Q. 昇給時に賃金変更通知書(給与辞令)の作成義務はありますか?
- 従業員の賃金(給与)を変更した際における労務管理
- 賃金変更通知書(給与辞令)の作成方法と記入例
業績が安定してきたので、従業員の昇給を考えています。新しく従業員を採用すると「労働条件通知書」の作成義務があると思いますが、昇給や降給などで給与金額が当初より変更となる場合にも「労働条件通知書」をもう一度作成するべきでしょうか?
知り合いの経営者は「賃金変更通知書」という書類を渡していると聞きましたが、この「賃金変更通知書」の作成・交付で問題ないのでしょうか?
A. 賃金変更通知書(給与辞令)の作成自体は義務ではありません。
従業員を新しく雇用する際に、一定の労働条件の内容をその従業員に書面にて通知する義務が発生します。
一方で、今回いただいているご質問である「雇用中における給与の改定」に関しては、労働諸法令で特段定められておりません。つまり、昇給や昇格により、給与金額が増加するとしても「労働条件通知書の再作成」や「賃金変更通知書」のような書類を作成する義務はありません。
ただし、給与金額は従業員からすると生活に直結するものですので、昇給額は把握しておきたいはずです。「賃金変更通知書」や「給与辞令」のように、給与改定額や人事評価の査定結果等を書面に記載・交付することをおすすめします。
また、降給(給与の減額)は法律上一定の制限がありますので注意してください。会社から一方的に労働条件を引き下げることは労働契約法により禁止されており、原則「従業員との合意」が必要です。従って、降給の場合は賃金変更通知書の作成・交付だけでは要件を満たしていないと考えられます。労働条件の不利益変更に関する対応策は下記労務Tipsで解説していますので、併せてご確認ください。
賃金改定通知書(給与辞令)とは?
賃金変更通知書・給与辞令とは、従業員に支払っている給与の金額を変更する際に
- 給与の変更額(基本給・時給・各種諸手当)
- 役職や等級の変動
- 変更後における給与の支給開始日
上記のような項目をまとめた書類のことです。法的に作成する義務はありませんので、従業員に通知しておくべき項目を会社ごとに定めているケースが一般的です。
私は起業前に従業員が50名程度の中小企業や、数千名の大企業も経験をしていますが、賃金変更通知書を交付されたり、社内の人事評価システム上で給与の改定告知を受けていました。
賃金改定通知書(給与辞令)を交付するタイミング
賃金変更通知書を作成する場合、従業員の給与金額を変更し、その変更後の給与を支払う前に交付することが望ましいです。理想のスケジュール感としては、変更後の給与を支給する1か月前には従業員へ通知しておきたいところです。
給与が下がる場合、従業員にしっかりと説明し、同意を得られるように更に1か月程度ゆとりを持ちましょう。
賃金改定通知書が必要な理由
賃金変更通知書や給与辞令は、トラブルを防止するために用意をしておくべき書類です。
従業員の給与を引き下げる場合、原則従業員から個別に同意を得る必要があると解説しました。口頭のやり取りだと、一度は納得してもらったとしても後々「説明もされていないし、同意もしていない。不当な労働条件の変更だ」としてトラブルに繋がることがあります。
従業員に納得してもらうための説明資料および、説明・同意に関する証拠書類の一つにもなりますので、賃金変更通知書の作成は重要なのです。
賃金改定通知書のテンプレートを紹介
賃金改定通知書の作成は義務ではありませんので、会社の評価方式によって記載すべき事項によって内容は異なります。下記「評価決定通知書」は、人事評価制度を導入している企業の利用を想定したものになりますが
- 役職の変動(昇進)
- 等級の変動(昇級)
- 給与の変動(昇給)
について対応ができるように項目を整備しています。一つの書式例として参考にしてください。
昇給だけでなく、降給の場合はその理由も併せて記入しておきましょう。
中小企業では「給与明細書」の備考欄やメモ欄に昇給額を記載しているケースもありますが、この場合も法的には全く問題ありません。
まとめ
今回は、従業員の給与を変更する際にぜひ作成いただきたい「賃金変更通知書」についてご紹介いたしました。昇給のように、従業員にプラスとなる労働条件の変更だけなら書面作成をしなくとも特に問題ありませんが、
- 昇格や昇進など、期待する役割の変化
- 降給のように、従業員が不利益となる変更
上記のような場合には、従業員へ説明をしておかなければ予期せぬトラブルを招く可能性がありますので、しっかり対応してください。
社会保険労務士によるワンポイント解説
賃金の改定を行う際、従業員とのトラブルを回避するための手順を下記記載しました。賃金変更通知書を作成・交付する前後の流れも整理しておりますので、労務管理の参考にしていただけますと幸いです。
明確な評価制度を導入していない場合であっても、従業員の給与を変更する場合は一定の基準が必要になります。従業員個別に、給与をはじめ変更する金額や項目を整理し、適用を開始するタイミングを決定します。
賃金変更通知書自体の作成は義務ではありませんが、給与がどのように改定されるのか従業員に伝えることで認識を統一しておきます。
通知する場合は
- 直属の上司との面談
- 人事部との面談
などの評価面談を実施し、その中で賃金変更通知書や給与辞令を渡すことも検討しましょう。従業員に評価のフィードバックをすることで、今後の業務に対してより良い変化が期待できます。
昇進・昇給のように、従業員の待遇が向上するのであれば同意を得る必要はありませんが、給与が減額となるのであれば個別に同意を得なければなりません。この際、賃金変更通知書上に従業員からの署名・押印欄を設けておくことも一つの手段です。
従業員とのトラブルを防止するためにも、労働契約法に則り対応を進めましょう。少しでも不安がある場合は、社会保険労務士に相談されることをおすすめいたします。
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矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。