Q. 計画年休時に有給休暇がない場合はどう対応すべきですか?

- 計画的付与制度の一般的な考え方
- 年次有給休暇の計画的付与を予定しているが、有給休暇の残日数がない従業員がいる場合の取り扱いについて

年次有給休暇の5日取得義務への対応や、会社としてワーク・ライフ・バランス向上のために、有給休暇の計画年休制度の導入を考えています。
ただ、積極的に有給休暇を取得している従業員もいるので、計画的付与の日に有給休暇が残っていない可能性があるのですが、どうすればいいのでしょうか?

A. 計画年休制度(計画的付与制度)の概要から解説します。
年次有給休暇の計画的付与制度は、従業員が有給休暇の取得を促進できるため有効な制度です。
ただし、今回のご相談のように「計画的付与をしているが、有給休暇が残っていない」ことも考えられますし、予め想定した制度設計をしなければトラブルの種になります。

計画的付与制度の内容について簡単に解説した後、計画的付与の日に有給休暇がない場合の取り扱い方法について解説いたします。
計画年休とは?計画的付与制度の3つのパターン
そもそも計画的付与制度とは、労使協定により従業員が保有している年次有給休暇の取得日を予め決めておく制度で、主に次のような3つのパターンで計画年休を行うことが多いです。
- 企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方式
- 会社の創業記念日など特定の日にちについて、全従業員に対して同一の日に年次有給休暇を取得するパターン
- 班・グループ別の交替制付与方式
- 流通・サービス業など、会社全体の定休日を増やすことが難しい場合、グループ別に年休有給休暇を取得するパターン
- 個人別付与方式
- 夏休みや冬休み、ゴールデンウィークの間にある平日、誕生日や結婚記念日など従業員が個人的に取得しやすい日を指定するパターン
ただし、どのパターンであっても従業員が保有している年次有給休暇の利用が前提になります。
計画年休の対象とできる日数
また、計画年休として対象にできる年次有給休暇には日数が決められている点も注意してください。
計画的付与制度の対象とできるのは、年次有給休暇のうち5日を超える部分となり、例えば、年次有給休暇が10日付与されている従業員は5日まで、20日付与されている従業員は15日まで、といったように法律上制限があります。

従業員が病気や、個人的な事情で休暇を取得できるように、最低限の日数は保有できるため、制限が掛けられています。
計画年休(計画的付与日)の際に有給休暇がない場合の取り扱い
では具体的に、計画的付与の対象日に年次有給休暇の残日数がない方への対応方法を4つご紹介します。
- 特別休暇を与える
- 休業手当を支払う(平均賃金の100分の60以上)
- 有給休暇を前倒しで付与する
特別休暇を与える
特別休暇は、年次有給休暇とは異なり事業主の裁量に基づいて付与される休暇です。
計画的付与日に有給休暇がない場合、有給休暇の代替手段として特別休暇を付与することが可能です。ただし、他の従業員との不平等性の観点から注意が必要です。また、予め特別休暇の条件・内容については明確にし、従業員に周知しておきましょう。
休業手当を支払う(平均賃金の100分の60以上)
特別休暇を与えない場合であって、年次有給休暇がすでに残っていない従業員も計画的付与日に休ませる場合、休業の扱いになります。そのため
- 就業規則等にもとづき、賃金や手当の支払いを定めているときはその内容を支払う必要がある
- 定めがない場合、休業手当の支払い(平均賃金の100分の60以上)の支払いが必要がある
上記のように補填の支払いが求められます。最低限、従業員が経済的な損失を受けないように会社として手当を支払う必要があるのです。
有給休暇を前倒しで付与する
3つ目の方法は、次に年次有給休暇が付与される日数から、計画年休分の日数を前倒しで付与する方法です。
年次有給休暇の前倒し付与自体は違法ではありませんが、計画的付与制度の趣旨や、本来年次有給休暇が付与される日までに退職をした場合の取り扱いを考えると、会社としてリスクは高まりますので、推奨しかねる方法ではあります。
計画的付与制度を導入する際の注意点
計画的付与制度は、有給休暇の取得促進に有効ではありますが、制度導入を検討される場合は次のポイントは抑えておきましょう。
- 従業員の意向を尊重する
- 柔軟性を持たせた制度にする
- 事業運営への影響を考慮する
従業員の意向を尊重する
元々有給休暇自体、どのタイミングに取得するのか従業員の権利ですので、従業員の意向やニーズを尊重した上で、計画年休日を定めましょう。無理に制度を押し付けるのではなく、共に良い方向を模索する姿勢が求められます。
柔軟性を持たせた制度にする
計画的付与日として定めた日は、会社・従業員が一方的に変更することはできません。事業運営上、万が一休暇日を変更する可能性がある場合、労使協定を定める際に変更手続の定めを設けておき、その手続きを経る必要があります。
事業の状況や従業員の生活状況が変わることも考慮し、計画的付与制度も一定の柔軟性を持たせることが好ましいと言えます。
計画的付与制度に柔軟性をもたせるための労使協定例
第◯条(計画的年休日の変更)
1.会社および従業員は、労使協定によって年次有給休暇の計画有給休暇日が確定している場合であっても、やむを得ない事情がある場合には、◯日前までに有給休暇日の変更を申し出ることができる。
2.会社および従業員は前項の申し出について、業務の正常な運営を妨げ、または従業員の予定を著しく妨げるような事情がない限り、これに応じるものとする。
事業運営への影響を考慮する
従業員の有給休暇取得を促進する一方で、事業の運営に必要な人員が確保できるよう、十分な考慮も忘れてはいけません。現場の状況を分析した上で、計画年休日を定めましょう。
社会保険労務士によるワンポイント解説
計画年休(計画的付与制度)は、前もって有給休暇の取得日が割り振られるため、従業員からするとためらいなく休暇を取得することができます。
また、働き方改革により「年次有給休暇が10日以上付与される場合、年5日を取得させる義務」が会社に発生していますので、その法令遵守に対しても計画年休は有効な手段です。
これから計画年休を導入する企業に向けて、導入STEPを整理しましたので、ぜひご参考ください。
年次有給休暇の計画的付与制度に関する法律を確認しておきましょう。また、自社で年間の有給休暇取得率、取得の障壁になっている要因を把握することも重要です。
計画的付与の内容や日数、期間等についてしっかりと協議しましょう。
従業員の意見や要望をヒアリングし、制度内容に反映することが大切です。
計画年休は、労使協定の締結が必要不可欠です。次の項目を労使協定に記載し、作成してください。
- 計画的付与の対象者
- 計画的付与の対象となる日数
- 年次有給休暇の日数が不足する従業員への対応
- 計画的付与を実施する方法
- 計画的付与日の変更について
計画年休は、労使協定の他就業規則に定めることも求められます。就業規則の変更を忘れずに行いましょう。
労使協定の作成や就業規則の変更には専門的な知識が必要ですので、社会保険労務士に相談しながら進めることをおすすめします。
改めて、作成した労使協定や就業規則、計画年休の日を従業員に周知しましょう。運用後、問題なく計画年休が取得できているのか振り返りをすることでより実態にあった制度設計に繋がります。
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矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

