インシデントとアクシデントの違いとは?意味と使い方をわかりやすく解説

日常生活やビジネスの現場、特に医療・製造・IT・航空業界などでよく耳にする「インシデント」と「アクシデント」という言葉。
一見すると似たような意味に思えるかもしれませんが、実は明確な違いがあります。この違いを理解しておくことは、適切な対応やリスク管理を行う上で重要になりますので、本記事では、それぞれの言葉の意味や使い方の違いを、具体例を交えながらわかりやすくご紹介いたします。
インシデントとは?基本的な意味と使い方
「インシデント」という言葉は、特定の業界だけでなく、日常会話やニュースなどでも使われることが増えてきました。しかし、その意味を正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。
ここでは、まず「インシデント」の基本的な定義と、実際の使用例を紹介します。
インシデントの意味とは?
「インシデント(incident)」は、英語で「出来事」「事件」「事象」といった意味を持つ言葉です。
ただし、日本語として使う際には、「事故には至らなかったものの、何らかの異常やトラブルが発生した状況」を指す場合が多く、特にリスク管理や安全対策の文脈で使われることが一般的です。
「インシデント」の例
- 医療現場で、投薬ミスが起きそうになったが、直前で気づいて未然に防げた場合
- 製造ラインで、機械が異常停止したがケガ人は出なかった場合
- ITシステムで、サーバーが一時的に不安定になったものの大規模障害には至らなかった場合
このように、インシデントは「問題が起こりかけたが、重大な結果には至らなかった状態」を指すことが多いのです。
日常やビジネスシーンでの使い方例
インシデントという言葉は、専門分野に限らず日常的な会話や報道でも使われるようになっています。以下にいくつかの使用例を紹介します。
- ニュース記事での例
「〇〇空港で航空機が滑走路からの逸脱するインシデントが報告されました」 - 企業の報告書での例
「本日、社内ネットワークに一時的な通信障害が発生したインシデントがありましたが、現在は復旧しております」 - 保育施設や学校での例
「はさみが机の上に置きっぱなしになっていて、幼児が触る可能性のあるインシデントが発生しました」
このように、「インシデント」は単なる出来事ではなく、「将来的に事故に発展しかねなかった事象」を表す言葉として広く使われています。
アクシデントとは?事故との違い
「アクシデント」という言葉もまた、ニュースやビジネスシーンで頻繁に使われる表現の一つです。
「インシデント」との違いを正しく理解するには、「アクシデント」がどのような意味を持ち、どのような場面で使われるかを知っておく必要があります。ここでは、アクシデントの定義と実際の事例を通して、その特徴を明らかにしていきましょう。
アクシデントの意味とは?
「アクシデント(accident)」は、日本語で「事故」や「突発的な不幸な出来事」と訳される言葉です。予測できず、意図せずに発生し、人や物に損害を与えるような出来事が対象となります。一般的には、以下のような特徴を持ちます。
- 予期せぬ突然の出来事である
- 人的・物的被害が伴うことが多い
- ミスや故障などにより発生することがある
つまり、「アクシデント」はすでに被害や損害が発生してしまった「実際の事故や災害」に使われる言葉であり、「未然に防げた事象」であるインシデントとは明確に区別されます。
実際の出来事としての例
アクシデントの例を挙げると、次のようなケースが該当します。
- 交通事故の発生
「交差点で車同士の接触事故が発生するアクシデントが起きました」 - 職場での労働災害
「工場内で作業員が機械に巻き込まれるアクシデントが発生し、負傷者が出ました」 - ITシステムの重大障害
「基幹サーバーがクラッシュし、業務が全面的に停止するアクシデントが発生しました」
このように、「アクシデント」は実害が伴った出来事に使われることが多く、原因分析や再発防止策の検討が強く求められる場面で用いられます。
インシデントとアクシデントの違いをわかりやすく比較
「インシデント」と「アクシデント」は、どちらも“好ましくない出来事”を表す言葉ですが、意味や使い方には明確な違いがあります。ここでは、特に重要な2つの視点から両者の違いを比較し、理解を深めていきましょう。
事故に至ったかどうかでの違い
最も大きな違いの一つは、「実際に事故が発生したかどうか」です。
インシデント
- 事故には至っていないが、何らかの問題や異常が起こった状態
- 例:医療現場で、誤薬しそうになったが未遂で終わったケース
アクシデント
- 実際に事故が発生し、損害や被害が発生した状態
- 例:誤薬が実際に行われ、患者に影響が出たケース
このように、「結果として事故が起こったかどうか」が、両者を見分ける明確な基準となります。
「被害の有無」での区別
もう一つの判断ポイントは、「被害が発生したかどうか」です。
| 分類 | 被害の有無 | 例 |
|---|---|---|
| インシデント | 被害なし (未然に防止) | 工場の機械が一時停止したが ケガ人はなし |
| アクシデント | 被害あり | 工場で機械トラブルにより 作業員が負傷 |
インシデントは「ヒヤリ・ハット」と呼ばれるような“気づき”の段階であり、対策を講じることでアクシデントを防ぐことが可能です。
一方でアクシデントは、すでに何らかの損害が出ているため、緊急対応や再発防止策が求められる深刻な事態です。
ヒヤリハットとインシデントはどう違う?関係はある?
「インシデント」と密接に関係する用語として、「ヒヤリハット」があります。
特に労働安全や医療、製造現場などのリスクマネジメントでは、この2つをセットで捉えることが重要です。ここではまず「ヒヤリハット」の意味と由来を解説し、そのうえで「インシデント」との違いを明確にしていきます。
ヒヤリハットの意味と語源
「ヒヤリハット」とは、「ヒヤリとした」「ハッとした」という日本語の感覚的表現から生まれた造語です。正式な定義ではありませんが、一般的には次のような意味で使われています。
- 事故には至らなかったが、一歩間違えば大きな事故になっていたかもしれない出来事
- 身体的・心理的に危険を感じた瞬間や状況
この言葉は、1940年代にアメリカのハインリッヒ(Heinrich)が提唱した「ハインリッヒの法則」に基づき、日本国内でも普及しました。
ハインリッヒの法則では、
- 1件の重大事故の背後には
- 29件の軽微な事故(アクシデント)があり、
- 300件のヒヤリハット(インシデントに相当)が存在する
とされており、ヒヤリハットの報告と分析が安全対策の第一歩として重視されています。
インシデントとの重なっているニュアンスと違い
「ヒヤリハット」と「インシデント」は非常に近い概念であり、場合によっては同じように扱われることもあります。実際、多くの企業や医療機関では両者をほぼ同義で用いているケースも見受けられます。
ただし、厳密に区別する場合、以下のような違いがあります。
| 項目 | ヒヤリハット | インシデント |
|---|---|---|
| 定義の性質 | 感覚的・体験的 | 客観的・業務的 |
| 被害の有無 | 被害なし | 基本的に被害なし |
| 使用場面 | 作業者個人の経験に基づく 現場用語 | 組織的な報告・分析対象 としての用語 |
つまり、ヒヤリハットは主観的・感覚的な“気づき”に重きを置いた表現であり、インシデントはより客観的・報告可能な“事象”として捉えられます。
この違いを踏まえ、現場レベルではヒヤリハットを数多く拾い上げ、組織的な安全対策へとつなげていくインシデント報告の仕組みが理想的だと言えるでしょう。
分野別の具体例で「インシデント」と「アクシデント」を理解しよう
「インシデント」と「アクシデント」の違いを理解するうえで、具体的な現場での使われ方を知ることは非常に有効です。ここでは、医療、IT・情報セキュリティ、そして日常生活の3つの分野に分けて、両者がどのように使い分けられているのかを解説します。
医療現場での例
医療業界では、患者の安全を守るために「インシデント」と「アクシデント」の区別が極めて重要です。
インシデント
患者に投与すべき薬とは異なる薬を準備していたが、直前で看護師が気付き、投与を回避したケース。
アクシデント
誤った薬を投与してしまい、患者にアレルギー反応が発生したケース。
このように、重大な医療ミスを防ぐためには、インシデントの段階で報告と改善を行う文化が不可欠です。
IT・情報セキュリティでの例
IT業界や情報セキュリティの分野でも、障害対応やセキュリティ対策の観点から両者を使い分けます。
インシデント
社内サーバーに対して外部からの不審なアクセスが検出され、早期に遮断して被害を回避したケース。
アクシデント
マルウェアに感染し、顧客情報が漏洩してしまったケース。
サイバーセキュリティの分野では、インシデント対応チーム(CSIRT)が、こうした事象に迅速に対応する体制を整えている企業も増えています。
日常の身近な例
普段の生活の中にも、インシデントとアクシデントに当てはまる事例は意外と多く存在します。
インシデント
自転車に乗っていた際、信号を見落としそうになったが、急ブレーキで回避できた。
アクシデント
信号無視で交差点に進入し、他の車と接触事故を起こした。
このような視点で身の回りを見直してみると、ヒヤリとする出来事(インシデント)を減らすことが、重大な事故(アクシデント)を防ぐ第一歩であることがわかります。
なぜ違いを理解することが大切なのか?
「インシデント」と「アクシデント」の違いを曖昧なままにしておくと、適切な報告や対策が後手に回ってしまうリスクがあります。特に業務やチームでの安全管理、リスク評価においては、それぞれの言葉の正しい意味を理解し、正確に使い分けることが重要です。
トラブル予防と安全対策の視点
インシデントの段階で問題を把握し、対処できれば、アクシデントの発生を未然に防ぐことが可能です。つまり、インシデントの報告と分析は、アクシデントを防ぐための第一歩となるのです。
- 現場でのヒヤリとした出来事を積極的に共有することで、リスク要因を可視化できる
- インシデントに早期対応することで、組織としての安全性を高められる
- アクシデント発生時の影響を最小限に抑えるための備えになる
特に医療や製造、インフラ業界などでは、インシデント報告の文化を定着させることが、事故ゼロを目指すうえで極めて効果的だと言えるでしょう。
言葉を正しく使うメリット
「インシデント」と「アクシデント」を正確に使い分けることで、情報伝達の誤解を防ぎ、業務の効率や信頼性を高めることにもつながります。
- 社内外の報告書やプレゼンでの説得力が増す
- マニュアルや指示書での用語統一により、現場の混乱を防止できる
- クレーム対応や危機管理の場面でも、用語の正確性が信頼性に直結する
言葉を正しく使うということは、単なる知識以上に、組織のリスクマネジメント力を底上げするスキルでもあります。
そのためにも、インシデントとアクシデントの違いを理解し、状況に応じた適切な使い方を身につけることが大切です。
まとめ:「インシデント」と「アクシデント」を正しく使い分けよう
本記事では「インシデント」と「アクシデント」の違いについて、意味や使い方、具体例を交えながら解説しました。
- インシデント:事故には至らなかったが、異常やトラブルが発生した出来事
- アクシデント:実際に被害や損害を伴った事故や突発的な出来事
- ヒヤリハット:インシデントに近い概念で、感覚的に「危なかった」と気づいた経験
両者の違いを理解することで、トラブルの予防や安全対策がより効果的に行えるようになります。また、言葉を正しく使い分けることで、業務報告やコミュニケーションの精度も向上するでしょう。
インシデントはアクシデントを防ぐための“警告サイン”です。日常やビジネスの場面でこの違いを意識し、早めの対応と共有を心がけることが、安心・安全な環境づくりにつながるといえます。



