方法を紹介しておりますのでぜひ参考にしてください。

よくある給与の締め日・支払日はいつ?

一般的な企業はどのように給与の締め日・支払日を定めているのでしょうか。今回はオーソドックスな設定内容と、事例を紹介いたします。

オーソドックスな設定内容

経営者の方であれば「五十日」という言葉は聞き馴染みがあるかもしれません。

日本の企業では、5日・10日・15日・20日・25日、そして30日もしくは末日に各種決済を行われることが多く、給与の支給日についても同じ様に取り扱われています。

そのため下記のように「五十日」に属する日を支給日として定めているケースが一般的です。

締め日支払日企業の特徴例
10日当月末日中小企業
末日当月25日大企業
末日翌月20日ベンチャー企業など

企業ごとの事例紹介

雇用形態や拠点によって異なる可能性がありますが、ハローワークに掲載されている求人を独自に調査し、下記表に整理をいたしました。

会社名締め日支払日
日清医療食品
株式会社
15日当月25日
パナソニック
スイッチングテクノロジーズ株式会社
末日当月25日
武田薬品工業株式会社
(大阪工場)
末日翌月25日
住友不動産
株式会社
末日当月20日
医療法人
(大阪皮膚科クリニック)
20日当月25日
ハローワーク掲載求人を参考に当事務所にて作成
社会保険労務士 矢野貴大

給与計算をするために、給与の締め日は末日にしている会社が多い印象を受けました。業種や規模によって一定の基準はありそうですが、自由に決めることができますので一つの目安程度にご確認ください。

給与の締め日・支払日を決めるときのポイント

給与の締め日と支払日の考え方や事例についてご紹介しましたが、結論「経営が円滑にできる日はいつか?」を軸に考えていきましょう。この際、3つ考慮いただきたいポイントがありますのでそれぞれ紹介いたします。

給与の締め日・支払日を決める際のポイント
  • 雇用形態別に定められる
  • 給与計算の期間を考慮する
  • 運転資金を考慮する

雇用形態別に定められる

1つ目は「雇用形態別に定められる」点です。例えば

雇用形態締め日支払日
正社員20日当月25日
パート・アルバイト末日翌月10日

このように、正社員やパート・アルバイトで別々の締め日・支払い日を設定することは法律上問題ありません。従業員数が増えていくと、全従業員を同じタイミングで給与計算をすることが煩雑になる恐れがあります。

雇用形態別に締め日・支払い日を設定することで、業務量を分散することが可能です。

給与計算の期間を考慮する

給与計算は、

  • 労働時間(残業時間)の集計
  • 残業手当・休日手当の計算
  • 雇用保険・社会保険の計算
  • 所得税の計算

このように、様々な項目を正確に算出しなければなりません。給与の締め日と支払日が近い場合、計算する時間的余裕がなくなりますので、注意が必要です。

「最初は従業員が数名だから、20日に締めて25日に給与が支給できる」としても、将来的に従業員数が何十人も増えた場合に同じ計算期間内での処理は現実的ではありません。

支払日からある程度余裕を持ったスケジュールになるように締め日を定めましょう。

運転資金を考慮する

給与の支払いは、当然会社の資金から行います。そのため給与の支払日をあまり考えずに設定してしまった場合、会社に売上金が入るタイミングによっては資金繰りが大変になりますので注意が必要です。

取引先からの売上が形状される日をある程度予測しておき、まとまった金額が会社内にプールできてる期間に給与の支払日を設定しておきましょう。ただし、仕入れのための出金との兼ね合いも重要です。

社会保険労務士 矢野貴大

社会保険労務士として多くの企業の給与計算に携わっておりますが、給与の締め日・支払日は本当に様々あります。他社の事例は参考程度で、自社に適する支払いサイクルがいつなのか見極めることが一番大切ですね。

締め日・支払日を決めたらどうする?

具体的に給与の締め日・支払日を決めましたら、

  • 労働条件通知書に記載する
  • 就業規則に定める

上記いずれかの対応をしていきましょう。

実際に従業員を採用しなければすぐの対応は不要ですが、予め労働条件通知書等は給与の締め日・支払日を定めた社内雛形を作成し、準備することをオススメいたします。

労働条件通知書に記載する

従業員を雇用するときに、経営者は一定の事項は従業員に周知しなければなりません。

この決まりの中に賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項が含まれています。

また、この事項については書面による交付が義務付けられているため、労働条件通知書もしくは雇用契約書を作成し、賃金の締め日・支払日も忘れずに明記しておきましょう。

厚生労働省のWEBサイトに採用時に明示しなければならない事項について解説がありますので、併せて参考にしてください。

就業規則に定める

就業規則も労働条件通知書と同様に、作成する場合は賃金の締め日・支払日は記載する必要があります。

就業規則は従業員が10人未満の場合は作成義務はありませんが、社内秩序を保つために重要な書類です。そのため、一人でも雇用するのであれば作成を検討しましょう。

なお、就業規則の必要性については下記労務Tipsにて紹介しておりますのでぜひご一読ください。

社会保険労務士 矢野貴大

「労働条件通知書」もしくは「就業規則」の作成は、どちらにせよ従業員にルールを伝えるための重要な書類です。決めたルールは運用しなければ意味がありませんので、必要に応じて対応していきましょう!

決めた締め日・支払日は変更できる?

一度決めて、そのルール通りに給与計算を行い、支給もしていたとしても、締め日および支払日は変更することが可能です。

ただし、変更するタイミングによっては従業員の給与に一時影響がありますので注意が必要です。詳細は下記労務Tipsにございますので、併せてご一読ください。

まとめ・締め日・支払日に困ったら

今回は「給与の締め日・支払日とは?決め方や注意点」について法的観点および事例をベースに解説いたしました。

給与の締め日・支払日は自由に決められますが、会社の資金繰りに大きな影響を与えます。また、一度決めると変更する際に大変な作業が必要となりますので、これから決める経営者の方は慎重に設定しましょう。

  • 締め日と支払日を決めることに不安がある
  • 締め日もしくは支払日を変更したいが、どうすればいいのか分からない

という経営者の方は、専門家である社労士に相談してはいかがでしょうか。

TSUMIKI社会保険労務士事務所では、法律対応だけでなく貴社の状況に応じた給与の支払ルールのご相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ。

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