Q. 非常勤役員も社会保険に加入する必要がありますか?
- 非常勤役員の社会保険に関する取り扱い
- 役員と非常勤役員の違いについて
非常勤役員として一名就任を予定しています。役員なので雇用保険は対象外になると思いますが、社会保険は加入する必要ありますか?
非常勤役員と社会保険の関係について確認したいです。
A. 非常勤役員の社会保険加入有無については実態判断となります
ご認識の通り、基本的に役員は労働者ではありませんので、雇用保険や労働保険への加入は原則ありません。
一方で、社会保険については「非常勤」としてどのように勤務するのかによって、社会保険の加入有無が異なります。
- 社会保険の被保険者としての要件
- 非常勤役員と社会保険の関係
について、詳しくみていきましょう。
前提:社会保険の被保険者となるための要件とは?
非常勤役員の取り扱いを確認する前に、社会保険の被保険者となる要件についてどのように定義されているのか、法律面から確認すると次のとおりです。
(定義)第三条
この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者は、日雇特例被保険者となる場合を除き、被保険者となることができない。
e-GOV「健康保険法」
(被保険者)第九条
適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
e-GOV「厚生年金保険法」
上記の条文から「適用事業所に使用される」というフレーズがポイントになることが分かります。
会社と従業員は雇用契約により「適用事業所に使用される」ことになりますが、「経営者」や「常勤役員」は企業運営している立場です。どのように考えるべきなのでしょうか?
原則:「労務の対象として報酬を受けている」場合は経営者や常勤役員は社会保険加入が必要
まず、会社経営者・役員が社会保険に加入すべきかどうか、過去に通達において「法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。」とされています。
従って、企業運営をしている経営者や常勤役員であっても「(会社から)労務の対象として報酬を受けている」場合に「適用事業所に使用される者」に該当するため、社会保険に加入する必要が生じるのです。
法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。
なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱と致されたい。
厚生労働省「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について(昭和二四年七月二八日・保発第七四号)」より引用
ただし、役員報酬が0円の場合は「労務の対象として報酬を受けている」ことに該当しませんので、社会保険の適用外となります。
非常勤役員と社会保険の関係
結論、非常勤役員という名称で就任されたとしても、社会保険の加入有無については「実態判断」となり、必ずしも加入しなくても良いわけではありません。
非常勤役員の社会保険取り扱いについて、日本年金機構による疑義照会上で
「その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつその報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払を受けるものであるかを基準として判断されたい。」
日本年金機構「(疑義照会:平成26年1月8日 受付番号No.2010-77)」より引用
このような方針が提示されています。
そのため非常勤役員であっても「(経常的な)労務の提供があり、その報酬がその業務の対価として(経常的に)支払われるのであれば、社会保険に加入する必要がある」と読む取ることができます。
より具体的なチェックポイントとしては次の6つの点について、実態を確認することになります。
- 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか。
- 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか。
- 当該法人の役員会等に出席しているかどうか。
- 当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか。
- 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか。
- 当該法人等より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか。
注意点ですが、上記の判断基準に一つでも該当するからとって社会保険への加入有無が決まるわけではありません。
役員が社会保険の被保険者になるのか、①から⑥について実態判断の上総合的に判断されます。例えば①「定期的に出勤をしていない」が③「役員会には常に出席している」こともあるでしょう。そのためいずれか一つに該当するからといって社会保険に加入しなくてもよいわけではないため注意してください。
非常勤役員が社会保険に加入すべきかどうか具体的な判断基準
とはいえ「労務の対象として報酬を受けているのかどうかの判断基準」の6つのポイントをどう考えるべきか難しい場面もあると思います。お客様からご相談いただく中で、年金事務所に相談をしながら整理した基準をまとめてみましたので、ご参考いただけますと幸いです。
役員の社会保険加入要否の基準 | 常勤としての性質が高い | 非常勤としての性質が高い |
---|---|---|
定期的な出勤 | (ほぼ)毎日出勤 | 月に4回程度の出勤 | 一週間に1、2回程度の出勤
法人の他の職を兼ねているか | 概ねその法人の職に従事している | 兼ねておらず、他にもいくつか職を兼ねている |
役員会への出席 | 出席している | ほぼ出席していない |
指揮監督に従事しているか | 管理職や従業員に指示をしている | 部下を持たず独立して業務にあたっている |
意見を述べる立場 | 具体的に実行している | 意見を述べるだけでなく、相談に対して意見を述べている |
報酬が実費弁償程度の水準か | 会社運営への参画に対する労務の対価として支払っている | 会議出席のための旅費や日当としての性質を含んでいる、業務遂行にあたり必要な費用として支払っている |
非常勤役員としての契約内容や実態はケースバイケースでの判断です。上記表に当てはまったから社会保険の対象・非対象と言い切れるものではありませんので、基準の例としてご参考ください。最終的には所轄の年金事務所にご相談されることをおすすめいたします。
社会保険労務士によるワンポイント解説
役員の社会保険加入有無については、常勤・非常勤という名称に問わず「労務の対象として報酬を受けているのかどうかの判断基準」に記載している①から⑥の内容に照らし合わせて、総合的に判断しなければなりません。
一般的に「常勤役員」として経営に参画する場合には社会保険の被保険者となる可能性が高いですが、「非常勤」とはいえ「常に役員会に出席していて、意見だけでなく具体的に経営業務に従事している」ような場合には社会保険の加入が求められることも考えられます。
役員と社会保険の関係は個々の契約・実態を確認しながら進める必要がありますので、少しでも不安な方は専門家に相談されることを推奨いたします。
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矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。