Q. 中小企業が気をつけるべき労務トラブルの他社事例を教えてください。
- 中小企業でよくある労務管理のトラブルの種類
- 労務管理を見直すための手順やポイント
労務管理を見直したいのですが、何から手を付ければいいのかよくわかりません。
社会保険労務士の先生なら、顧問先から色々な相談を受けていると思いますが、他社は労務管理でどのようなことでトラブルが起こっているのでしょうか?それを踏まえて、労務管理のポイントを考えたいと思っています。
A. よくある労務トラブルのパターンを5つお伝えします。
どのような会社であっても、従業員とのトラブルは大なり小なり発生します。中小企業においては、ある程度トラブルの種類は限られてきますので、事前に知っておくことで対応はしやすくなります。
今回は社労士によく相談がある労務トラブル事例について、お伝えいたします。今後の労務管理見直しのポイントとしてご参考にしてください。
残業代のトラブル
企業が一番注意をしておかなければならないのが「残業代の未払い」に関するトラブルです。
労働基準法では日々の労働時間は1分単位で管理し、賃金を支払う必要がありますが、会社によっては
- 終業時間後に30分を経過するまでは残業とみなさない
- 残業申請は15分単位で、それに満たない場合は切り捨てる
上記のような残業代を計算していることがあります。働いているときはこの社内ルールに納得していても、退職時に「過去の未払いとなっている残業代を支払ってください」と弁護士や労働基準監督署を経由して請求される事例は多くあります。
また、従業員から労働基準監督署に告発があった場合には「臨検」と呼ばれる行政調査が行われます。この際、告発した従業員以外にも「労働時間」や「賃金の支払い状況」が調べられます。他の従業員にも未払いになっている残業代があれば、当然支払いを求められますので、日々の労働時間管理は気をつけておきましょう。
有給休暇のトラブル
続いて、中小企業で多いのは有給休暇を巡るトラブルではないでしょうか。労働基準法上では「年次有給休暇」と呼ぶのですが、これは
6カ月間の勤務
全労働日の8割以上を出勤
をする従業員には、正社員やパートタイマー問わず有給休暇を付与しなければなりません。
しかしながら
- うちの会社では有給休暇の制度は扱っていない
- パートタイマーには有給休暇は付与していない
と独自のルールを持ち出されるケースがあります。
2019年4月より「年5日の年次有給休暇の取得義務化」の法律が施行されたこともあり、トラブルに繋がることが多いため有給休暇のルールについても見直しておきましょう。
その他「有給休暇の申請を拒否することはできますか?」というご相談もよくお聞きいたします。こちらについては下記の労務Tipsページで解説しておりますので、併せてご一読ください。
退職勧奨・解雇のトラブル
解雇問題も、気をつけておかなければなりません。
中小企業では経営者と従業員の距離が近いこともあり、
- 「ちゃんと働かないのであれば辞めてもらう」と解雇をほのめかす
- 威圧的な態度で「退職したほうがいいよ」と退職勧奨を行う
ついカッとなって従業員に強くあたってしまう経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。退職勧奨のつもりでも、場合によっては「解雇された」と従業員が受け止めると、トラブルにつながります。
また、円満に退職してもらえたと思っても、後日「退職届けの提出を強要されました」と言われる可能性もあります。従業員にやめてもらう必要があったとしても、慎重に進めなければ経営リスクになることはぜひ知っておいてください。
パワハラ・セクハラ・マタハラのトラブル
中小企業でも、パワハラ・セクハラ・マタハラが社内で発生しないように対策を練ることおよび、発生時の対応が義務付けられています。また、ハラスメントの内容によっては企業責任も問われる可能性もありますので注意が必要です。
ハラスメントへの対策については、
- 事業主および従業員の責務の明確化
- 事業主に相談をした従業員に対する不利益な取り扱いの禁止
- 相談窓口の設置
などが求められています。ハラスメントの対策は一朝一夕では難しいため、社会保険労務士へ相談されることをおすすめいたします。
労働条件変更のトラブル
最後に紹介するのは「労働条件変更」に関する労務トラブルです。中小企業においては
- 基本給や各種手当ての減額
- 休日の削減や特別休暇の廃止
- 休職・復職期間の短縮
このような判断が経営上必要になることもあるでしょう。従業員にとってマイナスになる労働条件の変更を「不利益変更」と呼ぶのですが、労務トラブルの大きな種になります。
特に「基本給や各種手当の減額」を行った際、不利益変更は無効として従業員から減額された賃金額を請求されるリスクがあります。 従業員に対して労働条件の不利益変更を行う場合には、
従業員との合意 | 就業規則の周知・内容に合理性がある |
---|---|
ただし、無理やり承諾させたり、合意を得ずに契約書を作成しても不利益変更は原則認められせん。 | 変更後の労働条件を従業員に説明し、「合意」が取れれば労働条件の不利益変更は可能です。加えて、労働条件の変更に「合理性」がある場合には、合意がなくとも労働条件の不利益変更が認められます。 | 従業員との合意がない場合でも、不利益変更の内容を就業規則に反映し、その内容を「周知」。
上記のどちらかを行う必要があります。
まとめ
中小企業においても労務管理は大切で、ずさんな状況ですと余計なトラブルを招いてしまいます。しかしながら、労務管理は労働にまつわる多くの法律から成り立ちますので、何が問題になるのかわかりにくいものです。
今回ご紹介した中小企業の労務トラブル事例・5つのパターンを参考に、ぜひ自社の労務管理状況を見直してみましょう。また、下記のコラム記事では企業規模問わず、労務相談事例についてより詳細に解説しておりますので併せてご一読ください。
社会保険労務士によるワンポイント解説
労務トラブルは、突然起こります。特に中小企業では、法律への対応が不十分のため従業員が不満をいだき、その結果として問題が発生するケースが多く見られます。自社の労務管理の状態を見直すフローを下記整理しておりますので、ぜひ参考にしてください。
ご相談をいただく際「当社では有給休暇は入社から1年経つまで付与しないルールになっています」のように、独自のルールを適用しているケースがあります。労働基準法の内容を越えて、従業員に有利になる場合は問題ありませんが、不利になるルールについては労働基準法が優先されます。
労務管理を適切に行っていくためにも、まずは法律を確認しましょう。
法律の確認後、あらためて社内ルールに目を向けると
- 法令に違反するルール
- 法令違反の可能性のあるルール
が見えてきます。まずは、自社で何ができていないのか向き合うことが大切です。
問題点がわかったとしても、最初からすべてのルールを修正することは大変です。今回ご紹介した事例などを参考にトラブルになりやすい項目から対応しましょう。
また、ルールを見直すだけでなく、運用をしなければ意味がありません。そのためには従業員の周知・理解・協力が必要不可欠ですので、より良い会社を作るためにも会社全体で労務管理を行う意識醸成が大切です。
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TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。