Q. 所定労働時間(日数)を変更した際の有給休暇の取り扱いについて教えてください。

- 年の途中で所定労働時間が変更になった場合の、年次有給休暇付与日数の考え方
- 1日の所定労働時間が異なる場合の、年次有給休暇取得時に給与として支払うべき時間数の考え方

パートタイマーとの雇用契約が年の途中で変更になったため、当初7時間だった所定労働時間が6時間となり1時間短くなりました。変更となった従業員から「有給休暇で休んだ日、何時間分の給与になるのか教えてほしい。有給休暇の権利が発生したときの労働時間で計算してくれるのでしょうか?」と質問がありました。
年次有給休暇の権利が発生したときの契約時間なのか、契約変更後の時間で問題ないのか、パートタイマーの年次有給休暇を取得したときの取り扱いについて教えてください。また、パートタイマーは所定労働日数に応じて有給休暇の付与日数が変わると思いますので、この場合に発生する日数についても知りたいです。

A. 契約変更があったとしても、有給休暇を使って休んだ日の労働時間分の給与になります。
1日の労働時間が固定されている正社員と違って、パートタイマーの方が年次有給休暇を利用するとご質問のように「何時過分の給与を支払えばいいのだろう」と迷われる経営者の方は少なくありません。
結論、シフト等で元々決まっていた労働時間分の給与を支給するケースが多いのですが、トラブルを防止するために法的な考え方を知っておくことが大切です。

今回は、パートタイマーやアルバイトの方に関する
- 付与すべき年次有給休暇の日数の考え方
- 年次有給休暇を取得したときの「労働時間にみなす」べき時間
について順番に解説をいたします。
パートタイマーに付与すべき年次有給休暇の日数
正社員以外でも、パートタイマーやアルバイトの方でも年次有給休暇は発生します。このとき、
週所定労働日数が4日以下

週所定労働時間が30時間未満
の場合、年次有給休暇の付与日数は週の所定労働日数もしくは1年間の所定労働日数によって付与される日数は下記表のようにそれぞれ異なります。

そのため、入社当初は「週所定労働日数は4日」となっていたパートタイマー従業員が、有給休暇が付与される前に「週所定労働日数が3日」に契約変更となった場合は
有給休暇が付与される日数は「7日」と「5日」のどちらになるのか?という問題が発生するのです。
結論、付与される年次有給休暇の日数は「年次有給休暇を取得する権利が発生した際の所定労働日数・所定労働時間」によって決まります。そのため、上記を例にするとパートタイマー従業員には「5日」の年次有給休暇を付与されることになります。
年次有給休暇が付与された(権利が発生した)後に契約内容変更により所定労働日数が短くなったり、長くなったりしても付与された日数は代わりません。例えば、入社当初は「週所定労働日数が4日」のまま6ヶ月勤務し年次有給休暇が「7日」付与された後、「週所定労働日数が3日」に変更になったとしても「付与された7日が5日に減る」ことはありません。
パートタイマーが年次有給休暇を取得したときの「労働時間にみなす」べき時間
では続いて、パートタイマー従業員の方が実際に年次有給休暇を取得した日の取り扱いを確認していきましょう。通常、正社員のように1日の労働時間が8時間と固定されている場合は有給休暇を取得した日は「8時間働いたものとみなす」ため給与も全額支給されるためわかりやすいですが、
「火曜日は5時間」「金曜日は8時間」のように日によって労働時間がバラバラな場合、有給休暇を取得すると何時間分給与を支払うべきなのか、迷われる方もお多いかと思います。
また、今回のご質問のように「パートタイマーとの雇用契約が年の途中で変更になったため、所定労働時間が短くなった」場合も同様に頭を悩ませる問題です。
例えば当初は「週所定労働時間は7時間」のパートタイマー従業員が、有給休暇が付与された後に「所定労働時間が6時間」のように勤務日数が途中で変更となった際、年次有給休暇を取得した日は
- 年次有給休暇の権利が発生した日の労働契約に基づく「7時間分」を与える
- 年次有給休暇の権利が発生した日ではなく、現在の労働契約に基づいて「6時間分」を与える
どちらの時間として計算すればいいのでしょうか。年次有給休暇を取得した日に何時間分の給与を支給するのかについては下記3つのいずれかとする必要があり、就業規則でどのように定めているのかによって取り扱いが異なりますのでそれぞれ確認していきましょう。
- 通常の賃金で計算して支払う
- 平均賃金で計算して支払う
- 健康保険法の標準報酬日額で計算して支払う

就業規則への記載例も載せておりますので、自社のルールがどうなっているのか、また今後変更する際にどのように変更すべきなのか、ぜひ参考にしてください。
通常の賃金で計算して支払う
この支払方法を選択している企業が最も多いのではないでしょうか。「通常の賃金で計算して支払う」とは、従業員がその日に勤務していると仮定して支払う賃金を指します。つまり、パートタイマーやアルバイトの方でいくと「年次有給休暇を取得する日のシフトで決められている時間数×時給」の金額となります。
今回のご相談でいくと労働時間が短くなった契約がベースになりますので「6時間分」の賃金を支払うことになります。
一方で、日によって労働時間が異なる場合(「火曜日は5時間」「金曜日は8時間」のケース)には
- 火曜日は5時間分の給与
- 金曜日は8時間分の給与
になります。従業員からすると金曜日に有給休暇を取得した日の方が得をすることになりますので、管理する際は注意が必要です。
年次有給休暇を取得した場合の賃金は、所定労働時間の労働をしたときに支払われる通常の賃金を支払うこととする。
平均賃金で計算して支払う
2つ目は「平均賃金」を元とした計算方法です。
平均賃金は「直近3か月間で支払った賃金の総額÷暦日数(休日を含む)」により1日の賃金額を算出できますので、平均賃金の金額×年次有給休暇の取得日数により給与を支給します。
ただし、時給者などの場合だと欠勤日数などによって平均賃金が低くなるケースもあります。
この場合は、賃金の総額を労働日数で除した6割に当たる額(最低保証額)と比べて、いずれか高い金額で計算することになるので注意をしましょう。
年次有給休暇を取得した場合の賃金は、1日の平均賃金により計算して支払うこととする。



実際の計算方法は、神奈川労働局の「平均賃金について」のページにケース別解説がありますのでぜひ参考にしてください。
健康保険法の標準報酬日額で計算して支払う
3つ目は「健康保険法上の標準報酬日額」を利用する計算です。「健康保険法上の標準報酬日額」とは、「健康保険で定められている標準報酬月額÷30」により標準報酬日額を算出し、その金額×年次有給休暇の取得日数により給与を支給する流れになります。
標準報酬月額とは、健康保険料を計算する際の基準となる金額で、5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に区分されたものを指します。健康保険に加入している会社であれば従業員の標準報酬月額がすぐに分かりますので、平均賃金と比べると年次有給休暇の際にいくら支給すべきなのか簡単に計算が行えます。
ただし、健康保険法の標準報酬日額を選ぶ場合には
- 労使協定を別途締結する必要がある
- 健康保険に加入していない従業員は利用できない
といったデメリットもありますので、確認しておきましょう。
パートタイマーやアルバイトですと健康保険に加入をしていない方が多く、実務上は「通常の賃金で計算して支払う」「平均賃金で計算して支払う」のいずれかになるかと思われます。
年次有給休暇を取得した場合の賃金は、健康保険法の標準日額により計算して支払うこととする。ただし、健康保険に加入していない従業員については所定労働時間の労働をしたときに支払われる通常の賃金を支払うこととする。



標準報酬月額の詳細については全国健康保険協会の「標準報酬月額・標準報酬賞与額とは?」のページをご確認ください。
まとめ
今回は「所定労働時間(所定労働日数)を変更した際の有給休暇の取り扱い」という内容を解説させていただきました。
正社員のように、1日の労働時間が固定されている従業員については問題になることは少ないですが、パートやアルバイトなど1日の労働時間がバラバラであったり、所定労働日数が契約更新などで変更となる場合は従業員とのトラブルにつながりやすく、給与計算時にミスをしやすい内容となります。
年次有給休暇の取り扱い方法をしっかりと就業規則に定めて、運用していきましょう。
社会保険労務士によるワンポイント解説
年次有給休暇の取り扱いルールについて、整理および運用をするためのチェックリストを作成いたしました。下記の内容に従って、自社の年次有給休暇に関する労務管理が適切かぜひご確認ください。
中小企業では「当社ではパートやアルバイトには有給休暇のルールがない」というお話を聞くことがあります。雇用形態に関係なく要件を満たした場合は有給休暇を付与しなければ法律違反になりますので注意をしましょう。
パート・アルバイトの方が年次有給休暇を取得した日に何時間分の給与を支給すべきなのか、ややこしくなるケースがあります。しっかりと就業規則に計算方法を明記しておくことで従業員からの質問にもスムーズに対応ができます。
今回解説した
- 通常の賃金で計算して支払う
- 平均賃金で計算して支払う
- 健康保険法の標準報酬日額で計算して支払う
上記のいずれかが規定化されているのか確認してください。もし就業規則に定まっていない場合は見直しましょう。
就業規則に定まっていたとしても、その内容どおり運用ができていなければ意味がありません。従業員に制度・ルールを説明した上でその内容に従って運用を行います。
もし実態とルールが異なっている場合は、ルールの見直しをするのか、実態をルールに合わせるのか二択になりますので、従業員と話し合いながら調整をしてください。
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矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

