Q. 兼務役員の雇用実態証明書について教えてください。
- 兼務役員の雇用実態証明書が必要なケース
- 兼務役員の雇用実態証明書の記載方法
経営者や役員は雇用保険に加入できないと思うのですが、役員をしながら営業店の部長として兼任している方がいます。役員本人から「従業員としても働いているが、雇用保険には加入できないのか?」と質問があり、兼務役員の雇用実態証明書というものを提出すると雇用保険に入れると聞きました。
兼務役員の雇用実態証明書について確認したいです。
A. 兼務役員の場合は雇用保険に加入できる可能性があります
ご認識の通り、代表者や役員は「労働者ではない」ため、雇用保険に加入することはできません。一方で、中小企業でよくあるケースですが取締役が営業店舗の支店長や部長を兼任していたり、他の従業員と同じように勤務していることがあります。
このように「役員」と「従業員」を兼務している方を「兼務役員」と呼びますが、一定の条件を満たしていると雇用保険に加入することが可能になります。
なお、兼務役員として雇用保険に加入するためには「労働者としての性質があるのか」について、ケースバイケースとなります。この労働者性の判断は
- 役員報酬と労働者としての給与はどちらが高いのか?
- 代表権・業務執行権を持っているのか?
- 就業規則や社内規程が適用されるか?
- 出社義務があり、勤怠管理をされているのか?
上記4つの観点によって定められますので、確認してみましょう。その後「兼務役員の雇用実態証明書」の書き方等も解説いたします。
役員報酬と労働者としての給与はどちらが高いのか?
まず、兼務役員として労働者性があるのか判断軸として「役員報酬」と「(従業員として受け取る)給与」のどちらが高いのか確認することになります。
一般的に、兼務役員になる方は「役員報酬」と「給与」の2つの賃金が会社から支払われます。それぞれ支払われている金額を見比べたときに、次のように評価されます。
役員報酬 > 給与の場合
役員としての立場や役割が高いと評価されるため、労働者としての性質が低くなります
役員報酬 < 給与
役員としての立場・役割よりも労働者として性質が高いと判断されます。
代表権・業務執行権を持っているのか?
次に、業務執行権を持っているのかどうか、重要な判断軸となります。業務執行権とは、株主総会や取締役会で決定した事項を行う権限のことで、通常は「会社の経営・関連する事務処理」等を行うとされます。業務執行権を持っている場合は従業員のように指揮命令下に置かれる立場ではないため、労働者としての性質は認められないといえます。
前提として、代表権をもっている場合(代表取締役等)は兼務役員に該当しませんので、雇用保険の加入はできません。
就業規則や社内規程が適用されるか?
3つ目の判断軸は「就業規則や社内規程が適用されるか?」となります。通常、従業員は「就業規則・社内規程」により、服務規律をはじめ会社で働くためのルールが決められており、遵守しなければなりません。
一方で、役員は従業員ではないため就業規則・社内規程といったルールは適用されません。従って、兼務役員に対して就業規則が適用されているのかどうか、労働者性を判断する上で重要なポイントになります。
出社義務があり、勤怠管理をされているのか?
4つ目の基準は「出社義務・勤怠管理」の状況です。
労働基準法第9条において「労働者」の定義は次のようにされています。
(定義)第九条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
e-GOV「労働基準法」
この定義における「使用される者」とは、労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか(他人に従属して労務を提供しているかどうか)が重要なポイントになります。
そのため、兼務役員として勤務する方が他の従業員と同じように出社を義務付けらていたり、勤怠記録がされているのでれば「使用者の指揮命令下」にあると判断され、労働者性が高まることになります。
4つの観点から、兼務役員の労働者性を総合的に判断し、雇用保険の加入可否が決定されます。実態確認が必要になりますので、少しでも不安な場合は最寄りのハローワークに相談されることをおすすめいたします。
兼務役員雇用実態証明書の書き方・提出方法
前述しております判断基準において「労働者としての性質がある」と会社で判断できた場合、該当の兼務役員を雇用保険に加入する手続きが必要となります。このときハローワーク側に正式に「労働者としての性質がある」ことを伝えるために「兼務役員雇用実態証明書」を作成する必要があるのです。
兼務役員雇用実態証明書について
兼務役員雇用実態証明書は下記の様式で定められています。
記載時の注意点:服務態様欄
服務態様欄では、兼務役員として届け出る方の働き方について、「役員」「従業員」両者の観点を記載し、労働者性の判断を進めることになります。
この中で「役員としての担当業務内容」と「従業員としての労務内容」についても具体的な記載が必要であり、特に「指揮命令権者」として兼務役員が「誰の指揮命令を受けて働くのか?」も明記することが求められますので注意しましょう。
記載時の注意点:役員報酬・従業員賃金欄
兼務役員は「役員報酬」と「給与」として2種類の賃金を受け取ることが一般的ですが、業績等により役員報酬を0円にしている企業もあります。この場合でも「役員」として勤務している以上は兼務役員雇用実態証明書の用意が必要になりますので注意しましょう。
兼務役員雇用実態証明書に必要な添付書類
兼務役員雇用実態証明書の提出は、兼務役員の雇用保険資格手続きと同時に行います。そのため、兼務役員雇用実態証明書の他に下記の書類添付が必要になりますので、あらかじめ準備しておきましょう。
- 労働者名簿
- 役員個人の管理台帳として、採用日などが記載されている必要があります。
- 出勤簿および賃金台帳
- 役員就任時から3ヵ月分
- 就業規則・賃金規程
- 従業員数が10人未満の企業ですと、就業規則や賃金規程が整備されていないこともあります。この場合は雇用契約書(労働条件通知書)を代替書類として必要です。
- 雇用保険被保険者資格習得届
- 就任時の議事録等(株主総会・取締役会)もしくは登記事項証明書(写)
- 役員就任日の確認として求められます。
- 役員報酬規定
- 役員報酬額の根拠として必要になります。ただし、規定がない場合は役員報酬の決定した際の文書として申立書の作成が必要です。
なお、各種書類で内容確認ができない場合には、申立書の用意を求められます。所轄のハローワークによって対応が異なる可能性ありますので、事前に確認されることをおすすめいたします。
社会保険労務士によるワンポイント解説
兼務役員の判断基準として、簡易的なチェックシートを作成いたしました。下記の各項目がすべて◯になった場合には、雇用保険に加入できる可能性がありますのでご参考ください。もし判断に困りましたら、所轄のハローワークもしくは弊社までお気軽にご相談いただければ幸いです。
- 会社や他の役員等から指揮命令を受けて勤務しているか?
- 一般従業員と同様に就業規則が適用されているか?
- 一般従業員と同様に出勤義務があり、勤怠管理されているか?
- 役員報酬よりも給与の金額が多くなっているか?
- 事業運営に一定の裁量権を持っていないか?
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TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。