Q. 会社に来なくなった社員の対応方法を教えてください。

- 突然会社に来なくなった従業員への対応方法
- 無断欠勤を想定して会社が事前に準備すべきこと

先々週から、弊社の社員が突然音信不通になりました。会社に来ないだけでなく、連絡も取れず困っています。
このような場合、解雇扱いにしても問題ないでしょうか?出社もせず、連絡も取れない社員への対応方法を教えてください。

A. 出社をせずに、連絡が取れない場合であっても解雇はトラブルの種になります
昨日まで働いていた社員の方が、突然出社をしなくなったり、また連絡も取れなくなるケース、実は少なくありません。
雇用契約においては「労働の対価として給与を支払う」ことになりますので、欠勤している時間は給与の支払いは不要ですが、社会保険に加入している社員の場合は社会保険料の会社負担が発生します。

そのため「無断で欠勤が続いている以上、働く意志がないとみなして解雇しても問題ないのでは?」と考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、無断欠勤に対する解雇を巡って争っている判例もあり「無断欠勤に対する解雇は不当解雇である」と判断された事例もあります。そのため出社をしなくなった社員に対しても、慎重な対応が求められますのでご注意ください。
また、働いてはいるが無断欠勤を繰り返す社員がいる場合、問題社員と考えられます。下記のコラム記事で特徴や対応方法を解説していますので、本記事と併せてご確認ください。

突然会社に来なくなった従業員への対応手順
では具体的に、突然会社に来なくなった従業員にはどのような対応を取るべきなのでしょうか?トラブル防止の観点で4つの手順を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- 従業員本人への連絡(電話・メール)
- 事実の文章化
- 身元保証人や緊急連絡先への電話・メール
- 郵送による通知
従業員本人への連絡(電話・メール)
何よりもまず最初にすべきことは「従業員本人への連絡」です。
突然会社に来なくなったことに対して「仕事をしたくないのであれば解雇だ!」と判断する前に、従業員本人が
- 何かしらのトラブルに巻き込まれていないのか?
- 無事な状態なのか?
しっかりと確認することが大切です。
緊急な事情や健康上の問題があれば、会社としてもすぐに対応すべきですので、メール・電話で従業員本人へ確認を試みましょう。

前日まで問題なく働いていたのに、突然出社しなくなった従業員がいると大変心配になります。直接、自宅を訪問することも検討しましょう。
事実の文章化
やむを得ず解雇するときに備えて、
- 従業員が無断欠勤した日数
- 会社からどのようなアクションを取ったのか(いつ電話やメールを、どの程度行ったのか)
状況を正確に文章に記録しておきましょう。法的なトラブルになった場合、会社として主張できる体制づくりが必要になります。
身元保証人や緊急連絡先への電話・メール
会社によっては、従業員を採用するタイミングで
- 身元保証人
- 緊急連絡先
として、従業員本人以外のご家族の連絡先を預かっていることがあります。この場合、従業員本人と連絡が取れない旨を伝えて、状況確認しておきましょう。
郵送による通知
事実の記録を続けながら、次に取るべき行動は「郵送による通知」です。折り返しの電話や、自宅訪問に対しても反応がないのであれば
- 無断欠勤に対して会社のルール(就業規則・雇用契約書)
- いつまでに会社に連絡をすること
- 連絡、反応がなければ◯月△日付けで退職扱いとすること
上記の内容を簡易書留や特定記録郵便など、郵送記録の残る方法で通知しましょう。
就業規則の内容次第では退職扱いが難しいことがあります。「◯日以上の無断欠勤で自然退職とする」などの文言が就業規則に整備できているのか予め確認しておきましょう。
会社に来なくなる社員を想定して就業規則を整える
「連絡もせずに出社しなくなる従業員なんているのか?」と疑問をいただく経営者の方もおられますが、残念ながら最初は体調不良による欠勤をして、音信不通になるケースもあります。
このような従業員の方の対処を少しでも円滑に行うために、就業規則の整備をしておきましょう。
- 退職手続き
- 無断欠勤が連続で◯日以上続いたとき、その最終日をもって自己都合退職したものとする
- 懲戒処分(懲戒解雇)の事由
- 無断欠勤が◯日以上および、出勤の督促に応じなかったとき
上記のようなルールが就業規則に明文化されている場合、音信不通となった従業員の退職処理が進められる可能性が高まりますので、必ず確認をしてください。



厚生労働省のモデル就業規則では、懲戒解雇の事由として「正当な理由なく無断欠勤が◯日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。」の記載があります。
社員が会社に来なくなる理由は?
そもそも、社員はどうして音信不通になってしまうのでしょうか?無断欠勤・音信不通になる理由は人それぞれで、環境に左右されますが、代表的な問題をいくつかご紹介いたします。予め知っておくことで、対応方法も変わりますので確認しておきましょう。
メンタルヘルスの問題
仕事のストレス、人間関係のトラブル、過大な業務負荷などが原因で、心の健康が崩れてしまい、会社に来ることができなくなるケースです。
特に、過去の会話や態度から徐々に変化が見られた場合、このような原因が考えられることがあります。



メンタルヘルス・うつ病は近年増加傾向にあります。仕事によるストレスや職場での人間関係が原因の場合、従業員の配置転換などにより事前に無断欠勤を防げた可能性もありますので、慎重に対応したいですね。
急な健康上の問題や事故
急病や事故に巻き込まれると、突然会社に出られなくなることがあります。状況によっては従業員本人からの連絡が取れないことも考えられるため、周囲の関係者や緊急連絡先などを通じて安否を確認する必要があります。
家庭や個人的な事情
家族の病気、事故、またはその他の家庭内の緊急事態が発生した場合、従業員が会社を休むことが考えられます。この場合、連絡を取ると、その理由が明確に伝えられることが多いですが、状況によってはしばらくの間、連絡が取れないことも考えられます。
勤務意欲の喪失や新たな職への転職
会社や職場の環境、人間関係、仕事内容に不満を持っていたり、新たな仕事のオファーを受けた場合、無断での欠勤や退職を選ぶことがあります。このケースでは、事前に従業員からの不満や不安のサインが見られることも多いですので、事前に防げる可能性はあります。
社員の無断欠勤を防止するには?
会社として、従業員が無断で出社をしなくなった場合の対策を事前に準備することは、職場風土の維持にも繋がりますので非常に重要です。会社として最低限取るべき3つのアクションを紹介しますので、すべて対応ができているのかチェックしてみてください。
就業規則・社内規定の見直し・周知
一番重要になるのは「就業規則・社内規定の見直し」です。就業規則の文面については「会社に来なくなる社員を想定して就業規則を整える」で解説しておりますが、ルールは定めるだけでは意味がありません。
しっかりと就業規則の内容を従業員に周知・理解いただき、無断欠勤に対する会社のスタンスを明確にしておきましょう。
連絡ルートの整備
従業員を採用した際、個人の連絡先も収集することをおすすめいたします。無断欠勤問わず、何かしらの理由があり従業員が出勤できなくなる場合もありますので、報告・相談ができる連絡ルートを共有しあっておきましょう。
基本的には個人のメールアドレスや電話番号となります。社用携帯や社用アドレスを貸与している場合、忘れがちですのでご注意ください。
緊急連絡先の確保
予期せぬトラブルに巻き込まれ、従業員本人が連絡ができないことも考えられます。従業員の安否確認のためにも、従業員の家族や緊急連絡先を預かることも大切です。
社会保険労務士によるワンポイント解説
突然出社もせず、音信不通になることは、滅多に起こることではありません。しかしながら、従業員を雇用する以上トラブルは付き物です。無断欠勤に対するルール作りの際の手順について下記解説いたしますので、これから就業規則を見直す方はご参考ください。
どのような状態になったら無断欠勤となるのか、定義しましょう。
例えば、
- 何日以上連続で出社をしない場合
- 直属の上司もしくは管理部門(総務等)に連絡もなく欠勤した場合
など、具体的に検討します。
従業員に対して、欠勤する場合は必ず事前に上司や人事部門に連絡を取ることを義務付けます。その際の連絡手段やタイミングも明確にします。
次に、無断欠勤が確認された際の処分や対処の方針を設定します。戒告や譴責、減給、懲戒解雇など、事前にどのような措置をとるのかを明確にしておくことで、実際無断欠勤者が現れた場合、スムーズな対応ができます。
無断欠勤者の取り扱いについて、就業規則に規定します。このとき
- 退職扱い
- 懲戒解雇扱い
取り扱い内容が異なると、就業規則の内容も異なりますので慎重に変更しましょう。
就業規則の変更には専門的な知識が必要ですので、社会保険労務士に相談しながら進めることをおすすめします。
制度が確定したら、全従業員に周知します。今回定めたルールや方針を全従業員に明確に伝え、理解を深めるための研修や教育を実施することで、組織のルールとして定着を図りましょう。
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TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。

