Q. 遅刻常習犯の従業員はクビ(解雇)にできますか?対応方法を教えてください。
- 遅刻を繰り返す従業員に対する懲戒処分の可否
- 遅刻常習犯である従業員への対応方法
何度注意しても遅刻を繰り返す従業員がいて困っています。
毎回5分程度ですが他の従業員から不平・不満の声も上がってきているため、このまま勤務態度が直らなければ解雇や懲戒処分も検討していますが、問題ないでしょうか?
A. 処分内容では違法となる可能性もあるため慎重な対応を進めましょう。
会社と従業員は雇用契約を結びます。労働時間は雇用契約上定める必要があり、従業員もそれを遵守する義務があります。
会社からするとその義務を果たさないのであれば一定の処分や対応を検討されることは当然かと思いますが、労働諸法令では従業員保護の観点から、解雇・懲戒処分は慎重に進めなければ違法となる可能性があります。
遅刻常習犯とはいえ、会社内におけるルールや従業員の状況を勘案しながら対応する必要がありますので、解説いたします。
遅刻常習犯への対応方法とは?
遅刻常習犯への対応は大きく3つの対応方法があります。
- 従業員との面談
- 不就労時間分の賃金は控除する
- 就業規則に則った懲戒処分の検討・実施
従業員との面談
遅刻の頻度によりますが、なぜ従業員が遅刻してしまったのか要因分析が大切です。例えば遅刻の内容によっても
- 公共交通機関の本数が少ない
- 車やバス通勤のように道路の交通事情に左右される
- 両親の介護があるため朝からバタバタとしている
このように、従業員本人では対応が難しい理由がある可能性があります。まずは遅刻をした原因を把握し、その上で会社として対応策を練りましょう。
意識改善のための指導
遅刻常習犯からすると「5分くらいの遅刻の何が問題なのか?」という気持ちがあるかもしれません。遅刻に対して課題を感じていないのでれば
- 同僚や他メンバーの業務が止まってしまう
- 社内の雰囲気が悪くなる
- 取引先との仕事に支障をきたす
遅刻をする本人以外にも迷惑を掛けていることを伝え、意識改善を行う必要があります。
会社として遅刻常習犯に甘い対応をしてしまうと、他の従業員から「真面目に働いている方が損をしているのではないか」等の状況にもつながりますので、「遅刻を繰り返すようであれば、懲戒処分を検討しなければならない。しっかりと勤務態度を見直すように」と指導を行います。
そもそもルールへの意識が低い従業員は、業務に対する姿勢も問題になる傾向があります。問題社員の放置をしてしまうと、会社や取引先にも悪影響を及ぼす可能性がありますので、注意してください。問題社員への対応方法は下記コラム記事で解説していますので、ぜひご一読ください。
会社として制度を見直すことも検討
遅刻をしない時間に出社することが当たり前ですので、従業員一人の遅刻で会社のルールを変更する必要はありません。
しかしながら、働き方改革を切り口に多くの企業では「多様な働き方」に向けた制度の見直しを行っています。始業・終業の時間なども会社から承認を得られれば30分-1時間スライドを可能にするなど、会社に応じたルール設計も検討されてはいかがでしょうか。
不就労時間分の賃金は控除する
2つ目の対応方法は、不就労(遅刻・早退・欠勤)の時間分を給与の支払いから控除することになります。
フレックスタイム制度のように始業・終業の時間を従業員に委ねていない場合、従業員は雇用契約上で定められている時間内は業務遂行の義務が発生し、会社側はそれに対して給与を支払うことになります。
一方で、遅刻・早退・欠勤のように、従業員が雇用契約に定められている時間内に仕事ができないのであれば、その時間については「ノーワーク・ノーペイの原則」に従って給与を支払う必要がないのです。
会社は従業員との雇用契約により「労働の対価」として給与を支払う義務が発生します。裏を返せば「労働の対価」がないのであれば給与を支払う義務がありません。
例えば、以下のようなルール・従業員がいると仮定してみましょう。
- 始業時間は午前9時と定められている
- 毎日10分遅刻して、9時10分から勤務を開始する従業員がいる
上記の場合、月に20日勤務日があるとすると月200分(3時間20分)は不就労の時間となります。月給者の場合であっても、この200分(3時間20分)は遅刻控除として給与から減らしても違法にはなりません。
仕事をしていない時間(不就労時間)に対して給与を減額するため、労働条件の不利益変更にも該当しません。ただし、不就労時間を超えて給与を減額することは違法となります。
就業規則に則った懲戒処分の検討・実施
それでも遅刻がなくならず、本人の意識や態度に問題が見られるのであれば懲戒処分の検討を行います。遅刻の時間数や頻度によって、懲戒処分の重さも異なりますが、
- 戒告(かいこく)……口頭もしくは書面で反省を促す
- 譴責(けんせき)……始末書や顛末書を提出させる
上記いずれかの処分を行い、それでも遅刻が改善されないのであれば退職勧奨や解雇を考えることが一般的です。
遅刻常習犯とはいえ、手順を踏まずにいきなり「解雇」してしまうと、不当解雇として従業員から訴えられる可能性もあります。数分程度の遅刻であっても、会社のルールを守る大切さをしっかりと教育した上で、懲戒処分の必要性を考えましょう。
遅刻常習犯への対応時の注意点
遅刻常習犯への3つの対応方法をお伝えしましたが、対応をする中で注意すべき点があります。遅刻をする従業員に問題がありますが、一歩でも誤ったコミュニケーションを取ってしまうと別のトラブルにつながりますので、下記2点は特にご留意ください。
感情に任せて指導を行う
度重なる遅刻への指導であっても、
- 遅刻の理由を聞かずに一方的に避難する
- 朝礼など、従業員が集まる場で個人名を上げて注意する
このようなケースにおいてはパワーハラスメントとされる可能性があります。会社・管理者としては「遅刻をした従業員が悪いのでは?」と思うかもしれませんが、行き過ぎた注意・指導はよくありません。余計なトラブルを防止するためにも、慎重な対応を心掛けましょう。
就業規則に記載のない懲戒処分を実施する
懲戒処分を実施するためには
- 懲戒処分の対象となる事由や行為
- 処分の程度・重さ・処分の手順
上記を就業規則に明示し、従業員に周知していることが前提となります。就業規則に定めず、企業側の一方的な判断での懲戒処分は無効になりますので気をつけておきましょう。
まとめ
今回は遅刻常習犯に対する対応方法および注意点を解説いたしました。
遅刻を繰り返す従業員がいると様々なシーンで苦慮されると思いますが、いきなりの解雇(クビ)をすることはできません。注意や指導を行い、従業員に問題意識を持たせつつ、それでも遅刻が直らないようであれば懲戒処分を検討するなど、手順を踏むことが大切です。
遅刻常習犯への対応に不安がある経営者・人事担当者の方は専門家に相談されることをおすすめいたします。
社会保険労務士によるワンポイント解説
遅刻常習犯のように、社内に問題行為を繰り返す従業員がいると職場に悪影響を及ぼします。トラブルを防止するために就業規則や社内での対応フローを整備しておきましょう。
まずは遅刻に対する対応ルールを明確にしておきます。やむを得ない理由により遅刻をしてしまうケースもありますので、例外的な遅刻における申請フローや給与の取り扱いも整えましょう。
ノーワーク・ノーペイの原則により、遅刻時間分を給与から控除する場合も就業規則に記載しておきます。また、遅刻に対して懲戒処分を実施するのであれば、服務規律・懲戒事由にその文言も追加が必要ですのでご注意ください。
社内で整備しておくべき服務規律については、下記コラム記事でも解説しておりますので、参考にしていただけますと幸いです。
遅刻に対する対応方針の決定・就業規則の変更ができましたら、従業員にルールを周知を行います。また、社内で定めたルールは日々の労務管理の基盤になりますので、徹底して運用を心掛けてください。
無料相談をご希望される方へ
TSUMIKI社会保険労務士事務所では、経営者・人事労務担当者の方のお悩み・疑問にお答えする無料オンライン相談を実施しております。本記事に関する内容だけでなく、日々の労務管理に課題を感じている場合には、お気軽にお問い合わせください。
矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。