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Q. 仕事のための勉強は労働時間になりますか?

この労務Tipsでわかること
  • 仕事に関係する勉強は労働時間になるのか?
  • 仕事と自主的な勉強は労務管理上どう考えるべきなのか?

新しく従業員を採用したのですが、未経験のため仕事に関する勉強もしてほしいと考えております。このような場合、勉強時間は労働時間として取扱うべきなのでしょうか

もし就業時間後に勉強するように伝えると、残業代の支払いが必要になるのか教えてください。

A. 仕事のための勉強は労働時間に該当する可能性があります。

結論申し上げますと、仕事のための勉強時間は、労働時間に該当する場合があります。ただし、勉強の目的や内容、会社や上司からの指示の有無などによって異なります。

労働時間に該当すると当然「給与の支払い対象となる時間」とも置き換えることができますので、就業時間後、会社に残って勉強をしているのであれば残業代の支払いが求められる恐れがあります

「仕事のための勉強時間は労働時間になるのか」については、従業員とのトラブルに発展しやすいテーマですので、自社の状況と照らし合わせながら本記事を参考にしていただけますと幸いです。

仕事のための勉強時間が労働時間になるケース

まず、仕事のための勉強とはどのようなものを指すのかについて、労働基準法や行政における労働時間の定義や解釈をもとに考えてみましょう。

労働基準法第32条において「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」と定められています。

仕事のための勉強時間が「労働時間」に含まれるのか否かがポイントになりますが、この労働時間の解釈としては

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。

 ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

 イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

 ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

とされています。この定義からすると、仕事のための勉強が

  • 会社が義務付けた資格取得のための勉強
  • 業務に必要な知識や技術を習得するために会社から指示した勉強

上記に該当する場合は労働時間に該当すると考えられます。

具体的な例としましては、

  • 営業職の従業員が、社内で開かれる参加必須の講習会に参加する時間
  • 製造業の従業員が、業務上必須な技術を取得するために参加する社外講習の受講時間

について、会社が命令しているのであれば労働時間として取扱う必要があり、就業時間後に勉強させているのであれば残業代の対象になると考えられます。

仕事のための勉強が労働時間にならないケース

一方で、仕事のための勉強が労働時間に該当しないケースとしては次のような場合が考えられます。

  • 会社が指示しておらず、従業員が自主的に勉強している時間
  • 業務に直接関連せず、従業員自身が自分のキャリアやスキルアップのために勉強している時間
  • 業務時間外に、自由に場所や方法を選んで行うことができる勉強時間

具体的には、以下のようなものが該当するのではないでしょうか。

  • 従業員が自己啓発のために、英語やプログラミングの勉強をする
  • 会社が資格取得を推奨しているものの強制ではなく、従業員が自宅で独学で勉強する
  • 業務に直接関係しない資格取得のための勉強
  • 業務に直接関係しない知識や技術を習得するための勉強

ただし「労働基準法上、労働時間に該当しない勉強について具体的に規定がされていない」という点には注意が必要です。トラブルになった場合はケースバイケースで「勉強の時間が労働時間として取り扱うべきなのか」判断していくことになります。

仕事のための勉強が労働時間とならないようにすべきこと

仕事のための勉強が労働時間に該当するのか否か、従業員とトラブルになりやすいテーマですので、会社と従業員の双方の考え方を統一しておく必要があります。会社、従業員ともに働きやすい環境に向かってできることを進めていきましょう。

会社としてできること

まずは会社としてできることとして、

  • 仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかを明確にする
  • 業務に必要な勉強は、業務時間中に行うようにする
  • 業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行うよう伝える

こういったアクションが考えられます。

仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかを明確にする

仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかは、

  • 会社が義務付けているものか?
  • 会社から指示しているのか?

といった観点で確認する必要があります。

また、建前上は「勉強は強制ではない」としていたとしても、従業員側に勉強時間について裁量がなく、また勉強しなかったことについて人事評価の査定が減点されるなどの場合も労働時間に該当する可能性は高くなります

会社として、仕事のための勉強が必要な場合は労働時間に該当するかどうかを明確にし、従業員に伝えておきましょう。

業務に必要な勉強は、業務時間中に行うようにする

業務に必要な勉強は、業務時間中に行うようにすることでトラブルを減らすことができます。

例えば研修日を設けて、対象となる従業員を集めて一日外部講習を受講させるなど一律に学習機会の場を提供すると効率化につも繋がります。

業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行うよう伝える

業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行うようにすることで、労働時間に該当するリスクを減らすことができます。会社としては、業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行うように推奨する必要があります。

トラブルの種としては「就業時間後も会社に居残り、業務に関係のない勉強をするケース」です。従業員とトラブルがあった場合、会社に居残りをしている事実で残業代請求がされる可能性もありますので

  • 就業時間後、会社に無断で居残りをしない
  • 業務に関係のないことを会社に断りなく行わない

といったルール整備もしておきましょう。

従業員としてできること

従業員としても、気持ちよく働くためには次のような意識は持っておきましょう。

  • 会社が定めた労働時間のルールを守る
  • 仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかを理解する
  • 業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行う

会社が定めた労働時間のルールを守る

会社が定めた労働時間のルールを守ることは、従業員の責務です。労働時間のルールや会社から命じられた勉強時間があるのであればしっかりと対応しましょう。

仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかを理解する

仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかは、会社が定めたルールだけでなく、労働基準法や行政解釈、過去の判例に基づいて個別に判断があれます。

どのような勉強時間が労働時間に該当するのか、予め理解しておくことで会社とのトラブルも避けることができます。

業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行う

業務に直接関係しない勉強は、業務時間外に行うようにしましょう。また、勉強する場所の確保が難しく会社のオフィスに残って勉強したい場合は事前に会社に確認・許可を取っておくことが重要です。

社会保険労務士によるワンポイント解説

仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかは、勉強の目的や内容、会社による指示の有無などによって異なります。

会社が指示した業務に直接関連する勉強は、労働時間に該当すると考えられます。一方、会社が指示していない、業務に直接関連しない勉強は労働時間に該当しません。

とはいえ「仕事のための勉強が労働時間として捉えられる」なお、仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかは、個別の事案ごとに判断されるため、判断に迷った場合は、社労士などの専門家に相談することをおすすめします。

仕事に関連する勉強時間と労働時間を巡るトラブル防止に向けたロードマップ
STEP
労働時間の定義を明確化する

労働時間の定義を明確にすることで、仕事に関連する勉強時間が労働時間に該当するかどうかを判断しやすくなります

具体的には、以下の内容を明確にしておきましょう。

  • 労働時間の定義
  • 業務に必要な勉強の定義
  • 業務に直接関係しない勉強の定義
STEP
就業規則を整備する

労働時間や業務に必要な勉強をどう取扱うのか整理できた後は、就業規則を整備することで社内ルールを明文化できます。

STEP
労働時間を適切に管理する

労働時間の管理システムなどを活用し、従業員の労働時間を適切に管理しましょう。社内で居残りをしている場合、

  • どういった理由で
  • 何をしているのか

事前に従業員から申請させる対応により、労働時間かどうか判断ができるようにしておくことも大切です、

STEP
業務に必要な勉強の機会を提供する

業務に必要な勉強は、業務時間中に行うことでトラブルを減らすことができます。

  • 業務に必要な勉強のための研修や講座を就業時間中に実施する
  • 業務に必要な勉強のための書籍や資料を提供する

上記のような内容を会社から用意することで、業務に必要な勉強の機会を提供する体制を整えることも検討しましょう。

STEP
従業員へ周知・啓発を行う

労働時間の定義や、仕事のための勉強が労働時間に該当するかどうかを、社員に周知・啓発することで、適切な理解を促しましょう。

効果的な周知方法としては

  • 社内研修や説明会を実施する
  • 就業規則や社内規定をわかりやすく解説する

こういった取り組みが考えられます。

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執筆者プロフィール

矢野 貴大

TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士

金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。

25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

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