Q. 60歳以上の方の雇用に関して助成金は活用できますか?
- 60歳以上のシニア層を雇用する上で利用できる助成金
- 高齢者雇用に関する助成金の主な要件や注意点
人手不足ということもあり、今後は60歳以上のシニア層の採用も検討しています。
昨今は100年時代と呼ばれることもあり、他社で定年を迎えた方でもまだまだ現役で働けるのではと思いますが、60歳以上の方を雇用するにあたって活用できる助成金はあるのでしょうか?
A. 60歳以上の人材雇用において大きく2つの助成金が検討できます。
人生100年時代と呼ばれる昨今、長く働ける環境を希望する高齢者の方が増えていることをご存知でしょうか。
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、現在収入のある仕事をしている60歳以上の方の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しており、「70歳くらいまで又はそれ以上」の回答を含めると約9割の方が高齢期においても高い就業意欲があることがわかります。
そのため企業としても高齢者の方が現役で働けられる環境整備が求められており、国としても高齢者雇用に関する助成金を用意して取り組みを支援しています。今回は60歳以上の方の雇用および定着に活用ができる「特定求職者雇用開発助成金」「65歳超雇用推進助成金」を解説いたします。
TSUMIKI社会保険労務士事務所では助成金の受給見込みがどの程度あるのか無料で診断していますので、お気軽にご利用くださいませ。
\60歳以上の雇用に関する助成金以外で、もっと助成金を知りたい方へ/
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金とは、高年齢者や障害者などの就職が特に困難な方を
- ハローワーク
- 民間の職業紹介事業者
などの紹介を通じて、継続して雇用する従業員として雇い入れることで助成金を利用することができます。特定求職者雇用開発助成金自体は7つのコースがありますが、60歳以上の方の雇用を対象とした「特定就職困難者コース」を紹介いたします。
なお、令和5年度から特定求職者雇用開発助成金に見直しが入る予定であり、廃止になるコースがあります。今回は廃止予定のコースは割愛いたしますので、詳細は厚生労働省「令和5年度から特定求職者雇用開発助成金の見直しを行います」をご確認ください。
特定就職困難者コース
60〜64歳の方を対象とした助成金額
1人あたり40〜60万円
※対象となる従業員に支払った賃金額が上限
特定就職困難者コースとは、高年齢者(60歳以上65歳未満)や障害者などの就職が困難な方を
- 公共職業安定所(ハローワーク)
- 地方運輸局(船員として雇い入れる場合)
- 適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者等
からの紹介により、継続して雇用することで助成金の対象となります。下記の主な要件・注意点を確認し、取り組みが可能であれば特定就職困難者コースの利用を検討しましょう。
受給するために必要な主な要件 | 不支給となる主な注意点 |
---|---|
60歳以上かつ雇入れ日現在において満65歳未満の方 雇用保険一般被保険者として雇い入れ、対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用できる 当該雇用期間が継続して2年以上であることが確実である | 雇用の内定をした後に、ハローワーク等から紹介を受ける 雇用の前日から過去3年間に、対象者を雇用していたことがある ハローワーク等の紹介時点における労働条件と、実際の労働条件が異なる場合かつ、従業員に不利益または違法行為が見受けられ、従業員本人から求人条件が異なると申し出がある |
(厚生労働省「雇用関係助成金全体のパンフレット(詳細版)」を参考に当事務所にて作成)
65歳超雇用推進助成金
65歳超雇用推進助成金では、シニア層の活躍の場を整備することが求められます。3つのコースがあり、60歳に方を雇用した後に利用できる助成金もありますので、それぞれご確認ください。
65歳超継続雇用促進コース
助成金額
15万〜160円 / 社
※導入する制度によって変動
65歳超継続雇用促進コースとは、
- 旧定年年齢を上回る65歳以上への定年の引上げ
- 定年の定めの廃止
- 希望者全員を対象とした旧定年年齢および継続雇用年齢を上回る66歳以上の継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
上記のいずれかを就業規則もしくは労働協約に規定し、実施することで助成金の対象となります。その他下記の主な要件・注意点を確認し、取り組みが可能であれば65歳超継続雇用促進コースの利用を検討しましょう。
受給するために必要な主な要件 | 不支給となる主な注意点 |
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支給申請日の前日に、1年以上雇用している60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること 定年引き上げ等の取り組みに対して、社会保険労務士等の専門家に費用を払い、就業規則の作成・相談をしていること 高年齢者雇用等推進者を選任し、高年齢者雇用管理に関する措置を実施すること | 定年引上げ等の実施日から6か月前の日から支給申請日の前日までの間に、就業規則等において高年齢者雇用安定法に定める内容と異なる定めがある場合 高年齢者雇用確保措置および高年齢者就業確保措置を講じていない場合 |
(厚生労働省「雇用関係助成金全体のパンフレット(詳細版)」を参考に当事務所にて作成)
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
助成金額
30万円 / 社
※対象となる経費(50万円を上限)の60%
※生産性要件による加算を除く
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースとは、
- 高年齢者の雇用機会を増大するための雇用管理制度の見直しまたは導入
- 健康診断を実施するための制度の導入
上記いずれかに該当する高年齢者の雇用環境整備の措置を実施することで助成金の対象となります。その他下記の主な要件・注意点を確認し、取り組みが可能であれば高年齢者評価制度等雇用管理改善コースの利用を検討しましょう。
受給するために必要な主な要件 | 不支給となる主な注意点 |
---|---|
高年齢者雇用管理整備の措置の実施に対して経費を支払っていること 高年齢者に対して、医師または歯科医師による法定外の健康診断(人間ドック・生活習慣病予防検診)を実施するための制度の導入を行うこと。ただし検診費用の半額以上は事業主が負担すること | 雇用管理整備計画書提出日から起算して6か月前の日から支給申請日の前日までの間に、就業規則等において高年齢者雇用安定法に定める内容と異なる定めがある場合 高年齢者雇用確保措置および高年齢者就業確保措置を講じていない場合 |
(厚生労働省「雇用関係助成金全体のパンフレット(詳細版)」を参考に当事務所にて作成)
高年齢者無期雇用転換コース
助成金額
1人あたり48万円 / 社
※生産性要件による加算を除く
高年齢者無期雇用転換コースとは、
- 50歳以上かつ定年年齢未満(定年が65歳上であれば65歳未満)の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換
- 転換後6か月以上の期間は継続して雇用し、賃金を適切に支払う
上記の取り組みにより助成金の対象となります。その他下記の主な要件・注意点を確認し、取り組みが可能であれば高年齢者無期雇用転換コースの利用を検討しましょう。
受給するために必要な主な要件 | 不支給となる主な注意点 |
---|---|
無期雇用への転換日に64歳以上の者でないこと 無期転換ルールに基づいた、従業員からの申込により無期雇用に転換した者でないこと 無期雇用労働者として雇用することを予め約束して雇入れられた有期契約労働者でないこと 無期雇用労働者に転換した日から支給申請日の前日に雇用保険被保険者であること | 転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過した日までの間に、雇用する雇用保険被保険者を事業主都合によって解雇をしたことがある場合 無期雇用転換計画書提出日から起算して6か月前の日から支給申請日の前日までの間に、就業規則等において高年齢者雇用安定法に定める内容と異なる定めがある場合 高年齢者雇用確保措置および高年齢者就業確保措置を講じていない場合 |
(厚生労働省「雇用関係助成金全体のパンフレット(詳細版)」を参考に当事務所にて作成)
まとめ
60歳以上の方を雇用する上で、働きやすい環境整備を推進すると助成金の対象となる可能性があります。人手不足に悩む中小企業や、技術力の高いシニア人材の活用を検討している場合、本記事の内容を参考に取り組みを進めてはいかがでしょうか。
また、各助成金における「受給するために必要な要件」や「不支給となる主な注意点」は、経営者の方に特に確認いただきたい要点の抜粋となります。助成金の利用見込みがある場合、より詳細な内容をお伝えしますのでぜひご相談ください。
\60歳以上の雇用に関する助成金以外で、もっと助成金を知りたい方へ/
社会保険労務士によるワンポイント解説
助成金の活用は就業規則や労務管理が適切に整備されていなければ活用することができません。まずは自社の状況に問題がないのか確認しておきましょう。
制度導入が要件となっている助成金では、就業規則にその制度を記載する必要があります。事前に用意しておくことでスムーズに助成金への取り組みが可能となります。
助成金では
- 未払いとなっている残業代がないか?
- 労働保険や雇用保険は適切に加入されているか?
- 過去1年間に解雇を行っていないか?
等の労務状況に問題がないことが前提となりますので、日々労務管理には注意してください。
助成金の活用時、事前に労働局へ計画書等の書類の届け出が必要な場合もあります。計画書を提出せずに取り組みを行っても、助成金の対象として認められないケースがありますので、自社の方向性に合う助成金がないのか事前にキャッチアップすることが大切です。
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矢野 貴大
TSUMIKI社会保険労務士事務所/代表・社会保険労務士
金融機関・社会保険労務士法人・国内大手コンサルティング会社を経て大阪で社会保険労務士事務所を開業。
25歳で社労士資格を取得した後、社会保険労務士・経営コンサルタントとして延べ200社を超える企業・経営者をサポートする。その経験を活かし「想いを組み立て、より良い社会環境を形づくる」というMISSIONに向かって日々活動中。